#65 魔都での邂逅
「へえ、まあありがた迷惑ね……でもいいわ。私、あんたなんかに構ってる暇ないから!」
魔都バビロンの上空にて。
法騎ジャンヌダルクに乗る青夢と、法機マケダに乗るパールは対峙している。
「へえ、ツレないですわね! ……まあそんなことおっしゃらず、お茶でも」
「hccps://jehannedarc.srow/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「あら……まったく!」
あくまでも話そうと求めるパールに対し、青夢は話し合いの拒絶の証とばかりに法騎ジャンヌダルクからの攻撃を法機マケダに見舞う。
「どうしても行くというのですか? ここにあなたは、一体何を求めていらっしゃるのですか?」
「それを言えばあんたが叶えてくれるって言うのかしら? いいえ、無理でしょうね! だったら私自身が行ってどうにかしなきゃなのよ!」
法騎ジャンヌダルクの攻撃を避けつつ、パールは法機マケダにて追い縋るが。
青夢は相変わらず、聞く耳をもたない。
「ほう……まあ狙いは大方分かっていますよ! あのバベルの塔――電賛魔法システムの根源でしょう?」
「!? そう……あんたも知ってたのね!」
が、そのパールの一言に。
青夢は驚きつつも、むしろこれまで確信が持てなかったことに確信を持つ。
「なら尚更、あんたに構う必要はなくなったわ! そうよ、私はあの塔に用がある! あそこに行けばこれまで悲劇の元だったこの電賛魔法システム! それを終わらせられるんじゃないかってね!」
青夢はパールに、そう吐き捨てた。
――私は"バベルの塔"を、神のお怒りを買わぬやり方で建てたつもりだった。
実際、建てている最中に神の罰は受けなかった。
だが、それは勘違いであることに気づくべきだった。
何故なら神罰は、その"バベルの塔"が完成することそのものだったからだ――
――(これは……あの、クソ親父が書いた空宙都市計画書の文!?)
世界連合軍での会議の際に青夢が思い出していた、以前全身全霊をかけて世界を救った際に対峙した"あいつ"に関して書かれた文言により。
――(バベルの塔……? ……っ!? ま、まさか!)
この魔都バビロンにある塔を思い出し。
――ああ……イエス様! そして……真なる王! 私に……私に勇気を! hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ……
――(これ、は……?)
更に青夢は、かつて見た、燃え盛る炎の中苦しむ少女。
いつも夢に見ていた、あのラピュセルの姿を見て。
その雷賛魔導書目録やhggpとやらが、電賛魔法システムの前身にあたる魔法に関連したワードであると睨み。
それを使う少女の夢を見る自分は、もしかしたらその電賛魔法システムの前身――根源に接続できるのではないかと考えてここにやって来ていたのだ。
先ほどまで確信を持てなかったその考えだったが、今のパールの一言に確信が持てた。
「なるほど……しかし! あなたに、本当に根源を覗き込む覚悟があるかしら?」
「さあね……だけど! これには親友の運命が掛かってるの、やるしかないのよ!」
「それはそれは……では! 尚更ここから先へ行かせる訳にはいかないですわね!」
「くっ……あんた天邪鬼ね!」
しかしそれを聞いたパールは尚、法機マケダにより追いすがり。
青夢はそんな彼女を、尚更鬱陶しがる。
「いいわ、何はともあれ…… hccps://jehannedarc.srow/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
「あら……人の話を聞いてくれない人ですわね!」
青夢はそのまま。
目の前の巨大な塔に対し、連続で光弾攻撃を繰り出し。
外壁を打ち破り穴を開け、中に入る。
「さあ、こう唱えればいいかしら! …… hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! ……!? こ、これは!?」
そのまま青夢は、術句を唱えるが。
突如青夢は、奇妙な感覚に襲われ――
◆◇
「hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴 エグゼキュート!」
「な……じ、次元の穴が!」
一方、その頃現実世界では。
盟次と矢魔道の登場に驚いていたマリアナたちだが、更に盟次が法機パンドラにより発動した次元の穴を見てまたも驚く。
そこからは。
「邪魔するでえ!」
「邪魔するんだったら帰れ、なんて野暮なツッコミはお断りだよ!」
「はい、メアリー姐様!」
「な……も、元女男の騎士団の皆さんであって!?」
「み、ミリア!」
元女男の法機、マルタとキルケ・メーデイアが躍り出て来たのである。
「ふん、遅いぞお前ら!」
「魔女辺さんたち、すまない! 僕たちだけでは心許ないから、あの四匹の獣退治に協力してくれないか?」
「ほいな! 行くでえ、皆!」
「あいさー!」
「はい、騎士団長!」
盟次や矢魔道に促され。
赤音たちは、法機を駆りバビロンの番人たちに突撃する。
「あたしらもや! hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
「あいよ騎士団長! hccps://circe.wac/!」
「はい! hccps://medeia.wac/!」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム エグゼキュート!!」
元女男の法機群は、バビロンの番人たちに向け攻撃を放つ。
「hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
盟次と矢魔道も、攻撃を放ち。
それにより四体の番人たちは、またも退けられる。
◆◇
――あ、アラクネ……?
――だ、誰なのあなたは!?
