#5 魔女の三学園
「あーあ……」
「青夢、どうしたの! またそんなに青くなって?」
「いや、だって……真白と黒日まで、ついに戦いに巻き込んじゃうなんて……」
「ええ! 何それ、私たちと一緒に戦うの嫌なの?」
いつも通りというべきか、聖マリアナ学園のカフェテラスにて。
青夢・真白・黒日はだべっていた。
「いや、それは……うん、ある意味そうよ。」
「ええ!」
「何それえ!」
「だって……戦争だよ? 結構恐ろしい奴らを相手にしてんだよ?」
青夢は正直な胸の内を明かす。
真白や黒日、二人が強力な法機を手にしたら。
それは考えなかった訳ではないが、同時にそうなっては恐ろしいと感じたものだった。
「もう、いいの青夢! これは私たちが、勝手に押しかけてのことだからあんたが責任感じなくても!」
「そーいうこと!」
「真白、黒日……」
しかし、二人は。
そんな青夢に対し、庇う言葉を掛ける。
と、その時。
「失礼。魔導香さんと井使魔さん。」
「あ! や、矢魔道さーん……」
突如、矢魔道が入って来た。
◆◇
「そうか……それじゃあアラクネさんたちは、無事だったんだね?」
「は、はい! だから、矢魔道さんは何も心配なさらず」
「ああ、よかった……」
「(むうう……妬けちゃうなあ……)」
そのまま、青夢・真白・黒日は格納庫内に移り。
矢魔道にアラクネたちの無事を改めて伝えるが、青夢はアラクネのことばかり話す矢魔道にややお冠である。
さておき。
「あの、矢魔道さん……それで。私たちの法機なんですけど……」
「あ、おっと失礼! つい……おほん。君たちの法機だが……これはすごいな。色々と新し過ぎて、全部は解析できなかった!」
「……え!?」
そこで黒日が水を向けると。
矢魔道は頭を恥ずかしげに掻きながら、そう言った。
「か、解析できなかった?」
「ああ、これは最初から幻獣機による機体の構成になっているタイプだね。まあ、何の幻獣機かは分からないんだけど。更に、爆撃機を母機として護衛機を運搬する寄生戦闘機形式……うんうん。新しすぎて、やはり分からないな!」
「は、はあ……」
「(うわあ、矢魔道さん随分嬉しそう……♡)」
矢魔道は恥ずかしげながらも、楽しそうに法機について話し。
真白・黒日はやや引いているが、青夢はそんな彼の姿にときめいていた。
「あ、ごめんごめん! つい……ははは!」
矢魔道はまた、はにかむ。
◆◇
「い、尹乃様よ!」
「きゃー! 尹乃様!」
その頃。
学校法人王魔女生アカデミー 花蓮乙女学園にて。
「……等々力さん、午後の予定は大丈夫かしら?」
「はい、尹乃様。問題ありません。」
「尹乃様! 私のスケジュール帳の方が綺麗ですよ?」
「ちょっと、華妖! あんた」
先を争うように。
尹乃の後ろにいる取り巻きたる、等々力魔美と魔術真華妖が自己アピールに精を出している。
「尹乃様、さっさとこの娘たちあなたのことでうるさくて癪に触るので黙らせてもらえませんか?」
「な!? あ、安魔導……あんた、相変わらず尹乃様に向かって何て口の聞き方!」
安魔導士津香は大胆にも、取り巻きでありながら尹乃に不遜な態度を取る。
「構わないわ、等々力さんに魔術真さん。……安魔導さんの言う通り、あなたたち少し黙りなさい。」
「!? な……は、はい申し訳ございません!」
が、尹乃は特に意に介さぬ様子である。
元々一匹狼気質の尹乃は、取り巻かれることに慣れてはおらず。
むしろ士津香のようなタイプが、ありがたいのである。
「ありがとう、安魔導さん。」
「いいえ、単に私が不愉快だっただけですから。」
「くうう……安魔導めえ!」
そんな士津香に。
魔美と華妖は、ハンカチを噛む。
◆◇
「さあて……魔法塔華院コンツェルンから、三学園のマイニングレース打診があったわ。」
「いよっしゃ! 姉貴、血が騒ぐぜ!」
「は、はいお姉様!」
