#34 空宙のゴールドラッシュ
「こ、ここが……?」
「か、仮想大陸エルドラドであって……?」
空宙都市エルドラドの、何やら真っ暗なホールの中からデイヴに言われるがままにログインした仮想世界――曰く、仮想大陸エルドラド。
その一角たる崖の上からは大陸が一望でき。
青夢たちは、その光景に見入る。
と、その時である。
「うわっ!?」
「HEY!」
「m……You Damn!」
青夢の前を、崖下から突如として躍り出た二機の法機が通過する。
「だ、大丈夫か魔女木!」
「青夢!!」
「だ、大丈夫だけど……何よあれ、法機!?」
「Oh, Sorry Ms.Mameki……早めに説明しておけば良かったですね、そうここは仮想大陸エルドラド! 世界で唯一、希少な仮想通貨QUBIT GOLDを採るためのマイニングレースを楽しめる場所でね!」
「え……き、QUBIT GOLD!? し、シルバーじゃなくて? Don't you take SILVER for it(シルバーの間違いじゃないんですか)?」
青夢は驚き、思わずそうデイヴに聞き返す。
「HAHAHA、 Yes I do(いいえ、間違えてませんよ)! ゴールドラッシュという言葉をお聞きでしょう魔女さん方?」
「ご、ゴールドラッシュ……あ!」
デイヴの言葉に、青夢たちははっとする。
ちなみに、Yes I doと言いつつ和訳が否定文であることに驚いた人も多かろうが。
ここではDon't you take it〜という否定疑問文に対する答えとして、Yes――肯定文で返す表現なので結果として否定になっており和訳は正しいのである。
という英語豆知識はさておき。
「ゴールドラッシュって……この仮想空間に来る前にデイヴさんから聞いてた」
青夢はふと思い出す。
――hccps://emeth.GoldRush.srow/! セレクト、ゴールドラッシュ!
あの時である。
「Well……QUBIT SILVERから派生した新しい仮想通貨QUBIT GOLD! SILVERの何十倍もの価値を持つそれを、唯一マイニングできるのがこの仮想大陸エルドラド! この大陸は今、そのQUBIT GOLDによるゴールドラッシュが起きているのです!」
「か、仮想通貨のゴールドラッシュが……?」
青夢たちは、辺りを見回す。
見れば、先ほどは気づかなかったが。
あちらこちらを法機が飛び回り、マイニングレースに勤しんでいた。
◆◇
「さあ、Welcome! 我が拠点に。」
「ここが拠点ですか……」
次に、デイヴに案内された場所は。
何やらログハウスの建つ場所だった。
「Yes! ここは仮想空間、木を切って自分で拠点建設もできるのですよ!」
「へえ」
「shit! Hey、何だエルドラディアンが! 俺の拠点が作れないってのか!?」
「! え?」
デイヴの説明を聞いていたその時。
突然怒声が聞こえた方を見れば。
「も、申し訳ありません」
「いいか!? てめえの代わりなんざ、いくらでもいんだぞエルドラディアン!」
「ひ、ひいい!」
「ち、ちょっとあんた!」
「HEY? 何だ、Japanese!」
恰幅のよいアメリカ人の男が、腰巻をしただけの浅黒肌の男に殴る蹴るの暴行をした上に暴言を吐いていたのだった。
「ちょっと、魔女木さん!」
「魔女木!!」
「青夢!!」
「ええ、私はJapaneseですが何か? あなたこそ、そんなやり方はジェントルマンのなさることではありませんわね?」
「What!? 何だと」
青夢は、凸凹飛行隊面々の静止を聞かず。
持ち前の正義感から、男に迫る。
一触即発、であるが。
「Just Moment please! まあまあ、ちょっと待ってください。私はここの管理を任されている者、ソーです。JapaneseであろうがAmericanだろうが、こんな可愛いお嬢さん方に手を出すのはいかがなものかと。」
