#54 バビロンの空
「YES……では、作戦会議を始めます!」
「はい!!!」
「はい。」
「是!」
「네!」
「defo!」
「Oui!」
デイヴの呼びかけに、王魔女生・龍魔力・呪法院・日中韓欧豪代表アポストロスの面々は勢いよく返す。
皆、空宙都市エルドラドを前線基地として集まった世界連合軍である。
「是、まず……敵本拠地の位置はどちらに?」
「Well、ただ今調査中です。」
「是……」
そこで挙手の上、質問をしたのは。
中国代表アポストロスリーダー、鬼苺である。
「什么!? それじゃあ私たちはどこを攻撃すればいいか分からないじゃない、ねえ小鬼?」
「是、女夭。」
それを受けて鬼苺の親友にして中国代表アポストロスメンバーの女夭は、抗議する。
「네、まあまあ中国代表の皆さん落ち着いて! お話によると彼女たちが逃げ込んだネメシス星とやらは、その直後に姿を消したんでしたよね?」
「YES! その通りですMs.Eum。」
そこで庇うように、韓国代表アポストロスリーダーの陽玄が発言する。
「네、そうなると……確かに探すのは至難の業ね、どうすればいいかしら……」
「……では、皆で探すというのはいかがでしょう?」
「! よ、妖術魔二等空曹!」
そこへ日本代表アポストロスにして自衛隊所属の力華が、意見具申をする。
同じく日本代表アポストロスメンバーである教官の巫術山は、タジタジである。
「What!? み、皆で探す?」
「はい、ソー軍曹。」
「はあ……」
が力華はそんなことなどどこ吹く風とばかりに話を続ける。
「私がそう提案しましたのは、まだ彼女たちの容疑が確定していないからです。そう、やはりまだ交渉の余地があるならば。ここは改めて話し合いでの解決を求め、彼女たち自ら出て来てくれるのを待った方が」
「不是! お身内贔屓ですか? 甘いですよ!」
「! ま、麻さん……」
力華の演説を遮ったのは、鬼苺であった。
「聞いてますよ……あの凸凹飛行隊の魔女木さんは、かつて世界を危機に至らしめたらしいですね? そんな方を、庇うんですか!?」
「し、小鬼……」
鬼苺のこの頑なな有様に、女夭は心当たりがあった。
―― ……しかし。その忌々しい少数民族が忌々しくなったのは、何ででしょうか?
――!? ……什么?
――ま、魔女木!
――뭣!?
かつてのトバラ族自治区独立戦争の折、青夢から遠回しにその戦争の責任が中国にあると言われたことを根に持っているのである。
「YES! それは私たちも同感ですMs.麻! あの凸凹飛行隊は油断できません!」
「Well!」
「So!」
「What!? 君たちまでかい……」
セーレたち米代表の三人娘までもがそう言い出す。
きっと、仮想大陸での行動を凸凹飛行隊――とりわけ青夢に口出しされたことを根に持っているのだろう。
上司であるデイヴは、板挟みの気分である。
「まあそうね、私もその言葉には同感よ!」
「はい、尹乃様!!!」
「ええ、私たちも!」
「はい、レイテ様!!!」
「! w、Well……Ms.OmamyuuにMs.Jippouinまで……」
それに対して、尹乃やレイテにその取り巻きたちも賛同の声を上げる。
「……しかし! 私たちは知っています、あの凸凹飛行隊が何の考えもなしに何か事を起こすことはないと!」
「ええ、私も!」
「! は、はい尹乃様……」
「は、はいレイテ様……」
「!? Ms.OmamyuuにMs.Jippouin……」
が、次には尹乃もレイテもそう言う。
「什么!? 何を言っているの! 今、どんな考えがあってあの人たちが世界の敵なんかになってるっていうのよ!?」
「例えば! ……誰かに嵌められた、とかでは?」
「! 姉貴……」
「お姉様……」
「お姉さん……」
「m、Ms.Tatimana……」
痺れを切らす鬼苺の言葉に、妹たちも驚いたことに龍魔力代表のリーダー・夢零も声を上げる。
「夢零様……」
「ええ、何にせよ……妖術魔さんのおっしゃる通り、まだ私たちには聞けていないことが多すぎます! ですからここは、今一度話し合ってみるべきだと思います!」
「……defo、私たちもそう思います!」
「! m,Ms.Ingrid……」
夢零のその言葉に、豪代表リーダーのミシェルも同調する。
凸凹飛行隊――特に青夢自身と少しの間とはいえ触れ合った彼女には、やはり青夢たちの今回の行動には何か理由があるのではとしか思えなかったのだ。
「Oui! 凸凹飛行隊が、このエルドラドの騒動を鎮めるのにかなり貢献してくれたのは事実です。なら……もう少し、猶予を与えませんか?」
「! 什么……皆して甘やかして!」
「Ms.Ma……」
そこで欧代表リーダーの初花も、声を上げ。
鬼苺は、すっかり怒り心頭である。
「y、YES! そうですよ! このままじゃ」
「Well、Well! では、凸凹飛行隊の皆さんを今一度説得してみましょう!」
「!? ソー軍曹……?」
セーレたちも鬼苺に同調し声を上げる中。
デイヴはその場を収めようとする。
「……事情も分からないまま彼女たちを一方的に攻撃すれば、我々こそ世界中から批判を受けかねない。ここは、交渉ないしは捕縛の方針の下作戦を進めてはどうでしょうか?」
