#57 仮想通貨の真実
「あ、新たな女王が……DJセレネー!?」
青夢たちは目の前の状況に、ただただ驚くばかりである。
DJセレネー――新たな女王の周りにはいくつもの小さなスクリーンが空中に浮かび。
まさに中継中といった雰囲気を醸し出していた。
「yeah……さて。青夢、あなたの質問に答えなくてはね。」
「! DJセレネー……いえ、新たな女王! 答えて。」
そこでDJセレネーは、先ほどまでの陽気な態度を変え。
新たな女王の、落ち着きある態度に戻る。
青夢は一層戸惑いつつも、毅然と向き合い直す。
「ずっと、ユダマイニングに疑問を持っていた人がいたわ。 ……ユダマイニングなんて成功させた所で、結局は皆に分配される報酬を自分だけせしめることになるんだから絶対バレるだろうって。そんなことをする人が続々と出て来ることが信じられないって。」
「……ええ。」
セレネーは、淡々と続ける。
「それがあなた、青夢。」
「……ええ、そうよ!」
青夢は答えながら、首を傾げ続けていた。
何故セレネー、ひいては新たな女王がそんなことを知っているのか。
だが今は、仮想通貨への疑問解決が先である。
「でも現実に、ユダマイニングを行う人は多い。その理由は分かるかしら?」
「……いいえ。」
そう。
そこが青夢も、ついぞ分からなかった部分である。
「教えてあげるわ……それは! 今までユダマイニングを行ったとされる人――イスカリオテのユダが、冤罪だったからよ!」
「!? え?」
が、セレネーは。
構わず、そう言い放つ。
冤罪?
どういうことなのか。
「では見せてあげましょう……私たちの取引台帳である救世主捕縛の鎖――その内このバビロンに秘匿されていた裏帳簿、そこに記されている真実を!」
◆◇
「ふう……まだQUBIT SILVERは残ってるな! よし、このまま」
「Hi、ヒロ! 久しぶり☆」
「! あんたか……DJセレネー!」
そうして。
現実世界、地球のとある場所。
セレネーがコンタクトを取ったのは、ヒロ。
――……待ってください! これは……ユダマイニングです! そのイスカリオテのユダは……メンバーのトモです!
――そ、そんな! と、トモ君がユダマイニング?
――ち、違う俺は!
――トモ、残念だけどよお……俺たち、ザラストサパーマイニングもやっててもう証拠上がってんだよ!
青夢が真白・黒日に誘われて初めて観に行ったマイニングレースにて、ユダマイニングを犯したトモのアポストロスメイトである。
「最近、バビロンには来てくれないne! 何で?」
「ははは、悪い悪い! ちょっと最近やばくってよ。」
ヒロは、セレネーにそう答える。
「でも助かったよ! せしめたQUBIT SILVERで買い物なんて、堂々とはできねえからな! バビロンがなけりゃうっかり何もできなかったぜ!」
しかしヒロは、こんなことも口にした。
―― ここは普段、仮想通貨の裏取引によって賑わっているのよ!
かつて新たな女王が青夢たちに言った、バビロンの説明である。
そう、バビロンはQUBIT SILVERの裏取引が行われる場所。
が、せしめたQUBIT SILVERとはどういうことか。
QUBIT SILVERをせしめようとしたのはトモであり、ヒロはそんな彼のユダマイニングをザラストサパーマイニングにより防いだのではなかったのか。
「ははは、まったく馬鹿な奴らだよな! 本当は俺がイスカリオテのユダだとも知らないで!」
「yeah……ありがとう、ヒロ! その言葉が聞きたかったのyo!」
「……は?」
そうして、高笑いをするヒロだが。
セレネーのその言葉に、首を傾げる。
「さあ、新たな女王命令よ世界の皆さん! この真実を見なさい!」
「な……世界の皆さんだと!? お前、まさか!」
「yeah……今、全世界にユダマイニングの真実を放送しちゃってるyo!」
セレネーは、慌てるヒロをよそに。
陽気に中継を続ける。
「な、何だ……?」
「え……?」
しかし、中継されているのはヒロだけではない。
今や、魔都バビロン中が中継されており。
それに気づいたバビロンにログインしている者たちは、戸惑う。
◆◇
「な、何今のは……?」
配信元のバビロンにて。
青夢たちは、大いに混乱している。
ヒロが本当のイスカリオテのユダ?
