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ウィッチエアクラフト〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜新たな女王編  作者: 朱坂卿
新・第四翔 空宙都市エルドラド ゴールドラッシュ
43/74

#42 仮想大陸の目覚め

「都市の下部は直りそうか?」

「YES、Boss! 損害軽微につき、都市内にストックされた予備資材でいけます!」


 魔男との三度の戦いから数日後。

 デイヴは部下と共に、先の戦いで被弾した空宙都市下部に来ていた。


 今デイヴと部下の会話にもあった通り損害は軽微であり。


 工事は早く終わりそうであった。


「(But……あの時見えたあれは……)」


 デイヴはしかし、気になることがあった。


 それはこれまた先の戦いに際してこの空宙都市下部に見えた、何やら蠢いた奇妙な黒い巨大な影。


 生物的な挙動を見せるあれは、しかしながらすぐに引っ込み全体像は知れなかった。


 それでもデイヴは、確かに見たのだ。


 ――もしかしたら、エルドラディアンたちに仮想大陸で戦争を起こさせてシステムにダメージを与えたかったのかも……


 青夢のいつかの言葉もある。


 それを裏付けるかのように、またまた先の戦いで黄金の都に偵察に出したセーレらからは。


 ――ソー軍曹、お喜びください! あのエルドラディアンとかいうNPC軍団がまた襲って来ましたので、私たちの手で倒して来ました!


 こんな、嬉々とした報告が返って来た。


「(やはり……何かあるのか、この空宙都市には……!)」


 デイヴはそれらから、既に確信しつつあった。

 やはり、この空宙都市には――


「YEAH! これは中々ひどいやられようね……」

「!? What、豪代表の皆さん……」


 と、その時である。


 後ろから突如声がしてデイヴが振り返れば、そこにはミシェルら豪代表アポストロスの面々が。


「何故ここにいるのですか、この区画には入場制限を設けているはずですが」

「Oh、Sorry! うっかり見落としちゃったのよ〜! ねえ、皆?」

「YEAH!!!」


 ミシェルらはわざとらしく、おどける。


 ◆◇


「うーん……」


 その頃、空宙都市ホテル内の自室にて。

 青夢は、考え込んでいた。


 その内容は、無論。


「あの女王様――アラクネさんに聞かなきゃ! 何であんなタイミングで米代表アポストロスに法機なんか渡したのかって!」


 この前の、戦いについてである。


「hccps://jehannedarc.wac/! セレクト オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!」


