#7 その名はモルゴース/イズン/ヘスペリデス
「こ、ここは……?」
「僕たちは一体……?」
ジニーに雷破・武錬は、周りを見渡す。
「あなたは空魔法ジニーさん、あなたは亜魔術雷破さんであなたは金女武錬さん。」
「い、いや僕たちは自分の名前も忘れた訳じゃなくって!」
「そう、私たちはレイテ様の!!」
「ええ、分かっているわ! ……レイテさんの、力になりたいのよね?」
「!? え、ええ……」
しかし、逸るジニーたちに。
アラクネは、そっとそう語りかける。
「力になりたい……そうね、強力な法機を求める人の中で、誰かの力になりたいと言っていた人は多いわ。あなたたちもそういう人たち。優しいのね……」
「や、優しい訳じゃない! ぼ、僕たちはレイテ様に恩があって、その……その恩を、返さなきゃいけないだけだ!」
アラクネの労りの言葉に、ジニーは。
顔を赤らめながらも、事も無げにそう返す。
「そ、そうよそうよ!」
「わ、私たちはレイテ様に拾ってもらえなかったら! 今頃飢え死にしてたわ……」
「あら……そうなの?」
ジニーの言葉に雷破・武錬も同調し補足する。
そう、彼女たち三人は孤児だった所をレイテの屋敷に引き取られ共に育ったのである。
いわばレイテの一家は、命の恩人である。
「あら、それはそれは……随分と、苦労したのねえ。」
「! わっぷ!」
「む!!」
それを聞いたアラクネは、ジニー・雷破・武錬を抱きしめる。
抱きしめられた三人は、赤面する。
「よく頑張ったわ……」
「く……うっ!」
「うう……ええん……」
三人はアラクネの更なる労りの言葉に、嗚咽を上げる。
「アリアタン……ハヤク、ソイツラヲカイホウシホウキヲ」
「あら、私の王! ええ、そうね……」
「! そ……そうだ! ぼ、僕たちはもう泣かないで済むぐらい強くなる!」
「そ、そうよそうよ!!」
背後からのタランチュラの苦言に、アラクネが三人を抱きしめる手を緩めると。
はっとした三人は慌てて顔を上げ。
照れ隠しも兼ねて、少し大仰に叫ぶ。
「あら、頼もしいわね! なら……さあ! レイテさんが待っているわ。もう一度、あなたたちの願いを聞かせて!」
「はい!!!」
アラクネは微笑み。
三人を促す。
「hccps://baptism.tarantism/!!! サーチ! ファイティング ウィズ アワ リーダー!!! ……!? こ、これは……」
三人は目の前に、URLが浮かんで来たことにより。
hccps://morgause.wac/
hccps://idun.wac/
hccps://hesperides.wac/
驚いている。
「あなたたちは、法機マリアを既に持っている。だから、そこに新たに宿すことで新たな法機を持つといいわ。」
「は、はい!!! hccps://maria.wac/、セレクト 仔羊の誕生!!! hccps://maria.wac/GrimoreMark、セレクト 受胎告知 エグゼキュート!!!」
アラクネの助言を受け。
三人はまず、法機マリアのグリモアマークレットを発動し受け入れ体制を整える。
「セレクト hccps://morgause.wac/」
「セレクト hccps://idun.wac/」
「セレクト hccps://hesperides.wac/」
「ダウンロード!!!」
「ええ、そうよそうよ! さあ……あなたたちの敵は、何としても倒しなさい!」
三人がそうして、自らの法機をダウンロードした所で。
アラクネは、歓喜の叫びを上げる。
◆◇
「さあ、サーチ! ……!? な、何これは!?」
「な……じ、ジニーたちの法機が!?」
翻って、現実世界では。
凸凹飛行隊やレイテたちに襲いかかろうとする光希の幻獣頭法機スケープゴートだが、突如。
ジニーたち三人の法機が光り出しアラクネの姿が浮かび上がり、場は混乱する。
「さあ、お行きなさい……」
「はい、アラクネさん!!! ……さあ、行きましょうレイテ様!!!」
「あらあら……まあ、いいわ行きましょう!」
アラクネは微笑みと共に三機を促して姿を消し。
そのまま三機は、モーガン・ル・フェイと共に幻獣頭法機に向かって行く。
「く!? ふん、だけど何機来ようが同じよ……hccps://scapegoat.mna/azazelicgoat.fs?scaping=true――罪からの逃避! エグゼキュート!」
光希は動揺しつつも、すぐに法機の体勢を立て直し。
呪いを詠唱する。
たちまちスケープゴートは、高速移動を開始する。
「ジニー!!」
「ああ、分かっているさ! さあ行こうか法機モルゴース……hccps://morgause.wac/、セレクト 王宮侵入! エグゼキュート!」
「ふん、そんなものではこの法機は……な!? 動きが、鈍く……」
ジニーは即座に、法機による幻獣頭法機システムへのハッキング能力を使い。
それにより幻獣頭法機は、動きを鈍らせる。
「今です、レイテ様!!!」
「ふっ、ええありがとう……hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道! エグゼキュート!」
「くっ……ぐあっ!」
その隙に。
レイテは法機モーガン・ル・フェイによる高速移動を発動し、すれ違い様に法機スケープゴートを切りつける。
「やった、レイテ様!!」
「ふん、喜ぶのはまだ早いわよ! hccps://baptism.tarantism/! セレクト、デパーチャー オブ 幻獣機 エグゼキュート!」
だがそこでやられる相手ではなく。
たちまち光希の放った術句に従い、幻獣機アザゼリックゴートが多数飛来する。
「な!? こ、これは」
