#69 真の王
「何や、また新しい法機かいな!」
「あれは……法機マケダとかいうものかな?」
突如現れた法機を、元女男の騎士団や矢魔道は訝しむが。
「まあええ……メアリーさんにミリア! 届かへんならまた攻撃や!」
「ああ、騎士団長!」
「はい、騎士団長!」
赤音はしかし、気を取り直してメアリーとミリアに命じる。
「早いとここんな奴ら片付けて、本物のアラクネ姉様助け出したらな!」
「ああ!」
「はい!」
赤音は今一度目的を口にする。
◆◇
「hccps://titania.wac/、Select 取り替え子論争! Execute!」
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
そうして。
空宙都市エルドラドを守っていたエネルギー流が突如、嵐のように荒ぶり。
更に同都市の各所から、エネルギー弾による攻撃が出て魔男連合艦隊へと向けられて行く。
「くっ、空宙都市からこの攻撃は!?」
「ほ、法機だ! 法機を繋いだんだ!」
魔男連合艦隊は、揃ってこの攻撃を喰らう。
「是、私たちもあのトバラ族との時の借りがあんのよ!」
「是!!!」
「네、私たちも全速前進!」
「네!!!」
「魔女木……何を考えているかは知らないが、私たちはお前を止める!」
「Yes、私たちも頑張ろう! 後ろからできる限り!」
「Yes!」
「So!」
「defo、私たちも止めに行かないと! 短かったけどMs.魔女木は、理由がなくてこんなことする人じゃない! 人や動物たちが暮らす地上を、脅かそうなんて!」
「defo!」
「Oui……行くわ、私たちも!」
「Oui!!!」
日中韓、米欧豪と各国代表は勇猛果敢にも目の前の魔男連合艦隊に立ち向かって行く。
「ええ、壮観ですわ……見えますかレッドドラゴン! その三段法騎戦艦内仮想世界に、魔都バビロンが崩壊する中唯一残されたバベルの塔!――言葉ひいては人類の分断の象徴を前に! 未だ言葉は分断されながらもあなたへの敵意で統一されつつある全世界の人の手が迫っています!」
パールはこの光景を見つめ、高らかに宣言する。
◆◇
「ええ、三段法騎戦艦上下もそれぞれに守られているし。周囲の魔男連合艦隊も上々……後は、私がやるしかないわね!」
青夢も魔男連合艦隊に護衛された輪の中央に鎮座する三段法騎戦艦内より、この様を見て。
そろそろ機は熟したとばかり、決意を新たにする。
「Yes、私たちはMs.Mamekiを止める!」
「はい、ミスターソー!」
「はい、マリアナ様!」
「魔女木、待っていろ!」
「まったく……お前の夢の青臭さは、今にして思えば全世界に振われる未熟故の毒だったな!」
その三段法騎戦艦下部より迫るは、真白・黒日を除く凸凹飛行隊並びにデイヴと盟次が乗る空宙装甲列車である。
しかし。
「そこにいるのですね!」
「ならばちょうどいいですよ、元魔男の騎士団長! 我々があなたを!」
そんな彼ら――とりわけ盟次を迎え撃たんとするは、現魔男の騎士団長たるウィヨルとフィダール率いる一隻の宙飛ぶ悪魔人艦である。
「ほう、かつての近衛騎士たち! ならこれはどうか……hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「む!?」
「くっ!」
「ふふふ、次々に行ってやるぞ…… セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート! ……セレクト」
そんなウィヨルとフィダール座乗艦に対し。
盟次は法機パンドラの力で亜空間を開き、法機ヘルによる火線をそこから浴びせ。
亜空間を閉じ、更に別の亜空間を開いて火線を浴びせ――の繰り返しにより座乗艦にじわじわとダメージを与える。
「よし、ではクランプトンたち後は頼んだぞ!」
「いやその名で……って! 何をするつもりなんだあなたは!」
そのまま盟次は、剣人たちにそれだけ告げ。
「…… セレクト! 匣の穴! セレクト 、デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「な……あ、アルカナ殿の法機が!?」
そうして。
空宙装甲列車の屋根を反転させぬまま、亜空間を開くことにより列車内部から自機をワープさせる。
ワープさせた場所は。
「さあ来てやったぞ、魔女木青夢! ようやくこの時が来たな……やはり貴様を仕留めるのは、俺でなくては!」
青夢座乗の三段法騎戦艦、直上である。
少し離れた所で元女男及び矢魔道の法機群の戦域だが、敵法機との戦いにより気づかない。
