#48 地母神の覚醒
「ついに出てきちゃったのねエルドラディアンの人たち……いいえ、VIの皆さん! 仮想世界から侵攻が始まったのね……」
青夢は目の前の光景に、状況は理解したものの驚くばかりである。
そこには。
「奇妙な鳥の乗り手共……またも相見えたな! 今度こそ我らが屈辱……地母神シパクトリの怒りを、思い知れ!」
幻獣機に乗り戦列を組む、エルドラディアンの戦士たち。
かつてのネメシス内仮想世界より具現化したシャルルたちと同じく、仮想大陸から具現化した存在である。
「Well……エルドラディアンたち! 私の部下たちを可愛がってくれたようだな!」
「ええ……わたくしたちの前に立ちはだかるというならば、容赦はできなくってよ!」
「はい、マリアナ様!」
「行こう、青夢!!」
「待って、皆! このビル街の中じゃ戦えないわ!」
「Damn……くっ!」
空気の震動ではない、電賛魔法ネットワークを介して伝わるエルドラディアンたちの挑発に乗りかける皆だが。
青夢が窘めた通り、このビル群の中で戦えば市民が集まっている脱出用ビルをも破壊しかねない。
何より。
「(あのエルドラディアンの人たちも人間……なら! あの人たちを死なせる訳には)」
彼らを倒すということは青夢の、全てを救うという願いに反するからである。
「hccps://eingana.wac/、Select! 虹の彼方 Execute!」
「な……ぐああ!」
「な!?」
と、青夢が思う側から。
どこからともなく、法機エインガナの攻撃があり。
ビル群に立ちはだかっていたエルドラディアンの戦士たちは、幾人か散る。
「な……ミシェルさん!」
「defo! Hi、凸凹飛行隊の皆さん!」
ミシェルは法機エインガナより、意気揚々と答える。
「おのれ……奇妙な鳥の乗り手共! よくも仲間を!」
「Well! あっちから戦う気満々のようだね!」
「ええ……そうね!」
ミシェルめまったく、面倒を起こしてくれる。
青夢たちはそう言いたい気持ちを、必死でこらえ。
「……こうしましょう! 鬼さんこちら、手の鳴る方へえ!」
「ふん……まあ、三十六計逃げるに如かずとはよく言いましてよね!」
「は、はいマリアナ様!」
「青夢!!」
「OK! 隙を見て、脱出用ビルに乗り込もう!」
青夢たちは、法機を反転させ。
その場より逃げ始める。
「む! 奇妙な鳥の乗り手共め……逃げるな卑怯者! 逃がすな、追ええ!」
「応!」
エルドラディアンたちは、自騎たる幻獣機テペヨロトルを駆り。
逃げる青夢たちの法機を、追いかける。
◆◇
「どうする、セーレ?」
「Well……そんなの、考えるまでもない!」
「So……やるしかないよね!」
鰐型に変じた仮想大陸を俯瞰しつつ米代表アポストロス法機マリア群は、体勢を立て直しつつあった。
話は、空宙都市――ひいては、この仮想大陸が鰐型に変形した直後に遡る。
デイヴとの連絡は途絶えてしまったものの、セーレたちは何とか自分たちだけででも戦おうとしていた。
が、その時である。
「ははは! 奇妙な鳥の乗り手共め、震えているな!」
「ひいい!」
「What!? ……あ、あれは!」
電使言獣に騎乗したエルドラディアンの戦士たちが、エルドラドの一般市民たちを掴み上げて上がって来たのである。
「く……これじゃ」
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「く……ぎゃああ!!」
「な……こ、これって!?」
が、そんなエルドラディアンたちを。
掴み上げられた一般市民たち諸共攻撃したのは、欧代表アポストロス保有の法機アンドロメダである。
「ち、ちょっと……欧代表の皆さん!」
「大丈夫でしょ? ここは仮想大陸――仮想世界なのだから!」
「あっ……そ、そうね!」
しかし法機アンドロメダ搭乗の初花のこの言葉に、セーレたちははっとする。
そう、ここは仮想世界。
ここで一般市民が死んでも、現実で死ぬ訳ではないのだ。
◆◇
「こら、女共大人しくしろ!」
「Oh non……離しなさい!」
「口の利き方に気をつけろ、侵入者風情が!」
これまた、時は仮想大陸が鰐型に変形した直後。
そうして黄金の都中心の神殿内で、そこに侵入し図らずエルドラディアン王がシパクトリ像に祈りを捧げる場に立ち合った欧代表アポストロス面々は。
王配下たちに、捕らえられてしまった。
「hccps://andromeda.wac/……」
「は? 何だ貴様、何を」
「……セレクト 、デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「む!? ぐ……ぐああ!」
が、その時である。
徐に初花が唱えた術句に従い、既に待機させていたコンバート済み法機アンドロメダが神殿内に押し入った。
「初花様!!!」
「Oui……さあ、早く乗って!」
「Oui!!!」
初花の指示に従い。
彼女自身やターニャ・ヘーゼル・ラベンダーは法機アンドロメダに乗り、神殿を離脱する。
「く……追え!」
エルドラディアンたちは、欧代表アポストロスを追う。
◆◇
「hccps://titania.wac/! Select、初見恋慕! Execute!
