#35 空宙都市侵攻
「さあ、行くわ三段法母! マリアナお嬢様たちの法機を、宇宙へ!」
三段の飛行甲板持つ形態へと変化した、法母プリンセス オブ 魔法塔華院。
ここで。
「……AWF01/、パーツ1、2、3、4! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 女神の織機 エグゼキュート!」
この合図と共に、三段飛行甲板のうち中央と最上のものから各二機ずつパーツが射出され。
それらは瞬く間に双胴機のごとく合体を遂げ、一機の大型機へと変貌を遂げる。
更に。
「……パーツS1、2、3、4! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 女神の杼船 エグゼキュート!」
最下の飛行甲板から、女神の杼船のパーツ六つが無機質に合体し杼船を形作る。
更に。
「さあ行くよ! 女神の織機、女神の杼船! セレクト コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム AWF01/ エグゼキュート!」
女神の織機下部に青夢たちの法機を載せた女神の杼船がドッキングする。
「さあ……AWF01/、セレクト デパーチャー オブ 女神の杼船 エグゼキュート! 行けええ、マリアナお嬢様たちのところまで!」
女神の織機下部に接続された杼船を発射する。
◆◇
「ふっふーん、さあ行くわよ私のかわいい部下ちゃんたちい!」
「はい、フリップ団長!」
その頃、宇宙空間の空宙都市エルドラド周辺では。
鳥男の騎士団長フリップが命じると共に。
彼女、いや彼が率いる鳥男の騎士団艦隊から艦砲斉射があった。
「Damn it! く……防御幕への負荷、過大!」
「おーほほほ! それ見なさい、さあ、このまま」
「No! そうはさせないよ……hccps://giganticmandrake.mna/edrn/fs/mandrake.fs?crying=true――Select 死の産声 Execute!」
「ぐっ……な、何なのこの耳障りな音はああ!」
が、その時である。
突如として、脳内に直接響くけたたましい雑音が届き鳥男の騎士団艦隊は足止めされる。
幻獣頭法機ギガンティックマンドレイク――デイヴが妻マギーから借り受けた法機シルフを、自分が使えるよう幻獣頭法機にしたものである。
「Now、今だ空宙都市エルドラド! 誘導柘榴弾、雷雨神砲一斉発射!」
「Yes!!」
その隙にデイヴは、命じ。
それに応え、空宙都市エルドラドのバリアより無数のエネルギーが雨状に飛散する。
「ぐああ!」
「く……怯むんじゃないわ可愛い私の部下たちい! 分裂して交わしなさい!」
「は、はい!? くっ、群生形態に移行、回避行動!」
「り、了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態! アボイディング アサルト、エグゼキュート!」
これは敵わぬと。
鳥男の騎士団艦隊の全艦は、構成パーツに分離し攻撃を素通りさせようとするが。
「ぐああ!」
「く……分離してもパーツ毎に攻撃が命中して来るなんていやあ!」
攻撃は細かすぎ、全く素通りしないどころかむしろパーツ一つ一つを確実に破壊していく。
「続いて……誘導柘榴弾発射!」
「!? て、敵弾飛来!」
誘導柘榴弾。
アメリカがこれまでの幻獣機父艦等を解析し開発した対魔男兵器である。
「ふ、ふん! 弾丸なんて尚更避ければいいわ!」
フリップが命じるや。
誘導柘榴弾は宙飛ぶ鳥人艦の一隻に迫るが、その艦はやはり分裂により素通りさせようとする。
しかし。
「ぐっ……て、敵弾分裂! こ、構成機群続々爆発!」
「な、何ですってえ!」
誘導柘榴弾の特性。
それは、幻獣機父艦系兵器が構成機毎に分裂しても広範囲に分裂する榴弾となり殲滅するというものである。
「Now、今だ! 誘導柘榴弾を撃ちまくれ!」
「Yes! 了解です、ソー軍曹!」
そのまま雷雨神砲が放たれ続ける空宙都市エルドラドより、更に誘導柘榴弾も続々と放たれ。
回避を無効化された宙飛ぶ鳥人艦は、続々と殲滅されていく。
「ぐああ!!」
「ぐ……キー! 何よ何よ、空宙都市なんて! でも……ここは、撤退よお!」
「は、はい!!」
フリップはほぞを噛みながらも、自艦隊を撤退させていく。
「Yes! 敵艦隊、撤退していきます!」
「Good! よくぞやった!」
「ま、マリアナ様……」
「ええ……これでは、わたくしたちに見せ場はなくってよ……」
「でも、すごいわこの力! 確かにこれなら、魔男を殲滅できそう……」
一方。
沸いている幻獣頭法機ギガンティックマンドレイクとエルドラド監視台に対し。
その監視台で結局は傍観者とならざるを得なかった凸凹飛行隊は置いてけぼりを食らった気分である。
「おっと、sorry! 凸凹飛行隊の皆さんの法機も間もなく到着しますね、さあ空宙列車電磁砲を出してくれ!」
「Yes! さあ、どうぞこちらへ。」
「あ、は、はい!」
そこへ、未だ宇宙空間の幻獣頭法機内にいるデイヴが気づいてくれ。
青夢たちは、どこかへ案内されることになった。
◆◇
「では……皆さんどうぞ! お乗りください!」
「は、はあ……」
そうして。
青夢たち六人は宇宙服着用の上で、空宙都市エルドラドの外行き空宙列車乗り場にいた。
目の前にあるのは、曰く空宙列車電磁砲。
七両編成のそれは、見た所通常の空宙列車と大差ない。
青夢たちは、何が目的なのやら分からず首を捻るばかりである。
「Well、さあ乗り込んでください! 早く!」
「は、はい!!」
促されるがままに、青夢たちはその空宙列車に乗り込む。
たちまちそれは、自動運転により後部噴流器より炎を噴き。
