#66 龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦
「レッド、ドラゴン……?」
「あ、あの時と同じですマリアナ様!」
目の前の黒客魔レッドドラゴンを見つめ、今三段法騎戦艦周囲にいる者たちは混乱している。
かつては父獅堂の思惑に乗る形で、"全てを救う"願いを叶えるべく変貌したダークウェブの王としての姿。
しかし、その有様は以前のそれとはどこか違う雰囲気を醸し出していた。
何せ、その出現前に三段法騎戦艦より黒客魔バビロンザグレートが弾き出されるなどの不穏さがあったのだから。
「青夢!」
「ダメ! 青夢、戻って来て!」
その黒客魔バビロンザグレートは、今や元の法機ディアナとアラディアに分かれており。
それぞれに搭乗する真白と黒日は、必死に黒客魔レッドドラゴン搭乗の青夢に呼びかけている。
「さあ、私もやらなきゃね……穢れし金杯――hccps://www.Babylon.chal/、セレクト コネクティング! 堕電紫衣機関――hccps://BabylonTheGreat:xxxxxx@www.zodiacs.mc/zodiacs.engn、セレクト コネクティング! ダウンロード! ……セレクト、黒客魔レッドドラゴン・戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦プリンセス オブ 魔法塔華院II世! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……エグゼキュート!!」
「な……さ、三段法騎戦艦がまた!」
しかし青夢は聞く耳持たぬとばかり、術句を唱え。
その場に居合せた誰もが、驚いたことに。
レッドドラゴンは、三段法騎戦艦へと急接近し。
そのまま、女性の上半身を模したその艦橋部へと取り込まれる。
たちまち艦橋部は、レッドドラゴンの上半身――多頭龍そのものになる。
そう、これは。
「龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴン……さあ、改めて約束しましょう! 私こそ、真なる世界の敵だと!」
「あ、青夢……」
この様子を見ていた真白と黒日も、息を呑む。
◆◇
「全てを、救うため……?」
青夢はパールの言葉に、首を傾げる。
時は、少し前。
青夢がバベルの塔内部に法騎で潜入した直後に遡る。
そこで彼女がパールから聞いたことには、仮想通貨QUBIT SILVERは元々ユダマイニングをした裏切り者・ユダや救世主捕縛の鎖攻撃者を晒すことなどを通じて"世界共通の敵"を作り出すためのものらしく。
それは更に、全てを救うために必要なことらしい。
「考えてもご覧なさい、今世界中に法機マリアや更に強力な法機が散らばり。これらを有力な国が保有している今、当然その力を皆他国に向けて振るいたくなるでしょう? ……ならば、どうしますか?」
「そ、そんな……それって戦争ってことでしょ? 戦争はダメ! 皆救われないどころか」
「そう……最終的には誰も勝者はおらず。ただただ遺体や機体艦体の残骸転がる焼け野原が残されるとしたら?」
「そ、そんな!」
パールの続けての問いかけに、青夢は露骨に嫌悪感を示す。
「……でしょう? しかし。もしそんな有力な国々――ひいては世界が、共通の敵を相手にしたらどうなりますか?」
「! そ、それは……敵の敵は味方……と言えなくもないから、団結する?」
「はい、ご明察です。」
青夢の言葉にパールは、ベール下の口角を上げる。
「で、でもそんな簡単には」
「思い出して見てください、あのトバラ族との戦争時はいかがでしたか? 自治区ぐるみでのユダマイニングが発覚しそうになり勃発したあの戦争で、日中韓は曲がりなりにも団結しましたよね?」
「! え、ええ……」
青夢はその言葉に、あの戦争を思い出していた。
確かに、あの時はそうだった。
「……その他。マイニングレースでも裏切り者――ユダとされた人々は容赦なく糾弾されていて、糾弾する人々はその時だけ一丸となっていましたよね?」
「! ま、まさか……あんた、真白と黒日にそんなことを!」
そこでようやく青夢は、合点する。
真白と黒日が"世界共通の敵"になる意味、それはすなわち世界の統一である。
「ええ、ご明察! ……というより、ようやく出ましたかと言うべきですか。でも一つ間違えています、あれはあくまでお二人のご意志。更に唆したとしてもそれは」
「ええ……あの偽アラクネさん――新たな姫君とやらでしょ! でも、私分かってんのよ? あんた」
「ふ……ふふふははは!」
自身に尚も噛み付く青夢の言葉を遮り、パールは不敵に高笑いする。
「ふざけんじゃないわよ! 何がそんなに可笑しいの!?」
「ふふふ……申し訳ございません。でも……あなたにはお分かりでしょう? そこまで分かっていたとしてもあなたは、私の思惑に乗るしかないと?」
「……ええ、そうね!」
が、青夢はパールの言葉を肯定する。
何故なら。
「今この状況で、あなたがご親友たちも――何より全てを救うには、一つしかないからですよ!」
「そうね……ならそうするわ!」
青夢がここでとるべき道は一つだからである。
そして青夢は、既に覚悟も答えも決まっていた。
「……ご承諾、ありがとうございます!」
パールはその青夢の言葉を受け、指を鳴らす。
すると。
「ん? この音は? な……あ、あの獣たち!」
青夢は塔の外から聞こえた音に、魔都バビロンを見下ろせば。
何と突如、この仮想世界内にも現れたカルテットセリアンが魔都の街並みを破壊している光景が広がっていた。
「ああ、ご安心ください……今、裁きの下に魔都バビロンを滅ぼしている最中ですから!」
「え……な、何ですって!?」
青夢はパールのその言葉に、驚く。
◆◇
――これは……ま、魔都バビロンであの娘……魔女木青夢が!
