#46 その名はウングル/インガルナ/ユルルングル
「おお我らが地母神よ……このエルドラドを統べたもう母なるシパクトリよ! 今我らの地は、外なる者たちの侵攻により未曾有の危機に晒されております……さあシパクトリよ! 今こそ、私たちに道をお示しください!」
「? シパクトリ?」
空宙都市エルドラドが巨大な鰐となり、凸凹飛行隊やデイヴがそれを奪還しようと戦っている現在より時を遡り。
初花ら欧代表アポストロスが仮想大陸の黄金の都中心地となる神殿に初潜入した時だ。
中にいたのは、エルドラディアンたちの王だが。
初花たちは彼が崇める、そのワニのごとき神像を見ている。
「ミシェル。」
「! Hi、ハンナ。」
が、実はここに潜入していたのは欧代表アポストロスだけではなく。
ミシェルら豪代表アポストロスもであった。
「空はどう?」
「YEAH……青夢さんたち、エルドラディアンと戦ってるよ!」
「そう……ならここは、私たちが引き受けないとね……!」
やはり空宙都市を探ろうとしているのは、欧代表だけではなかったようだ。
「YEAH……そろそろ行きましょう。」
「 Hey、なんで、ミシェル?」
だがミシェルは。
豪代表アポストロスに、そう告げた。
「あれはどうやら、触らぬ神に祟りなしって奴みたいだしね! ちょっと、もう少しこの空宙都市エルドラドを調べる必要はありそう。」
「YEAH、ミシェル!!!」
◆◇
「ミシェル、どう?」
「YEAH……空宙都市、なんかヤバいことになってるみたい!」
「OH! な、何これ!!!」
そうして、空宙都市が地母竜形態に変形した時。
思うところあって空宙都市下部の損傷箇所に潜んでいた豪代表アポストロスの面々も、他の面々と同様空宙都市の変わり様に驚いていた。
さらに、それだけではなく。
空宙都市より、数編成ほどの空宙列車が現れ。
それらは次々と捲れるようにして機体上部を起こし、その起こされた上部は砲身を形作る。
それは日本の空宙都市計画の時にも出て来た、空宙列車砲である。
「What!? あ、あれは……」
「YEAH……あれは空宙列車砲とかいうらしいわ。見て、砲身を真下に向けている。どうやら……地上を破壊する気なようよ!」
「OH、NO!」
ミシェルたちは尚も空宙都市の外を見て、歯軋りする。
今にして思えば、あのエルドラディアン王が祈りを捧げていたシパクトリとかいう像。
恐らくはあれが、このシステムの起動キーになっていたのではないか。
「YEAH……皆! 実はアメリカには話つけて、空宙列車電磁砲を一編成用意したの。ハンナたちはそれで外に出て戦って。私は、この空宙都市の中で戦うわ。」
「What!? み、ミシェル!!!」
ミシェルは考えた上で、ハンナたちにそう告げた。
「な、何で? 私たち、いつでも一緒に」
「YEAH、そうよ! だけど……今はひとまず別々に! じゃないと、私後悔しちゃうから!」
「ミシェル……」
「defo! 改めてあれを――空宙列車を見て! あの真下に向けた砲身が、地上を焼き尽くすの。カンガルーやコアラが暮らす私たちのオーストラリアも焼き尽くされちゃうの! それはダメ。」
「ミシェル……」
尚もミシェルは、そうハンナたちに告げる。
「……Guarding Animals and peoples.」
「!? What?」
ミシェルはふと、そうハンナたちに告げた。
「defo! 私が私の法機――エインガナを授かった時の願いよ。私は守りたいの……人も、動物たちも! さあ皆……動物たちが暮らす、地上を守ろう!」
「……YEAH、ミシェル!!!」
そうして彼女たちは、一旦別れる。
◆◇
「ミシェル……」
そうして、豪代表の空宙列車電磁砲にて。
ハンナたちは自身の法機を搭載し、空宙都市エルドラドを離れたが。
やはり胸には、残して来たミシェルへの不安が募る。
――待てー、カンガルー!
――ミシェル、待ってよー!
――OH! 足早すぎ!
――待ってー!
豪代表アポストロスの四人は、元々幼馴染だった。
彼女たちは、豪州の広い大地を縦横無尽に駆け抜けて共に育った。
何より。
―― 私は守りたいの……人も、動物たちも! さあ皆……動物たちが暮らす、地上を守ろう!
