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裸の付き合いは世界を救う! 最強の回復スキル『温泉』で異世界銭湯始めます  作者: Peace
一章 始まりの街

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10.地下神殿の変態エルフ

「はっ! よっと! どっせい!」


 槍をぶん回して、スケルトンの大群を処理する。

 地下神殿はアンデッド系のモンスターが多い。

 スケルトンやゾンビ、ゴーストといった定番どころだ。

 ちまちまやってられないので、最短距離を一気に駆け抜ける。

 大量のアクティブモンスターが引っかかるが、サクサクとまとめて倒していく。


「ほいっと! よいさー」


 新調した槍の調子は絶好調。

 たいして疲れもせず、どんどん奥へと進む。

 各部屋のモンスターを集めて一網打尽にしているから、魔石や素材のドロップもおいしい。

 お金と銭湯の魔石には、当分苦労しなさそうだな。


「そろそろかな」


 最深部が近づくにつれて、妙な空気が漂ってきた。

 濃密な花の香りのような、甘い匂いが漂っている。

 ダークエルフが、魅了スキルを全開で放出しているんだろう。

 こりゃ、なかなかの相手のようだ。


「ここか……」


 通常であれば、神殿のボスである、冥界の司祭がいる部屋。

 扉が開け放たれているので、こっそりと様子を窺う。


「なんじゃこりゃ……」


 大広間の奥に、冥界の女神ベナルの祭壇がある。

 本来なら、そこには冥界の司祭がいるはずなのだが……。


「ライザ様……果実のジュースをお持ちいたしました……」

「あら、ありがと。んー、ぬるいし、あまり美味しくないわね」

「お、お許しを……」

「ま、いいわ。あー、足がこってきたわねー」

「ライザ様! 私がお揉みいたしましょう!」

「黙れ、お前などにライザ様のおみ足を触れさせんぞ」

「なんだと!」


 祭壇の上に、あられもない姿で腰掛けているのは、真っ白い肌のエルフ。

 ボロ布を身に纏い、かろうじて胸元と腰回りを隠していけど、ほぼ素っ裸に近い。

 エルフの隣には、禍々しい見た目はそのままに、やたらヘコヘコしている冥界の司祭。

 周りにいる冒険者たちは、こちらも腰に布を巻いただけの姿だ。


 肩や足を揉んでいるのは、イケメン揃い。

 ブサイクなやつは、スケルトンやゴーストと一緒に、妙なダンスを輪になって踊っている。

 じっと見てると、MPを吸いつくされそうな踊りだ……。


「ダンスチーム! 息が合ってないわよ! もっと機敏に!」

「かしこまりました! ライザ様!」


 冒険者たちは直立不動で叫び、声が出せないスケルトンたちは一斉に敬礼している。

 ライザとかいうエルフは、満足そうにふんぞり返って、ジュースをぐびぐびと飲んでいた。

 甘い匂いは、あのエルフを中心に渦巻いている。

 モンスターや冒険者は、揃って操られているみたいだな。


 ダークエルフと聞いていたが、ライザが元凶のようだ。

 たしかにエルフも魅了を使えるが、あんなエロい格好をしているエルフがいるか。

 キャラメイクのとき、だいぶ胸を盛ったな。


 さて、どうするか。

 柱の陰で様子を窺っていると、うやうやしく布切れを捧げ持った冒険者が歩いてきた。

 魅了にかかって、虚ろな目をしている。

 さっと引きずり込んで、首筋を打って気絶させた。

 こいつが持っていたのは、どうやらライザの着替えのようだ。

 装備を外し、冒険者と同じ腰巻き姿になり、布を両手で捧げながらライザに近づいていく。


「ライザ様、お着替えをお持ちいたしました」

「あら、ご苦労さま。それじゃ、脱がせてくれる?」


 立ち上がったライザが長い髪をかきあげ、無防備な背中をさらす。

 脱がせて……?

