#55 対凸凹飛行隊世界連合軍
「Well……隈なく探そう! 恐らく地球の衛星軌道からはそこまで大きくは外れられないだろうからね!」
「YES、ソー軍曹!」
魔都バビロンの空に、地球と共に浮かんで見えるは。
無論というべきか凸凹飛行隊を探す、王魔女生・龍魔力・呪法院・日中韓米欧豪代表アポストロスの法機やその他兵器群である。
彼らはネメシス星と三段法騎戦艦が消えた宙域辺りを探すべく、それぞれの空宙列車電磁砲を駆り。
さらにそこから発艦した自機たちで、詰めかけていた。
「YES、凸凹飛行隊のeveryone……今度こそ、その真意を聞かせてもらいますよ!」
デイヴたちは、俄然活気付いている。
◆◇
「あれはまさか……デイヴさんたちが?」
一方、ネメシス星内部仮想世界たる魔都バビロンでは。
青夢たちが上空を見上げ、無数の法機影を確認し驚いていた。
「おやおや……我が魔都バビロンにまだまだ来ようとは! では私から、ささやかな歓迎をいたしましょう……ふふふ!」
「……え?」
そんな上空を不敵に見つめ。
新たな女王は、両手を上げる。
すると。
「!? What!」
「s、ソー軍曹! ぜ、前方に突如謎の天体出現!」
現実の対凸凹飛行隊世界軍は、突如目の前の景色が変わり驚く。
それは、何やら地球の様な姿の"惑星"。
「こ、これは……まさか、これがネメシス星だと言うのか!?」
デイヴはその異様な光景に、目を瞬かせる。
何より地上から延々と伸び、大気圏を突き破り宇宙まで届く塔の威容――もとい、異様な様には特に驚く。
これは、一体――
「……No way! いかんいかん、私としたことが……シンドラー二等兵たち! 米代表アポストロス法機群、全速前進! 目標、敵本星!」
「y、YES!!! ソー軍曹!!!」
が、デイヴはそこでおのれを奮い立たせる。
見たところ、これは恐らく仮想世界である。
仕組みはよく分からないが、仮想世界へといきなり引きずり込まれたのだ。
しかし、法機の力は仮想世界でも使えるはずだ。
ならば。
「シンドラー二等兵! 法機ティターニアの力で大気操作だ!」
「YES! お任せください……hccps://titania.wac/、Select 取り替え子論争! Execute!」
デイヴの指示でセーレは、自機マリアに宿す法機ティターニアの力を使う。
たちまち仮想世界のネメシス星大気圏は、大きく揺れ。
巨大な渦巻きを発生させた。
「YES! やったわ!」
「不是! な、何をしてるんですか米代表の皆さん!」
「え……Oops!?」
……かに見えたが。
何とデイヴやセーレがふと気づくや、自分たちが前にしていたのは仮想世界のネメシスではなく地球であり。
法機ティターニアの天候操作は、地球に影響してしまっていた。
「No way! いかん、シンドラー二等兵!」
「YES! …… Select Canceling Execute!」
これでは叶わぬと、セーレは技をキャンセルする。
「Oui! ここは私が……hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「初花様、私たちも! hccps://sekhmet.wac/、セレクト 病の火息!」
「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 神の権力!」
「hccps://devi.wac/、セレクト 多面の相!」
「エグゼキュート!!!」
それを見かねた初花ら欧代表アポストロス法機群からも、ネメシス星へ攻撃が放たれるが。
「啊!」
「뭣!? な、何するんですか!」
「……Quel!?」
なんとその攻撃は、またもネメシス星には行かず。
味方の法機に、向けられてしまう。
「Damn……これはどうしてだ? しかし、仕方がない……皆さん、攻撃を止めましょう! ここは一旦」
デイヴが歯軋りしながらも、そう言いかけた刹那であった。
突如としてネメシスの大気圏は、大きく渦巻く。
一瞬セーレが法機ティターニアにより技を放ったかに思えたがさにあらず。
次にはその渦巻きにより、無数の雷撃が躍り出たのである。
それにより世界連合軍法機群は、散開する。
「Damn! s、ソー軍曹!」
「くっ……全機! 射程圏外へ退避!」
「り、了解!」
デイヴの指示により、法機群は射程圏外へ退避していく。
◆◇
「あれは……くっ、世界か! 世界が凸凹飛行隊に対抗するために団結して」
その頃、こちらは現実のネメシス星居住区では。
窓から見える対凸凹飛行隊世界軍の法機群を見た剣人が、歯軋りしている。
「ステルス機能で透明になっているはずなのに何故だ!? くっ……魔女木たち!」
剣人はそうして、背後で仮想世界にログイン中のため意識が飛んでいる青夢・マリアナ・法使夏を見る。
「……待ってろ、俺が守る! 魔導香・井使魔、魔女木たちを頼む! 俺は法機クロウリーで出る!」
言うが早いか剣人は、ネメシス星に係留している三段法騎戦艦へ急ぐ。
が。
「待って、方幻術君! ここにいて。」
「!? 何?」
意外にも、真白が彼を引き止める。
黒日も、真白の傍らで頷いている。
「何故だ? 外に敵が」
「ステルス機能で見えなくなってるから大丈夫だよ! それより、ここにいて青夢たちを守らないと。青夢から、そう言われたんでしょ?」
「! あ、ああ……」
食い下がる剣人であるが、真白と黒日は彼の出撃をあくまで引き止める。
「だが、このままでは外のあいつらが! ここへ攻めて来ないとも」
「大丈夫だって、方幻術君!」
「私たちに、考えがあるから。」
「か、考えだと?」
「ふふ……」
戸惑う剣人に。
真白と黒日は、不敵に笑いかける。
◆◇
「デイヴさんたちに何をしてるんですか!」
「ああ、ご安心なさい。今、先にあなた方をおもてなしするのでもう席がいっぱいで。お待ちいただく間、他のお客様には暇潰しをと思いましてね。」
再び、魔都バビロンでは。
青夢たちの真上では世界連合軍法機群が何やら小さく見えるが、様子はよく分からず。
それを案じた青夢からの問いに、新たな女王がそう事も無げに答える。
「ま、マリアナ様! や、やっぱりこれは罠だったんですよ! さては魔女木……あんたが救世主捕縛の鎖への攻撃をした犯人ね! 事情は分からないけど、魔男と組んで私たちを」
「ら、雷魔法使夏……」
しかし法使夏は、大いに動じている。
何せ今現れたのは、新たな女王。
魔男、すなわち敵の首魁である。
これはやはり、青夢が自分たちを罠に――
「見苦しくってよ雷魔さん! 身内のみならず、新たな女王さんの前でまで!」
「!? ま、マリアナ様……?」
が、マリアナは法使夏を叱咤する。
「わたくしが前に申し上げた言葉をお忘れであって?」
「! い、いえ……」
―― もう後には引けないと決意を固めました! わたくしは、そこまでの覚悟を持ってここに来ていましてよ!