「ふふふ、さあ……私を疑った奴らなんてもう要らないわ! さっさと潰して!」
光希は半ばヒステリーを起こし。
その命を受けたアザゼリックゴートたちは、光弾を放って来た。
「くう……雷破・武錬!」
「はーい、武錬が行きまーす! さあ行くよ法機ヘスペリデス……hccps://hesperides.wac/、セレクト 不和の林檎! エグゼキュート!」
ジニーに促され、武錬が法機ヘスペリデスの力を使うや。
たちまち空には、巨大な黄金のリンゴ型エネルギーが浮かび上がり。
それが弾けてアザゼリックゴートたちに光の粉となり降り注ぐ。
「ははは、なあにそれえ!? そんなんじゃ……な!?」
余裕をこく光希だが。
刹那幻獣機アザゼリックゴートたちが同士討ちを始めるや、その余裕が吹き飛ぶ。
たちまち幻獣機アザゼリックゴートたちは同士討ちの末に、全滅した。
「な、す、すごい……」
「な、何であってあれは!?」
「ま、マリアナ様!」
「何と……」
「す、すごーい……」
これには凸凹飛行隊も、関心する。
「くっ、よくもお…… hccps://scapegoat.mna/azazelicgoat.fs?sinners=true――罪代わり放棄! エグゼキュート!」
が、もはや自棄くそとばかりに。
法機スケープゴートからは、無数の火の玉が飛来する。
「レイテ様、危ない! ……hccps://hesperides.wac/、セレクト ラドンの林檎番! エグゼキュート!」
「! ぶ、武錬!」
が、レイテのモーガン・ル・フェイの前に武錬のヘスペリデスが立ちはだかり。
そこから出現した百頭龍の幻影が、火の玉を防ぐ。
「わ、私だって負けられない! さあ行くよ、法機イズン! ……hccps://idun.wac/ 、セレクト クルミ変化! エグゼキュート!」
そうして武錬が攻撃を防ぐ間にも。
何と、雷破は法機イズンの力を使い。
こちらは法機の大きさを小さくし、火の玉の隙間を越えて行く。
「さあ……hccps://idun.wac/、セレクト クルミ変化! hccps://idun.wac/GrimoreMark、セレクト 胡桃弾! エグゼキュート!」
「く!? い、いつの間に……ぐう!」
そのまま法機スケープゴートへと肉薄した雷破は、同じく火の玉を浴びせかかる。
「よ、よし! ……さあレイテ様! ジニーに武錬、一緒に!」
「ええ……そうね! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道!
hccps://MorganLeFay.wac/GrimoreMark、セレクト 楽園光波!」
「hccps://morgause.wac/、セレクト 叛逆騎士の母!」
「hccps://hesperides.wac/、セレクト ラドンの林檎番!」
「! ま、待って!」
そうして、レイテらの四機は法機スケープゴートへと狙いを定めるが。
そこではっとした青夢は、レイテらを引き止めようとするが。
「……エグゼ」
「く……hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark!」
「キュート!!!」
レイテらの耳には届かず、そのまま四機の攻撃はスケープゴートへと肉薄し。
「き……きゃあああ!」
スケープゴートを、破壊してしまった――
◆◇
「ま、マリアナ様……」
「ち、ちょっとあなたたち! そこまでする必要はないのではなくって!?」
「な……」
凸凹飛行隊の面々は、レイテに抗議する。
と、その時。
「……雷破。」
「はい、レイテ様! hccps://idun.wac/ 、セレクト 若返りの林檎! エグゼキュート!」
「! な……機体が!」
レイテに促された雷破が、術句を唱えるや。
たちまち、巨大なリンゴ型のエネルギー体に包まれた法機スケープゴート――いや、既に法機マリアに戻っていたが――が爆煙の中から姿を現す。
そう、彼女たちは法機マリア本体を予め守り。
その上で、取り憑いていた幻獣機アザゼリックゴート二機だけを破壊したのだった。
「まったく……私も焦って助けようとしたけど、無駄骨だったわ!」
「! ま、魔女木さん!」
「い、いつの間に……?」
凸凹飛行隊が更に気付けば、青夢も。
目にも止まらぬ速さで光希の法機に迫っていたが、今や手持ち無沙汰な様子で法機ジャンヌダルクを旋回させていた。
「まあ……これはこれでよかったかな!」
とはいえ、光希が無事だったことは青夢は素直に喜ぶ。
こうして、聖マリアナ学園の学内マイニングレースは幕を閉じた。
◆◇
「法機スケープゴートは、しくじりましたか……しかし、まあいいでしょう。ひとまず実験は成功です。」
「はっ、新たな女王陛下!」
その頃。
魔男の円卓が照らし出され、新たな女王の言葉と共に12騎士団長が恭しく頭を下げる。
「ええ、女王陛下……」
「! な、何者か!」
だが、そこへ。
突如、ベールを被った少女が入室する。
「あら、来てくれたわね……私の側近!」
「はい……」
「な……そ、側近!?」
しかし、その少女への新たな女王の言葉に。
12騎士団長たちは、困惑する。
「初めまして、新たな女王陛下の側近パール・アブラームです。以後、お見知りおきを……」
ベールの中で少女――パールは、にこりと微笑む。
パール・アブラーム。
――あーあ……これからどうなるんだろ。
――何してるの、パール?
――! あ……ジ
――しっ! その名前で、ここで呼んじゃダメだって!
――あ、ごめん……ラピュセル。
12騎士団長たちは知る由もなかったが、それは奇しくも青夢の夢に出て来る二人の少女のうち一人の名前だった――