#4 その名はディアナ・アラディア
「な、何あれ……?」
「ふ……ふん! ダークウェブの女王と王め、いつの間に拘束から抜け出していたのだ!?」
目の前に浮かぶ大小合わさった法機とアラクネの姿に、ウィヨルとフィダールは驚くばかりである。
「……エグゼキュート!」
「何? ……ぐう!?」
しかし、そんな彼らをよそに。
黒日は先に術句を唱えて準備に入っていた技・魔女の福音を発動させ。
それによりウィヨル・フィダールは乗機諸共身動きができなくなる。
「ナーイス、黒日! hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「くっ……ぐああ!」
そこへ容赦なく、真白も法機ディアナから無数の矢を放ち。
それによりこれまた乗機諸共、ウィヨルとフィダールは攻撃を喰らい。
爆炎に包まれる。
「な、何ということだ……あれを一撃で」
「いや待って! まだだわ!」
それを見て驚く剣人だが、青夢は冷静さを保ちそう叫ぶ。
果たして。
「くっ……よくもやってくれたな!」
「もはや許すまじ!」
ウィヨルとフィダールは、改めて分離させた幻獣機アガレスと幻獣機ヴァサゴをそれぞれに駆り。
爆炎の中より、踊り出る!
「やっぱりその程度じゃやられないか……さあ行こう、黒日! 青夢を助けなきゃ!」
「うん、真白!」
しかし、織り込み済みとばかり。
真白と黒日は、ウィヨルとフィダールとの臨戦態勢に本格的に入る。
「そうだよ、初陣でみっともない真似見せられない……ようやくあんたと肩並べることができるんだからさ、青夢!」
真白も黒日も、抱える思いは同じく。
セイビング ベストフレンド――親友を救う、である。
◆◇
「あ、アラクネ……?」
「だ、誰なのあなたは!?」
真白・黒日は目の前にいるアラクネに、戸惑っていた。
時は、少し前。
彼女たちが無意識のうちに件の検索ワードを唱えた直後に遡る。
その後彼女たちが奇妙な感覚に襲われてふと、目を覚ませば。
真っ暗な空間に。
光の線で繋がれた網のようなものが下に見える場所。
そう、ここはダークウェブ。
電賛魔法システムの禁断領域たる場所にして。
「ムウ……アリアタンヲ、シラントハ! キサマラ……」
「!? ひ、ひいい!」
「く、蜘蛛!?」
「こらこら、我が王。せっかく来てくれた大事なお客様ですのに。」
「オオ……スマン、アリアタン。」
ダークウェブのかつての王タランチュラと、そこに騎乗するこれまたかつての女王アラクネのいる所である。
尤も、アラクネは長らくダークウェブの姫君アリアドネを名乗り。
現在でもその名残でタランチュラは彼女をアリアタンと呼ぶのだがさておき。
「さて……ごめんなさい。」
「え!? い、いいえそんな……」
「お、お構いなく!」
真白と黒日は、アラクネから優しい微笑みを向けられ。
思わずドギマギしながら、手を全力で振る。
「ていうか黒日……あんた、こんな暗い所なのに何でそんな鮮明に見えるの?」
「ああ、まあ白いからかなー♡ ……って、あれ? 真白ー、どこにいるの?」
「いやいや、今ちゃんと目ぇ合わせたやんけ! 何わざとらしいボケかましとんじゃおら! そんなに私黒くないわ! ……って、あれ? 私も私が見えない……」
「……ふふふ!」
「……え??」
こんな時でも、いつも通り軽口を叩く彼女たちだが。
アラクネはそんな二人を見て、またも笑う。
「なるほど……あなたたち確かに、あの青夢さんの親友なのね! そうよ……あなたたちがいてくれれば青夢さんは、もっともっと強くなれるわ!」
「! 青夢が……? そ、そうだ! わ、私たち青夢を助けてあげたいんです!」
「そ、そのための力を、アラクネさん?なら貸してくれますか?」
アラクネの言葉に。
黒日と真白は、堰を切ったようにそう言った。
「ええ、貸せるどころか。私は力をあげることができるわ。あなたたちが、強く望むなら。」
「わ、私たちが……?」
「強く、望むなら……?」
――まったく……つくづく水臭いよね青夢は!
――うん、私もそう思うよ真白!
