#51 再びネメシス星へ
「三段法騎戦艦で第二電使の玉座――ネメシス星に行きたい、ですの?」
「ええ、そうよ!」
空宙都市エルドラドの一角たるホテルの一室にて。
マリアナの部屋に押しかけた青夢は、彼女にそう告げていた。
その部屋には、法使夏もいた。
「あの忌まわしいネメシスへなどと……何故そんなことを?」
「そうよ魔女木! マリアナ様を納得させられるだけの理由があるんでしょうね?」
「あ、いや……」
当然というべきか、マリアナと法使夏からは訝しがられる。
青夢は、迷いつつも口を開く。
「……こんなこと言っても理解してもらえるか分かんないけど。QUBIT SILVERだのGOLDだの、あの仮想通貨が全ての元凶じゃないかって私は思ってんの! だから……ネメシス星に行けば、その仮想通貨の謎が解けるかも知れないのよ!」
「……仮想通貨が全ての元凶? ネメシス星に行けば謎が解ける?」
青夢の話に、まったく要領を得ないとしか感じられないマリアナではあるが。
「……魔女木さん、その仮想通貨の謎というのはあのQUBIT GOLDのことも含まれていて?」
「ま、マリアナ様!」
「え? え、ええ……」
予想外に食いついてきたマリアナに、青夢も驚いた様子である。
それでもマリアナには、考えがあった。
「(なるほど……まあ未だに話はよく分からないし魔女木さんのことだからどこまで信じてよいのかは分からなくってよ。だけど……少しでもアメリカに付け入る隙を見つけられるならばそこに賭けたくってよ!)」
そんな考えがあったのである。
◆◇
「……今日もお集まりいただきありがとう、私の騎士たち。」
「はっ、新たなる女王陛下!」
その頃。
魔男の円卓が新たな女王の呼びかけと共に、照らし出される。
「まず……此度の結果は残念でしたわ、ベリット殿。」
まず第一に、新たな女王の批判の矛先は龍男の騎士団長ベリットへと向かう。
「まあ新たな女王陛下、そのくらいでご勘忍を。」
「! アブラーム卿……」
と、そこへ。
やはりというべきか、パールが声を上げる。
「ふん、俺様……いや私は別にアブラーム卿に慰めてもらうまでもない! あいつら……凸凹飛行隊には復讐をしてやる!」
しかしながらベリットは、そう意気揚々と返す。
「いえいえ、そう息巻くこともございませんわベリット卿……あなたから、あの凸凹飛行隊を攻める必要はないという意味です!」
「!? な、何?」
そこへパールは、そんなことを言い出す。
「パール、それはどういう意味ですか?」
新たな女王も、パールに聞く。
「ええ、これから……ここには、凸凹飛行隊が来ると思われます。」
「な!? ば、凸凹飛行隊がだと!?」
「ええ、その通りですわ。」
パールはどんな根拠があってか、そう口にする。
◆◇
「それじゃ……今までお世話になりました!」
「No problem! むしろお世話になったのはこちらの方だよ。すまない、妻のみならず私まで……」
空宙都市エルドラドの空宙列車乗り場にて。
三段法騎戦艦は更にこの外に係留されており、青夢たちは宇宙装備をつけた上で今まさにそこに乗り込もうとしていた。
デイヴがそこへ、見送りに来ていたのだ。
「いえいえ、ミスターソー! こちらこそお世話になりましたわ。」
「はい、ソー軍曹!」
「世話になった、ソー軍曹!」
「ありがとうございました!!」
凸凹飛行隊面々は、それぞれに礼を言う。
「But……驚いたな、かつて日本の空宙都市計画の舞台だった第二電使の玉座――ネメシス星に行きたいなんて。」
デイヴは、そう口にする。
そう、第二電使の玉座。
そこは。
――そ、ソー軍曹! さ、サイバー攻撃です! 空宙都市内で預かっていたQUBIT GOLDが引き出され……か、勝手に送金されていきます!
――w,What!? 送金先は!?
――y,YES! そ、それが……
――!? な、何だこれは!?