「用心してバリアを纏うか、だが! 俺の法機攻撃の前には」
「い、いやアルカナ殿……魔女木を止めるんです、倒しては!」
剣人が通信で訴えるも虚しく。
盟次はそのまま、法機パンドラを突撃させ――
「fcp> get DemonsBite.hcml――悪魔の牙!」
「む!? くっ……ウィヨルとフィダールか!」
しかしそこへ飛んで来た斬撃により、盟次は法機パンドラを翻す。
「ああ、未だに業腹であるが!」
「我らは新たな王陛下の配下……お守りせねば!」
それはいつの間にか座乗艦を発艦していた、幻獣機ヴァサゴとアガレスにそれぞれ騎乗するウィヨルとフィダールだった。
◆◇
「hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ、ザ メモリー オブ パスト!」
青夢は、そんな外の様子もよそに。
「……これで、全てを救う! 終わらせる! ……セレクト、トレーシング ジ メモリー オブ ラピュセルズ イラ……エグゼキュート!」
術句を、唱え――
◆◇
「ああ……イエス様! そして……真なる王! 私に……私に勇気を! hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ……」
やがて場所は変わり、いつも夢に見ていた少女ラピュセルが火刑に処されているさなか。
彼女は願いを捧げるが――
「……いいのよ、ラピュセル! もうあなたは、十分頑張った……」
「! あなたは……」
そんな彼女の手を、青夢は握る。
あくまで記憶の世界であるためか、青夢もラピュセルと同様炎の中だが熱くない。
「パール……いいえ。あなたは……青夢ね!」
と、そこで。
何故か、青夢のことを知っているラピュセルであるが。
「ええ、ラピュセル……いいえ、ジャンヌダルクさん! そして……アンヌ!」
「ええ……やっと会えたわね!」
二人は抱き合う。
そう、ラピュセル――史実上のジャンヌダルクであり。
それがそのままVIと化していたのが青夢の自機に搭載されていたVIたるアンヌだったのである。
「あなたのその腕輪……そこから電賛魔法システムが生まれたのね。」
「ええ、そうよ。」
青夢は感慨深げに、アンヌの右手を見る。
そこに嵌められた腕輪は盟次の父たる総佐と、青夢の父たる獅堂が共同でルーアン刑場跡より発掘したもの。
つまり。
「……この腕輪を嵌めるあなたこそ、電賛魔法システムの根源なのねアンヌ! なら……お願い、私に終わらさせて!」
「青夢……ええ。でも」
――ふふふ、この時をずっと待っていましたよ……hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ ジ オリジン オブ マジック! セレクト……
「! この声はパール・アブラーム……きゃっ!」
「青夢!」
が、青夢が事を進めようとしたその時だった。
突如パールの声が響くと共に、周りの景色が本をめくるさなかのように目まぐるしく変化し――
◆◇
「……セレクト 王権否定! エグゼキュート!」
「な!? あ、あんたまさか!」
その頃、現実世界では。
赤音が、自分たちと交戦中の法機――今、エネルギーにより巨大な王冠を頭上に形成している――の正体に気づく。
それは。
「……イザボー・ド・バヴィエールさんかいな!」
「ええその通り! お久しぶりね、私クイーンバベルとは!」
かつての法機イザボー・ド・バヴィエールであった。
「hccps://Hades.char/、セレクト コネクティング! hccps://Makeda:××××××@ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート!」
「む!? な……法機が法騎に!?」
と、その時。
不意に唱えられた術句により、宙飛ぶ法騎イザボー・ド・バヴィエールが出現する。
いや、それだけではない。
「hccps://emeth.makeda.srow/! セレクト 、 神移し エグゼキュート!」
「ぐっ!? こ、これは……」
現れたのは、これまた宙飛ぶ法騎に変わっていたマケダもであり。
その力は以前よりも強力で、呪法院・王魔女生・龍魔力や日中韓米欧豪の法機の動き――のみならず魔男たちの艦隊の動きすら止めてしまった。
「な、何や?」
「おい……これはどういうことだ?」
動きを止められていない凸凹飛行隊の空宙装甲列車や、その他元女男に矢魔道・盟次の法機も戸惑いにより動きを止めていた。
――青夢、大丈夫?
