#52 いざ魔都へ
「s、ソー軍曹あれは!」
「Well……あれは第二電使の玉座、ネメシス星だ!」
凸凹飛行隊の三段法騎戦艦を追う米代表専用の空宙列車電磁砲の車窓から見えた景色に、米代表アポストロス面々は驚くばかりである。
見えるはその凸凹飛行隊が向かうネメシス星そのものだったからだ。
「……6時の方向! 空宙列車電磁砲の車影あり、空宙都市エルドラドからの追手だと思われる!」
「ええ……早かったわね!」
自分たちを追う米代表アポストロスの存在に、青夢たちも気づいていた。
「なら皆……デイヴさんたちには悪いけど、行くわよ!」
「ええ、言われるまでもなくってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「ああ魔女木!」
「うん、青夢!!」
凸凹飛行隊面々はしかし、既に心を決めていた。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 力――渦巻く力 エグゼキュート!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark/、セレクト 擬似雷雨神台風 エグゼキュート!」
三段法騎戦艦は面々の術句多重詠唱により、周囲にあの空宙都市の雷雨神砲防御幕を模したバリアを生成する。
「YES、ソー軍曹! 敵戦艦、防御幕を生成したようです!」
「Well、あちらもあくまでネメシス星に行くということらしいな……But、敵じゃない! あくまで今時点では容疑者だ!」
「YES……ごめんなさい。」
セーレの報告に、デイヴはそう返す。
「YES……私が直接出向く! 法機ギガンティックマンドレイクを発進させよう!」
「YES!!!」
デイヴはそこで、自ら話をしに行くことに決めた。
「Let's……hccps://giganticmandrake.mna! Select、デパーチャー オブ 幻獣頭法機ギガンティックマンドレイク! Execute!」
そうしてデイヴが、術句を唱えるや。
たちまち四両編成の空宙列車電磁砲最後尾車両上部の飛行甲板が回転して、法機ギガンティックマンドレイクが露になり。
そのまま法機は、機体を縦に貫通する形で装備されている電使翼機関より噴流を放ち。
空宙列車を、後にする。
◆◇
「敵……いや、米代表法機飛来! これは……ギガンティックマンドレイクだ!」
「……デイヴさんね。」
空宙列車より発進したデイヴの法機を見咎め、青夢は少し気の引ける思いである。
「HELLO、こちらソー! 凸凹飛行隊のeveryone、聞こえるか!」
「……ハロー、デイヴさん! こちら凸凹飛行隊、隊長魔女木!」
「YES,Ms.Mameki……」
三段法騎戦艦に、デイヴより入電があり。
青夢が、これに応じる。
「Sorry、できれば君たちとはゆっくりとお話したい。今すぐ、空宙都市エルドラドへ戻れないか?」
「ええ、優しいお言葉ありがとうございます……」
デイヴは、努めて穏やかにそう言う。
青夢もそんなデイヴの言葉を、受け止めつつ。
「でもごめんなさい……私たちにも、どうしてもネメシス星に行かなきゃいけない理由があるの!」
「Well……そうか。なら、仕方ないね!」
「! 三段法騎戦艦周囲に法機影三機確認!」
断りの言葉を返すや、いつの間にかデイヴの法機同様空宙列車電磁砲を発艦していた米代表の法機群が取り囲む。
「Well……行くぞシンドラー二等兵たち! だが破壊はするか、あくまで内部に乗り込み占拠するんだ!」
「YES、ソー軍曹!!!」
米代表アポストロス法機群は、動き出す。
「hccps://giganticmandrake.mna/edrn/fs/typhon.fs?stooming=true――Select, 嵐の神!」
「hccps://titania.wac/、Select 取り替え子論争! hccps://titania.wac/GrimoreMark/、Select 取り替え子幽閉!」
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽!」
「hccps://giganticmandrake.mna/GrimoreMark/、Select 火風雨砲 Execute!」
そうして法機群は、共同で魔法を編み。
たちまちそれにより、擬似大気圏を纏った火球が三段法騎戦艦防御幕めがけて放たれる。
