#67 真なる世界の敵
「あ、青夢……」
「そ、そんな……」
今や青夢が座乗する、曰く龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴン。
その姿を法機ディアナ・アラディア――今やそこからVIは取り除かれている――にそれぞれ搭乗する真白・黒日は、動揺している。
「魔導香、井使魔! ここは一旦撤退だ!」
「な……ほ、方幻術君!?」
「ま、待って! まだ青夢が!」
と、そこへ剣人が駆る法騎クロウリーが飛来し。
二人をその乗機ごと、尚も纏うエネルギー体内部に格納して戦線を離脱する。
「見ろ! 俺たちの乗っていた空宙装甲列車も離脱していく……今この状況は、俺たちではどうにもできないんだ!」
「そ、そんな……」
真白と黒日は、剣人の言葉を聞き。
ただただ、茫然自失となる。
「な、何ということだ……」
「な、何なのよあれは! 女王陛下は? ねえ、女王陛下は!?」
「お、俺様が知るか!」
グランドやフリップにベリットはじめ魔男の13騎士団長たちは混乱している。
魔男の連合艦隊も、世界連合軍も戦いを忘れ。
今や彼ら彼女らの視線は、戦場中央に鎮座する三段法騎戦艦に集中していた。
「せ……世界の敵とはどういうことであって、魔女木さん?」
「こういうことよ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト 火刑による怨念業火! エグゼキュート!」
「m、Ms.Mameki!」
「か、艦砲を地球へ!?」
「ま、魔女木!」
「魔女木!」
「青夢!!」
マリアナからの入電に青夢は。
目の前の世界連合軍及び魔男連合艦隊を避けての、三段法騎戦艦による艦砲射撃により応える。
たちまちそれにより放たれた火球は、とある洋上で炸裂し。
高エネルギーを、撒き散らす。
「ち、地上を砲撃……」
「おっと! 動くと二発目を放つわよ?」
「m、Ms.Mameki!」
が、青夢は戸惑う周囲の者たちをよそに。
再び全砲門を、地球に向ける。
「魔女木さん、凸凹飛行隊隊長が! ひいては全てを救いたい方が聞いて呆れてよね!」
「あら、これはあくまで全てを救うためよ?」
「な……何ですって!?」
「ま、マリアナ様?」
再びのマリアナからの入電に。
青夢はそう答え、更に。
「ちょうどいいわ……世界の者たち! 新たなダークウェブの王の思し召しよ、よく聞きなさい! 私はこれから、この電賛魔法システムを終わらせるわ!」
「!? ま、魔女木の声か?」
「青夢!!」
それまでマリアナだけだった自分の声を、今度は電賛魔法システムに干渉することで全世界に広げる。
「そうね、かつて幻獣機関連のビジネスが頓挫して没落した飯綱法重工のように……今電賛魔法システムの恩恵を受けている魔法塔華院・王魔女生・龍魔力を始めとする全企業ひいてはこの社会が! 崩壊する時よ……」
「な、何ですって!?」
「そ、そんな……」
「へえ……上等じゃない!」
それは世界への、事実上の新たな宣戦布告だった。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!」
「そ、そうだ! 女王陛下を押し除けて、何故貴様のようなガキが」
「お鎮まりください、騎士団長諸卿!」
「!? あ、アブラーム卿、か……」
それには、魔男たちも訳が分からず不満を漏らすが。
三段法騎戦艦艦橋部からパールが、そんな彼らを制す。
「……今のこのお方が見えませんか? このお方こそ、新たな私たちの王なのですが?」
「ぐっ……」
いくらパールの呼びかけ、更には青夢を新たな王とすることに魔男たちが不満であるとしても。
魔男たちには、新たな女王及び王への忠誠心が刷り込まれている故に従うしかないのである。
「……新たなダークウェブの王の名の下に命じるわ、魔男連合艦隊私の周囲に集結しなさい!」
「は、ははあ!」
青夢は、もはや自身の手駒と化した魔男たちを自艦の周りに集結させる。
