#6 呪法院からの果たし状
「あら……今なんて?」
今の台詞が聞こえていなかった訳ではなかろうが、マリアナはわざとらしく首を傾げている。
「ええ、何度でも言って差し上げます! 私のモーガン・ル・フェイに法機マリア十二機のアポストロスと、あなた方のアポストロスとで! 学内レースを行い、勝った方を学園代表としていただきたくお願いします!」
「あら……」
「うーん……」
レイテはそれにめげず。
またも、そう言う。
「ええ、そう言われては仕方なくってよね……よくってよ! わたくしたち凸凹飛行隊を擁する魔法塔華院アポストロスと、あなた方呪法院アポストロスとでこの聖マリアナ学園の代表を決めようではなくって?」
「ええ、そう言われて嬉しいですよマリアナさん! 生徒会総海選の時の雪辱は必ず果たすわ!」
マリアナは折れ……たのかは分からないが。
何はともあれ、レイテの望みは通った。
◆◇
「今、QUBIT SILVERって国や地域毎にたくさん派生型があってその種類毎にマイニングが行われてんのね……」
「そ。だから、その中で世界で一番マイニングが早い法機やアポストロスを見出すのがマイニングのワールドトーナメント!」
学内のカフェテラスで。
青夢は真白に黒日から、仮想通貨について今一度詳しく聞いていた。
「マイニングレースってそんなもんなんだ……はーあ。なんかなあ……」
「ん? どうしたの、青夢?」
何か悩んだ様子の青夢に、真白と黒日は怪訝な表情を浮かべる。
――……待ってください! これは……ユダマイニングです! そのイスカリオテのユダは……メンバーのトモです!
――そ、そんな! と、トモ君がユダマイニング?
――ち、違う俺は!
――トモ、残念だけどよお……俺たち、ザラストサパーマイニングもやっててもう証拠上がってんだよ!
――!? ……な、ち、違う! ほ、本当に俺はやってない!
「あれも……」
青夢は、マイニングレースに対する猜疑心を持っていた。
だからかそんな青夢の脳内に渦巻く記憶は、真白と黒日に初めてマイニングレースに連れて行ってもらった時のものである。
「え? 何、青夢?」
「あ、いや……この前のマイニングレースだけど。あれも、本当にトモって選手の不正だったのかな?」
「え?」
あの時。
トモが嘘を吐いているようには見えなかった。
「まあ、私も疑いたいけど……ザラストサパーマイニングで暴かれたことなんだし、間違いはないんじゃない?」
「うーん、まあそうね……」
黒日は、そう言う。
青夢はそれでも、まだ釈然としないことがあった。
ユダマイニングが仮に成功したとしても、30QUBIT SILVERはその人間に渡る。
それでは、金を手に入れたとしても世間には自分が不正をしたことがバレてしまうのではないか。
そんなことを、わざわざするのか?
青夢の心には、そんな思いがまだ渦巻いていた。
「まあ、考えても仕方ないか……さ、練習行こ!」
「うん!!」
が、青夢たちは立ち上がり。
そのまま、カフェテラスを出て行く。
◆◇
「さあて……準備はよろしいですね?」
「はい!!」
その数日後。
魔法塔華院コンツェルンが保有する法機母艦プリンセス オブ 魔法塔華院の飛行甲板上にて。
魔法塔華院アポストロスと呪法院アポストロス、計十三機が並んでいる。
「今回は模擬試合ですので、仮想通貨は新規発行されませんが……賞金として、発行済みの30QUBIT SILVERが支払われます。」
「おお……ほ、本格的。」
艦橋部からのアナウンスに、青夢はそう呟く。
「では……」
「! ……行くよ、皆!」
「うん、青夢!!」
アナウンスは更に、これからレースの開始を仄めかす。
そうして。
「……始め!」
「……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!」
法母を、二つのアポストロス構成機が飛び立つ。
各アポストロスの法機は、マイニングの計賛速度をそのまま飛行速度に反映し。
加速していく。
「さあ皆、行くよ!」
「うん、飛行隊長!!」
「ああ、魔女木!」
「ふん、あなたに命令されるまでもなくってよ魔女木さん!」
「そうよそうよ! あんたマリアナ様に相変わらず」
と、青夢の鼓舞に対して魔法塔華院アポストロスの面々がそれぞれの反応を見せたその時だった。
「hccps://maria.wac、セレクト!!! 聖母の悲哀、エグゼキュート!!!」
「む!? ま、マリアナ様! 敵アポストロスより攻撃!」
「な!? こ、攻撃とはどんなおつもりであって!?」
何と、呪法院アポストロスの法機マリア九機から。
各七本の剣型エネルギーが、飛来して来た。
「ああら、だって! 別にマイニングレースに敵アポストロスを攻撃してはダメ、なんてないんだしいいじゃないですか!」
「く、呪法院さんあなたねえ!」
「さあ、皆今の内よ! hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト 九姉妹! エグゼキュート!」
「れ、レイテ様が力を……! ……セレクト、楽園への道 エグゼキュート!」
「む!? く、敵アポストロスが!!」
