#53 疑いの暗黒通神衛星生活と魔都への侵入
「まあ……わたくしたちの任務は、宇宙観光ではなくってよ!」
「! そ、そうね……さあ! この中にある仮想世界に行かないと!」
マリアナの言葉に、青夢ははっとして言う。
そうあの空宙都市エルドラドに来たばかりの時ならばいざ知らず、今は宇宙観光など目的ではない。
この暗黒通神衛星ネメシス内にあるであろう仮想世界、魔都バビロンに乗り込み仮想通貨の真相を暴くことが目的だ――
「……と、その前に皆さん。わたくし、言いたいことがありましてよ。」
「え?」
「ま、マリアナ様?」
「ま、魔法塔華院?」
「魔法塔華院さん??」
と、そんな中でマリアナは凸凹飛行隊面々に改って話し始める。
「……わたくしたちを騙している人がいれば、今すぐ名乗り出てほしくってよ!」
「えっ!?」
◆◇
「もう一度言いましてよ皆さん……わたくしたちを騙している人がいれば、今すぐ名乗り出てほしくってよ!」
「ま、マリアナ様……」
「魔法塔華院……」
「魔法塔華院マリアナ……」
「魔法塔華院さん……」
マリアナのこの言葉に、凸凹飛行隊面々は戸惑うばかりである。
「……それはどういうことかしら、魔法塔華院マリアナ?」
「あら、そういうことであってよ魔女木さん! わたくしたちが追われるきっかけとなった一連の救世主捕縛の鎖への攻撃。これは本当に、凸凹飛行隊の誰かによって行われていなかったと言い切られることができて?」
「それは……」
マリアナはそれを確かめるため、敢えてそう言ったのだ。
「そ、そんな……じゃあ魔法塔華院さんは、この中に本当に救世主捕縛の鎖への攻撃を行った人がいるって言うんですか!?」
真白は、マリアナにそう食ってかかる。
「ええ、その可能性は否定できなくってよ魔導香さん・井使魔さん……あなた方も怪しくってよね。新参でこの凸凹飛行隊に入り、何を企んでいることやら。」
「な……魔法塔華院さん!!」
マリアナのその言葉に、真白・黒日は抗議する。
「そうよ……真白と黒日が怪しいのなら! 私は前に"あいつ"との戦いで黒客魔レッドドラゴンとして人々を支配しようとしていた身だわ! 私だって怪しいわよ!」
「!! 青夢……」
青夢は真白・黒日を庇う。
「あら……ならば魔女木さん、あなたがやったとおっしゃるのであって?」
「! それは……」
青夢はしかし、マリアナのその言葉には口籠もる。
確かに、青夢には救世主捕縛の鎖攻撃に関して身に覚えはない。
だが。
――いっそのこと……こんな仮想通貨、なくなってしまえばいいのに!
――なくなればいい? それはなかなか悲しい言葉ねえ。
――でもいいわ……それがあなたの本当のお望みならば! かなえて差し上げましょう……hccps://emeth.ElDorado.srow/wallet……セレクト、出金! エグゼキュート!
未だマリアナたちは知らないようだが、エルドラドからの仮想通貨QUBIT GOLDが盗まれた件に関しては心当たりがないでもない。
だからこそ、そこで口籠もってしまうのである。
「待て、魔法塔華院! それなら……俺は元々"あいつ"の一部だった! 怪しいなら俺はもっとだ!」
「方幻術……」
「……だからミスター方幻術も、それはすなわちご自白なさるおつもりであって?」
「いや、俺はやっていないが……」
剣人がそこで青夢を庇うが。
マリアナからそう問いただされ、あくまで救世主捕縛の鎖攻撃は否定する。
「そうよ方幻術も皆も! マリアナ様を混乱させないで!」
「いや雷魔さん……あなたも魔法塔華院さんも何か我関せずって顔だけど! あなたたちだって容疑者なんだよ?」
「そうよ!」
しかし真白・黒日は。
そう法使夏・マリアナに反論する。
「な!? あ、あんたたち私はともかくマリアナ様にまで」
「よくってよ、雷魔さん……ええ、その通りであってよ! わたくしたちとて容疑者の一人。だからこそわたくしは、このネメシス星に来ることにしたわ。そう……ここに来れば、裏切り者が誰かということもはっきりしてくると思ってのことであってよ!」
「! ここに来れば?」
マリアナはそこで、そう宣言する。
青夢はマリアナのその言葉に、首を傾げる。
「ええ、ここには仮想通貨の秘密があってよね魔女木さん? その言葉をわたくしは信じ切ったわけではなくってよだけど……あのアメリカの優位性を崩せればと思ってわたくしはここに来ることを決めましてよ!」
「魔法塔華院マリアナ……」
更にマリアナは続けた。
「更に、道すがら救世主捕縛の鎖攻撃の報せを聞いてもう後には引けないと決意を固めました! わたくしは、そこまでの覚悟を持ってここに来ていましてよ!」