「な……ま、真白に黒日!」
翻って、魔都バビロンにおける青夢に戻るが。
彼女が見ているのは真白・黒日が目の前にいるアラクネに、戸惑っている姿。
そう、これは彼女たちが法機ディアナ・アラディアを手にした際。
彼女たちが無意識のうちに件の検索ワードを唱えた直後に遡る。
その後彼女たちが奇妙な感覚に襲われてふと、目を覚ませば。
真っ暗な空間に。
光の線で繋がれた網のようなものが下に見える場所。
そう、ここはダークウェブ。
――ええ、いずれあなたたちがあの娘・青夢さんを……夢から、救ってあげてね?
――は、はい! ……ん? ゆ、夢から……?
その言葉に、黒日・真白は更に首を傾げるが。
――ん!?
――こ、これって……?
その刹那、二人の頭に。
これまでの青夢たちの戦いの様子や、更にその他多数の記憶が流れ込む。
が、二人の頭に流れ込んで来たのはそんな過去の記憶のみならず。
――こ、この光景は……?
――そう、これは……仮想通貨QUBIT SILVERが生み出すは、世界共通の敵を作り出すこと! その共通の敵に白羽の矢が立っているのは……魔女木青夢さん。あなたたちの親友たちよ!
――!? そ、そんな……
「!? 真白、黒日……まさかあんたたち!」
青夢が驚いたことに、真白・黒日は未来の記憶に苦しんでいる。
◆◇
「お前たちは倒さない! 捕らえて、また魔女木の下に連れて帰る。それが魔女木のためだ!」
「(ふん……私たちだってそうよ!)」
「(ええ、青夢の代わりに……私たちが世界共通の敵になるのよ!)」
尚も現実世界にて、法騎クロウリーと取っ組み合いを演じる三段法騎戦艦艦橋にて。
真白と黒日は、偶然にも青夢の問いに心の中で応えていた。
◆◇
「……そうですよ、これが彼女たちの真意です。」
「!? パール・アブラーム……」
またも、魔都バビロンにて。
そんな青夢の前に。
不意に、パールの姿が現れる。
「真白と黒日は、私のために……?」
「ええ。あの仮想通貨QUBIT SILVERその他派生の通貨が何をもたらしたのかご存じでしょ? ユダマイニングをしていた者から真のユダマイニングをしていた者や、空宙都市で儲けていた者まで次々と世界共通の敵として……」
「ええ、最終的に……あの娘たちが、世界共通の敵に……あの仮想通貨は、こんなことのために!?」
青夢はそこで気づく。
真白と黒日は、自分が世界共通の敵となる未来を見せられ。
そうはさせじと、自分たちがそれを引き受けていたのだと。
「ええ、その通りですよ。」
「何でよ! 何で……世界共通の敵なんて作って何になんのよ!」
青夢はパールに噛み付く。
「そうですね……それは。……全てを救うため、とでも言いましょうか?」
「!? な……何ですって!」
しかし。
パールのこの一言に、青夢はこれまで以上に驚くのだった。
◆◇
「!? な……何だ!?」
「な!? ま、真白!」
「く、黒日!」
――これは……ま、魔都バビロンであの娘……魔女木青夢が!
――な、生意気にも……この新たな女王に対して反乱を!
そうして、現実世界では。
不意に三段法騎戦艦に動きが生じ、纏われているエネルギー体も激しく迸り法騎クロウリーを押し除け。
更に黒客魔バビロンザグレートも、艦橋部分より分離される。
「さあ……セレクト、法騎ジャンヌダルク・カルテットセリアン! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……エグゼキュート!!」
「な……魔女木!」
更に突如として、三段法騎戦艦後部飛行甲板より法騎ジャンヌダルクが発艦し艦橋前に進み出て。
そこには、先ほどの四体の番人たち――カルテットセリアンも集まる。
その有様は法騎クロウリー搭乗の剣人にも見えており。
「何をする気だ魔女木青夢!」
「ま、魔女木さん?」
「魔女木さん、何事であって?」
「魔女木の姉ちゃん!」
「魔女木!!」
「どうしたんだい、ジャンヌダルクの魔女さん?」
「Ms.Mameki!」
彼や、盟次に矢魔道他凸凹飛行隊や元女男の騎士団にデイヴ。
彼ら彼女らが驚いたことに。
法騎ジャンヌダルクと合体して法騎型になったカルテットセリアンは、更にそれぞれに左翼と右翼を折り畳み。
法機キルケ・メーデイアのごとく双胴機の姿になったと思えば。
次には、それぞれに龍のような右半身だけ左半身だけとなり。
両半身が接合して、やはり半人半機の姿になったかと思えば。
更に各機体胴部よりそれぞれに右足、左足を生やし。
足を垂らす。
また、首は八つに分かれ、うち一つは尾として後ろを向く。
それは。
「ふふふ……さあ寿ぎなさい世界の皆! ここに新たな王――真の世界の支配者が誕生しました! 黒客魔レッドドラゴン! 今こそ……滅びの時です!」
どこからともなく響く、パールの声が告げた通り。
青夢の法騎ジャンヌダルクは、再びダークウェブの王たる黒客魔レッドドラゴンとなったのだった――