「マイニングレース、がんばろー!」
学校法人龍魔力学園 龍炎魔法院大学附属中学高校にて。
既に龍炎魔法院大学三年生となっている夢零の呼びかけに、妹たちは意気揚々である。
末妹の愛三も、親しかった魔男の騎士リオルの復活を望みながらも一応は気丈に振る舞っている。
「失礼します、龍魔力のご姉妹。」
「お茶をお持ちしました。」
「ああ、ご苦労様。幕霊媒さんに賢者魔さん。」
そこへ。
双子コーデとばかりにメイド服と黒い長髪を互いに引っ提げ、高等部一年生幕霊媒師穂と賢者魔沙月が現れた。
「では、私たちはこれで。」
「あ、いやちょっと待って! あなたたち、お茶だけで呼んだんじゃないの。……私たちと一緒に、マイニングレースに参加しないかしら?」
「……え!?」
が、この夢零の言葉に。
師穂と沙月の無表情が、驚愕の表情に変わる。
◆◇
「ではこれより……作戦会議を始めましてよ!」
「はい、マリアナ様!」
「ああ、魔法塔華院!」
「う、うんだけど……何で、真白と黒日まで?」
再び、魔法塔華院コンツェルン本社にて。
マリアナの呼びかけにより集まった凸凹飛行隊+α真白&黒日だが、二人までもいることに青夢は疑問……というより苦言を呈する。
「ああ、当然であってよ。お二方は新たな法機を手にされ、その法機たちは我がコンツェルンの管理下にある。なら……参加していただく他ないのではなくって?」
「だ、だけど」
「大丈夫だよ青夢! 私たちは自分から立候補したから!」
「そ、よろしく隊長!」
「ま、真白に黒日……」
が、他ならぬ真白と黒日の言葉に。
逆に青夢は、言葉を失う。
「まず魔女木さん……あなた、仮想通貨についてどれほどご存じかしら?」
「え? あ、ああ……」
そうしていきなり水を向けられ、青夢は面食らうが。
ちらりと真白・黒日を横目で見やり。
ここで、仮想通貨について教えてくれた二人に恥は搔かせられないと思い直し。
「ややこしい話だけど……仮想通貨の取引情報を登録するために必要な計算をどれだけ速くやれるか競い合うのがマイニングなのよね?」
「ええ、その計賛速度が法機の速度に反映されるのがマイニングレースであってよ!」
そう噛み砕いて説明すると、マリアナも補足して来た。
「その仮想通貨のリスクとしては、ユダマイニングとやらで30枚独り占めしちゃう人がいることと。取引台帳である鎖が改竄されて切られること。でも改竄されていない鎖は切れずに長いままだから、その長さが信頼性の担保になる……だったわよね?」
「ええ……大体合っていてよ魔女木さん。」
青夢はちらりちらりと真白・黒日を尚も見ながらそう答えた。
二人も心なしか、ほっとしているかのように見える。
「まあ、一応はご存じのようで何よりであってよ! さあ、では本題に移ると……この場にいるわたくしたちの六機と、残る生徒たちが持つ法機マリア七機のアポストロスマイニングによりレースに参加する所存であってよ!」
「わ、私たちと残り七人で……?」
マリアナは、そう宣言する。
と、その時である。
「お待ちください、マリアナさん! ……私たちをお忘れですか?」
「あら……あなた方は呼んでいなくってよ?」
「じ、呪法院さん!」
突如ドアを開け、レイテとジニーに雷破・武錬が入って来た。
「ええ、それに抗議するべくやって参りました! あと七機は法機マリア……私の法機モーガン・ル・フェイは眼中にはないと? 酷くありません?」
「あ! そ、そう言えば……」
レイテのその抗議に、青夢は気がついたことは。
そう、レイテたちは最初から除外されているということである。
「まあいいです、そちらがその気なら……私たち呪法院エレクトロニクスは、あなた方に宣戦布告します! 学内で予行レースを行い、勝った方を聖マリアナ学園代表とするように!」
「あら……」
「な!?」
「ほう……」
「はーあ……」
レイテは高らかに、そう叫ぶ。