「覚悟、か……」
「マリアナ様……」
「魔法塔華院さん……」
その宣言に、皆は感嘆する。
「……まあ、もう誰が犯人かなどとはどうでもいいのであってよ! 今一度皆さんに問いただしたくってよ……さあ! あなた方には、如何ほどのお覚悟があるのであって?」
「……んなの、決まってるでしょ!」
マリアナの問いかけに、青夢は胸を張る。
「……皆ここには、もう後には引けないって覚悟で来てんの! それ以上の覚悟はいるの?」
「ええ、マリアナ様!」
「ああ、魔法塔華院!」
「ええ、魔法塔華院さん!!」
青夢の答えに、凸凹飛行隊面々は追随する。
「さて……ここにはどのくらい籠城できそうであって?」
「はい、マリアナ様! 三段法騎戦艦及びこのネメシスにはそれなりの備蓄食料がありますが、長期戦は厳しいかと……」
「ええ、その通りよ。」
マリアナの確認に対し、法使夏が応える。
「やっぱり……一刻も早く仮想世界にアクセスして情報を探らないとね!」
「だけど青夢、それで私たちの無実は証明されるの?」
青夢がそうしてことを急ごうとするのを、真白・黒日が引き止める。
「それは分からないけど……とにかくここに来た目的を早く果たしましょう! 私たちは立ち止まっていられないんだから!」
「ええ……まあ、今回ばかりはその通りであってよ魔女木さん!」
「は、はいマリアナ様!」
「ああ、魔女木!」
「青夢……」
それでも青夢のこの言葉に。
凸凹飛行隊は、もはや追随するしかないという有様のようである。
「皆、これを!」
「? これは……」
hccps://zodiacs.mc/Babylon
「さあ……ネメシスに至るURLはこれみたいよ!」
青夢は皆に、ダメ押しとばかりに促す。
◆◇
「前とは違って電使言霊じゃなくて、法機そのものをコンバートできるようになったのね!」
「ええ……その様であってね!」
「魔女木、マリアナ様を邪魔しないでよ!」
ネメシス内の仮想世界にログインした青夢・マリアナ・法使夏は、コンバートした自機を駆り夜になっている空を飛ぶ。
もしもの場合を考慮し残る三人は、現実世界に見張りとして置いている。
「だけど……ここが本当にネメシスの仮想世界? フラン星界、でもなければブリティ星界でもなさそうね……」
青夢はその状況を、訝しむ。
下の景色は、厚い霧に覆われて見えない。
と、その時である。
「! 前方、巨大な建造物! 皆回避!」
「む! 言われるまでもなくってよ!」
「は、はいマリアナ様!」
突如、聳え立つ巨大建造物の気配を前方に感じ。
青夢たちは自機を、散開させる。
そうして、霧も晴れたかと思えば。
「!? こ、これって」
「マリアナ様! これは」
「あら……これが、この仮想世界の景色であってね!」
姿を現した仮想世界の光景に、青夢たちは息を呑む。
先ほどの巨大な建造物は、どこまでも続く塔であり。
その麓には、城壁に囲まれた楼閣の並ぶ都市が広がる光景。
これぞ、ネメシス星内部仮想世界に広がる都市・魔都バビロンである。
「これが、今のネメシス……」
青夢はその変わり様に、ただただ驚くのみであった。
◆◇
「ソー軍曹、各国より皆さんがお見えになりました!」
「YES、詳しい状況は?」
その頃。
空宙都市エルドラドに戻って来たデイヴは、部下から報告を受ける。
「YES、現在続々と女神の杼船により各国法機が大気圏を突破し、各々に用意された空宙列車電磁砲にそれらの法機が着艦・収容されていっています。この空宙都市への到着も、間もなくかと。」
「Well……本当は、なるべく使いたくなかった手ではあるがな!」
デイヴは苦々しく、そう言う。
そうして、彼の前には。
「Well……遠路はるばる、ようこそ皆さん。」
「はい、よろしくお願いします!!!」
「いえいえ!」
「请不要在意!」
「걱정하지마새요!」
「defo!」
「Oui! 相手が誰であろうと世界の敵は倒すのみです。」
「YES……頼もしいですな。」
王魔女生・龍魔力・呪法院に自衛隊と、中・韓代表アポストロスが新たに女神の杼船により宇宙に繰り出して来ており。
更に元から集結している米・欧・豪代表アポストロスも含めて、強力な法機を持つ世界の勢力がここエルドラドに揃い踏みの様相を呈している。
そう、これは。
「Well……では、対凸凹飛行隊戦線の結成をここに宣言します! この空宙都市エルドラドを最終防衛ラインと定め……共に、世界の敵に立ち向かいましょう!」
デイヴが高らかに宣言した通り、世界の連合である――