ネメシス星に着いて早々に、マリアナ自身が語った言葉である。
「元より、魔女木さんの話はいわゆる眉唾とは感じていてよだけれど! それを鵜呑みにしてホイホイ尾いて来るようなわたくしだと思って? 随分と見くびってくれてね。」
「と、とんでもありませんマリアナ様! 私は」
「言いましてよ、わたくしは! ……既に覚悟を決めておりましてよ。雷魔さん、あなたやはり覚悟が決まっていなくって?」
マリアナは厳しく、尚も法使夏を叱咤し続ける。
「……申し訳ございません、マリアナ様。私はあなたの側付き失格です。」
「いいえ、分かればよろしくってよ。……お見苦しいところをお見せし申し訳ございませんわ新たな女王さん。」
法使夏の言葉に矛を収めたマリアナは、ホスト側とも言える新たな女王に詫びる。
「いいえ、やはりあなたたちは仲がおよろしいわね! 微笑ましいわ……さあ、ご案内しますわ。ついていらっしゃい。」
「はい!!!」
新たな女王は空中に浮かんだまま三人を促し。
それに対して青夢・マリアナ・法使夏は、対凸凹飛行隊戦線が迫っていることなどを鑑み。
もはやここを進めば、後戻りはできないという覚悟を込めて力強く返事する。
◆◇
「Damn……ソー軍曹、埒が明きません!」
「So、ソー軍曹!」
「やはり……あの宙域に一斉攻撃を仕掛けてしまうべきかと!」
またも、現実のネメシス星周辺宙域では。
一旦退却し体勢を立て直しつつあった世界連合軍ではあるが、米代表面々はついに最終手段に訴えようとする。
「No way! 駄目だ……忘れたか、私たちの攻撃はあの星には当たらない!」
「! y、YES……」
が、デイヴはそんな部下を制す。
それは事実ではあるが、デイヴに凸凹飛行隊を慮る意図があることは否めない。
さて、どうするか。
デイヴが、考えあぐねいていた時であった。
「!? s、ソー軍曹! 一時の方向より、接近する物体多数! これは……魔男の艦隊です!」
「w、What!?」
デイヴは驚く。
それは。
「新たな女王陛下の、邪魔はさせん……」
「ああ、フィダール!」
魔男・巨男・木男・魚男の四騎士団からなる混成艦隊であった。
「Damn……空宙都市エルドラドをこちらに」
「大丈夫です、ソー軍曹!」
「ええ、大丈夫です!」
「!? m、Ms.OmamyuuにMs.Tatimana?」
焦るデイヴを制したのは、龍魔力の夢零と王魔女生の尹乃である。
その訳は。
「!? s、ソー軍曹……ち、地上よりこちらに接近する二つの艦影が!」
「What!? ま、また魔男か?」
「い、いえこれは……」
愛三のギリシアンスフィンクス艦、王魔女生のヘロディアス艦隊が宇宙へと上がって来ていたからだった。
◆◇
「よし……ここやったら、被害抑えられるやろ。」
「ああ、騎士団長! ミリアも準備いいね?」
「はい、メアリー姐様!」
その頃。
地上――いや、どこかの海上にて。
脚に水上機仕様の改装を受けた元女男の法機、マルタとキルケ・メーデイアが停泊していた。
「さあて……ほな行くで二人とも! 覚悟するんや!」
「ああ、騎士団長!」
「はい、騎士団長に姐様! 私は地獄の果てまで尾いていきます!」
そのまま、三人は――
「あら……あなたたちから尋ねて来るなんて珍しいわね、赤音たち。」
「ナンノ、ヨウダ……」
「ああ、アラクネ姐さん! ……いや。」
ダークウェブに潜り込み。
アラクネとタランチュラに、謁見していた。
「あんた……誰や?」
「……え?」
「……ナニ?」
が、赤音は不意にそう二人に尋ねる。
かくして、地上と宇宙では別々に戦いが始まろうとしていた――




