#39 仮想大陸騒乱
「さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! さあ、here we go!」
DJセレネーは、陽気に喧伝する。
「さあて、今日のマイニングレースは……ななんと! 今話題沸騰中の、空宙都市エルドラドからお送りしちゃうyo! ここはQUBIT SILVERから派生したQUBIT GOLDをマイニングできる唯一のSPOT! まさにゴールドラッシュの起こっている場所だyo!」
セレネーが、そう告げるや。
場面は変わり、エルドラドにいる一般(とは言い難い裕福な)市民たちがインタビューを受ける場面になる。
「YES! ここはまさに楽園さ……選ばれた者だけが来れるって感じ?」
「YEAH! ここにいたら、誰でも幸せになれるの?」
「No Way! ここは選ばれた者しかそもそも来れない……だから、選ばれた者しか幸せになれないだろうね!」
セレネーの画面越しの問いかけに、市民の一人はそう答える。
◆◇
「へえ……もう、ここは世界中に知られた場所になってんのね。」
「そうみたい。」
「まあだけど、妬みの対象かもねここは! 来れるのがそもそも、それなりの金持ちたちだし。」
空宙都市エルドラドの一角のモール内にて。
青夢は真白・黒日と共に、DJセレネーの中継を見ていた。
――ここは選ばれた者しかそもそも来れない……だから、選ばれた者しか幸せになれないだろうね!
「本当ね……こんなこと、全世界に向けた中継で言っちゃって。これじゃあヘイトを集めるだけじゃない……」
青夢は先ほどのインタビューを思い出し、そう呟く。
「やっぱり富める者がもっと富み貧しむ者がもっと貧しむ……ここは、ディストピアなのかもね。」
青夢は手摺の向こうを見る。
来た時にも見た光景である。
ビル群が上下に広がり、中を衛星軌道という目に見えぬ線路上にて複数の空宙列車が後部噴流による推進でこれまた上下に駆け抜ける様。
来た時には繁栄した都市に見えたそれは、今や虚栄の都市にしか見えなかった。
何より、気になることがある。
――No、Problem Ms.Mameki! あれは本当に、予め予定されていたイベントなんだ。だけど、ご親切にどうも。
「(デイヴさんはああ言ってたけど……多分違うわ。あれは……やっぱりVIの)」
法機ジャンヌダルクによるオラクル オブ ザ バージンではない、青夢自身の勘がそう告げていた。
今、エルドラディアンたちとの戦いを何とかしなければ大変なことになると――
「あらあら魔女木さん方、せっかくの自由時間わざわざ座り込んでお過ごしになるおつもりであって?」
「! ふん……余計なお世話よ。」
と、そこへ。
マリアナが法使夏を連れてやって来た。
自由時間ということで凸凹飛行隊は、今複数に分かれて行動していたのである。
「……あんたは、気になんないの?」
「何ですって?」
そこで青夢は、マリアナにそう疑問をぶつけてみた。
恐らくはVIたるエルドラディアンの蜂起。
そこに、何か思う所はないのかと。
「……何のことであって?」
「……そ。ま、分かってないならいいわ。」
が、マリアナの答えは素っ気なく。
青夢は意図が伝わっていないと感じ、話を打ち切る。
「(ええ、魔女木さん余計なお世話であってよ……確かに、おかしな点はいくつもあってよだけど! このまま、アメリカが脅威となるより流れに任せて没落してくれればよくってよ……)」
が、そこはマリアナも分かっていたらしく。
しかしアメリカが脅威でなくなるならばと、敢えて静観することにしたのだった。
◆◇
「こちらシンドラー、ケイ応答を。」
「こちらケイ。12時の方向、黄金の都に接近中!」
セーレ・M・A・シンドラー、ケイ・O・サースト、レフィ・T・H・ピアーズ。
米軍所属の女性軍人たちでもあり、米代表アポストロス所属でもある彼女たちは上官たるデイヴの命を受けて。
コンバートした法機マリアを駆り、仮想大陸エルドラド上空を行く。
目的地は今しがた、彼女たちの弁にあった通り黄金の都である。
「but、ソー軍曹も中々用心深いわよね。他の国の代表アポストロスに気取られないようになんて。」
「Yes。ソー軍曹は多分、他国に借りを作りたくないのよ。」
「So、私たちが早く手柄を上げないとね!」
「Well……レフィ、相変わらずつまんないわ!」
「HAHA!」
彼女たちは戯れ合うように言葉を交わしつつ。
法機を進める。
「初花様、これは」
「ええ、知っているわ……アメリカが、隙あらばQUBIT GOLDを独占しようとしていると! だけど、アメリカは詰めが甘いわね……あんな風に、法機を駆って来るなんて!」