空宙都市の乗り場を、その推進力でもって離れて行く。
天然の線路である、衛星軌道上を走って。
「あ、あれは……女神の杼船であってよ!」
「Well! 皆さん、聞こえますか?」
「あ……デイヴさん!」
そのまま列車内最後尾車両より宙を見上げた凸凹飛行隊の面々は、飛来する女神の杼船が分離し六機の法機となる様を見ており。
そこへ、デイヴからの連絡を受ける。
「Yes、さあ皆さん! 術句を唱えてあれをランディングさせてください!」
「え!? ど、どこに」
「Hurry! 早く!」
「は、はい!!!!!!」
戸惑いながらも凸凹飛行隊の面々は。
「hccps://camilla.wac/!」
「hccps://jehannedarc.wac/!」
「hccps://crowley.wac/!」
「hccps://rusalka.wac/!」
「hccps://diana.wac/!」
「hccps://aradia.wac/!」
「サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機! セレクト ランディング オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!!!!!!」
術句を唱え、着艦先は不明ながらも自機たちに着艦命令を出す。
すると。
「あ、あれマリアナ様……な、何かこっちに向かって来てません!?」
「ほ、本当であってね……え!?」
「あ、あれは!?」
凸凹飛行隊面々が、驚いたことに。
何と法機たちは、一機ずつ青夢たちが乗る空宙列車電磁砲の屋根――飛行甲板になっているらしい――に滑走して着艦し。
いずれも先頭車両まで一通り走った後、最初に降り立った法機ジャンヌダルクはそのまま先頭車両に。
次に降り立った法機カーミラは二両目に……といった具合に、車両上部の飛行甲板が回転し順番に格納されていく。
「これは……列車型の法母?」
「Yes! これも、対魔男用に改造されたものです!」
「なるほど……」
「アメリカ……ますます侮れなくってよね!」
「は、はいマリアナ様!」
そうして自機たちが六両目にまで格納されていく中凸凹飛行隊面々は技術に感嘆するばかりだが。
マリアナはその技術力に、脅威を見出していた――
◆◇
「sorry、sorry! 結果として皆さんには嫌な思いをさせてしまいましたかね?」
「いえいえ! でも驚きました……本当にこの空宙都市は、魔男をほぼ単独で撃破しちゃうなんて……」
戦いの直後、空宙都市エルドラド内のショッピングモール内にて。
そのテラスでデイヴと凸凹飛行隊面々は、茶をしばいていた。
モール内は――そもそも、この空宙都市に来れる時点でかなりの富裕層であるため都市内の人口は少なく――まばらではあるがそれなりに男女が行き来していた。
「ハハハ、Yes! ですからご安心を、このエルドラドは我々がいる限り大丈夫です!」
「はい……」
青夢は笑うデイヴを前に、作り笑いを浮かべるが。
「(何かしら……何か忘れてる気がする。それが何なのかは、未だに分からないけど。)」
勘というべきか、何か胸騒ぎを感じていた。
「す、すごいよ黒日! あの人、爆買いしてる!」
「うん、すごい!」
「ハハハ、Well! QUBIT GOLDはかなりの価値がありますから、掘り当てた者たちは早速大盤振る舞いをしているのですよ!」
モール内の人がカート一杯に物を詰め込む様を、デイヴはそう説明する。
「(なるほど……もともと富める者がこの空宙都市に来ている訳だから、ああいう人たちはそれで更に富んでいる訳で……富める者は更に富む、か。全ての人が富むことはできないのかしら……)」
青夢はその説明を聞き、そう考えてしまうのだった。
「(……ん? ……っ!? あ、あれは?)」
と、その時。
青夢はモール内の人影の中に"ある者"の姿を見咎め、立ち上がる。
「? 青夢?」
「ち、ちょっと魔女木さん!?」
「魔女木?」
「What? どうしました?」
「あ……ごめんなさい、すぐ戻ります!」
青夢は訝しむ周囲への対応もそこそこに、走り出しエスカレーターを駆け降りる。
「何で? 何でこんな所にあいつが……パール・アブラームとかいう奴が?」
そう、青夢が見咎めていた者とはベール纏う女魔男パールであった。
「はあ、はあ……くっ、いないわ……見間違えかしら?」
しかしその姿は、追っている内に見えなくなった。
「……何かしら、やっぱり胸騒ぎがする……」
青夢はそのことを、単なる思い過ごしとは思えなかった。
◆◇
「お母さーん!」
「おいで、タシュンケ!」
その頃、仮想大陸エルドラドの森の中。
エルドラディアンの若い母親と幼い子供が遊んでいたその時だった。
「hccps://sevenspirits.mna/、select 聖母の悲哀 execute!」
「ぐっ! ……You Damn!」
「きゃあ!」
「ぐあ!」
と、その時である。
折りしも、QUBIT GOLDのマイニングレースが森上空で行われており。
そこに参加していた幻獣頭法機黙示録の仔羊の一機が放つ攻撃が、親子に直撃してしまった。
「ああ……お前! タシュンケ! ……くっ!」
その親子に駆け寄るは、エルドラディアンの父親である。
「おのれ……妙な鳥共め!」
父親は空を睨み、歯軋りする。
◆◇
「ソー軍曹、我々も行きますか?」
「Yes! ああ、そろそろな……"黄金の都"を、視察に行かなければな。」
そうして、夜。
ソーは部下と共に、意味深な話をしていた。
"黄金の都"。
青夢が見た、パールの姿。
これらは少しずつではあるが確実に、空宙都市エルドラドに迫る影。
それを暗示するものであった――