「ん!? あ、アンヌ……私、意識を引き戻されたの……?」
青夢ははっとする。
確かにシステムの根源にアクセスしていたはずだが、どういう訳か現実に意識が戻った。
「ええ王陛下……いえ、魔女木青夢! どうやらあなた知らなかったようね、私があなたの電賛魔法システムを終わらせようという動きを静観していた理由も! そも、仮想通貨により世界共通の敵を作る真の意味がどこにあるのかということも!」
「な……何ですって!?」
そこでまたもパールの声が、法騎マケダから入電して聞こえた。
見ればマケダは、皆が動けぬ中悠々と魔女男の最前線まで進み出た。
「お教えしましょう……それは! 全世界の大多数をあなたへの敵意により意識統一し、彼らの同意と承認により真の王を目覚めさせること!」
「し、真の……王を目覚めさせるですって!?」
青夢はその言葉に、驚く。
「さあ、儀式に必要な36の法機たちと72の幻獣機たちよ! ……法機……、幻獣機……」
パールの詠唱により。
「む……What!?」
「み、ミスターソー!?」
「きゃあ!!」
「な、法機が……強制的に集められている?」
龍魔力の法機グライアイに、法機スフィンクス。
更に法機マリアに内包されている、法機ハルピュイアに法機エキドナ。
王魔女生の法機へカテに、法機マリアに内包されたユーノー・ペルヒタ・ヤドヴィガ。
呪法院エレクトロニクスの法機モーガン・ル・フェイに、法機マリアに内包されているモルゴース・イズン・ヘスペリデス。
中国の法機西王母、及び法機マリアに内包されている武則天・楊貴妃・江青。
オーストラリアの法機エインガナ、及び法機マリアに内包されているウングル・インガルナ・ユルルングル。
自衛隊の法機滝夜叉に、法機マリアに内包されたアマテラス・ウエソヨマ・イザナミ。
韓国の法機九尾狐に、法機マリアに内包されている善徳女王・召西奴・柳花。
アメリカの法機シルフ――ギガンティックマンドレイクに、法機マリアに内包されているティターニア・イツパパロトル・マヤウェル。
ヨーロッパの法機アンドロメダに、法機マリアに内包されたセクメト、アル・ウッザー、デーヴィー。
それらは今宇宙に出ているものはそのまま、出ていない者はいずれも操縦者が無理矢理乗せられる形で。
各搭載艦や空宙装甲列車より、強制発艦させられる。
さらに魔男の幻獣機も発艦済みのものはそのまま、未発艦のものも強制発艦させられ。
全て、引き寄せられる。
「コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……」
更にこれら36の法機に――うち法機マリア内包のもの以外には既に幻獣機が融合済みだがそれらにも更に――現魔男の12騎士団の幻獣機のうちソロモン72柱を象った、72の幻獣機が各二機ずつ合体していく。
それは。
「ふふふ……36機の幻獣頭法機ゴエティックデモンたち! 更に私がインストールしている聖血の杯と電使翼機関をもインストールし宙飛ぶ魔人艦とします! さあ、あなたたちを基幹システムとします……更に! 世界中の法機マリアたち! 並びに幻獣機レギオンズボア! あなたたちも基幹システムにリンクした端末と成り果てなさい……法機マリア! 幻獣機レギオンズボア! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣頭法機レギオン!」
そのまま、地上でも。
突如大量に生成された幻獣機レギオンズボアが、一般向け軍用問わず法機マリアに強制合体し。
それらはそのまま、勝手に持ち主を乗せて行く。
こんなことが、世界中で起きた。
