#44 決死の空宙列車
「どんな小細工かは知りませんが……姿を消して、あの空宙列車で空宙都市に攻め入る気ですか!」
法機マケダより周辺宙域を尚も見渡し、パールはため息をつく。
相変わらず、空宙列車電磁砲の姿は見えないが。
「真白! 法機ディアナの力発動して!」
「オーケー、青夢! hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! エグゼキュート!」
「む!? ふん……ちょこまかと!」
これまた相変わらず、その空宙列車電磁砲搭載法機の攻撃が法機マケダに飛来して来る。
それはパールにとって苦もなく躱せるものではあるが、煩わしいことこの上ない。
「さあ……空宙列車電磁砲、全速前進! 目標、空宙都市!」
「YES、Ms.Mameki!」
青夢はそんな中、もはや立場を忘れて指示を出し。
しかしデイヴも特に気にも留めず、言われるがままに空宙列車電磁砲を空宙都市に向けて発進させる。
「あらあら……この私を出し抜こうなどと! 相変わらず癪に触る者たちですね凸凹飛行隊。空宙都市! 迎え撃っておあげなさい!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 正義――悪虐成敗! エグゼキュート!」
「あら!? 油断なりませんわね……方幻術剣人!」
尚も凸凹飛行隊を忌々しく思うパールだが、そこへ剣人のクロウリーからの攻撃に見舞われる。
「ああ、飛行隊長が相手するまでもない! お前ごとき、俺だけで十分だ!」
「ふふ……減らず口を叩いて命を減らす羽目にはならぬようお気をつけてほしいですわ!」
パールも負けじと、クロウリーを睨む。
◆◇
「デイヴさん、あの中の皆を救う方法は何かないんですか?」
「Well……ある。」
「!? ほ、本当ですか?」
そうして、空宙都市に肉薄しつつある空宙列車電磁砲車内では。
青夢の質問に対してデイヴが、そう答えていた。
「YES……The gold street! 確証はないが、今そこのビルに一般市民や部下たちが仮想大陸へのログインのために集まっているはずだ。そのビル自体が脱出カプセルになっている!」
「な!?」
「そ、それなら!」
青夢にとっては、一筋の光明である。
「……でも、待ってください! 一般市民が? そうだ……デイヴさんの部下の皆さんは監視台に! 欧、豪の代表も他のどこかに……」
「No。彼らは恐らく大丈夫だ! だが問題は……それを使うには、直接乗り込んでのマニュアル操作が欠かせないということなんだ!」
「! え?」
しかしデイヴは、そう話す。
曰く、その脱出カプセルになっているビル一棟は。
内部に入り込み、直接コンソールを操作する形でなければ都市内からは脱出できない仕様であるらしい。
「そう……なら! 空宙都市エルドラドに、突入しないとね……!」
しかし、ならばと青夢は覚悟を決める。
◆◇
「……力――遠心力波動! エグゼキュート!」
「やれやれ! まったく、相変わらずの煩わしさですわね!」
そうして。
空宙都市エルドラド対宙砲射程外宙域を飛び回りながら、法機クロウリーは衝撃波を見舞い。
パールは法機マケダ機体を翻し、攻撃を尚も躱している。
「どうした、アブラームとやら! 逃げてばかりとは魔男の風上にも置けないな!」
「ああら……まあそんな挑発には乗りたくありませんが! まあいいですわ、ならばこれをご覧なさい…… hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、 神移し エグゼキュート!」
「む!? な、何だこのビジョンは!?」
が、そこで。
パールは法機マケダの力により、剣人に干渉し――
◆◇
「さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! さあ、here we go!」
それは毎度お馴染みというべきか、DJセレネーのラジオ番組であるが。
「さあて、今日のマイニングレースは……またも今話題沸騰中の、空宙都市エルドラドから……なんだけど! 何か大変なことになっているyo!」
セレネーは、(ややわざとらしいが)顔を青くして続ける。
「何と何と! 最近もまた救世主捕縛の鎖に対する攻撃があって! それが……この空宙都市エルドラドから行われていることが分かったyo! 更に……見て! 空宙都市エルドラド、何か大変なことになってるyo!」
セレネーはそうして、空宙都市があの鰐のように変形する映像を見せる。
「これは……もしかして世界を狙ってるno!? OH NO! セレネー怖いyo! 皆どう感じてる? どしどしコメント寄せてne!」
――空宙都市エルドラドで惰眠を貪り私腹を肥していた奴ら、それだけじゃ飽きたらずに世界攻撃してんのかよ?
――あるいは魔男か何かに人質に取られてる? だとしたら、金持ち自慢なんかしてるからだよ〜! ザマあ、いい気味〜!
