9.謎のダークエルフ?
順調に経験を積み、シェリルたちは街の周辺では敵なしとなっていた。
冒険者ギルドに向かい、手頃なクエストが無いか探しに行く日々。
ギルドの壁には、クエストの発注書が大量に貼られている。
大半が素材集めやモンスター退治、冒険者が少なすぎて、依頼の数は増える一方だ。
シェリルたちなら、あっという間に片づけてしまうだろうが、得られる経験値は少ない。
ここらで、ひとつでかいクエストを受注して、さらなるレベルアップを狙いたいところだ。
「地下神殿……ですか」
シェリルが緊張の面持ちで言った。
ダークエルフの地下神殿。
初心者を脱した冒険者が挑戦する、定番といえる地下迷宮だ。
地下神殿探索クエスト、これは一次転職をするための必須条件でもある。
ダークエルフは、プレイヤーとしても選べる種族で、回避アタッカー職や、高い魔力による魔法職としての人気が高かった。
あまり他の種族と交流は持たないので、プレイヤーが消えた今ではまったく見かけることがない。
冥界の女神『ベナル』を崇拝する種族で、地下神殿はダークエルフの遺跡ということになる。
クエストは、神殿の最奥、ベナルの祭壇が最終ゴール。
定期的に湧くボスキャラ『冥界の司祭』がいて、道中のモンスターと合わせて、そこそこの難易度だ。
そのぶん、手に入る素材やお金も大きいし、一次転職で大きく成長も見込める。
ただ、挑戦するにはガッチリとパーティーを組む必要がある。
「シェリルたちなら、もういけると思うんだよね」
シェリルたちは充分にレベルがあがり、一次転職が可能なレベルだ。
彼女たちだけでは不安があるが、俺が護衛につくなら問題ないだろう。
「あのぅ、地下神殿に行かれるのですか?」
話し合いをしている俺たちに、受付のコーデリアさんが声をかけてきた。
「今、地下神殿に行くのは止めたほうが……」
「どうしてですか? 彼女たちなら大丈夫だと思うんですが」
「実は、ここ最近、地下神殿に行かれた冒険者が帰ってこないのです。ですので、少し様子を見たほうがいいかもしれません」
シェリルたちのように、新たにNPCから冒険者になった者が、多く向かっていたのだろう。
ただ、『冥界の司祭』は強敵だが、そこまで強いわけではない。
一次転職前の冒険者でも、パーティーをしっかり組めばクリアできるはずだ。
サービス終了の影響で、なにかバグでも起きてるんだろうか。
「噂では、魅了を使うダークエルフがいるとか……。一人だけ生還された方が、そのように仰っていました。仲間がダークエルフの虜になり、襲いかかってきたんだそうです」
「魅了か……なるほど」
厄介な相手ではある。
シェリルたちは、真っ青になって震えていた。
「それなら、俺が一人で行って、様子を見てきましょう」
すると、コーデリアさんは元より、シェリルたちが驚いて目を丸くした。
「危険ですよ」
「いくら師匠が強くても……」
「そうよ! 馬鹿なこと言わないで!」
「リクさん……」
みんなが心配してくれて、なんともこそばゆい。
ただ、魅了と聞いて、ひとつ思いあたることがあった。
まず、プレイヤーキャラである俺には、魅了が効かない。
そして、魅了を使う者も、プレイヤーキャラに限られるのだ。
つまり、地下神殿に、俺と同じように取り残されたプレイヤーがいる。
ダークエルフで魅了を使うということは、魔法職に違いない。
これまでの冒険で、俺の装備も整っている。
課金装備とまではいかないが、グレードAクラスの装備を作っていた。
地下神殿はクエストや狩りで散々行ったから、中の構造は全て分かっている。
あとは、プレイヤーのダークエルフと接触できれば、なにか情報が掴めるかもしれない。
「大丈夫。俺に任せておけ」
「うぅ、ししょぉ……」
「無茶しちゃダメなんだからね!」
「無事に帰ってきてください……」
目を潤ませて、シェリルが抱きついてくる。
アリサやコレットも一緒だ。
短い間に、随分と慕ってくれるようになったんだな。
連れていってもいいんだが、万が一にも、シェリルたちが魅了にかかったら大変だ。
魅了は強力なスキルで、モンスターやNPCを意のままに操ることができる。
彼女たちに槍を向けるなんて、まっぴらだ。
他の冒険者であっても、それは同じこと。
ここは、俺が一人で行くしかない。
「リクさん、決して無理はしないでくださいね」
「はい、分かってますよ。こう見えても、俺、結構強いんですから。地下神殿程度の敵には遅れをとりませんって」
地下神殿の敵は、『冥界の司祭』も含めて、はっきり言って雑魚だ。
俺一人でも余裕でクリアできる。
ダークエルフが、どれくらい強いかだな。
まあ、こちとらレベル100だ。
よほどの廃人級が相手じゃない限り、遅れを取ることはない。
「じゃあ、行ってくるよ。まどろみ亭で待っていてくれ」
シェリルたちを安心させるように言い、地下神殿に向かった。
さくっとやっつければ、夜までには帰ってこれるだろう。
ゲームのときは、もう少し早く行けたんだけどな。
街の北、街道を外れたところに、禍々しい瘴気を纏う地下神殿がある。
冥界の女神ベナルの像が立ち、その台座が地下へと続く入り口だ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
謎のダークエルフ様と、ご対面といこうじゃないか。
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