「む! 防御幕に敵弾着弾!」
「敵じゃないってば方幻術! だけど……予想通り来たわね。ぐっ!」
その火球が防御幕に着弾するや否や、纏われていた擬似大気圏が渦のように幕表面に広がり。
その渦の中で火球は、次々と誘爆していく。
いわばこれは。
「YES……悪いがeveryone! その防御幕に効くのはあの誘爆する火球であると、君たちが教えてくれたのでね!」
空宙都市エルドラド奪還作戦にてデイヴと凸凹飛行隊が共同で放ったあの擬似火炎誘爆砲を米代表アポストロスで再現したものである。
「だけど……これは予想済みよ! hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark/、セレクト 擬似雷雨神弾 エグゼキュート!」
「What!? こ、これは」
が、次の瞬間。
まず、防御幕を構成する技の一つであるサッキングブラッドにより攻撃は吸収され。
更に一時的に萎む誘爆は、これまた構成技の一つである儚き泡により擬似大気圏諸共包み込まれ。
それらはまたまた構成技の一つたる月の弓矢により防御幕から逆に放たれ、米代表アポストロス法機群の側で爆発し弾幕を形成する。
「Oops!!! きゃあああ!!!」
「Well……なるほどMs.Mameki! 僕たちのあの技を合わせて君たちは技を完成させたということかい!」
防御幕より飛び出しては爆発していく弾幕の中で。
デイヴは教え子の成長を喜ぶような、しかしかつての仲間が自分の手の届かぬところに行ってしまうような複雑な気分でその弾幕の向こう側を見つめる。
「やったね、青夢!」
「ええ……さあ、今よ三段法騎戦艦! 電使翼機関最大船速! 回頭しつつネメシス星へつけるわ!」
「り、了解!!」
その隙に三段法騎戦艦は、加速し。
ついに、ネメシス星の係留ポイントまで辿り着く。
「YES、ソー軍曹!」
「Well……まだ諦めるな! 米代表アポストロス法機、全機全速前進! 目標ネメシス星、上陸するぞ!」
「YES、ソー軍曹!!!」
デイヴが叫び、法機ギガンティックマンドレイクの電使翼機関より噴流を最大速度で放ち。
それにより先陣を切り飛び出す同機体に、セーレら三人の法機群が続く。
「Well、凸凹飛行隊のeveryone! 僕は諦めないよ……君たちから、事情を聞くまでは!」
急加速する自機の中でデイヴは、ネメシス星を睨みながらそう呟く。
そう、三段法騎戦艦を止められないならばネメシス星に自分たちも乗り込むまでだ。
さあ凸凹飛行隊、事情を聞かせてもらおう――
「く、米代表法機群! 弾幕を迂回しネメシス星へ直接向かって来るぞ!」
「くっ、仕方ないか……牽制のために主砲撃を……えっ!?」
そんなデイヴたちの法機群に、手を打とうとする青夢たちだったが異変が起こる。
それは。
「What!? そ、ソー軍曹あれは!」
「Well……な、何だあれは!?」
米代表アポストロスも目撃したその異変は。
ネメシス星の姿が、係留途中の三段法騎戦艦諸共透明になって行く異変である。
「Why!? ど、どういうことなんですかあれは!!!」
「Don't worry! とにかく、急いでネメシス星に上陸するんだ!」
デイヴはそれでも、姿を消す前にどうにか法機をつけねばとネメシス星へ急ぐが。
「Damn……くっ!」
間に合わず。
ネメシス星は、デイヴたちの到着前に完全に透明になりはたと消えてしまった――
◆◇
「これは……かつてのネメシス星での戦いと同じね。」
そうして、凸凹飛行隊面々は三段法騎戦艦よりネメシス星内部に移るが。
青夢は今の状況に、かつてのネメシス星での戦い直後の状況を重ね合わせ既視感を抱く。
これはもしや、罠かもしれない。
青夢は、最初からそれは覚悟していたものの。
「何にせよ……私たち、もう進むしかないのね。」
「ええ、その通りであってよ魔女木さん。」
「そうよ! 今更弱気になってんじゃないわよ魔女木!」
「心配するな魔女木!」
「ここまで来たら、女は度胸だよ青夢!!」
「うん……そうね、皆!」
もはや、前に進むしかないのだ。
そうしてさながら某電波塔展望室のような電使の玉座居住区へとやって来た青夢たちは。
そこから見える景色に、目を奪われる。
それは――
「……綺麗……」
「ええ……こんな綺麗さは、どんな宝石にもなくってよ……」
「す、すごい……」
「……ええ。」
かつての空宙都市計画時に青夢・マリアナ・夢零・レイテで見た景色。
青く巨大な地球が、広がっていた――




