15.復興への道
ダムニス西門の外には、多くのテントが張られ、避難した住民が逃げ込んでいた。
冒険者ギルドが中心となって、避難を誘導したらしい。
おかげで、人的被害はほぼ無かったのだという。
「あの……いったい何が……?」
シェリルがヒソヒソ声で尋ねるのも無理もない。
ライザとハヅキが、険悪な雰囲気をまとって睨み合っているからだ。
アリサは呆れたように肩をすくめ、コレットはすっかり怯えている。
ハヅキのことは、俺の知り合いのソードマスターと紹介した。
珍しい装備なので、あたりにいる冒険者たちも興味津々といった様子だ。
「まあ、ちょっと、な」
ハヅキが仲間に加わったのは、近接戦闘を考えれば心強い。
だが、ライザと犬猿の仲になってしまったのはいただけない。
どこかで、きちんと関係を修正していかないとな。
「あなたがリク殿か」
短い髭を生やした、強面の大男がやってきた。
背中には大剣を背負い、ひと目で凄腕と分かる迫力がある。
「ダムニスの冒険者ギルド長、ラングレードと申す」
「始まりの街から来た、リクです。よろしくお願いします。事情をお聞きしたい」
ラングレードの話では、ダムニスが崩壊したのは数日前。
ちょうど、俺たちが始まりの街を出発するあたりのことだ。
「街の北部が、真っ白い閃光に包まれてな。今までにない出来事で、我々は全住民を町の外に避難させた。その夜、ちょうど光に包まれた地区が、轟音と共に消え去ったのだ」
「消え去った……?」
「うむ、なにかの魔法のようでもあったが、あんな威力のものは聞いたことがない。建物も道も全て砂のようになり、跡形も無くなったのだ」
北部地区が消滅したとき、他の地区にも被害が広がったらしい。
その際、街に結界を張っていた塔も崩れ去り、モンスターが侵入してきたのだそうだ。
「冒険者ギルドや守衛の総力を挙げて、住民は保護した。なんとか結界も張っている。あとはひたすら人手と食料が足りない。始まりの街から融通できるだろうか」
「ギルドが協力してくれるでしょう。すぐに戻って伝えます。あと、少ないですが、これを」
「おお、ありがたい。助かるぞ」
金貨を二袋、ラングレードに手渡した。
近隣の村から物資や人を集めようにも、元手が無ければどうにもならない。
「怪我人はありませんか」
「だいたいの者はヒールで治癒できた。だが、だいぶ疲れが溜まっているようだ。この状況では無理も無いが」
たしかに、テント暮らしでは疲れもたまるだろう。
ここはひと肌脱いでおくべきところか。
「みんな、手伝ってくれ。ダムニスの人たちをお風呂に入れてあげたい」
「いい考えですね! 師匠!」
シェリルたちが、満面の笑顔で賛成してくれた。
「ラングレードさん、実は……」
俺がグランドマイスターであること、スキル”温泉”で疲れを癒やしてもらうことを伝えると、ラングレードは大いに喜んでくれた。
「それは素晴らしい! 噂には聞いていましたが、実在するスキルなのですな」
「大きな布と、柱になりそうなものをお借りできますか」
「早速準備しよう」
ラングレードは走ってキャンプへと戻った。
少しでも役に立てるなら、スキルの使い甲斐もあるってものだ。
「窪地にお湯を張ろう。脱衣所と湯船の仕切りを作ってくれ」
「分かりました!」
シェリルたちがキャンプへと向かう。
「ハヅキは男湯と女湯の誘導を頼む。ライザは俺に補助魔法をかけてくれ」
「かしこまりました。ご主人さま」
「マックスで行くわよ!」
「おう、頼む。スペシャルサービスで行くからな」
ライザのスキル強化魔法が流れ込んでくる。
ドクンと心臓の鼓動が高まり、体に力がみなぎってきた。
2つ並んだ窪地の間に立ち、魔石を天に向かって捧げ持つ。
大奮発で、とっておきのグレードBだ。
「いくぞー! 湧き出よ! ”温泉”」
青白く輝くお湯が噴き出し、窪地に向かってザバザバと注がれていく。
さすがはグレードB、明らかに普段のお湯と違う。
ライザの補助魔法も効いているのだろう。
ものすごい勢いで、お湯が噴き出している。
周りに集まってきた人々が、大歓声をあげた。
「男の人は、こっちでーす」
「女性は、こちらのほうで着替えてください」
テントの布で囲っただけの簡易的なものだが、大露天風呂が完成した。
脱衣スペースに、ハヅキたちが人々を案内している。
「リク殿、これは素晴らしい湯ですな。あっという間に疲れが吹き飛びましたぞ」
ざぶんと湯に浸かったラングレードが、豪快に笑った。
まさに歴戦の勇士といった感じで、体中に傷跡がある、ものすごい肉体だ。
「良かったです。ゆっくり浸かってください」
「む……? 気のせいか……? いや、体が軽い。古傷でうまく動かなかった腕が……」
「ギルド長、俺もだ。足を引きずらなくても歩けている!」
ギルドメンバーなのだろう。
ラングレードと同じように傷だらけの冒険者たちも、お湯の効果にどよめいている。
「グレードBの魔石を使ったので、たいていの怪我は治るはずです」
「なんと! そんな貴重なものを……」
「申し訳ない。ありがとう!」
これから復興を担う人たちだ。
ゆっくり休んでもらえれば、それに越したことはない。
「ん……赤ちゃん?」
女湯のほうから、赤ちゃんが、すいーっと泳いできた。
こんな小さいのに、俺より泳ぎ上手いな。
「あー、そっち行っちゃダメだよー」
「ぶっ……!」
素晴らしい持ち物を揺らしながら、コレットが赤ちゃんを拾い上げた。
「あっ……す、すみません!」
慌てて後ろを振り向くコレットだが、それはそれで素晴らしい眺めである。
なんだか、桃が食べたくなってきたぞ。
小さい子を抱えたお母さんも多いようで、コレットやアリサ、シェリルがあちこちで奮闘していた。
うん、素晴らしい、絶景だ。
「ご主人さま、お疲れさまです。肩でもお揉みしましょうか?」
「リクー、私が揉んであ・げ・る」
「ぶーっ!?」
いまだに張り合うハヅキとライザが、艶かしく体をくねらせながらやってくる。
まずい、こいつらはシャレにならない。
ライザもすごいが、ハヅキもヤバいスタイルだ。
「こら! こっちに来ると、男湯から見えちゃうぞ」
「あっ……! 私の肌は、ご主人さまにだけ……」
「そうね……んもう、あとでゆっくりね」
ちゃぷんとお湯に沈み、二人は恥じらいながら顔を突き合わせている。
案外、いいコンビになるんじゃないかな。
グレードBの魔石とライザの補助魔法のおかげで、お湯は尽きることなく湧き出している。
日が暮れるまで、ダムニスの人々には、ゆっくりと休んでもらった。
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