#8 三学園相見える
「さあて……見えて来てよ皆さん!」
「わくわくしますマリアナ様!」
「ああ、血が騒ぐな!」
「ええ、そうね……」
法機母艦プリンセス オブ 魔法塔華院(要するにマリアナだがさておき)の飛行甲板上にて。
凸凹飛行隊の面々は、迫り来る陸を眺めている。
そこは花蓮乙女学園――王魔女生グループ傘下にして尹乃の通う学園である。
「青夢、どうしたの?」
「相変わらず……ってか。今日は一層青いよ?」
「あ……ううん、ごめん何でも。」
その光景に皆が目を輝かせる中、青夢はただ一人浮かない顔をしていた。
それは無論というべきか、このマイニングに関して思う所があるためだった。
聖マリアナ学園の校内レースの際にも、あれから光希は取り調べを受けたが。
「本当に、私何も知らないんです!」
この一点張りである。
多くの人々が、とぼけていると思うこの状況であるが。
――……待ってください! これは……ユダマイニングです! そのイスカリオテのユダは……メンバーのトモです!
――そ、そんな! と、トモ君がユダマイニング?
――ち、違う俺は!
――トモ、残念だけどよお……俺たち、ザラストサパーマイニングもやっててもう証拠上がってんだよ!
――!? ……な、ち、違う! ほ、本当に俺はやってない!
「あれは……やっぱり。」
青夢は件のマイニングレースでも、あの不正をやったのは別の人物ではないかと睨んでいる。
しかし、誰が?
どうやって?
この点が、未だ解消できぬ疑問点だった。
◆◇
「ようこそ……我が学園へ!」
「ええ、お久しぶりであってよね! 王魔女生の社長さん?」
そんなモヤモヤを抱えつつも、着港し降りてきた青夢たちを出迎えたのは。
王魔女生の社長・尹乃である。
「ええ、お久しぶり。さあて……これでようやく揃ったわ、我が王魔女生に魔法塔華院に龍魔力の三学園が! もう皆さん来ているから、あなたたちは急いで準備して。」
「ええ……言われるまでもなくってよ。」
「(ちょっと、魔法塔華院マリアナ!)」
尹乃と対面するなり、早々に軽く火花を散らすマリアナに青夢は当惑している。
「では皆さん……早く、自機に乗らなくってはよ。」
「はい、マリアナ様!」
「ああ、言われるまでもない!」
「はい!!」
「そうね……うん?」
そうして、法母に戻る凸凹飛行隊の面々だが。
青夢はそこで、ふと目に止まった人がいた。
「えっと……愛三さん!」
「! ジャンヌダルクちゃん……」
同じく、法機に乗り込もうとする龍魔力の末妹たる愛三である。
「いつか、あなたのリオルさんもネットワーク上から必ず取り戻すから!」
「! ジャンヌダルクちゃん……うん!」
青夢は彼女にネットワーク上に意識をアップロードして死んだ、彼女の親しかった魔男についての話をする。
「早くしなさい、愛三! ……魔女木さん。今日は敵同士なので、正々堂々とぶつかり合いましょう!」
「! 夢零さん……はい!」
そこへ愛三を連れに来た夢零は、青夢にそう声をかける。
◆◇
「ふうん、あれらが王魔女生や龍魔力の艦隊であってね……」
法母の艦上にて、マリアナは横目で相手となる艦隊を見る。
龍魔力の場合は、いつぞやのイージス艦を思わせる艦――ゴルゴン艦に似た艦隊である。
王魔女生は、艦中央部に巨大な艦橋を備えた法機戦艦に似た艦を擁している。
「さあて、警戒しないとね! 特に龍魔力四姉妹だけど……場合によっては、"目"を使って来ないとも限らないわ!」
「ええ、飛行隊長!!」
「ああ、魔女木!」
「ふん、そんなことは分かっていてよ魔女木さん!」
「そうよ魔女木、指図するんじゃないわ!」
青夢の言葉に凸凹飛行隊の面々は、それぞれに反応を示す。
◆◇
「ハロー! 皆、マイニングレース楽しんでる? 私はDJセレネー、よろしくネ☆」
その様子は、DJセレネーにより実況中継されていた。
「さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! 今日は、日本が誇る世界的企業魔法塔華院コンツェルン・王魔女生グループ・龍魔力財団傘下の三学園によるマイニングレース! さあ、here we go!」
