#45 戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦
「あれは……なるほど。あれが、凸凹飛行隊の切り札というものですか!」
パールは宇宙空間に浮かぶそれを見て、驚愕していた。
戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦。
それはヘロディアス艦や魔神艦よろしく、人の上半身を模した艦橋を備え。
三連装の主砲塔を艦前部に計三基揃えた、かつての大艦巨砲主義時代の戦艦を思わせる外観も同じだが。
艦後部には、その人型艦橋の頂上部にまでかかるほどの高さを誇る三段飛行甲板が備えられている。
あの魔法塔華院コンツェルン保有の三段法母をベースにしたことは一目瞭然であった。
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「ぐっ!? て、敵戦艦より砲撃多数!」
そうして魔男たちが、未だ呆ける中。
三段法騎戦艦からは、真白の遠隔操作による法機ディアナの多段対空攻撃が魔男艦隊や法機に対し放たれる。
「く……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 竜獄炎砲 エグゼキュート!」
負けじと宙飛ぶ龍人艦群からも、主砲の斉射が見舞われる。
三段法騎戦艦と龍人艦艦隊、二つの砲撃が宇宙にまだら模様を描く。
「オッケー、いいよ真白! さて……改めて! 私たちは、空宙都市を目指さないとね!」
青夢はそんな艦隊戦を空宙列車電磁砲車窓より眺め。
それから改めて、空宙都市を見る。
そう、今は艦隊戦をあの三段法騎戦艦に任せるしかないのだ。
だが彼女たちは、最初からその三段法騎戦艦の存在をすんなり受け入れられた訳ではなかった。
◆◇
「!? お母様より入電であってよ……こ、これは!」
「え……? な、こ、これって!?」
時は、少し前。
青夢たち座乗の空宙列車電磁砲が、空宙都市エルドラド相手に強行突入を行なっている最中だった。
地上のマリアナ母より凸凹飛行隊全員に入電し、送られた図を見てみれば。
それは、驚愕すべきものだった。
「な……何、なのこれは!?」
「これは……へ、ヘロディアス艦ですの!?」
それは、戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦の完成図と。
その構築方法として今地上にいる魔法塔華院コンツェルン保有の三段法母をベースとすることに加え、剣人や青夢の法機の力が必要なことも書かれていた。
「ま、マリアナ様!」
「ええ……ありがたく存じますわお母様! これで、戦況を」
「待って、魔法塔華院マリアナ! 今それを使ったら、空宙都市や敵を余計刺激するだけだわ慎重に」
「きゃっ!!!」
「な……何!?」
それに対してそれぞれに反応する青夢たちだが。
突如として彼女たちの空宙列車を衝撃が襲う。
「Damn……そ、外に敵艦隊が!」
「な……何ですって!?」
車窓から眺めた景色に、青夢たちは驚く。
宙飛ぶ龍人艦群。
龍男の騎士団長ベリットに率いられるそれらは、戦列を組み今空宙都市に肉薄しつつある空宙列車に、砲撃を仕掛けたのだった。
「く……これじゃ!」
青夢たちは思わぬ敵の加勢に、歯軋りする。
「魔女木さん……確かに、先ほどのあなたの言葉は一理あってよだけど! 今は、もうなりふり構ってはいられないのではなくって?」
「そうよ、魔女木!」
「くっ……ええ、そうね!」
だがそれにより、先ほどの入電内容を遂行するという凸凹飛行隊の意思が後押しされた。
「では行きましてよ…… hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ バンパイヤ! エグゼキュート!」
まずはマリアナが法機カーミラの力により、地上の三段法母とのネットワークを構築する。
「さあ、唱えるよ……方幻術もお願い!」
◆◇
「これは!? 魔法塔華院の社長がこんな……ふ、面白い! hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 節制――系統調節! エグゼキュート!」
「はあ? 何を御託を並べていらっしゃるのかしら……まあいいですわ! hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し エグゼキュート!」
「くっ! また厄介な……」
その頃。
パールと戦っていた剣人も、青夢たちの通信を受け術句を唱えていたが。
それを隙ありとばかり、パールは法機マケダによるエネルギー波を放ち。
剣人は法機クロウリーを翻し、躱す。
◆◇