hccps://zodiacs.mc/Babylon
偶然か、サイバー攻撃によるQUBIT GOLDの流出先であった。
しかし、今その件は内密に調査中なので凸凹飛行隊面々にも話す訳にはいかない。
「Well……気をつけて、皆さん!」
「はい!!!!!!」
デイヴの敬礼に、凸凹飛行隊も敬礼を返す。
かくして。
三段法騎戦艦は凸凹飛行隊面々を乗せ、空宙都市エルドラドを発つ。
◆◇
「凸凹飛行隊の皆さん、お元気で……」
「あ、ソー軍曹! b、凸凹飛行隊はどこに!?」
「What? それなら、今あの戦艦で出られたばかりだが」
と、そこへ。
乗り場で独りごちていたデイヴの元に、部下が血相を変えてやって来た。
「い、今すぐ止めてください! QUBIT GOLDのハッキング元が判明したのです! 凸凹飛行隊のいずれかの法機であると……」
「What!?」
デイヴは、耳を疑った。
◆◇
「さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! さあ、here we go!」
そんな雰囲気に反し。
ラジオ中継にてDJセレネーは、陽気に喧伝する。
「さあて、今日の話題は……ななんと! 相次いでいたけど中々犯人特定できなかった、救世主捕縛の鎖への攻撃! その犯人が分かったから皆に教えるよ!」
が、そんな陽気な導入とは裏腹に。
セレネーは、そんなシリアスな話題を切り出す。
「何と何と……それは! あの凸凹飛行隊の法機のどれからしいことが分かったno! 例の空宙都市での戦いで活躍してくれた人たちでもあるけど、実はQUBIT SILVERへのハッキングに関わってたno!? どういうことなのyo!」
◆◇
「あ、青夢! これって」
「そんな……どういうこと!?」
このDJセレネーのラジオを三段法騎戦艦艦内で見ていた青夢たちは驚く。
QUBIT SILVERの取引台帳たる救世主捕縛の鎖に対し、度々ハッキング攻撃が加えられているのは知っていたが。
それが自分たちのせいだなどとは何せ、身に覚えのないことなのだから。
しかし、青夢にはそれは身に覚えはないとしても。
――いっそのこと……こんな仮想通貨、なくなってしまえばいいのに!
――なくなればいい? それはなかなか悲しい言葉ねえ。
――でもいいわ……それがあなたの本当のお望みならば! かなえて差し上げましょう……hccps://emeth.ElDorado.srow/wallet……セレクト、出金! エグゼキュート!
「(あれは……まさか夢じゃなかったってこと? じゃあまさか……仮想通貨QUBIT GOLDは本当にエルドラドから盗まれたってことなの!?)」
そこには心当たりがあった。
だが。
「(なら……尚更ネメシスに行くしかないわ!) ……三段法騎戦艦、全速前進! 目標、ネメシス!」
「ま、魔女木さん?」
「魔女木?」
「魔女木?」
「青夢??」
青夢が決意を固め、凸凹飛行隊面々は混乱している。
「ええ、何でこんなことになっているのか私たちにはまったく想像もつかないわだけど! これもどうやら仮想通貨が絡んでるの……だったら、もうネメシスに行ってその秘密を暴くより他ないじゃない!」
「魔女木さん……」
だが青夢は、そう面々を諭す。
「マリアナ様! でもこれじゃ私たち、まるで逃亡者です! やはり一度、エルドラドに戻って弁解した方が」
「雷魔さん、狼狽えてはいけなくってよ!」
「! ま、マリアナ様……」
法使夏はそう意見を言うが、マリアナはそんな彼女を一喝する。
「今わたくしたちが戻ったとして、果たして口で説明してどれほど分かってくださるというのであって? あなたも見たでしょう、あのユダマイニングをした人たちがどんな目にあったか。」
「それは……」
マリアナはそう法使夏を諭す。
「そうね、魔法塔華院さんの言う通りかも……」
「私たちも、そんな気が……」
「真白、黒日……」
それには真白と黒日も、珍しくマリアナに同意する。
「じゃあもう……尚更行くしかないわねネメシスに! 行きましょう、電使翼機関加速! ネメシス星へ全速前進!」
青夢ももはや、腹を決める。
自分たちは前に進むしかないのだと。
そう、目指すはネメシス星しかないのだ――
◆◇
「……12時の方向、凸凹飛行隊の戦艦ありですソー軍曹!」
「Well……やはり、衛星軌道から大きく外れる航路ではなくて助かった!」
それから数時間後。
米代表専用空宙列車電磁砲にて、エルドラドを発った三段法騎戦艦をデイヴやセーレら米代表アポストロスが追っている。
「So、ソー軍曹! 攻撃しますか?」
「No、ピアーズ二等兵! 私たちは凸凹飛行隊を倒したい訳じゃない……交渉の上連行したいだけだ!」
聞いて来たレフィに、デイヴは首を横に振り応える。
そう、彼はあくまで連行の上事情を聞きたいだけなのだ。
何故あの青夢たちが、こんなことをしたのか――いや、その可能性があるのかということを。
無実であるなら無実であると、きちんと自分の口から説明してほしいと。
が、その時である。
「What!? そ、ソー軍曹……12時の方向、いえ三段法騎戦艦よりも更に前方に……み、未確認物体が!」
「な、何!?」
デイヴはその報告に、驚く。
◆◇
「あれは!」
「あらそちらからお迎えとは気が利くのではなくって、ネメシスさん?」
いや驚いたのは、三段法騎戦艦の凸凹飛行隊面々も同じであった。
何故なら前方に、目標たる第二電使の玉座――ネメシス星が姿を現したのだから。




