#58 新たな女王の正体
「やはり……気づくのねあなたは。」
「ええ……セレネーとは、月の女神。身の回りで同じく月の女神の名を冠したものがちょうどあったんですもの。」
セレネーは、その言葉に再び新たな女王の姿に戻り。
青夢に対し、深く頷く。
「ディアナ……それって魔女木!」
「あの魔導香さんの法機であって?」
法使夏やマリアナは、青夢の言葉に動揺しきりである。
そう、ディアナ――青夢の親友、真白の法機名である。
「ええ、差し当たりあなたは……私の法機ジャンヌダルクにもあった、VIってところかしら?」
「ええ……その通りよ! 私は真白の、法機ディアナに宿るVI。そして」
「ええ、真白が! 救世主捕縛の鎖への攻撃を行っていた犯人ね。」
「ご明察よ、青夢!」
青夢の問いに対し、新たな女王いやディアナは嬉しそうに答える。
青夢はようやく、理解できた。
ディアナのこの馴れ馴れしさも、自分の好みを知っていたことも。
すべては、親友と共にあった法機であったが故である。
「それに、まだ聞きたいことはあるでしょう?」
「ええ……黒日の法機アラディア。あれも、無関係じゃないんでしょう?」
「ええ、新たな女王の名はディアナ。新たな王の名はルシファー。新たな姫君の名は……アラディア。」
「な!?」
「あ、アラディア――井使魔さんの法機も!?」
「やっぱり……そうだったのね。」
青夢のさらなる質問に対し、ディアナはまたも答える。
◆◇
「アラディアと、ルシファー……?」
「なるほど……ほんまのこと、教えてくれてありがとさん偽女王様方!」
その頃。
アラクネとタランチュラに謁見していた赤音ら元女男の面々は、二人が真実と共に明かして見せた真の姿に驚愕していた。
そう、アラクネに化けていたのは先ほどのディアナの弁にもあった通り新たな姫君――黒日の法機アラディアのVIである。
更に、アラクネに化けていた彼女が騎乗していたのは。
「ああ……さあ、早く行かねばなアラディア! ディアナが待っている。」
蝙蝠の翼を生やした四つん這いの男性――新たな王たるルシファー。
単独でディアナ・アラディアの法機機体を構成する、幻獣機である。
「ええ、そうね!」
「いや、待てえな! ほんま物の姐様はどこやいるんや?」
そうしてアラディアとルシファーが立ち去ろうとした時であった。
赤音は、そう言って彼女たちを引き止める。
「ああ大丈夫よ……彼女たちはここにいるわ! さあ、早く行ってあげたら?」
「な!? こ、これは?」
が、アラディアは。
赤音たちに、URLを示す。
それは。
hccps://zodiacs.mc/Babylon
「ええ、今あなたのお仲間たちもいるわよ……さあ! 行ってあげなさいな?」
「な、ま、待てや!」
アラディアはそう告げると。
ルシファーと共に、姿を消した。
◆◇
「く……何てことであって!?」
「ま、マリアナ様!」
「真白、黒日……」
またも、魔都バビロン空宙庭園では。
青夢にマリアナ、法使夏は一通りを語ったディアナの前で尚も戸惑う。
「……さて、そろそろ河岸を変えないとね。あなたたちのみならず、上のお客様たちもおもてなししなければいけないから。」
「ええ……そうね!」
ディアナはそう言って立ち上がり。
青夢たちも、それに準ずる。
「……次に相見える時は、敵同士ですわ!」
「そ、そうよ新たな女王ディアナ! 覚えてなさい!」
「……そういうことですので、よろしくお願いします。」
青夢たちはそう、宣戦布告し。
近くに着陸させている、法機へと戻っていく。
「ええ……抗い続けなさい凸凹飛行隊に世界の皆さん! この新たな女王の支配に……ほほほ!」
新たな女王は、高らかに笑う。
◆◇
「な……ほ、本当なのかこれは!?」
その頃、現実のネメシス星では。
ここでもDJセレネー――新たな女王ディアナの中継を聞いた剣人が、驚いていた。
「ごめんね、方幻術君。」
「救世主捕縛の鎖への攻撃をしたのは、私と真白なの。」
「な……お、お前たちが!?」
その後ろから真白と黒日が声をかけ。
剣人は、更に驚く。
「お前たちは、魔女木の親友じゃなかったのか! こんなことをすれば、あいつが悲しむことも予想できただろう?」
「ええ……そうね! でも、私たちが犯行に及んだのは何でだと思う?」
「何……?」
二人を問い詰める剣人だが、真白からの問いに首を傾げる。
「それ……私たちにも聞かせてくれない?」
「!? 魔女木、魔法塔華院、雷魔……」
と、その時であった。
仮想世界からログアウトして来た青夢たち三人が、剣人や真白と黒日に向かい歩いて来たのである。
◆◇
「真白、黒日……あんたたち」
「青夢……きっと、あんたなら気づいてくれると思ってたよ!」
近づいて来る青夢に、真白と黒日は事も無げに言う。
「まさかあんたたちが……新たな女王だったとはね!」
「でもなぜだ……魔導香たちが法機を手に入れたのは、新たな女王の出現や円卓の復活後の話だっただろう?」
剣人は、また真白たちに問う。
「私たちは正確に言えば新たな女王の器に選ばれた者たち……だから。私たちは選ばれし者としての運命を、果さなきゃなの!」
「そうよ……だから青夢、ごめんなさい。もう親友ごっこは終わり!」
「な……真白、黒日!」
しかし真白と黒日は、右掌を前に突き出し拒否の意を示す。
