11.新たな街へ
ライザが仲間入りして、1ヶ月が経った。
まどろみ亭の一室を借り受け、酒場の仕事を手伝いながら、冒険に精を出している。
まさかライザが悪の元凶だったとは言えず、途中で手助けしてくれたことにして誤魔化した。
幸い、魅了にかかっていた冒険者たちは記憶が無く、エルフは信用ある種族のため、誰も怪しむ者はいない。
人間の街にいるエルフは珍しく、他には魔法学院の校長、アメリエットさんしかいない。
ただでさえ珍しいのに、ライザはあの美貌に加え、露出高めの衣装で歩き回るものだから、街ではあっという間に評判となった。
ライザ目当てで酒場を訪れる客も増え、まどろみ亭は大忙し。
あどけないカリンと、過激な衣装のライザ、そして妖艶なハンナさんと、3人の美女が揃っているため、昼も夜も客足が絶えなかった。
もちろん銭湯も大繁盛で、俺もてんてこまいな日々を送っている。
ライザを仲間にして、大いに役立ったことがある。
アタッカー職だが、一通りの補助魔法が使えるのだ。
スキル強化の魔法をかけてもらうと、スキル”温泉”の効力も持続時間も倍増。
おかげで、大混雑していても、なんとか回すことができている。
「リク! お湯が足りねえぞー!」
「はーい! ただいま!」
ガチムチな冒険者で溢れる男湯にお湯を提供し……。
「リクさん、お湯がぬるくなってきましたー」
「はいよ~、今行きますよ~」
美女や美少女で溢れる女湯で癒やされ……。
「いやぁ、あんたも大変ねえ」
「お前のおかげで助かるよ。高い魔石を使うのはもったいないからな」
番台で一服する俺に、ライザが声をかけてきた。
休憩中なのか、風呂で軽く汗を流したバスタオル姿だ。
すらりと伸びる太腿に、酒場の男たちがいやらしい視線を送っているが、ライザは気にもとめていない。
「よくこんな商売思いついたわね。異世界で銭湯だなんて、ふふっ、面白いわぁ」
「タダで泊めてもらうのも、気が引けるからな」
「でも、さすがにこれだけ混雑すると、ちょっと手狭になってきたわね」
「そうだな、拡張したいところだけど、先立つものがなあ」
宿や酒場、銭湯の収入は好調だけど、建物をいじるとなると、やはりそれなりのお金がかかる。
そこで、俺は交易都市にある倉庫を思い浮かべた。
「ダムニスに倉庫があったんだよ。そこが無事なら、お金の心配は無くなるんだけどな」
「倉庫!? すごいじゃない! さすが製作職ねえ。お金持ちさんだ」
「素材や魔石も大量に貯めてあったからな。課金装備は無理としても、グレードS装備は作れると思うぞ」
「おおっ! 欲しい欲しい! S装備欲しい!」
番台に身を乗り出し、ライザは期待に目を輝かせた。
むにゅっと寄せられた白い谷間に、思わず視線が引き寄せられる。
「ダムニスに行くとなると、銭湯をしばらく休まないといけないから、あとでハンナさんと相談だな」
「私とリクなら、道中のモンスターも余裕だし、この世界の様子を見るのもいいんじゃない?」
ライザの言うとおりだ。
サービス終了による混乱が、どこまで広がっているのか。
それを確かめる意味でも、ダムニスに行くのは良い考えだろう。
交易都市の名のとおり、ダムニスは世界中に道が通じている。
エルフの里や、ダークエルフの森、巨人族の聖地といった、ゲーム開始時に各種族が降り立つ街にも行くことができるのだ。
プレイヤーとして選べるのは四種族で、人間、エルフ、ダークエルフ、巨人族。
その他にも、幻と言われる妖精族や、頑固な職人が多いドワーフ族などがNPCとして存在する。
始まりの街には、鍛冶職人のドワーフである、ジェラルドが店を開いている。
ゲームの頃は職人肌の寡黙な男という感じだったが、実は無類の酒好きで、地味にまどろみ亭の常連でもあった。
俺は武器や防具を作ることはできるが、精錬をすることはできないので、強化するときはジェラルドに頼んでいる。
無愛想だが、グランドマイスターの俺には敬意を払ってくれているようで、何かと話し込むことも多い。
ハンナさんやカリン、ジェラルドみたいに、他の街にいるNPCだった人々も、独自の活動をしているに違いない。
それに、もしかすると同じように取り残されたプレイヤーが、他にもいるかもしれない。
「決まりね。じゃあ、もうひとっ風呂浴びてくるわ~」
大胆にバスタオルを外し、ライザは惜しげもなく体を見せつける。
酒場で目を血走らせていた男たちが大歓声をあげ、ハンナさんに怒鳴りつけられていた。
「あの、師匠……」
ライザと入れ替わりに、平服に着替えたシェリルが番台に寄ってきた。
アリサもコレットも一緒で、3人とも緊張した顔つきになっている。
「どうした? 3人揃って」
「あの、今の話を聞いてしまいました。私たちも一緒に連れて行ってください。ちょうどダムニスに行くクエストを受けてまして……」
「ダムニスに? それならちょうどいいか。一緒に行こう」
「良かったぁ。初めて行く街だけど、師匠と一緒なら安心です」
シェリルたちは、すっかり俺の弟子みたいになっている。
俺としても悪い気はしないし、手伝えることは何でもするつもりだ。
「それじゃ、今日の夜、みんなでハンナさんと話そうか」
「はい! 分かりました!」
さてさて、この世界に取り残されてから、初めての遠出になる。
初めてダムニスに行った頃を思い出し、なんだか新鮮な気持ちになった。
ダムニスには情報も集まってきているだろうし、この世界の状況も分かるだろう。
話し合いのことを伝えるため、ハンナさんのところに向かった。
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