「……さあ、世界の皆様! 私たちの目の前にいるは世界の真の敵、レッドドラゴン――魔女木青夢です! 彼女の持つ力は強大で、電賛魔法システムをすぐにでも終わらせようとしています!」
「!? ……何?」
そうしてパールが、またも世界中に呼びかけるや。
それまで勝手に、法機諸共引き寄せられて困惑するばかりだった人々――無論、あの36機の乗り手も含めて――の目つきが変わる。
敵を、睨む目つきである。
「……ではこれより世界の皆様! そんな世界の真の敵を倒すため、真の王を目覚めさせることをご承認ください!」
「……応!!」
パールの声に、人々は一斉にそう答え。
「hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/!」
「hccps://emeth.legion.mna/!」
「……セレクト、承認!! エグゼキュート!!」
パール曰く、基幹システムとなった法機ゴエティックデモン36機と。
その他、端末と化している世界中の無数の法機レギオン群の各乗員たる人々は。
脳内に浮かんだ、承認の電使印鑑を押印する。
「ご承認、ありがとうございます……全世界の人々の承認を得て、ここにネットワークを構築……ようやくですね! さあ真の王をお迎えいたしましょう……これから作り上げる器へと! 法騎ナアマ、法騎マケダ! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……」
「ええ、私の騎士!」
続けてのパールの詠唱により、法騎ナアマも引き寄せられ。
ナアマと法騎マケダは、それぞれに左翼と右翼を折り畳み。
法機キルケ・メーデイアのごとく双胴機の姿になったと思えば。
それぞれに生やしている上半身を右半身だけ左半身だけとし。
両半身が接合して、やはり半人半機の姿になったかと思えば。
更に各機体胴部よりそれぞれに右足、左足を生やし。
足を垂らす。
「ふふふ……黒客魔ゴエティックデモンズロード! さあ真の王陛下、これぞあなた様の器です……儀式は整いました、ご降臨ください、真の王よ!」
fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> Solomon
PASSWORD:> ********
fcp> cd unlocked
fcp> mput goeticdemonslord.sfbt
fcp> close
dnscmd /recordadd emeth.goeticdemonslord.sfbt A
×××1.×××2. ×××3. ×××4
hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/
コマンドが並び、36機の魔人艦たちも3機ずつ12段立ての魔法陣のようなものを形成し。
その頂きに、黒客魔ゴエティックデモンズロードがやって来た。
「ご、ゴエティックデモンズロード……?」
――あ、あれは一体……きゃっ!?
「!? あ、アンヌ! ……え? あ、アンヌ!?」
そこへ、青夢が驚いたことに。
三段法騎戦艦艦橋前に、いつかのアラクネのように光り輝くアンヌの姿が浮かび上がり。
その右手から腕輪が外れ、それは指輪に変化し。
やがてその指輪は、黒客魔ゴエティックデモンズロードの前へと飛んで行き。
指輪を嵌める光の指が生成されたと思えば、そこから全身像が形成されていく。
それは。
「そう、ソロモン72柱の主――真の王ソロモン陛下! さあ今こそ……世界共通の敵を、共に倒しましょう!」
パールは歓喜し、黒客魔ゴエティックデモンズロード内の操縦席より高らかに叫ぶ。




