#59 非情な戦い
「ば、バビロンザグレート……?」
「あれぞ、まさに新たな女王といったお姿であってよね!」
「は、はいマリアナ様!」
「あれが……新たな女王か!」
三段法騎戦艦の後部飛行甲板から飛び出した凸凹飛行隊の法機四機にそれぞれ乗る青夢たちは、黒客魔としての姿を現した法機ディアナ・アラディアの姿に驚愕している。
「……おや、ちょうどいいものがあるじゃないの!」
「ええ……ネメシスから遷都するとしましょうか!」
と、その時。
黒客魔バビロンザグレートは首を巡らし、背後の三段法騎戦艦を見る。
そうして。
「さあ…… 穢れし金杯――
hccps://www.Babylon.chal/、セレクト コネクティング! 堕電紫衣機関――
hccps://BabylonTheGreat:xxxxxx@www.zodiacs.mc/zodiacs.engn、セレクト コネクティング! ダウンロード!」
「……セレクト、黒客魔バビロンザグレート・戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦プリンセス オブ 魔法塔華院II世!」
「コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……」
「……エグゼキュート!!」
「な……わ、わたくしたちの三段法騎戦艦が!」
「ま、マリアナ様!」
マリアナたちが、驚いたことに。
バビロンザグレートは、三段法騎戦艦へと急接近し。
そのまま、女性の上半身を模したその艦橋部へと取り込まれ。
たちまち艦橋部は、バビロンザグレートの上半身そのものになる。
そう、これは。
「新女王の宙飛ぶ三段法騎戦艦バビロンザグレート!」
「ええ、これぞ新たな女王とその魔都要塞そのものよ! ……さあて。」
その新たな三段法騎戦艦より、真白と黒日は周辺宙域の世界連合軍を一望する。
「ふうん、ではお客様……おもてなしをいたしましょう! hccps://BabylonTheGreat.srow/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「Damn……敵戦艦より、主砲撃あり!」
「Well……迎撃用意!」
そうして三段法騎戦艦より、無数の主砲撃が放たれ。
それに対し、世界連合軍も即応する。
「hccps://giganticmandrake.mna/edrn/fs/typhon.fs?stooming=true――Select, 嵐の神!」
「hccps://titania.wac/、Select 取り替え子論争!」
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽!」
「hccps://giganticmandrake.mna/GrimoreMark/、Select 擬似雷雨神台風 Execute!」
「ヘロディアス艦隊、砲撃!」
「ギリシアンスフィンクス艦ちゃん、砲撃!」
「呪法院エレクトロニクスも、遅れちゃだめよ!」
「是、中国代表も攻撃!」
「네、行くよ韓国代表!」
「defo、行くよ豪代表!」
「Oui、遅れちゃダメよ欧代表!」
思い思いに放たれた法機や艦砲の射撃が、三段法騎戦艦の主砲撃とぶつかり合う。
「くっ……わたくしたちの三段法騎戦艦を、よくも!」
「お、お待ちくださいマリアナ様!」
その隙に。
マリアナは搭乗する法機カーミラを翻し、三段法騎戦艦へと迫る。
――真白、黒日! 魔法塔華院さんがご接近中よ。
「ええ、ならば私が! …… hccps://BabylonTheGreat.srow/! セレクト、叛逆の魔術! エグゼキュート!」
「!? く、対空攻撃!」
しかしそれは、当然ながら黒客魔の知るところとなり。
報告を受けた黒日が、艦橋部周辺より対空攻撃を放ち。
それによりマリアナは、射程圏外に法機カーミラを退避させる。
