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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
二章 銭湯建設計画

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17.旅立ち

「おじちゃーん!」


 工房に着くと、ルビーはジェラルドに抱きついた。


「おぉ、ルビー! 大きくなったのぅ」

「えへへ、もう100歳になったよ」

「うんうん、早いのう。一人でお使いに来たか、えらいえらい」


 どう見ても、お爺ちゃんと孫だな。

 俺が見ているのに気づき、ジェラルドがゴホンと咳払いをした。


「おったのか、リク」

「このお兄さんが連れてきてくれたんだよ」

「なんじゃと! ルビー、何かされとらんか?」

「どういう意味だ!」

「ふん、お主、案外と油断のならぬ奴だからのぅ」


 ひどい言われようだ。

 まあ、心当たりはあるが、さすがにルビーには手を出さないぞ。


「お兄さん、とっても優しかったよ」

「そうかそうか。ルビー、いいか、これからは、街で知らない人に会ったら、ついていっちゃいかんぞ」

「うん、分かったー」


 このやり取りに付き合ってたら、まずい方向に向かいそうだ。


「ジェラルド、紹介状を頼むよ」

「おう、そうじゃったな。すぐ、したためよう」


 ジェラルドが背を向けると、ルビーが駆け寄ってくる。


「ごめんね。ああ言わないと、おじちゃん納得しないと思うから。お兄さんのこと信用してるから、大丈夫だよ」

「おぅ、なんか気を使わせて悪いね」

「えへへ。ドワーフの男って、みんなゆーずーがきかないから」


 ルビーが、こっそりと耳元で囁いてくれた。

 優しく頭を撫でてやると、にこっと微笑む。

 子供っぽい見た目だけど、意外とちゃっかりしているところもあるな。

 ううむ、ルビー、侮れない子。


「リク、長老への紹介状だ」


 ジェラルドが封書を持ってきた。


「長老はな、もしかするとお前と気が合うかもしれん。そのことも書いておいたからの」

「俺と気が合う? どういうことだ?」

「行けば分かる」


 もったいぶらないで、教えてくれればいいのに。

 手紙をしまおうとしたら、ルビーが目を輝かせて見つめてきた。


「なになに? おじいちゃんに会うの?」

「おじいちゃん?」

「ルビーはな、長老の孫じゃよ」

「へえ! そうなんだ」


 ドワーフの里へ行くことを、簡潔にルビーへ伝える。


「里へ行くんだ。それじゃあ、私も行っていい? 一人で帰るより楽しそうだもん」

「ああ、いいぞ」


 すると、ジェラルドが難しい顔をした。


「行くのは構わんが……手ぇ出すなよ」

「いや……出さねえから……」

「手を出すの? さっき手はつないだよね」

「なんだって!? ルビー、すぐに手を洗いなさい」

「こら、ジェラルド、人をばい菌みたいに言うな」

「悪い虫がつくといけないからね。おててを洗おう」

「はーい、おじちゃん」


 ジェラルドに連れていかれながら、ルビーがパチっとウインクしてきた。

 ほんと、よく出来た子だな。


「お待たせ、お兄さん」


 トテトテと駆け寄ってきたルビーが、迷うことなく手を繋いできた。

 それを見たジェラルドは、天を仰いで嘆息する。


「せっかく手を洗ったというのに……。リクよ、絶対に手を出すなよ」

「分かった分かった。心配いらないって」

「ルビー、長老によろしくな」

「はーい、おじちゃん。またねー」


 ルビーを連れて、まどろみ亭へ戻る。

 すると、カウンターにいたライザが、拭いていたお皿を取り落した。


「あぁ、リク……。私だけじゃ飽き足らず、女の子をさらってきちゃったのね……」

「おいこら、どういう意味だ」

「どうもこうもないわ! そんな年端もいかない子を……なんてひどい……」


 皿が割れた音を聞きつけ、今度はアリサやコレットが奥から顔を出す。


「……リクさん。いつか、やるんじゃないかと思ってました。ていうか、やっぱり巨乳好きなんだ……結局、男は胸なのね……」

「おい、アリサ! 何を……」

「事案です。そんな子に手を出すくらいなら、私がお相手を……」

「コレット……? お前まで!」


 ライザはともかく、アリサやコレットにまで言われるとは。

 ルビーは分かってるのか分かってないのか、にこにこしながら店を見回している。


「あら、おかえり、リク。まぁ! ルビーじゃない!」

「あー! ハンナお姉ちゃん!」


 支度を済ませたハンナさんが、シェリル、カリンと一緒に2階から降りてきた。

 それを見て、ルビーが一目散に飛び込んでいく。