「Well……気をつけてください! 敵艦隊から砲撃の恐れが!」
それを見た世界連合軍も、身構える。
しかし。
「! あら魔女木さん……逃げるのであってね!」
意外にも、青夢以下魔男連合艦隊は。
集結した直後より、透明になっていく。
「一日の猶予を与えるわ……精々、電賛魔法システムとの別れを惜しむことね!」
「ま、魔女木!」
「青夢!!」
青夢は、改めて電賛魔法システムを介して世界の人々にそう告げ。
告げ終えた時、魔男連合艦隊は完全に見えなくなった。
かくして新たな女王――いや、今や新たな王との戦いは一時休戦となる。
◆◇
「Welcome home(お帰り)……と言いたいところだけど。I'm sorry、今回君たちは拘束となる。」
「はい……」
「ま、待ってくれソー軍曹!」
そうして、空宙装甲列車でエルドラドに戻った真白・黒日も含めた凸凹飛行隊だが。
デイヴがその真白たちへ処分を告げた後、剣人が声を上げた。
「Well、Mr.Hogenji! 何か?」
「魔導香や井使魔を拘束するなら、俺たち凸凹飛行隊も一緒に!」
「! 方幻術君……」
「あら、ミスター方幻術。この二人はともかく、何故わたくしたちが拘束されなければならないのであって?」
「そうよそうよ!」
剣人のその言葉に、マリアナと法使夏は噛み付く。
「それはそうだろう! 俺たちの飛行隊員や飛行隊長が今回の騒動を引き起こしたんだ、これは連帯責任で」
「いいえ、わたくしたち凸凹飛行隊――ひいては魔法塔華院コンツェルンは被害者であってよ!」
「! 魔法塔華院?」
「魔法塔華院さん……」
反論する剣人だが、更なる反論がマリアナから返って来る。
「……わたくしたち保有の三段法騎戦艦は、この魔導香さんと井使魔さんに奪われ! そして今また、魔女木さんに奪われましてよ! 更に……わたくしたちの電賛魔法システムを、彼女は終わらせると言っておいでであってよ!」
「そ、それは……魔女木も、きっと考えがあって」
「Well、たしかに! 今のMs.Mamekiには、電賛魔法システムを終わらせる力はある。」
「!? そ、ソー軍曹……」
そんな剣人とマリアナの言い合いに、デイヴが口を挟んだ。
「……彼女のあの宣戦布告は世界中に響いたそうだが、あれこそ電賛魔法システムそのものに干渉できた証だ! だから少なくとも、彼女にそれが可能だというのは本当なんだ。」
「そ、ソー軍曹……しかし!」
「それに! ……青夢は、本気で電賛魔法システムを終わらせようと思ってる。これは事実。」
「……うん。」
「!? ま、魔導香……井使魔……」
そこへ真白・黒日も口を開く。
「あら……よくもまあ抜け抜けと口を聞けたものであってね!」
「そうよ、裏切り者共が!」
「! こ、こら魔法塔華院に雷魔! そんな言い方を」
「いいの、方幻術君! ……何言われたって、私たちに言い返す資格はない。」
「……魔導香たち……」
当然というべきか、マリアナと法使夏の罵倒を。
真白と黒日は、ただただ受け入れる。
「……でも、本当よ! あの三段法騎戦艦内に遷都した魔都バビロンの中の会話で――全部は聞いてなかったけど、青夢は確かにそう言ってた。あの電賛魔法システムは全ての元凶だから、終わらせるって!」
「ええ……青夢ならそう考えても仕方ないわ……」
「な……魔女木が……」
「……そう。」
しかし真白・黒日は、それだけは確信を持つ。
「ならば、もうやることははっきりしていてよね! わたくしたちを裏切り、更には世界を裏切って本当に世界の敵になったあの忌まわしい元飛行隊長を! わたくしたちが、この手で葬らなければならないと。」
「は、はい……マリアナ様!」
「! 魔法塔華院……」
だがマリアナは、あくまでも青夢の排除を宣言し。
それには法使夏もやや動揺し、剣人も驚いている。
「是……だから私は言ったんですよ! その人たちは危険だって!」
「し、小鬼!」
「あら……ミス麻! それに他の代表方も。」