 青夢はアラクネに謁見したい一心で、法機ジャンヌダルクの力を発動する。


 が。


「……なるほど、沈黙を守るということなのね! なら……」


 アラクネは現れず。

 ならばと、青夢は次の手に出る。


 それは。


「ん、何や魔女木の姉ちゃん! 珍しいなあ、自分からかけてくるやなんて。」

「ええ、久しぶりね。赤音……」


 アラクネの側近とも言える、赤音へのスマートフォンによる通話というコンタクトであった。


「……アラクネさんに会わせてほしいの。」

「は? 何や、珍しいなあ! そんなこと頼むやなんて。」


 青夢は珍しく、そう頼んでいた。


「あー、だけどすまんなあ……あたしら、今忙しくしててん! せやから、ちょっと無理や。」

「そう……分かった。」


 が、赤音からの返答はそれだけだった。

 青夢もそれを受け、通話を切る。


「何や、何かあるみたいやな……」

「騎士団長、どうしたんだい?」

「ああ、ちいと野暮用でなあ!」


 声がして赤音が振り返れば。

 そこは、どこかの法機格納庫であり。


 法機マルタと法機キルケ・メーデイア、更にはその乗り手たるメアリーとミリアの姿が。


「さあてと……あたしらは、あたしらの野暮用を果たさなあかんなあ!」

「ああ、そうだねえ!」

「はい、騎士団長に姐様!」


 話もそこそこに、赤音もメアリーもミリアも自機に乗り込み。


「hccps://martha.wac/!」

「hccps://circe.wac/!」

「hccps://medeia.wac/!」

「セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)、エグゼキュート!!!」


 自機たちを、それぞれに発進させたのだった。


 ◆◇


「うーん……」

「大丈夫、青夢?」

「え……あ、ううん大丈夫!」


 その後、都市内を走る空宙列車内にて。


 またもいくつかに分かれて自由行動をする凸凹飛行隊面々のうち、青夢と真白・黒日たちは都市内を散策していたが。


 座席で物思いに耽る青夢に、真白・黒日は心配し尋ねていた。


「(またエルドラディアンの人たちをたくさん死なせた……このままじゃ、本当にまずいことになるわ。)」


 青夢の心に去来したのは、やはりあのVIたちが住まう仮想世界の記憶である。


「(アンヌ……ぐっ!? くっ……)」

「青夢!? 青夢!?」


 が、その時である。


 突如として青夢は頭痛に襲われて苦しみ出し、真白・黒日はそんな彼女を心配する。


 ――ああ……イエス様! そして……真なる王! 私に……私に勇気を! hggpに基り雷賛魔導書目録グリッドモワールズリスト閲覧! サーチ……


「(これ、は……?)」


 青夢は苦しみの中、見た。

 燃え盛る炎の中、苦しむ少女。


 いつも夢に見ていた、あのラピュセルの姿を――


 ◆◇


「ようこそ皆さん。さあ……その顔を見せて!」

「はっ、新たな女王陛下!!」


 魔男の円卓では。


 新たな女王の呼びかけと共に、12騎士団長とパールが照らし出される。


「……まず。此度の敗北は、痛手ですね。」

「は、ははあ! も、申し訳ありません……」


 そうして会議の開始早々に。

 レイブンは、吸血鬼艦艦隊の敗北を咎められてしまった。


「……恐れながら新たな女王陛下。この前の敗北しかしながら、まるで意味がなかったことでもございませんわ。」

「!? あ、アブラーム卿……」


 と、その時。

 声を上げたのは、第一席のパールである。


「パール。ええ、そうね……ならば、次の指令を下さなければ。 ……12騎士団長諸卿、新たな女王の名において命じます!」

「はっ、女王陛下!!」


 彼女の言葉を受け、新たな女王は騎士団長たちに呼びかける。





「……ふん。さあて、いよいよ蒔いた種が発芽の時ですわ……!」


 ダークウェブを介しての、円卓での会議が明け。


 パールも通信を切るや、座している自機マケダ操縦席より外を見る。


 無論、その外には。


 ◆◇


「射程圏内に、国籍不明法機接近中!」

「Well! 何だ、あれは?」


 空宙都市監視台に、動揺が広がる。

 その国籍不明法機は、あのマケダである。


「hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し(サーペントスレイヤー) エグゼキュート!」

「Damn! こ、国籍不明法機より攻撃あり!」

「Well……まだ都市下部の修理が終わり切らないが、防御を徹底すれば何とかなる!」


 マケダからの大蛇状エネルギー体による攻撃に、更に監視台には動揺が広がる。


「But……あれは斥候である可能性が高い! 空宙都市、厳戒態勢に入れ! 市民たちに、仮想大陸エルドラドへのログインを推奨するんだ!」

「了解!!」


 デイヴはしかし、冷静に指示を出す。


 ◆◇


「Hey、早く仮想大陸にログインしようぜ!」

「OK、ゴールドが得られる一大イベントがやるんだしな!」

「え……?」


 その頃、青夢たちが乗る空宙列車内では。

 乗客たちが、何やら騒いでいた。


「へえ、イベントねえ。」

「……真白、黒日。私たちは行きましょう!」

「え? あ、青夢!」


 青夢はしかし、座席から立ち上がり。

 そのままドア付近へと、歩いて行く。


「どうしたの?」

「仮想大陸は、空宙都市が戦闘態勢に入った時の中の人たちへの目眩しでもある。……って、ことは。」

「あ! ま、まさか……」

「……そう。これは!」


 青夢の言葉に、真白に黒日ははっとする。

 そう、これは戦いの予兆であると感じ取ったのだ。


 ◆◇


「初花様!」

「ええ……行きましょう! この空宙都市エルドラドのメインシステム――黄金の都の、あの神殿へ!」


 そうして、仮想大陸エルドラドでは。

 初花たち欧代表アポストロス面々が、またも暗躍し。


 黄金の都中心部を目指していた。


 ◆◇


「遅くってよ魔女木さんたち!」

「そうよそうよ!」

「! あんたたちも来てたの?」


 その頃、青夢たちが空宙都市外部へと続く空宙列車エンジェレクトロンズマーチ乗り場に来てみれば。


 既に宇宙装備着用のマリアナ・法使夏・剣人が来ていた。


 彼女たちも、どうやら戦いを嗅ぎつけていたようである。


「これまでわたくしたちは、宇宙での戦いには参加できていなくってよ! だから……ここで、力を誇示しなくてはいけなくってよ!」

「ええ……言われるまでもないわ!」


 目の前にあるのは、曰く空宙列車電磁砲(ラミエルズサンダー)