アラクネの更なる言葉に、二人は顔を見合わせるが。
すぐに思い当たる。
そう、自分たちの切なる願いに。
「あなたたちは、既に強く望んだからここに来た。……でも、まだ足りない! さあ、今一度あなたたちの願いを聞かせて! hccps://baptism.tarantism/!」
「は、はい!! サーチ セイビング ベストフレンド!! ……!? こ、これは!?」
黒日と真白が、改めて検索ワードを唱えると。
hccps://diana.wac/
hccps://aradia.wac/
浮かび上がって来たのは、この二つのURL。
「ええ、いずれあなたたちがあの娘・青夢さんを……夢から、救ってあげてね?」
「は、はい! ……ん? ゆ、夢から……?」
その言葉に、黒日・真白は更に首を傾げるが。
「ん!?」
「こ、これって……?」
その刹那、二人の頭に。
これまでの青夢たちの戦いの様子や、更にその他多数の記憶が流れ込み――
「そう、青夢さんの夢は果てなさすぎるけれど……それがちゃんと終わるように、あなたたちが助けてあげてね?」
「は、はい!!」
次には、二人とも納得していた。
「さあ、二人とも!」
「はい! セレクト 、hccps://diana.wac/!」
「セレクト 、hccps://aradia.wac/!」
「ダウンロード!!」
黒日と真白は、それぞれにURLをセレクトし。
そのまま、術句を唱え――
◆◇
「さあ、そこの法機よ! その大きさでは、機動力で劣るな!」
「ええ、その通りだけどご心配には及ばずよ! 黒日!」
「りょ、真白! hccps://aradia.wac/、サーチ コントローリング 空飛ぶ法機アラディア! セレクト、テイキング オフ 空飛ぶ法機ディアナ エグゼキュート!」
そうして、今。
アラクネは既に姿を消しており。
再分離した幻獣機ヴァサゴとアガレスは機動力でもって、やや鈍重に見える法機ディアナを煽るが。
黒日の乗る法機アラディア――ドッキング中は小型機二機に分かれている――が、ドッキングしていた法機ディアナの両翼から分離し。
そのまま一機に合体し、通常法機と同程度の大きさとなる。
「ふん、子機を分離しましたか……ですがそれでも!」
しかしウィヨルは法機ディアナに。
フィダールは、法機アラディアに向かう。
「やはり法機では、より小型の幻獣機には劣るのですよ!」
「あっそ。でも……hccps://aradia.wac/、セレクト 魔女の福音!」
「ふん……同じ手にも!」
黒日が術句を唱えるが。
ウィヨルは一旦法機アラディアから大きく離れる。
「fcp> get DemonsBite.hcml――悪魔の牙!」
そうして。
法機へと、幻獣機の鰐口からの斬撃を見舞う。
「hccps://aradia.wac/GrimoreMark、セレクト 福音の名の下に エグゼキュート!」
「!? な、斬撃が……ぐう!?」
が、黒日も即応し。
たちまち法機アラディアから放たれた波動が、幻獣機ヴァサゴの動きも斬撃も無効化してしまった。
「ウィヨル! ……おのれ、だがせめて母機だけでも!」
フィダールはそれを受けて動揺するが。
すぐに幻獣機アガレスを駆り、ならばと遠巻きにしていた法機ディアナに突撃を仕掛ける。
「鈍そうだからと甘くみたかしら? ……甘いわ!hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! hccps://diana.wac/GrimoreMark、セレクト 月の誘導火矢 エグゼキュート!」
「む!? ぐ、矢が追尾だと!」
しかし真白は、舐めるなとばかり。
先ほどの黒日と同じく、グリモアマークレットを使い技を改造し追尾する矢とすることで幻獣機を遠ざける。
いや、遠ざけるばかりではない。
「かかったね! hccps://aradia.wac/GrimoreMark、セレクト 福音の名の下に エグゼキュート!」
「な……ぐうっ!? し、しまった!」
「フィ、フィダール!」
そのままなんとフィダールは、法機アラディアの影響圏内に誘導されてしまい動きを封じられてしまった。
「さあ行くよ、黒日! hccps://diana.wac/ 、セレクト 三界支配!」
「うん、真白! hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
そうして獲物が網にかかった所で、真白と黒日は。
必殺の術句を詠唱し。
「……エグゼキュート!!」
「ぐああ!」
技を、発動するや動けぬ二人に放った。
爆炎に二人は、再度包まれた。
◆◇
「ま、真白! 黒日!」
「あ、青夢! ごめん。あの騎士たちも幻獣機も欠片一つ見当たらないや、逃げたみたい。」
「い、いやまあそれも大事なんだけど……そ、その法機」
青夢たち凸凹飛行隊は、そのまま自分たちの法機を法機ディアナとアラディアに近づけた。
青夢たちは尚も、戸惑うばかりである。
まさか、この二人が――
「お、おほん! と、とにかく……詳しくは魔法塔華院コンツェルン本社で聞かせてほしくってよ、お二方!」
が、そこで。
マリアナがひとまず、その場を治める。
◆◇
「まったく……この体たらくとはね、ウィヨルにフィダール。」
「も、申し訳ございません!!」
戦いの後。
円卓ではなくダークウェブの最深部で、ウィヨルとフィダールは新たな女王から叱責を受けていた。
「まあいいでしょう。……それより、これからが楽しみね。」
しかし、新たな女王は。
何故か、ほくそ笑み――
◆◇
「なるほど……ダークウェブの先王と先女王は無事でしたか! しかし……困ったことになりましたわね。」
「は、はいお母様……」
その夜、魔法塔華院コンツェルン本社の社長室にて。
母はマリアナづてに、真白と黒日からの話を聞きため息を吐く。
「まあ、さておき。マリアナさん、今話題のマイニングレースですが……近々、初の世界トーナメントがありますね?」
「は、はいお母様!」
しかしマリアナ母は、話題を変える。
「そして、さらに。……王魔女生グループと龍魔力財団と我が魔法塔華院コンツェルン運営の学校による三学園トーナメントを実施し、その中から三学園代表を決めたいと考えています!」
「な!? ……ええ、面白く存じますわお母様……」
マリアナ母の言葉に、マリアナは。
未だ事情を飲み込めないが、曖昧に微笑む。