「是……」
「y、YES!!! ソー軍曹!!!」
デイヴが放ったこの言葉に、鬼苺も米代表アポストロスメンバーもひとまずは納得した様子を見せる。
◆◇
「こ、これって一体……?」
一方、その頃ネメシス星内部仮想世界では。
青夢は目の前に広がる魔都バビロンに、ただただ驚くばかりである。
「ここは確かVI――仮想知権能とかいう人工知能たちを魔男のロボット兵士として教育する場所でもあってよね? ならば……今は、こんな世界であるというだけのことではなくって?」
以前のネメシス内仮想世界と違い思い入れのある青夢とは違い、特に含む所はないマリアナは素っ気ない。
「……まあ、そうよね! やだ私ったら、こんなところでたじろいでたら先が思いやられるわ……さあ! あの都市へ入りましょう!」
「ふん、調子のいい時だけ仕切らないでほしくってよ魔女木さん!」
「そうよそうよ!」
「うーん、まあ面目ないわ……さ、とにかくあそこへ……って!?」
口々に文句を言うマリアナと法使夏に、青夢も今回は脛に傷ありとばかり何も言えず。
とにかく彼女たちを引っ張ろうとしたその時であった。
「……魔法塔華院マリアナ、雷魔法使夏構えて! 都市から上昇してくる未確認飛行物体確認! 数は四!」
「言われるまでもなくってよ魔女木さん!」
「はい、マリアナ様!」
青夢が今告げた通り。
魔都バビロンから上昇して来た者たち、それは。
鷲の翼を持つ獅子に、三本の肋骨を咥えた熊、翼と頭が四つある豹、十の角と鉄の歯を持つ恐ろしく強い獣。
いずれも青夢たちが、見たこともない敵であった。
◆◇
「おお……こ、これはすごい! 本当に凸凹飛行隊が自分から魔都バビロンにやって来るとは!」
その頃、魔男の円卓にて。
何故かリアルタイムで見えるその魔都の景色に魔男たちは、歓喜している。
「しかし……アブラーム卿。ここは奴らを泳がせて、魔都内で一網打尽にするというやり方もあったのでは?」
「いいえ、ここで腕試しをしていただきたく存じましてね! その程度越えていただかないと、招待客としては分不相応でしょう?」
「な、なるほど……」
パールはベリットからの疑問に、そう答える。
「ええ、パール。お客様のお迎えは、私に任せてくれないかしら?」
「な!? あ、新たな女王陛下が!?」
そこで新たな女王のこの言葉に、円卓の騎士団長たちは騒然となる。
「! あら、新たな女王陛下が? それはそれは……贅沢至極にございますわね、ほほほ!」
だがパールは、特に驚きも止めもしない。
「……では新たな女王陛下、御自らよろしくお願いしますわ。」
「ええ……何せここは私の都ですもの!」
パールの促しに新たな女王は、終始機嫌がよい様子であった。
◆◇
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
再び、その魔都バビロンでは。
迫り来る四体の獣たちに、青夢たちは法機より攻撃を加えていく。
「く……躱されてばっかりね!」
「まったく、往生際が悪くてよ!」
「ま、マリアナ様! 埒が明きません!」
が、そんな攻撃を四体の獣たちは悉く躱し。
何事もなく、牙を剥き尚も襲いかかって来る。
「くっ……この!」
「お待ちなさい、私の獣たち。」
「!? ……え?」
と、その時であった。
突如として、四体の獣たちは動きを止めたかと思えば。
「ようこそ……魔都バビロンへ!」
「あ、あなたは……」
「ど、どちら様ですの?」
「ま、マリアナ様!」
天に突如、一人のドレスを着た女性が出現する。
彼女は、無論。
「私は、新たな女王と呼ばれる者……」
「!? あ、新たな女王!!!」
青夢たちは驚く。
これこそが現在の魔男たちの首魁、新たな女王――
青夢たちは彼女を綺麗と思いつつも、それは先代の女王たるアラクネとは似ても似つかぬ姿であることに戸惑う。
「……ちょうどいいわ、あんたに聞きたいことが盛り沢山あるんだけど?」
「ええ、私もそれにはお答えしたいわ……だけど! ごめんなさい、どうやら今宵はあなたたちを含めて千客万来の日みたいで。」
「え……? な!?」
「! あれは……」
「ま、マリアナ様!」
その言葉と共に空を見上げた新たな女王に青夢やマリアナ、法使夏は驚く。
バビロン上空に、地球における月の様に見えるは地球そのものであり。
それよりもはっきり見えるのは。
「Well、最後に凸凹飛行隊を見かけたのはこの宙域です! 隈なく探しましょう!」
「是、私たち中国代表が見つけ出します!」
「是!!! 小鬼!!!」
「네、抜け駆けは駄目ですよ中国代表の皆さん!」
「네、陽玄아!」
「私たち王魔女生が先です!」
「はい、尹乃様!!!」
「私たち龍魔力だって!」
「ああ、姉貴!」
「は、はいお姉様!」
「うん、お姉さん!」
「defo……さあ、出ていらっしゃい!」
「Oui……私たちも、事情を聞かせてほしいのよ!」
地球よりわざわざやって来た、王魔女生・龍魔力・呪法院・日中韓米欧豪代表アポストロスの法機やその他兵器群であった。