この有様を、空を見つめつつ伺うのは。
変装し目立たぬ格好になった、初花以下ターニャ・T・タントラ、ヘーゼル・ロー・スコルピオ、ラベンダー・A・カーヴァーら欧州代表アポストロスである。
彼女たちもまた、この仮想大陸エルドラドの秘密を嗅ぎつけ。
米代表アポストロスのメンバーらとはまた別に、その調査を進めんとしていたのだった。
「まあ、法機で進むあの米代表アポストロスには足の速さでは敵わないでしょうけど。私たちには私たちの良さがあるわ、さあ行きましょう!」
「Oui!!!」
米代表の法機マリア群には尻目にされつつも、初花たちは人間としての素早い身のこなしにより先を急ぐ。
◆◇
「あれは……!?」
翻って、再び米代表アポストロスの法機マリア群は。
そうしていよいよ黄金の都に至ろうという空域に差し掛かった時にそれらと邂逅した。
「奇妙な鳥の乗り手共、これ以上黄金の都は汚させはせぬ!」
それは、この前のジャガーの戦士に加え。
鷲の戦士、コヨーテの戦士、髑髏の戦士たち。
エルドラディアンたちは、総力戦を仕掛けようとしていたのだった。
「What!? これって……」
「Well……ソー軍曹が言っていた、エルドラディアンの戦士たち!」
「So、早く私たちでどうにかしないとね!」
「Yes……やっぱりつまらないわレフィ!」
それを受け、セーレら米代表アポストロスは攻撃態勢に入る。
「さあ皆! 我ら、前には敗れし者たちなれど戦場に一足早く出し者たちとして先導はできる! 我らに続いてくれ!」
「よかろう……ジャガーの戦士たちよ、我らを導け!」
エルドラディアン軍の前衛を務めるはあのジャガーの戦士たちであり。
彼らが自身の騎獣たる、電使言獣テペヨロトルを駆り。
彼らの先導に従う形で、後衛を務める他の戦士団も次々に電使言獣を駆りたてて前に進む。
「YES! 来るわよ皆!」
「Well……安心して! 行くわよ!」
「YES!」
「hccps://sevenspirits.mna/、select 聖母の悲哀 execute!!!」
それに対し。
米代表アポストロスの法機マリア群より、無数のエネルギー刃が放たれた。
「ぐああ!」
「おのれえ……怯むな皆! 前進じゃあ!」
「応!!」
攻撃を喰らい、いくらか撃墜されながらも。
結果的にはそんな仲間たちを盾にし、戦士たちは前に進む。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 太陽――陽光の壁!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!!」
「!? な!」
「What!!!」
が、その時だった。
突如として、エルドラディアンの戦士団と米代表アポストロスの間を幾多の攻撃が遮った。
その攻撃の主は、無論。
「さあ魔女木さん……わたくしたちをここまで引き摺り回して来た以上、あなたの全てを救う願いとやらは何としても叶えてほしくってよ!」
「そうよそうよ、魔女木!」
「魔女木。」
「青夢……」
「ええ……言われなくても!」
凸凹飛行隊であった。
◆◇
「Oui……さあ、私たちは行かなくてはね!」
「Oui、初花様!!!」
再び翻って。
今度は上空で戦いを繰り広げる米代表アポストロスを尻目に、欧代表アポストロスは黄金の都に入っていた。
そんな彼女たちが前にしているのは、都の中心部。
階段を思わせるピラミッド状の神殿。
アメリカ大陸でよく見られる遺跡である。
「ここは……」
「Oui……ここに何かあるに違いないわ、行きましょう!」
「Oui!!!」
初花たちは、そのまま神殿に入っていった。
「おお我らが地母神よ……このエルドラドを統べたもう母なるシパクトリよ! 今我らの地は、外なる者たちの侵攻により未曾有の危機に晒されております……さあシパクトリよ! 今こそ、私たちに道をお示しください!」
「? シパクトリ?」
中にいたのは、エルドラディアンたちの王だが。
初花たちは彼が崇める、そのワニのごとき神像を見る。
シパクトリ。
それは、どのようなものなのかと――
◆◇
「Hey! どうした?」
「Oh、ソー軍曹! 大変です、十二時の方向より魔男の攻撃です!」
「What!? ふうむ……来ると思ったが本当に来たか……」
そうして、現実の空宙都市エルドラド監視台にいるデイヴは外を見て顔を顰める。
それは。
「さあ皆……これからは僕たちのショータイムだよ! 空宙都市エルドラド……僕が落としてあげるからねえ!」
蝙蝠男の騎士団擁する魔神艦の一種、吸血鬼艦の艦隊。
バルト・レイブン率いる蝙蝠男の騎士団が、攻めて来たのだった――