「defo……私たちだってそうだよ、ミシェル!」
「defo!!!」
先ほどミシェルが語った気持ちは、ミシェルたちも共有していたものだった。
ならば、願いはただ一つである。
「ははは、さあ凸凹飛行隊とやら! 俺様たちが目にもの見せてやろう……hccps://baptism.tarantism/!」
「……Search!!! We guard Animals and peoples, too!!!」
その頃、ちょうど凸凹飛行隊の空宙列車を砲撃しようとしていた宙飛ぶ龍人艦艦隊が術句を唱えたことと。
豪代表アポストロスの三人が願いを唱えたタイミングは、同じだった――
◆◇
「What!? こ、ここって……」
ハンナ・エイミー・アドリアーナは混乱している。
何やら、突如として飛ばされて来た闇の空間。
光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。
しかし三人には、見覚えはないが聞き覚えはあった。
それは――
「ようこそ……ダークウェブへ。」
「!? ……あ、あなたは?」
ふと声をかけられ、彼女たちは面食らう。
そう、やはりそこにいたのは。
「……私はアラクネ、あなたたちの望みをもう一度。」
「……え???」
アラクネは優しく微笑む。
「defo……そうよ! ミシェルが言っていたダークウェブの女王様!」
「What!? か、彼女が?」
「realy!?」
ハンナたちはしかし、急な事態に尚も戸惑う。
「アイモカワラズ、ゴチャゴチャト……ウルサイゾ、ムシケラノゴトキ、マジョドモガ……!」
「!!! ひ、ひいい!!!」
が、毎度お馴染みというべきか。
アラクネが騎乗するダークウェブのかつての王タランチュラが、彼女たちを咎める。
「こらこら私の王、また悪い癖が出てますよ。」
「オオ……スマン、アリアタン!」
「な……」
そんなタランチュラを窘めるアラクネに、ハンナたちはすっかり困惑している。
「あら……ごめんなさい、ほったらかしにして。でも……これを見てくれる?」
「What??? ……な!!!」
アラクネはふと気づき。
そんな彼女たちに、とあるビジョンを見せた。
「defo……さあ、急がないと! この空宙都市エルドラドのシステム中枢は、恐らくあの仮想大陸黄金の都……なら! ログインのためにあのビルへ!」
空宙都市内に残ったミシェルは。
そのまま徒歩で、仮想大陸へのアクセスポイントへと急ぐ。
が、都市内の空宙列車も動かぬ中では移動も困難であり。
「defo……止むを得ないわね! hccps://eingana.wac/、Select! departure of 空飛ぶ法機 Execute!」
ならばとミシェルは、法機エインガナを呼び出す。
そうして彼女は、仮想大陸へのアクセスポイントへと急いだ。
「ミシェル……」
「無茶してるみたいね……」
「Damn……早く、私たちも!」
ハンナたちは、そんなミシェルの姿に。
焦りを募らせる。
「ふふふ、さあて……あなたたちの願いを改めて唱えて! hccps://baptism.tarantism/!」
「y、YEAH! ……Search!!! We guard Animals and peoples, too!!! !? これは……!!!」
hccps://ungur.wac/
hccps://yurlungur.wac/
hccps://yingarna.wac/
そうしてアラクネに促された彼女たちが、検索ワードを唱えると。
目の前にURLが浮かび上がる。
「これがあなたたちの力よ……さあ、お行きなさい!」
「は、はい!!!」
戸惑う三人だが、すぐに。
「セレクト、hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「ダウンロード!!!」
「hccps://maria.wac/、セレクト 仔羊の誕生!!! hccps://maria.wac/GrimoreMark、セレクト 受胎告知 エグゼキュート!!!」
そのまま彼女たちは、術句を唱え――
◆◇
「hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「Select!!! 今際の紐解き、Execute!!!」
そうして、今に至る。
豪代表アポストロスの空宙列車電磁砲より。
雷雨神砲による空宙都市防御幕は更に虹に覆われ。
以前とは比べ物にならない規模で、爆発が起きる。
「defo……エイミー、アド! 大丈夫よミシェルなら……私たちは今、自分たちが託された外からの攻撃に専念するの!」
「defo!!」
中にはミシェルがいるが、ハンナたちは攻撃の手を緩めない。
全ては、託された役割をまっとうするため。
「またあの女王様ね! まったく、本当に何でこうも法機をたくさん……まあいいわ! 空宙列車電磁砲、全速前進! 目標、空宙都市エルドラド!」
「ふん……やはり前進あるのみってことであってね。しかし魔女木さん、どうするのであって?」
そんな豪代表アポストロスの攻撃は、同時に空宙都市エルドラド内の人質救出カウントダウンを早めるものでもあり。
青夢も凸凹飛行隊面々も、もはや止むを得ないと悟っている。
「考えが、あるわ!」
青夢は、そんな覚悟をこめて今空宙列車で肉薄しつつある空宙都市を見る。
雷雨神砲による空宙都市防御幕が、目の前に迫っていた――