 ふわっと漂う甘い匂い。

 魅了のスキルではなく、ライザの体の匂いだ。


「何をしてるの? 早くしなさい」

「はい、ライザ様……」


 ふぅ……銭湯で女体慣れしたと思っていたが、一瞬目を奪われてしまった。

 気を強く持ちながら、布の結び目を解いていく。


「んー! あーあ、つまらないわねえ。毎日同じ暮らし……。他のプレイヤーはどうしたのかしらねえ。あんたに言ってもしょうがないけど」


 ボロ布を脱がせると、ライザは大きく伸びをした。

 なんという暴力的スタイル。

 ダークエルフも真っ青な色っぽさだ。

 周りがNPCとモンスターだけと思っているから、かなり大胆なポーズをしている。


「ちゃんと洗濯してきたんでしょうね? 昨日は生乾きだったわよ」

「大丈夫ですよ、ライザ様。さ、両手をこちらに」

「ん? こう……?」


 少し怪訝そうな顔をしながらも、ライザは素直に両手を後ろに回した。


「えっ? ちょっと……きゃっ!」


 細長い布で、素早く両手を拘束する。

 驚いてバランスを崩したところを引き倒し、両足もグルグル巻きに縛り上げた。


「なにをするのよ!」

「悪いね。地下神殿に行った冒険者が帰ってこないという話を聞いて、様子を見に来たんだ。ダークエルフと聞いてたけど、まさかエルフだったとは思わなかったよ」

「くっ! あんた、何者?」


 ライザは俺を睨みつけながら、魅了のスキルを解き放つ。

 花が咲き誇るようなエフェクトと共に、濃厚な甘い匂いが広がっていく。


「残念。俺には効かないんだ」

「嘘……、あんた、まさかプレイヤーなの?」

「そうだよ。ちょっと話をしよう」

「わかったわ……」


 周りにいる冒険者やモンスターは、ぴたりと動きを止めている。

 拘束したライザを抱えて、隣の部屋へと戻った。


「ちょっと、いい加減解いてくれない? こんな格好じゃ落ち着かないんだけど」


 恨みがましい目を、ライザが向けてくる。


「おとなしくしてるか? 俺に敵意はないが、お前がどう出るか分からないからな」

「何もしないわよ。こんな格好で縛られてちゃ、話なんてできないわ」


 非常に扇情的な姿で、ライザは床に転がっている。

 ずっと眺めていたい気持ちもあったが、ここは解放してやったほうが良さそうだ。


「なんでこんな格好してるんだ? 装備はどうしたんだ」

「急に全部消えちゃったのよ。初期装備も、だんだんボロボロになっちゃって、ありあわせで我慢してたの……」


 俺と同じように、ライザもサービス終了時に巻き込まれて転移したそうだ。

 たまたま地下神殿の近くにいたため、魅了を駆使して引きこもっていたらしい。

 ダークエルフという噂が立ったのは、やたら露出の高い格好をしていて誤解されたようだな。

 基本的に、エルフは清楚、ダークエルフは過激な衣装が多い。

 ちなみに、プレイヤーに会ったのは俺が初めてだったそうだ。


 ライザの職業はエルフのマスターウィザード、三次職でレベル90。

 魔法職としてなら、この世界でも最高峰の強さだろう。

 まともに戦ったら勝ち目はゼロだったな。


「こう見えてもね。傭兵同盟『私の村を焼くなんて許せない!』の最高レベルアタッカーだったのよ」

「マジかよ。名前は聞いたことあるぞ。エルフだけで組んだ同盟だろ? 同盟戦で相手を焼き尽くすと評判の」

「あはっ、知ってるのね。あーあ、装備が残ってれば、何も苦労しなかったのに」


 ライザはあぐらをかいて、天を仰いでいる。

 お前、自分がどんな格好してるのか忘れてるんじゃないか。

 あらゆるところが丸見えなんだよ……。


「あんたの職は?」

「俺はグランドマイスター、レベルは100だ」

「は……? グランドマイスターでレベル100……?」

「なんだよ、おかしいか?」

「おかしいっていうか、Mなの? どんなプレイしたら製作職でレベル100までいくのよ」


 呆れたようにライザが言う。


「Mじゃねえ! ひたすら作り続けてたんだよ」

「10年間……?」

「たまにはサブキャラもやってたけど……まあ、だいたいは……」