「ええ、何にせよ……あなた方が本当に救世主捕縛の鎖攻撃の犯人だということは揺らぎませんわ! わたくしたちからも、これ以上のチームメイトごっこは願い下げであってよ!」
「そうよそうよ! よくもマリアナ様を騙したわね!」
「! ち、ちょっと魔法塔華院マリアナ……」
マリアナと法使夏もそれに関して、真白たちを責める。
「その通り、私たちの罪はゆるぎない事実です! そう、救世主捕縛の鎖への攻撃だけじゃなくて……青夢。あんたたちはまだ知らないだろうけど、あんたたちがQUBIT GOLDをエルドラドからここに不正送金した疑惑も上がっていたのよ! あれも、私たち。」
「な!? そ、そんなことまで……」
「そう。あれも、あんたたちが……」
真白たちの更なる告白に、マリアナらは動揺しつつも青夢は落ち着いている。
やはり、あれも――
「なぜだ!? さっきも言った通り、お前たちは魔女木の親友だったんだろう? それを」
「ああああああ……もう、親友親友うっさいな方幻術君は!」
「私たちはねえ、ムカついてんのよ! その娘――青夢にねえ!」
「何?」
「わ……私に!?」
剣人の問いに、しかし真白と黒日は不意に感情を露わにする。
◇◇
それは真白・黒日がアラクネとタランチュラ――正確には、器を手にする前のアラディアとルシファー――から法機ディアナ・アラディアを授かった時のこと。
「ええ、いずれあなたたちがあの娘・青夢さんを……夢から、救ってあげてね?」
「は、はい! ……ん? ゆ、夢から……?」
その言葉に、黒日・真白は更に首を傾げるが。
「ん!?」
「こ、これって……?」
その刹那、二人の頭に。
これまでの青夢たちの戦いの様子や、更にその他多数の記憶が流れ込んでいた。
しかし。
「青夢……何よ! こんなの、あの法機がなきゃできなかったことじゃない!」
「ええ……そうね真白! 何よ何よあいつ、あんなにちやほやされちゃって……なら! 私たちだって!」
二人は青夢の活躍に、大いに嫉妬したという。
◆◇
「だから決心したのよ……魔女木青夢! 私たちの願いは!」
「あんたを助けて――隙あらば、寝首をかくことだってねえ!」
「そ、そんな……」
青夢はふらつく。
真白と黒日のその言葉に、憔悴し始めたのである。
「ま、魔女木……」
「ええ、まあ魔女木さんの手柄が法機の力によるものだというのは否定しなくってよ。だけれど! あなた方がわたくしたちを裏切ったということもまた否定できない! ならば……裁きを受けてもらいたくってよ!」
「そ、そうよ魔導香に井使魔!」
マリアナと法使夏は、そう真白たちに宣言する。
「ええ……ではまず! 法機にお乗りになってはいかがですか?」
「!? ま、マリアナ様! そ、外に法機ディアナ・アラディアが!」
「あら……わたくしたちを牽制のおつもり?」
真白たちの宣言と共に、居住区の窓外には法機ディアナ・アラディアが現れた。
「さあ……早く、三段法騎戦艦に急いだ方がいいんじゃない?」
「ええ……言われるまでもなくってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「ま、魔女木急げ!」
「ええ……真白、黒日! 待ってて……必ずあんたたちも救うから!」
青夢・マリアナ・法使夏・剣人は、そうして走り出す。
「ふん……相変わらずの甘ちゃんね、青夢は。」
「ええ……そうね!」
それを見送り。
真白と黒日は、苦笑しつつ。
目を閉じ、苦悶の表情を浮かべるのだった――
◆◇
「What!? s、ソー軍曹あれは!」
「Well……ネメシス星と魔法塔華院の戦艦がようやくお目見えだ!」
そうして、ネメシス星周辺宙域で戦っていた魔男の艦隊と世界連合軍の前に。
ステルスにより姿を消していたネメシス星と三段法騎戦艦が、再び出現する。
――あらあら、こんなにお客様が沢山……
――いいえ、ディアナ女王様……私たちを脅かそうという者たちのようですわね! 邪魔ですわ……我が魔都の力を思い知らせて差し上げましょう!
――そうですわね……真白、黒日!
「ええ、女王様!」
「ええ、姫君!」
と、そこへ。
法機ディアナとそこから分離していた法機アラディアが、躍り出る。
そうして。
「穢れし金杯――
hccps://www.Babylon.chal/、セレクト コネクティング! 堕電紫衣機関――
hccps://BabylonTheGreat:xxxxxx@www.zodiacs.mc/zodiacs.engn
セレクト、コネクティング! ダウンロード!」
「さあ……セレクト、法機ディアナ・法機アラディア!」
「コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム……」
「……エグゼキュート!!」
そこに搭乗する真白と黒日の詠唱に従い2機の法機は、更にそれぞれに左翼と右翼を折り畳み。
法機キルケ・メーデイアのごとく双胴機の姿になったと思えば。
次には、何やら女性の上半身を両機とも機体胴部より生やし。
それぞれに右半身だけ左半身だけとなり。
両半身が接合して、やはり半人半機の姿になったかと思えば。
更に各機体胴部よりそれぞれに右足、左足を生やし。
足を垂らす。
それは。
「さあ……私たちこそ新たな女王たる黒客魔バビロンザグレート!! 今こそ女王陛下の真なるお目覚めよ……ひれ伏して寿ぎなさい!」
真白と黒日は、高らかにそう叫ぶ。