どういうことなのか。
「yeah、青夢! ……そうよ、青夢。あのマイニングレースの時、トモは冤罪。ヒロはザラストサパーマイニングでトモを暴いたように見せかけて、実際にはトモに罪を擦りつけてまんまとユダマイニングをやりきったの!」
「な……罪を擦りつけた!?」
セレネーの説明に、青夢は尚混乱する。
「そう、これが本来のユダマイニング――他者の法機を踏み台として、その他者にユダマイニングの罪を着せて自分がさもザラストサパーマイニングでユダを暴いたように見せるやり方よ!」
言うなればユダマイニング――悪をザラストサパーマイニング――正義に偽装するやり方である。
「で、でも待って……ザラストサパーマイニングだって結局は! ユダに奪われるところだったQUBIT SILVER30枚を、アポストロス12人で山分けしてたんだからメリットは薄いじゃない!」
「ふん、やっぱり甘い……青臭いわね青夢! その山分けするQUBIT SILVER30枚とは別に、裏切り者には更なるQUBIT SILVER30枚が秘密裏に発行されんのよ!」
「な……何ですって!?」
つまりザラストサパーマイニング――真のユダマイニングとはユダマイニングを暴いているように見せかけて実際には他人に罪をおっ被せ。
それにより表向きはQUBIT SILVER30枚を受け取り誠実に山分けしているように見せかけて"真の裏切り者"である自分は秘密裏に更にQUBIT SILVER30枚を受け取ることができる。
総じて、罪人の濡れ衣を他者に着せてその他者を売り報酬を得るというその手法はまさしくイスカリオテのユダそのものである。
しかも、先程のセレネーの弁にあった"裏帳簿"という言葉通り。
その秘密裏に発行されたQUBIT SILVER30枚はバビロン内でのみ取引を行うことにより、その発行情報・取引情報はこのバビロン内にのみ共有されている救世主捕縛の鎖上に記帳され一般社会には秘匿されるという徹底ぶりだった。
「じゃあまさか……あの神働さんの件も、トバラ自治区のニマさんの時も!?」
「ええ……その通り! あの時も彼女たちのアポストロスメイトによって罪が擦りつけられていたの!」
「……やっぱり。」
青夢が更に尋ね、返って来た答えは。
彼女を驚かせ、同時に納得させるものであった。
やはり、彼女たちは――
「ううん……何ということであって!」
「は、はいマリアナ様……」
マリアナと法使夏も、驚いている。
「そして……ニマさんの時彼女に罪を擦りつけたのは、同じく中国代表アポストロスメンバーの文呪華さんよ!」
「!? な!」
が、新たな女王のこの言葉は。
青夢たちを、更に驚かせるものだった。
◆◇
「什么!? 呪華が……? そ、そんなまさか!」
「し、小鬼……」
「ほ、本当なの!?」
一方。
現実世界でも、突如として魔男艦隊と世界連合軍の間にDJセレネーの中継がスクリーンとして出現し。
それを見た鬼苺・女夭・金東らも驚いていた。
まさか、呪華が?
「是……バレちゃ仕方ないわね。そう、私はトバラの血を引く自治区の民よ!」
「什么!?」
「そ、そんな……」
驚く一同に対し、呪華は事も無げに言う。
――ユダマイニングがまたも成功したか!
あの時、おかしなことに。
自治区首府にてトバラ族主席の女性、カンツォ・ドマは歓喜の声を上げていた。
ユダマイニングをしたであろうニマは告発され失敗したにも関わらず。
しかし実際には、ニマは無実であり。
呪華が、彼女を売ることでユダマイニングを成功させていたのであった。
更に、それだけではなく。
――お前のおかげで、我らトバラ族はこの程度の処分で済んだ……感謝しているぞ!
――はっ……カンツォ元首席。
独立戦争終結後トバラ族自治区首府でカンツォと話をしていた、誰か。
――やはり日中韓共同戦線にお前がいたことは間違いではなかった……おかげでトバラ族を止めた者の中にトバラ族がいたということにより、中国当局と取引ができた。
――はい……光栄でございます!
それは他ならぬ、呪華であった。
「r、really!? そんな……どうしましょうソー軍曹!」
「うむ……」
米代表アポストロスら世界連合軍の仲間も、これには大いに動揺している。
◆◇
「セレネー……てめえ! よくも俺を騙したな!」
「騙してないわ。ヒロ、あなた言ったわよね? 騙されたり、嵌められたりする方が悪い。皆誰でもいいから叩きたいんだ、その格好の的にされただけだって。」
「それが何だってんだ!」
怒り狂うヒロに対し。
セレネーは、冷ややかに言う。
「ええ、誰でもいい……それはつまり! 本当に誰でもいいのよ、例えあなたでも!」
「な! お、俺が嵌められたってのか!」
「いいえ、あなたは暴かれただけよ? あなたは実際にユダマイニングを行った身、文句は言えないわ!」
「くっ……」
セレネーはダメ押しとばかり、ヒロにそう告げる。
「そう……皆は、これまでずっと美味しい想いしてきたでしょ? だからもういいの、次は世界の役に立ちなさい!」
「な……せ、世界の役に立つだと!?」
「そう、世界の役によ! ……さあ皆! この人たちが真のイスカリオテのユダ! 皆はどう裁く?」
「さ、裁くだと!? お、俺たちを吊し上げるつもりか!」
ヒロは怯える。
いや、ヒロだけではない。
「こ、これは……?」
「に、逃げるぞ!」
「ひいい!」
自分たちが中継されていることに気づいた、バビロンにログインし裏取引にマイニングをしようとしていたユダたちは一斉に動き出し。
地上の者たちは近くの楼閣に引っ込んでいき、法機に乗る者たちは乗機を翻していく。
それに伴い、楼閣の明かりは消え。
空中に浮かんでいた救世主捕縛の鎖も奢侈品の画像も消えていき。
再び魔都バビロンは、寂れる。
◆◇
「さあ、これで悪が適切に裁かれるわ! 皆さんもこれで嬉しいでしょ?」
「そ、そんな……」
そうして、バビロンでは。
セレネー――新たな女王の呼びかけと共に。
中継に向け、全世界からのコメントが寄せられる。
――マジかよ……よくも騙したな!
――ヒロ最低! キモ!
――氏ね
「そうね、皆悪を裁いて正義の味方気取りってところかしら……さあて、後は。あなたの本名を教えてくれないかしら新たな女王さん?」
「! あら……」
と、そこで青夢は。
不意に、そう新たな女王に尋ねる。
「まあ尤も、どっちが本名か分からないけどね……セレネーさんか、ディアナさんか!」
「! あら……」
「な……ディ、ディアナですって!?」
「そ、それは……どういうことなの魔女木!」
青夢のこの言葉に、マリアナ・法使夏は驚く。
ディアナ。
それは――