「くっ……凸凹飛行隊! 全機反転! 三段法騎戦艦宙域より離脱!」
「なっ……魔女木さん!」
「魔女木! 親友だからと手を抜く気?」
が、青夢が出した退避命令を聞き。
マリアナと法使夏は、不満を抱えた様子である。
「いいえ……だけど! 私たちだけじゃ分が悪いわ、ここは一時体勢を!」
「ふん……まあ、それも良いかもしれなくてよね!」
マリアナは一応、納得の様子を見せるが。
「ただ……あれを見ていると、どうやらそう悠長なことは言っていられなくってよ!」
「え……な!」
彼女がそう言って示した先には。
「我らが大願たる、新たな女王を守れ!」
「応!!!」
魔男艦隊が、三段法騎戦艦の周囲に集結しつつあった。
「止むを得ないか……凸凹飛行隊法機群、全機突撃用意! 目標、……敵三段法騎戦艦!」
「了解!!」
「魔女木……」
それを、最後の好機のきっかけと捉えた青夢は。
指示を出す。
たちまち法機群は、列を成す。
――凸凹飛行隊法機群に、動きありよ二人とも。
「了解。なら仕方ないわね……」
その動きは、バビロンザグレートにも伝わっており。
――騎士団長たち、ここはあなたたちに任せるわ! 私たち三段法騎戦艦は、凸凹飛行隊に当たるから。
「な……はっ! 新たな女王陛下!!」
「ええ、ありがとう……さあ! 堕電紫衣機関加速! 戦列離脱!」
バビロンザグレートは部下たちにそう告げ。
三段法騎戦艦を、回頭させる。
「む!? 逃げるつもりであって!」
「臆病者! マリアナ様、追いましょう!」
「……凸凹飛行隊、追跡!」
魔男の艦隊に、世界連合軍の砲撃を代わりに引き受けさせて戦列より離れ始める三段法騎戦艦を見咎め。
凸凹飛行隊法機群も、追い始める。
「真白、黒日……私はまだ信じられない! でも……信じるも何も、受け入れるしかないのよね!」
青夢は、覚悟を決める。
そして。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 恋人――波長の化学反応!」
「hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark/、セレクト 超擬似雷雨神台風 エグゼキュート!」
四つの法機により、エネルギー雨を三段法騎戦艦に見舞う。
「なるほど……ひとまず覚悟は決めたようね青夢! 面白いわ! hccps://BabylonTheGreat.srow/、セレクト 月の弓矢! hccps://BabylonTheGreat.srow/GrimoreMark、セレクト 月の誘導火矢 エグゼキュート!」
それに対し。
三段法騎戦艦の主砲塔三基より放たれた無数の弾幕が、これを迎撃した。
たちまち三段法騎戦艦の周りに、小爆発が立て続けに発生する。
「HELLO! 聞こえるかい凸凹飛行隊!」
「! ……デイヴさん!」
しかし。
そこへ、デイヴより入電があった。
ネメシス星から凸凹飛行隊が飛び出して来たことにより、ただならぬ空気を感じ取ったようである。
「皆無事かい? しかし見たところ、法機が二機足りないようなんだが」
「デイヴさん……落ち着いて聞いてください。」
青夢はデイヴに、深呼吸をしてそう言う。
「これまでの救世主捕縛の鎖への攻撃と、エルドラドからのQUBIT GOLD強奪は全て……私の親友であり新たな女王そのものでもある、真白と黒日によるものでした!」
「w……What!? ほ、本当なのかい!?」
それはデイヴを、驚嘆させるものだった。
「Well……まだ信じきれないこともあるが、ひとまず分かった。今、どこだい? ここからでは見えない」
「はい、ただいまその真白と黒日――新たな女王に乗っ取られた三段法騎戦艦と凸凹飛行隊法機全機とで交戦中!」
「w……What!? 危険だ、相手は新たな女王だよ!」
デイヴは青夢の言葉に、更に驚嘆させられ。
彼女たちを止めようとするが。