「hccps://itzpapalotl.wac/、Select 蝶による最期 Execute!」
「hccps://mayahuel.wac/、Select 散骨萌芽 Execute!」
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「ぐああ!!」
その後米代表アポストロスと欧代表アポストロスの法機群は共闘し。
エルドラディアンの戦士たちを、容赦なく葬っていく。
「あ、ああ……お、おのれ! ……シパクトリよ、我らが地母神シパクトリよ! お教えください、我らはどうすれば……」
エルドラディアン王は、そんな様子を神殿から眺め憔悴する。
――ええ、エルドラドの皆さん♡ ……いいえ、もうあなたたちに仮初の物語は無用! あなた方には……本来の記憶、そして役割通りに働いてもらわないとね♡
「!? ち、地母神シパクトリ?」
と、その時であった。
神殿内のシパクトリ像より、突如として声が聞こえて来たのである。
――驚くことはないわ……私も力を貸しましょう! あの奇妙な鳥たちの本体は、外の世界にいるわだから……さあ、戦士団を外に送り込んであげましょう!
「は、ははあ! ありがたき幸せでございます地母神シパクトリ! さあ戦士団よ……あの奇妙な鳥たちを討ちに行け!」
シパクトリ像の声に歓喜したエルドラディアン王は、高らかに叫ぶ。
◆◇
「おお! な、何だこれは!?」
「奇妙な鳥の乗り手共を討てとのことだ! 地母神のご命令とあらば、御意のままにせねばなるまいな……ハハハ!」
「What!? ……エルドラディアンの戦士たちが!?」
「Quel!? き、消えていく……?」
そうして、戦っていた米・欧代表アポストロス面々が驚いたことに。
エルドラディアンの戦士団はシパクトリの導きにより、次々と現実世界へ転送されていく。
彼らが現実世界で、青夢たちの前に今立ちはだかる幻獣機乗りの戦士たちとなったのである。
更に、それだけではない。
「!? わ、鰐型の仮想大陸の尻尾が持ち上って」
「Move! 総員回避!」
「Yes!!!」
「Oui!!!!」
仮想大陸が、その尾を持ち上げ。
米代表・欧代表の法機群めがけ、振り下ろして来たのである。
◆◇
「いつまで逃げる気か、奇妙な鳥共!」
「ごめんなさい、戦いたいのは山々だけど! 私は、あなたたちも救いたいの!」
「ふん、何を訳分からぬことを……我らの救いは、貴様らの滅びだ!」
翻って、現実世界では。
幻獣機騎乗のエルドラディアン戦士より逃げ回る、青夢の法機ジャンヌダルクである。
「それは耳の痛い話ではあるけど……ごめんなさい、そういう訳には……って、きゃっ!?」
「む! な、何だ!」
が、その時である。
そうして空宙都市エルドラドの鰐型下部に差し掛かっていた法機ジャンヌダルクであるが、その鰐の前左脚が絡めとらんと伸びて来たのである。
いや、それだけではない。
「く……空宙都市が! 先ほど以上に身体を動かして来てよ! これは……厄介であってね!」
「は、はいマリアナ様!」
「く……く、黒日! あれは!」
「た、大変青夢! あの鰐が、尻尾を振り上げてるわ!」
「!? え? ……くっ!」
凸凹飛行隊の面々が、逃げ回るそれぞれで見たことには。
空宙都市の鰐型下部が、これまで以上に蠢き。
四肢の爪は勿論、その眼も牙も剥き。
周りを煩く飛び回る法機群を、執拗に狙い始めたのである。
更に、仮想大陸がそうであるように。
空宙都市では背部の摩天楼群を潰さんとするかのように尾を振り上げているとあっては、青夢たちの心中は穏やかではない。
「おお……我らが地母神もお怒りだ!」
「思い知れ、奇妙な鳥共! ハハハ!」
「くっ、このままじゃ!」
「hccps://sekhmet.wac/、セレクト 病の火息!」
「hccps://AlUzza.wac/、セレクト 神の権力!」
「hccps://devi.wac/、セレクト 多面の相!」
「エグゼキュート!!!」
「!? な!」
と、その時であった。
突如として空宙都市の尾を始めとする鰐型下部のあらゆる箇所に、火線が炸裂したのである。
「こ、これって……」
「Oui!!! 私たちがいればもう大丈夫よ!!!」
その攻撃の主は、ターニャら欧代表の法機マリア群であった――