――な、生意気にも……この新たな女王に対して反乱を!
「な、何ですって!?」
「そんな……パールは何をしているの!?」
この状況は、魔都と同化しているディアナ・アラディアを通じて現実世界の三段法騎戦艦艦橋に座乗する真白・黒日にも伝わり。
二人は、大いに混乱する。
「これはこれは、真白様に黒日様。ご機嫌麗しく。」
「……パール!!」
と、そこへ。
艦橋内に、ふとパールが現れる。
――パール……何をしているの! あの魔女木青夢は今魔都で
「ええ……新たな王としての宿命を受け入れてくれましたよ! これは、その祝砲代わりとしてバビロンの番人たちが魔都バビロンを自ら破壊されている感覚ですわ!」
「な……何ですって!?」
そのパールの口ぶりに、ディアナ・アラディアに真白・黒日は耳を疑う。
それではまるで、パールが青夢を止めるどころか自ら引き入れたような言い方ではないか。
「な……あ、あんたが青夢を止めてくれるんじゃなかったの!?」
「いいえ、むしろ本命はあの魔女木青夢! 彼女がその気になってくれた以上、もはや呼び水たるあなた方は不要! であるからして、私は彼女を引き入れました!」
「な……ふ、ふざけないで!」
真白も黒日も、頭が混乱している。
本命? 呼び水? それではまるで。
――戯言をほざきなさい! まるで自分が全て仕組んだようなことを……私が蘇らせてやった1VIの癖して、その恩を仇で返すようなことを!
――そうよ、身の程知らず!
「じ、女王陛下たち……」
ディアナとアラディアはすっかり、プライドを踏みにじられた気分であり。
パールに罵声を浴びせる。
「ほほほ! そうでしたわね、私としたことが……では! 本のお礼を……」
――ぐっ!? き、きゃああ!
――くっ……このVI風情がああ! 私たちに何をしたああ!
しかしパールが微笑みと共に、指を鳴らすや。
ディアナとアラディアは、余計に苦しむ。
「何をした? 言ったでしょう、お礼と……今にカルテットセリアンたちが、あなた様の身体――魔都バビロンを加速して食べ尽くしますわ!」
――ぐっ……パールうう!
パールは尚も高笑いし。
ディアナとアラディアは、尚も苦しむ。
と、その時であった。
「!? きゃあ!」
「ま、真白!」
「黒日あ!」
「あら……これは?」
パールすらも、驚いたことに。
三段法騎戦艦艦橋より、同化していた黒客魔バビロンザグレートが弾き出された。
◆◇
「その顔は、何をしたんだって顔ねパール・アブラーム!」
そうして、青夢が自身のレッドドラゴンを三段法騎戦艦に融合させた現在の時間軸に戻るが。
青夢がバビロンザグレートに代わりレッドドラゴンを艦橋に融合させたことで、そのまま艦橋に止まっていたパールの目の前に青夢が来ていた。
「あら? さっきのことはあなたが?」
「ええ! 新たな女王たちのVIはすでに、塔以外の魔都バビロンごとネメシス星に飛ばしたわ。真白と黒日は、この三段法騎戦艦から強制的に切り離しさせたの!」
「おやおや……そんなことをお願いしたつもりはありませんが。」
青夢の説明に、パールはやや困惑する。
「元から、あんたのお願いで動いているんじゃないわ! そう、お願い……私は、私自身の願いで動いているの! hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト ルーアンの火刑 エグゼキュート!」
「あら……まあ、お美しい!」
しかし、青夢は決意と共に。
今や自身が同化した三段法騎戦艦に、同艦を象った滾るエネルギー体を纏う。
「魔女木さん……」
「魔女木……」
「魔女木……」
「青夢……」
「そうよ……あんたの企みが何であろうと、私は! たとえ世界の敵になっても、全てを救うから!」
かつての仲間たちも、見守る中。
龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンは、妖しくも光り輝くのだった――