セレネーが促したコメントには、いずれも今エルドラド内に囚われている一般市民を嘲笑うものが次々と投稿されていく。
◆◇
「な、何これ!?」
「あのラジオ番組であって!?」
「ま、マリアナ様!」
「青夢!!」
再び、空宙列車電磁砲車内では。
パールが法機マケダの力によりビジョンを見せた相手は剣人のみならず。
青夢やマリアナ、法使夏に真白・黒日やデイヴにもであった。
「What!? く、これでは……」
デイヴはそんなラジオ番組の様子に。
エルドラドから市民を救い出しても、世界から反発された彼らは辛い思いをするのではないかと懸念を抱く。
が。
「デイヴさん、ためらうことはありません! 部下の方たちや他国代表の方たちは、そんな簡単に死ぬことはないんでしょう? だったら……私たちは、ただただ一般の方たちを救いに行くだけです!」
「! Ms.Mameki……」
「青夢……」
「魔女木さん……ミスター・ソーに対して遠慮がなさすぎであってよ!」
「そうよ、魔女木!」
青夢は、既に覚悟を決めていた。
それに対して、それぞれの反応をする凸凹飛行隊だったが。
「YES……行きましょう皆さん!」
「もちろんであってよ、ミスター・ソー! しかし……そろそろ、空宙都市の雷雨神砲射程圏内に入りますわ!」
「Well! 大丈夫、私に考えがあります!」
マリアナが懸念する通り。
細かなエネルギー雨が絶え間なく降り注ぐ、法機にとって天敵となる防衛圏を今空宙列車電磁砲は突破しようとしている。
「hccps://giganticmandrake.mna/edrn/fs/typhon.fs?stooming=true――Select, 嵐の神!」
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「hccps://giganticmandrake.mna/GrimoreMark/、Select 雷雨神台風 Execute!」
すかさずデイヴと凸凹飛行隊は。
搭載の法機たちに命じてグリモアマークレットを発動する。
たちまち空宙列車電磁砲を覆っていた擬似大気圏は渦巻き、嵐を纏い。
攻撃こそが最大の防御とばかりに、エネルギー雨を多数放つ。
それらは空宙都市の雷雨神砲とぶつかり合い、相殺していき。
それにより勢いをつけた空宙列車は、エネルギー雨の中を突き進む。
「よし、このまま!」
「!? お母様より入電であってよ……こ、これは!」
「え……? な、こ、これって!?」
と、その時。
地上のマリアナ母より凸凹飛行隊全員に入電し、送られた図を見てみれば。
それは、驚愕すべきものだった。
「ま、マリアナ様!」
「ええ……ありがたく存じますわお母様! これで、戦況を」
「待って、魔法塔華院マリアナ! 今それを使ったら、空宙都市や敵を余計刺激するだけだわ慎重に」
「きゃっ!!!」
「な……何!?」
それに対してそれぞれに反応する青夢たちだが。
突如として彼女たちの空宙列車を衝撃が襲う。
「Damn……そ、外に敵艦隊が!」
「な……何ですって!?」
車窓から眺めた景色に、青夢たちは驚く。
◆◇
「おおっと! そう易々とうまく行くと思ってもらっては困る……この龍男の騎士団長ベリット様が来たからな!」
やはりというべきか、半人半艦の巨大兵器宙飛ぶ龍人艦群。
龍男の騎士団長ベリットに率いられるそれらは、戦列を組み。
今空宙都市に肉薄しつつある空宙列車に、砲撃を仕掛けたのだった。
◆◇
「く……これじゃ!」
青夢たちは思わぬ敵の加勢に、歯軋りする。
「魔女木さん……確かに、先ほどのあなたの言葉は一理あってよだけど! 今は、もうなりふり構ってはいられないのではなくって?」
「そうよ、魔女木!」
「くっ……ええ、そうね!」
だがそれにより、先ほどの入電内容を遂行するという凸凹飛行隊の意思が後押しされた。
「さあ、唱えるよ……方幻術もお願い!」
「行こう、青夢!!」
「Well……よく分からないが、頼みます!」
青夢たちはそうして、術句を唱え――
◆◇
「……エグゼキュート!」
「はあ? 何を御託を並べていらっしゃるのかしら……まあいいですわ! hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し エグゼキュート!」
「くっ! また厄介な……」
その頃。
パールと戦っていた剣人も、青夢たちの通信を受け術句を唱えていたが。
それを隙ありとばかり、パールは法機マケダによるエネルギー波を放ち。
剣人は法機クロウリーを翻し、躱す。
「先ほどのお言葉、そっくりそのままお返ししますわ……逃げてばかりでは、戦いになりませんわよ!」
「ふん……余計なお世話だ!」
先ほどとは打って変わり、パールが剣人を追い詰める。
「遅いですが、龍男の騎士団も到着しましたわ! これであなたの凸凹飛行隊も終わりですわね、ほほほ!」
「ぐっ……魔女木!」
パールは龍男の艦隊をもちらりと見て、高笑いする。
よし、これで――
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「む!? これは……!?」
「よし……ようやく着いたか!」
が、その時であった。
突如として、砲撃が法機マケダを翳め。
パールは慌てて自機を避けさせる。
それは一瞬、あの空宙列車電磁砲より放たれたかに見えたがさにあらず。
「な……あれは!?」
「べ、ベリット騎士団長!」
龍男の騎士団も、驚いたことに。
現れたのは、一隻の艦。
それは艦橋部が人の上半身を思わせる、一見すると魔男の魔神艦を彷彿とさせる艦だが魔男のものではなかった。
それは。
「戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦! 突貫工事にぶっつけ本番もいいところだけど……プリンセス オブ 魔法塔華院の改造、どうにか間に合ったみたいね!」
青夢が車窓よりこの艦を見て声を上げる。
戦乙女の宙飛ぶ三段法騎戦艦。
それは先ほど凸凹飛行隊が唱えたグリモアマークレットにより、法母プリンセス オブ 魔法塔華院を急遽改造したものだった――