「久しぶりねえ。元気だった?」

「うん! えへへ、私、一人で里から出れるようになったんだよ!」

「まあ、ほんと。えらいわぁ」


 二人は知り合いみたいだな。

 ドワーフの里に顔が利くと言っていたし、その当時にルビーと出会っていたんだろう。

 ていうか、ハンナさんの格好……。


「リク、どうかしら? 久々に鎧をつけてみたんだけど、おかしくない?」

「おかしく……ないです。えっと、おかしくはないんですが、その、ちょっと露出が凄すぎませんかね」


 シェリルも似たような格好だが、ハンナさんのはまさにビキニアーマー。

 長い髪を一本三つ編みに束ねて、額には頭を守るサークレット。

 赤を基調に銀の縁取りが入った、際どい水着のような胸当てからは、豊かな両胸が半分以上見えている。


 腰回りも同じ赤の鎧で、左右を覆うプレート以外は、下着と変わらないくらいの面積だ。

 しかも、お尻のほうはTバックというか、ほぼ紐じゃないか。


 そして、両肩のアーマーに、手甲、黒のブーツに、膝当てとすね当て。

 必要最小限のところだけを覆う、見た目の破壊力抜群の鎧姿だ。


「いやー、引退して太ったから、入らないんじゃないかと心配してたけど、ギリギリ大丈夫ね」

「ギリギリどころじゃないでしょ。とんでもないスタイルだわ」

「ハンナさんカッコいい……」


 ライザが感心したように口笛を吹き、アリサは目をハートにして見惚れている。

 いや、こんな格好のハンナさんと旅をするのか。

 俺の理性が試されている。


「ハンナさん、仕上がりました」


 厨房から、ハヅキがどでかい斧を抱えて出てきた。


「ありがとー。さすがハヅキちゃん。刃物の手入れは見事なものね」

「元が素晴らしい武器ですから、ちょっと磨いた程度です」


 銀色に光り輝く両刃の斧。

 ルビーがすっぽり隠れられるくらいのデカさだ。

 ハンナさんは、それを細腕で軽々と持ち上げる。

 さすがアマゾネス、両刃の大斧に軽鎧とは、似合い過ぎてぐうの音もでない。


「ところで、ルビーはどうして街に?」

「ジェラルドに届け物があったんだそうだ。それで、俺たちが里に行くなら、一緒にって」

「なるほどね。助かるわー。ルビーはドワーフの司祭だから、結界も張れるからね」

「そうか、そのことを忘れていた」

「交代で見張りに立ってもいいんだけど、どうせならゆっくり眠りたいでしょ」

「ごめんなさい。そこまで気が回っていなかったです」


 ルビーと出会えたのは、相当ラッキーだったな。


「わー、可愛いー。ドワーフなのねー」

「ルビーだよー。よろしくー」


 みんなの輪に溶け込み、ルビーはすっかり馴染んでいる。


「あの……リクさん……」


 カリンが遠慮がちに声をかけてきた。


「どうした?」

「えっと……私もついていっちゃダメですか?」

「カリン、遊びじゃないのよ」


 真面目な表情で、ハンナさんがたしなめる。


「分かってます。私がついていくと足手まといにしかならない。分かってるんです」

「それなら、どうして?」


 カリンは思いつきで言っているわけではないようだ。

 ぐっと口を引き結び、目に決意を宿らせている。


「声が聴こえたんです。リクさんが、ドワーフの里の話をしていたとき。私の心の奥に、カリン、待ってるって。だから、私も行かなきゃいけない気がするんです」


 ハンナさんと顔を見合わせる。

 カリンは正直な子だ。

 ついていきたいがために、嘘をつくなんてことはしない。


「危険な旅になるよ。覚悟はできてるかい?」

「はい、お母さん」

「よし、じゃあ、これを渡しておこう」


 ハンナさんは首飾りを外し、カリンにつけてやった。

 赤く綺麗な宝石が輝いている。


「これ、お父さんの……」

「ああ、そうだ。父さんの形見さ。お前を守ってくれるからね」

「お母さんの大事なもの……」

「そうだよ。決して無くさないようにな」

「はい!」


 力強く頷くカリンを、ハンナさんが抱き締める。


「それと、カリンのことはリクが守ってあげて」

「分かった。傷一つ負わせないよ」

「リクさん、よろしくお願いします」

「よし、それじゃ、カリンの防具を作るよ。軽くて動きやすいやつをね」

「ありがとうございます」


 カリンの聴いた不思議な声。

 また、何かが始まろうとしているのか。

 ゲームの世界だが、もう俺の知っている物語では進まないのかもしれない。

 だけど、それこそ面白いのではないか。

 高揚感に包まれながら、防具作成に取り掛かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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