「ドMね……廃人なんてレベルじゃないわ……呆れた……」

「うるせぇ! お前の90だって、相当な廃人プレイだろうが」

「私のは対人戦で稼いだんだもの。あんたみたいに、ちまちまアイテム作って稼ぐのとは違うわよ。それでも90なのよ? あんたの100って、人間業じゃないわよ」


 まあ、言われてみれば、頭おかしいレベルだな。

 そういえば、俺のサブキャラってどういう扱いになってるんだろう。

 交易都市のダムニスで、ログアウトしたままだったな。

 ダムニスには俺の買った倉庫があったんだが、中も無事なのだろうか。

 あそこに貯めた素材やお金があると、かなり楽になるんだよな。


「とりあえず、そんな姿じゃマズイだろ。装備作ってやるよ」

「え? このままで構わないけど?」


 ローブを作ってやろうとしたら、とんでもない発言が聞こえてきた。

 ぽかーんと口を開けて、ライザを見る。


「いや、だって、別に、私自身が裸なわけじゃないし? あ、今は私自身なのかしら? まあでも、本来の私と違うし。見られて減るもんでもな……」

「こっちが困るんだよ! そんな格好で街に連れていけるか」

「えー。だって、服着てないほうが楽じゃない?」

「おま……変態か!」


 たしかに、ライザは何も着ていないというのに、全く恥じらっていない。

 むしろ、俺に見せつけるように、わざとらしいポーズをとってくる。


「んふ、視線が動くの分かって面白ーい。魅了で操ると、こうはいかないのよねー」

「お前な……。まったく、とりあえずローブ作ってやるから、それを着ろ」

「はーい。それじゃね、色は白地に青のラインで……あと、デザインはこんな感じで……」


 ライザの注文通り、とりあえず布のローブを作ってやった。


「おー、さすがはグランドマイスター。なんでも作れるのね」

「ま、まあ、一応……。てか、これで本当にいいのか」

「ええ、もちろん」


 ライザがローブを着たのだが……。

 頼りない布切れを、体の前後に垂らした、薄手のローブ。

 ぱっくりと胸元が開き、腰回りはかろうじて前後を覆うのみ。

 少しの風や、少しの動きでも、あちこちがポロリしてしまう、とんでもない衣装だ。


「これは動きやすいし、いいわね。ちゃんと隠れるし」

「隠れてねえ! 頼む、せめてこれだけでも着けてくれ」


 青色の下着を作って、ライザに押し付ける。


「えー、穿かなきゃダメ?」

「ダメ! 絶対にダメ!」

「はーい」


 渋々とだが、ライザは下着を穿いてくれた。

 それでも、露出度満点の衣装であることには変わりない。

 合わせて、手持ちの魔法石で魔法詠唱用のロッドを作ってやった。


「さて、それじゃ行きましょうか。みんなー、街に帰るわよー」


 ライザの号令で、冒険者たちがノロノロとこちらに歩いてくる。

 ちなみに、ブサイクな奴は見逃していたらしく、そいつらがダークエルフの噂を流したようだ。


「さて、あとは冥界の司祭とアンデッドたちね。まとめてぶち殺していきましょ」

「おい、操ってるんだから、放っておけばいいだろ」

「そうね、よく働いてくれたわー。色々と。ふふっ、そーれ! ”氷槍吹雪(ひょうそうふぶき)”」


 歌声のような詠唱とともに、無数の氷の槍が宙に浮かび、ぼーっと立ち尽くす冥界の司祭とモンスターたちに、容赦なく降り注いだ。


 ドッ……ゴォォォン……。


「うわ……えげつねえ……」


 氷の破片が舞い散る中で、生き残ったモンスターは皆無。

 みんな綺麗に素材と魔石へと変化している。

 あまりの威力に、祭壇も破壊され、ベナルの像も轟音を立てて崩れ落ちた。


「一丁上がりっと」


 平気な顔をしているライザに、背筋がゾッとする。

 一歩間違えば、俺が氷漬けにされていたところだな。


 冒険者たちを引き連れて、ライザは意気揚々と進んでいる。

 大量のドロップアイテムをしまいこんで、慌ててあとを追った。

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