18.蹂躙
ビキニアーマーのハンナさんが先頭に立ち、巫女装束のハヅキが弓を携えて二番手に、ルビーと俺がカリンを守って後衛についている。
カリンにはチュニックとズボンという軽装の上から、ハードレザーアーマーをつけさせた。
羽のように軽い特別な革を加工した、力のないカリンでも充分に動ける装備だ。
ドワーフの里には、始まりの街から西にある大森林を抜け、山岳地帯を越えて、ドワーフの廃坑を通って行くこととなる。
森林から向こうからは、高レベルのモンスターがウヨウヨしている危険地帯だ。
本来であれば、盾役となる前衛職を配置し、モンスターを慎重に排除しながら進むべきところだ。
だが、今回のメンバーは、近接アタッカーのハンナさんとハヅキ、ドワーフの司祭のルビー、製作職の俺、一般人のカリンというメンバーだ。
モンスターに集中攻撃されては、ひとたまりも無い。
ハヅキの弓を使い、一匹ずつ確実に仕留めていくことを、事前に打ち合わせていた。
「ご主人さま、あれを」
ハヅキが遥か前方を指差した。
大森林の入り口、ちょうど街道が途切れるあたりに、サーベルタイガーの群れがいる。
その名のとおり、刃のような切れ味の牙を持ち、成獣であれば象ほどの大きさだ。
しかも、群れで行動し、攻撃範囲に入ると向こうから仕掛けてくるアクティブモンスター。
危険で厄介極まりない相手である。
「よし、端のほうから一匹ずつ慎重に……」
「さーて、いっくわよー! かかってらっしゃぁ~い!」
「ハンナさん!?」
「お母さん!?」
呆然とする俺とカリンの前を、テンションマックスで両刃斧をぶん回しながら、ハンナさんが突撃していく。
当然、サーベルタイガーたちは一斉に反応し、集団でハンナさんに襲いかかった。
「デッドリィィィ! タイフゥゥゥゥン!」
自らが竜巻のように回転し、両手で構えた斧を振り回す、範囲攻撃の大技。
あんな隙だらけの技を出したら、ハンナさんが危な……。
「ギャウゥゥン!」
サーベルタイガーの牙が砕かれ、首が、頭が、胴体が、足が宙に舞う。
キラキラの粒子に変わるサーベルタイガーを見向きもせず、ハンナさんはど真ん中で大暴れ。
「ご主人さま、私も出ます!」
弓を横に構えたハヅキが、超速の足捌きで駆け出し、群れの手前で高々と飛び上がった。
「殲滅します! 流星驟雨!」
天に向かって射られた矢が、眩い軌跡を描いて落ちてくる。
次の瞬間、矢は無数の光に分裂し、流星群のようにサーベルタイガーたちに降り注いだ。
「ギャワワァァァン!」
断末魔の叫びが響く中、華麗に着地したハヅキの手には二本の刀。
一瞬で弓を刀に持ち替えて、群れの中を瞬時に駆け抜ける。
「秘剣……陽炎!」
ハヅキのあとには、サーベルタイガーの影も形も無い。
瞬殺された彼らの残した素材が、無惨に散らばっているだけだ。
「アハハハ! ブラストインパクトォォォ!」
「必殺! 鶴翼の舞!」
サーベルタイガーの牙も、爪も、彼女たちにはかすり傷すらつけられない。
ただ一方的に、殺戮、蹂躙されるばかりだ。
おっかねえよ、二人とも、おっかねえよ。
「リクさん! 一匹きます!」
カリンが叫ぶ。
群れから離れた一頭が、ものすごい勢いでルビーに飛びかかろうとしていた。
ダメだ! 間に合わない!
「えーい!」
ベコン!
一瞬、何が起きたか分からなかった。
巨大なハンマーで叩き潰されたサーベルタイガーは、もっと分からなかっただろう。
ぺちゃんこになり、静かに粒子となって消えていく。
「お兄さん、そこで見ててー。私もいってくるー!」
軽々とハンマーを背負い、ルビーは楽しそうに群れに駆け込んでいった。
あちこちで、ズバッとか、グシャッとか、バコンッとか、およそ人の手が巻き起こしているとは思えない音が響く。
「ふぅ、片づいたわね」
「ハンナお姉ちゃん、つよーい」
「あら~、ルビーもなかなかよぉ~」
数十匹の群れを片づけたハンナさんとルビーは、息も乱さず笑い合っている。
「ご主人さま、怪我はありませんか?」
「ハイ、ダイジョウブデス」
ハヅキが駆け寄ってくるが、俺は乾いた笑いしか出なかった。
レベル100で、ちょっと経験があるからって、イキっていた俺を許してください。
貴女達には、とても敵いません……。
「リクー。すごいよー。素材がいっぱーい。集めようよー」
「ハーイ、ワカリマシター」
「お母さん、すっごい……」
俺にできることは、あちこちに散らばった素材を集めることだけだ。
サーベルタイガーの牙、爪、そして毛皮。
どれも、ギルドに持ち帰れば相当高額で引き取ってもらえるだろう。
たった一度の戦闘で、ちょっとした小金持ちになれるレベルだ。
「さて、この調子でじゃんじゃん狩りましょう~」
意気揚々と、ハンナさんが森に向かっていく。
街に残してきたライザも含め、俺の周りにいるのは、とんでもねえ女の子たちだ。
大森林でも破壊と蹂躙を繰り返し、山岳地帯の手前で夜を迎える。
ありえないスピードでモンスターを駆逐するので、ここまで来るのもありえない早さだった。
ルビーが結界を張り、食事と風呂を済ませ、みんなはテントで眠りについた。
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