「よし! 方幻術がやってくれたわ…… セレクト! 幻獣機スパルトイ群、法機母艦! コーレシング トゥギャザー!」
「トゥー フォーム 戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦プリンセス オブ 魔法塔華院II世! エグゼキュート!」
再び、青夢たちの空宙列車内では。
剣人の術句詠唱を感知していた。
剣人が先ほど唱えた術句は、法機ヘカテーの能力のごとく巨大兵器構成機となる幻獣機スパルトイ群を生み出すものであり。
そのまま幻獣機スパルトイ群は法機母艦の艦体に取り憑き、再構築し始める。
たちまち法機母艦は、その三段飛行甲板を艦後部に備え艦前部には主砲塔三基が構築された姿に変わっていく。
「hccps://Hades.char/、セレクト コネクティング! hccps://AomuMameki:××××××@ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート!」
更に青夢は、再構築されつつある法機母艦に聖血の杯と電使翼機関をダウンロードし始める。
それにより法機母艦艦体中央部には女性上半身を思わせる艦橋部が、さらに艦体下部には宇宙航行用ブースター噴射口が形成される。
「行こう、青夢!!」
「Well……よく分からないが、頼みます!」
「はい、デイヴさん! ……セレクト! デパーチャー オブ 戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦! エグゼキュート!」
青夢たちはそうして、術句を唱え。
その命令を受けた三段法騎戦艦は、その電使翼機関より噴流を放ち――
◆◇
「さあ……呆けている場合じゃないわ! 空宙列車電磁砲加速!」
そうして、今に至る。
そんな戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦だが、青夢たちから見れば必ずしも招かれるべき客ではなかった。
何故なら。
「ふん……しかし! 空宙都市エルドラド! もはや敵も焦っているようですわ、人質をどうにかしなさい!」
「な……アブラーム!」
パールが、空宙都市エルドラドにそう命じる。
「ああいう力を誇示しちゃうと、敵を挑発しちゃうのよ! つまりあれが出て来たせいで、空宙都市の中の人質たちを助けるタイムリミットが早まったってこと! さあ早く、助けに行かないと!」
「OK!」
青夢はそう言い、空宙列車電磁砲が纏う擬似大気圏乱流とエネルギー雨を強め。
更に空宙都市エルドラドに肉薄していく。
「だけど青夢……あの雷雨神砲?だっけ。あれを突破するにはどうしたら」
「! そうだ、黒日。あれよ! あの…… 火炎誘爆砲!」
「! そうね、それがいいわ!」
真白と黒日は、青夢にそう提案する。
そう、火炎誘爆砲。
かつての魔男の兵器であり、トバラ族との戦争時には青夢がその技術を模倣し突破口を開いたあれである。
確かに、一見すればあの技はバリア全般に有効なように見える。
しかし。
「まったく……お忘れであって魔導香さんに井使魔さん! あれは誘爆を前提としていてよ。だけど……ここは、宇宙の真空であってよ?」
「あ……!」
マリアナはすかさず、彼女たちを咎める。
そういうことである。
「ええ、魔導香……間違えた真白に黒日。あれは酸素大気内じゃないと力が出ないわ!」
「そっか……いや、待って! ならデイヴさんの法機であの空宙都市周りに大気圏作っちゃえば!」
「Well……Sorry、Ms.Madoka! いくら僕のギガンティックマンドレイクでも、あれを全て覆うのは……」
「そんな……」
青夢の言葉に、食い下がる真白と黒日だが。
デイヴからも、前向きな反応は得られない。
やはり、駄目か――
と、その時であった。
「hccps://ungur.wac/!」
「hccps://yurlungur.wac/!」
「hccps://yingarna.wac/!」
「Select, 虹の彼方 Execute!!!」
「!? な……く、空宙都市が!?」
青夢たちが、車窓から見て驚いたことに。
なんと、雷雨神砲による空宙都市防御幕は突如虹に覆われ。
数カ所で、爆発が起きる。
それは。
「YEAH! 爆発したよ!」
「OH! さあ、次は私たちのturnだね!」
「YEAH!」
青夢たちとは反対の衛星軌道を走る空宙列車電磁砲。
そこに座乗するハンナ・P・リットン、エイミー・C・アール、アドリアーナ・リー・ウィズダムの三人による、豪代表の攻撃である。
「あらあら……これで、法機がまた増えましたわね!」
しかしこれを見てパールは、何故か歓喜した。
かくして。
改めて空宙都市を巡る戦いは、これより始まるのであった――