レイテはマリアナから抗議を受けつつも、どこ吹く風とばかり。
更に強力な法機の力により、急加速する。
「いいえ、まだよ! 魔法塔華院マリアナ、早くアポストロス内でネットワークを構築して!」
「な……わたくしに命令しないでほしくってよ!hccps://camilla.wac/……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
「! ま、マリアナ様の力が、私たちにも!」
が、青夢もマリアナにそう言い。
マリアナは悪態を吐きつつも、ネットワークを構築する。
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン!hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光速 エグゼキュート!!」
「む!? か、加速!」
青夢はそのまま、こんなこともあろうかと用意しておいたグリモアマークレットを唱え。
その力はネットワークを介して他の魔法塔華院アポストロスの十二機にも共有され、機体群は急加速する。
「な!? れ、レイテ様、敵アポストロスが!」
「く、なるほど……だけど! こうなったら、純粋な速さ対決よ!」
「はい!!!」
レイテたちも、これには動揺するが。
もはや攻撃で妨害している余裕はなく、後は速さで勝負する。
「さあ行かないと……ん? わ、WARNIG!? これは……?」
そのまま、こちらも速さ対決に専念しようとする青夢たちだが。
その時、マイニングに関する警告が発令され――
◆◇
「おめでとうございます! 勝者、魔法塔華院アポストロスです!」
「くっ……もう!」
「レイテ様……」
そうこうする内に、勝敗は決し。
両アポストロスは、法母に着艦する。
が、その時。
「お待ちになって! ……これは、ユダマイニングであってよ!」
「え!? ゆ、ユダマイニング!?」
マリアナが、声を上げる。
「……神働さん。あなた、ユダマイニングをやられてよね?」
「え!? わ、私が!?」
魔法塔華院アポストロスで法機マリアを駆っていた神働光希は、驚きの声を上げる。
そう、先ほどアポストロス内で発令された警告はユダマイニングに関するものであった。
「とぼけるおつもりかしら? でも残念であってよ……わたくしたち、いえわたくしがザラストサパーマイニングを行なってこの目で確かめましてよ! わたくしの目が違うと言うのであって?」
「そうよそうよ! 神働さん、あんた!」
「ま、マリアナ様への心中するほどの忠誠心はどこへ言ったのですか!」
「いや宮陰さん……まあともかく! 言い逃れはできないわよ?」
かつての生徒会総海選に参加した宮陰陽師子や日占星術那も魔法塔華院アポストロスに加わっており。
マリアナや法使夏同様、光希への非難をする。
「ま、待って! これは何か」
「ち、違う……私は、私はあああ!」
「!? な、あれは……幻獣機!?」
見かねた青夢が、場を落ち着かせようとするが。
そこへ何と、幻獣機二機が飛来したのである。
それは何やら、山羊のような――
「何で私を疑うの……? もう、いいわ……法機マリア、幻獣機アザゼリックゴート! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣頭法機スケープゴート! エグゼキュート!」
「な!? ほ、法機マリアが!?」
そのまま、幻獣機は法機マリアに強制合体し。
幻獣頭法機となるが、それは黙示録の仔羊ではなく。
幻獣頭法機スケープゴートという名であった。
◆◇
「あらあら、まったく……まあいいわ! さあ、私は行かなくては!」
「! れ、レイテ様!」
その様子を見ていたレイテだが、先ほどの敗北の溜飲を下げるが如く。
法機モーガン・ル・フェイを駆り立てる。
「僕たち……やはり、レイテ様と共に戦えるように、もっと力がほしいと思わないか?」
「うん!!」
が、ジニーと雷破と武錬はそう話し。
力への渇望を、顕にする。
「待って、神働さん!」
「待てないわ! hccps://baptism.tarantism/!」
「サーチ! ファイティング ウィズ アワ リーダー!」
そうして三人は。
気づけば光希のURL詠唱に合わせる形で、叫んでいた。
その検索ワードを。
ファイティング ウィズ アワ リーダー――自分たちのリーダーと共に戦う、という検索ワードを。
そして。
「!?」
「な、何これ!?」
ジニー・雷破・武錬は。
未だ経験したこともない感覚を、味わう――
◆◇
「ん……?」
ジニー・雷破・武錬はふと、目を覚ます。
ここは、どこか。
見れば、真っ暗な空間に。
光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。
ここは――
「ようこそ……ダークウェブへ。」
「!? ……あ、あなたは?」
ふと声をかけられ、真白・黒日は面食らう。
そう、ここはダークウェブ。
そこにいたのは。
何やら闇の中に浮かび上がる、女性の上半身。
「……私はアラクネ、あなたたちの望みをもう一度。」
「……え?」
アラクネは優しく微笑む。