◆◇
「……始め!」
「……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!」
そうして。
三学園のマイニングレースの幕が上がり。
各学園のアポストロス構成機群が、発艦する。
「さあて…… hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"!」
そうして、発艦早々に。
夢零はやはりというべきか、自機グライアイ構成機である幻獣機の能力―― "目"を発動させようとする。
しかし。
「む!? まあ、やっぱりというべきかしら……狙いがつけられないように、皆忙しなく動き回っているわね!」
夢零はほぞを噛む。
今彼女の弁にあったように、他学園のアポストロスは "目"を予め警戒していたらしく狙いがつけられないように法機を暴れさせていた。
「ふん、龍魔力四姉妹の方々……あなたたちのことなど、手に取るようにお見通しであってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「(ふん、浅はかね龍魔力財団! さあて……私も、どのタイミングでワイルドハントを使おうかしら。)」
それを見たマリアナたちが嘲笑う中。
尹乃はここで、ワイルドハントによる横槍を入れようと考えていた。
が、その時である。
「hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢 エグゼキュート!」
「!? な…… hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミーズ エグゼキュート! セレクト 、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「!? な、何事であって!?」
突如、夢零が"目"のために注視していたレーダーが無数の出所不明の弾を捉え。
それに反応した夢零は、慌てて術句を発動しそれらを防ぐ。
それに驚いたのは、三学園の面々全員であるが。
「あれは……!?」
青夢はその中でもいち早く、敵弾の飛来した方角を睨み敵影を捉えていた。
それは――
◆◇
「さあて……皆さん、本日もようこそ!」
「はっ、我らが女王!」
新たな女王が呼びかけるや。
円卓が、一席ずつ照らし出される。
「まあこの前は大失態でしたね……新米の魔女風情共に返り討ちにされてしまうなどと、魔男の騎士団長の名折れではないかしら?」
「はっ!! め、面目もございません……」
新たな女王に早々叱責され、ウィヨルにフィダールは平身低頭する。
「一つ、私にご提案がありますわ新たな女王陛下。」
「あら、パール。」
「! アブラーム卿……」
しかし、そこで。
それまで空席であった第一席に座るパールが、声を上げた。
「次に隙を作るとすれば……三学園のマイニングレース中かと思われます。そこで……今こそ件の新兵器をお披露目する時かと思います……異論はございませんわね、騎士団長諸卿?」
「……む、無論!! 異論はなし!!」
他の騎士団長たちは、不承不承といった様子ではあるがそう答える。
これまでは対等であった魔男の円卓に、一人の騎士団長――より厳密には、その代理だが――のみが強い発言力を持って臨んでいる。
それはさながら、かつてダークウェブの王による威光を傘に着ていたマージン・アルカナ――盟次に支配されていた頃を彷彿とさせる。
「ではこのお役目……あなたにお願いしたいわ、ヴィクトリュークス卿!」
「!? は、お任せを……」
そうして、パールの言葉に。
馬男の騎士団長シャルルは、恭しく頭を下げる。
◆◇
「騎士団長!」
「ああ、見つけたぞ魔女共……さあ、パール・アブラームとやら。この魔神艦の力、しかと見せてもらう!」
そうして、この戦場では。
半人半馬ならぬ、半人半艦のような人の上半身に艦の下半身を持つ艦――魔神艦を率いて。
馬男の騎士団長シャルル・ヴィクトリュークスは、その人型上半身のごとき艦橋部より戦場を睨む。