「すみません……私の親友たちなんです! 私たちでまずは蹴りをつけなければなりません、では!」
「m,Ms.Mameki!」
青夢はデイヴとの回線を切った。
「さあ魔女木さん、何をしておいでであって!? このままでは、埒が明かなくってよ!」
「そうよ、魔女木!」
「魔女木、大丈夫か!」
「……ごめんなさい。凸凹飛行隊法機群、全機前進! 攻撃こそが最大の防御、このまま肉薄してあの三段飛行甲板から内部に乗り込むわ!」
「……了解!!!」
青夢はそうして。
法機群を、更に進めさせる。
「青夢の奴、懐に飛び込むつもりのようね……甘えないでほしいわ! お行きなさい、バビロンの番人たちよ!」
が、それを察知した真白は三段法騎戦艦に命じる。
たちまち三段法騎戦艦艦体に、動きが生じる。
それは表面を蠢かせ。
かと思えば、そこから形を成し分離していく影が四つあった。
「な……あれは!?」
「ええ……魔都バビロンを守っていた四つの獣であってね!」
「ま、マリアナ様!」
「何と……」
凸凹飛行隊も、驚いたことに。
魔都バビロンで襲いかかって来た鷲の翼を持つ獅子に、三本の肋骨を咥えた熊、翼と頭が四つある豹、十の角と鉄の歯を持つ恐ろしく強い獣が。
一斉に、向かって来るのである。
「く……全機、前進止め! 射程圏外に退避!」
「な……魔女木、あんた!」
「止むを得なくてよ雷魔さん……了解!」
「な……は、はい!」
「魔女木……」
一列になり突撃をしていた凸凹飛行隊法機群は、回頭し。
退避していく。
――真白、黒日。私たちも、一度体勢を立て直しましょう。
「そうね……猶予を与えてあげるわ青夢! 私たちを止められるものなら止めてみなさい!」
「な……真白! 黒日!」
「あなたたち、逃げる気であって!?」
「ま、待ちなさい!」
「そうだ! お前ら、また魔女木を!」
真白と黒日は、そう告げるや。
凸凹飛行隊からの抗議も聞かず、そのまま三段法騎戦艦を透明にしていき。
更に。
「w、What!?」
「おお……これは!」
「撤退せよとの、新たな女王の思し召しだ!」
世界連合軍と交戦していた魔男の艦隊も、同様に透明になっていく。
かくして新たな女王との"非情な戦い"は、一旦休戦となる。
◇◇
「どうかしら、魔法塔華院マリアナ?」
「ええ……VIのデータはあってよ、だけれど! あの魔都バビロンのデータはなくってよ。恐らくあの三段法騎戦艦に……もう!」
「ええ、ありがとう……」
そうして、戦いの直後。
三段法騎戦艦や魔男の艦隊とは異なり、透明にならなかったネメシス星に凸凹飛行隊は上陸し。
搭載された電賛機内部を調べていたが、状況は今マリアナが伝えていた通りである。
真白たちは今、魔都バビロンと共に――
青夢がそう、黄昏れていた時だった。
「ん、入電? ……もしもし?」
「ようやく出たか魔女木青夢! まったく、どこをほっつき歩いていたんだ!?」
「! その声は飯綱法!」
青夢は驚く。
声の主は、今や青夢の父との共同研究者である盟次だった。
「お前たちのQUBIT GOLD盗難や救世主捕縛の鎖攻撃疑惑の騒ぎのせいで、俺たちは逃げ回らざるを得なかった! 俺とカイン――矢魔道で、お前の親父やお袋もつれてな!」
「!? あ、あんたや矢魔道さんが!?」
青夢は更に驚く。
そうだ、家族に影響があることも考えなくてはならなかったのだ。
「……魔法塔華院コンツェルンの社長も、一時更迭された! まあ……今も色々立て込んでいるだろう、後で説教の一つでもしてやる!」
「そう……ありがとう。」
盟次の通信は、そこで切れた。
「魔女木さん、ミスター飯綱法から何のご連絡であって? こちらもミスターソーより、すぐエルドラドへ帰投するようご連絡があってよ。」
「!? ……分かったわ、行きましょう!」
青夢はマリアナの伝言に、覚悟を決める。
そう、改めて真白・黒日と戦うには。
あの世界連合軍の力が、必要であると――