 七両編成の見た所通常の空宙列車エンジェレクトロンズマーチと大差ないもののその実、一両に一機凸凹飛行隊の法機を格納している法母の一種である。


「What!? な、何故皆さんが!」

「あ、デイヴさん……」


 と、そこへ。

 同じく宇宙装備を整えた、デイヴの姿が。


「ええ、わたくしたちも行きます!」

「はい、ソーさん! 私たちも、魔男を倒したいですから!」

「y、YES……」


 マリアナたちの前のめり気味な姿勢に、デイヴはややたじろいでしまう。


「大丈夫ですデイヴさん、邪魔はしませんから! ……さあ、早く行きましょう!」

「W、Well! わ、分かりました……」


 やや押しかけ気味ではあるが。

 こうしてデイヴと凸凹飛行隊は、共同戦線を張ることになった。


 ◆◇


「YES! こちらシンドラー……了解! 米代表アポストロス、仮想大陸の警戒を強めるわ!」

「YES!」

「So! ソー軍曹からのご命令ね?」

「うんレフィ、それ言いたかっただけでしょ?」


 再び、仮想大陸では。

 あらかじめログインし、待機を命じられていたセーレらも動き出す。


「But……あんなNPCをまた警戒しなきゃいけないって、ソー軍曹はお考えなのかしら?」

「Well! 本当よね……あの凸凹飛行隊captainに、毒されてるのかしらね?」


 法機マリアに乗りながら、セーレたちはそう話す。


 今さら何を、この仮想大陸で警戒せねばならないというのか。


「So! 私たちには、もらったこの法機たちがあるわ。さあ……行きましょう!」

「YES! レフィ、あんたに言われるまでもなくね!」

「Well、行きましょう!」


 そうして、意気揚々と。

 米代表アポストロスは、法機マリアたちにて空に駆け出す。




「初花様! 米代表アポストロス法機群、空に。」

「Oui……さあ、行くわよ!」


 そんな彼女たちを見咎め。

 初花は部下を率いて、易々と件の神殿へと侵入する。


「おお我らが地母神よ……このエルドラドを統べたもう母なるシパクトリよ!」

「Oui、そこまでよエルドラディアンの王様とやら!」

「!?」


 そして。

 初花らは祭壇に到達し、祈りを一人で捧げていたエルドラディアン王と対峙する。


「何者か、貴様らは!?」

「Oui、それはこちらのセリフよ! あなたこそ、アメリカの回し者かしら?」


 初花は問いただす。


 デイヴが青夢の忠告を徐々に理解しつつあったことに対し初花たちもデイヴの部下たるセーレたちですらも、まだエルドラディアンたちの暴動の意味を理解できておらず。


 ただのプログラムされたイベント程度にしか思わなかったのである。


「な、何だと?」

「とぼけなくていいわ……ここが、空宙都市のメインシステムアクセスポイントだとは既に知ってるの! さあ、ここを明け渡しなさい!」

「く……貴様らの言うことは訳が分からぬ! だがよい……地母神よ! 外より我ら脅かせん者出し時、その怒り我らに代わり脅かせん者に降りかからん! 我らを……導きたまえ!」

「ははは、Quel(何ですって)? こんな時までそんなごっこ遊び続けて……きゃっ!」

「く……初花様!」


 しかしそこで、エルドラディアン王が叫ぶや。

 それまで笑っていた初花たちも、たじろぐような地震が起こる。


「おお……さあ! 我らが地母神が我らの代わりに怒ってくださっているぞさあ! 我らに力を! ははは!」


 エルドラディアン王は、ただただ歓喜の叫びを上げる。


 ◆◇


「What!? な、何だあれは?」

「ま、マリアナ様!」

「そんな……こんなことがあり得るのであって!?」

「馬鹿な!」

「あ、青夢!!」

「こんな……まさか!?」


 その頃。


 ちょうど空宙列車電磁砲(ラミエルズサンダー)にて空宙都市を出立した凸凹飛行隊とデイヴだが、彼女たちが窓に張り付き見入るほど驚くべき事態が起こっていた。


 何と、空宙都市下部から"何か"が湧き出てきたのである。


 それは、蠢いた奇妙な黒い巨大な影。

 生物的な挙動を見せる"それ"。


「YES……あれは、やはり見間違いではなかったのか!」


 紛れもなく、それはデイヴがかつて見たもの。

 だが、その様子はその際の比ではなかった。


 それらは、以前垣間見せる程度でしかなかったのだが。


 今回は、都市下部の方々より生えて出る。


 それらは両前脚を、両後ろ脚を。

 更に長い尾を形作る。


 更に尾と同じくらい長い頭をも形づくり、その口をガバリと開く。


 そこには無数の牙が並び、また月のような瞳をも開ける。


 その姿は。


「わ、鰐!?」


 青夢は驚きの声を上げる。

 それは、都市下部より突如生え出した鰐。


 いや、摩天楼群を背負った鰐のごとき姿。


「ええ……来ましたわ! 空宙都市エルドラド地母竜形態フォーメーションシパクトリ! さあ芽を出したならば花を咲かせ、更に実を結ぶがいいですわ! ほほほ!」


 この様子を法機マケダより見ていたパールは、歓喜の声を上げた。

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