そこへぞろぞろと各国や王魔女生に龍魔力、呪法院の代表たちがやって来た。
「ええ……私たち龍魔力も、魔女木さんを止めなければと思います!」
「姉貴……」
「お、お姉様……」
「お姉さん……だけど! このままじゃ」
夢零がそう告げるや、他の姉妹はざわつく。
「しっかりして、妹たち! 私たちは、電賛魔法システムからの恩恵によって龍魔力財団を盛り立てて来たの。それを廃止するなんて……お考えはともかく、やっていることはやはりテロ行為には違いないわ!」
「姉貴……」
「お姉様……」
「お姉さん……」
「はい、夢零様!!」
夢零はあくまで、龍魔力財団の長女としての立場を優先した発言をする。
それにはまだ他の姉妹は動揺しているが、沙月と師穂は同意している。
「ええ、それについては私も激しく同意ね。」
「はっ、姫。」
「はい、尹乃様!!!」
「私もよ……まあ、魔法塔華院コンツェルン一つが没落してくれるならいいけれど! 電賛魔法システムそのものを終わらされたりなんかしたら、私たちの呪法院エレクトロニクスも没落しちゃいますもの!」
「はい、レイテ様!!!」
それには王魔女生の尹乃やいつの間にか傍らに控えていたシュバルツに、その取り巻きたち。
及びレイテたちも賛同していた。
「あーあー、まったくだ! 電賛魔法システムビジネスに打撃を与えようなどとはな……親子揃って懲りない奴らだ!」
「む……アルカナ殿!」
「ミスター飯綱法……」
そこへ。
盟次や矢魔道、更に赤音たち元女男の騎士団面々もやって来た。
「ふん、その名で呼ぶなクランプトン!」
「いやアル……盟次殿こそ!」
「ま、まあまあ皆落ち着いて! まだ魔女木さんは説得できるかもしれないし」
「No……それは無理でしょう、Mr.Yamamiti!」
「! そ、ソー軍曹……?」
盟次と剣人を宥めつつの矢魔道の言葉に、デイヴは否定的な見解を示す。
「Ms.Madokaたちが言うように、彼女は本気で電賛魔法システムを終わらせる気というのは本当でしょう! 先ほども私が言ったようにあの確固たる意志表明に、電賛魔法システムに干渉してのそれを世界に向けて喧伝する力……」
「そ、そんな……」
かくして。
止むを得ずとの流れではあるが、世界連合軍は青夢への徹底抗戦を決めたのだった。
◆◇
「おめでとうございます、レッドドラゴン!」
「ああ、その名で呼ばないで……私はあくまで魔女木青夢! 世界の敵の名よ。」
その頃、ステルス能力により身を隠す三段法騎戦艦艦橋では。
青夢とパールが、話し込んでいた。
「……しかし、よろしいのですか? 本当にこの世界の企業たちが、かつての飯綱法重工その他関連企業のように没落しても。」
「ええ、構わないわ。」
青夢はパールの言葉に、即答する。
「今利権や恩恵を受けている人たちは、確かに反発するでしょう……だけど! 結果的には電賛魔法システムが使われ続ければ、損失の方が大きくなる。だったらもう終わらせるしかないわ!」
「あら、しかし……分かりませんよ、あなたもどうなるか。」
尚も決意を語る青夢に、パールはまたも疑問を投げかける。
「そうね、もしかしたら電賛魔法システムを終わらせる人柱になっちゃうかも……それでも。私は全てを救うわ、きっと!」
「ふっ……ええ素晴らしいですわ、それでこそ私が見込んだ新たな王です!」
パールは青夢のその言葉に、ベール下で喜色を浮かべる。
「そうね……でも!」
「! あら?」
が、そんなパールに。
青夢は鉄拳制裁を見舞いかけるが、眼前で止める。
「……忘れないでよね。真白や黒日を唆して仲間の魔男や新たな女王たちですら道具のようにしか思わないあんたを、私は信用できない。」
「ええ、結構ですわ……あなたこそ、私を利用してくだされば!」
「ええ……そうね。」
青夢はそう言うや。
パールから、離れる。
「(ええええ、お互いに利用し合いましょう魔女木青夢……! 互いの、目標のために!)」
パールはそのベールの下で、ほくそ笑むのだった。