「w……What! な、何だ貴様! Americanの癖に、こいつらの味方をするのか!」
デイヴが、割って入る。
男は鍛え上げられた風体の彼を前に、一瞬たじろぎつつもすぐ文句を返すが。
「Non、Non! 私は皆の味方。すなわち……あなたがgentlemanとしての評判を落とさないようにするための味方でも、あるんですよ?」
「くっ……ちぇっ! 調子に乗りやがって!」
尚も笑顔を浮かべつつ圧をかけて来る彼には、押せないと悟り。
場を離れる。
「ありがとうございます、デイヴさん!」
「No problem! Ms.Mameki、あなたの正義感に私も感動してのことですよ!」
「い、いえそんなあ……」
デイヴの言葉に青夢は、照れる。
そうして、なるほど道理でマギーが選ぶ訳だと納得していた。
「もう、どうなることと思ってよ魔女木さん! ……ミスター・ソー、今回のことありがとうございます。でも、この娘をあまり甘やかさないでほしくてですわ。」
「ええ、その通りですマリアナ様!」
後ろでハラハラしていたマリアナと法使夏は、そう返す。
「カッチーン! 何よ魔法塔華院マリアナ、この人がいじめられているのをほっとけっての? ……大丈夫ですか?」
「は、はい……ありがとうございます!」
青夢はマリアナらの言葉に反発しつつ。
先ほどいじめられていた、エルドラディアンと呼ばれる青年に手を貸す。
「しかし……さすがはMs.Mameki! ゲームで言えばNPCをも助けるとは!」
「え、NPC? この"エルドラディアン"さんが!?」
青夢はデイヴのこの言葉に、目の前の青年を見る。
「Yes、そのエルドラディアンはこの仮想大陸エルドラドの先住民……という設定のNPCでしてね!」
「へえ……」
「な、何か分からないけど……ほ、本当にありがとうございました!」
エルドラディアンの青年は、デイヴの言葉に首を捻りつつも尚感謝の言葉を述べる。
青夢もしかし、そのエルドラディアンをよく見ながら首を捻っていた。
NPC?
それにしては、実にリアルな人間らしい挙動である。
青夢の頭の中には、いつしかの衛星内にあった仮想世界の記憶が浮かぶ。
「まさか……いや、そんなことないわよね?」
「What? Ms.Mameki、どうしました?」
「あ、いえいえ何でも!」
「Yes、ならいいんですが……ん? Hello……w、What!? 何だって! そんな!」
しかし、その時である。
何やらデイヴが真っ青な顔で、誰かからの通信に応えていたのだった。
「ど、どうしましたデイヴさん?」
「ミスター・ソー?」
「おっと、sorry! すみませんが、私はちょっと行かないと……野暮用でね! しばらくはそこの拠点でゆっくりしていてください!」
青夢たちが訝しむ中、デイヴはいそいそとログアウトしていった。
「……怪しくってよね。」
「ええ、マリアナ様!」
「何があったんだ?」
「黒日、どう思う?」
「うん真白、何か面白そう!」
マリアナらは、ますます訝しんでいた。
◆◇
「Hey! どうした?」
「Oh、ソー軍曹! 大変です、外から魔男の攻撃です!」
「What!? ふうむ……来ると思ったが本当に来たか……」
そうして、現実の空宙都市エルドラド監視台に行ったデイヴは外を見て顔を顰める。
それは。
「さあさあ、行っちゃうわよ私の可愛い子たちい! さあ……宙飛ぶ鳥人艦全艦隊集結!」
鳥男の騎士団団長ウィンダ・フリップは、かつての鳥男の騎士団団長サロを思わせるオネエ口調の男性である。
彼女、いや彼が率いるは翼を鳥人上半身型艦橋後部より生やした魔人艦の一種たる半人半艦の巨大兵器・宙飛ぶ鳥人艦複数で構成されている艦隊である。
「Shit、魔男め! だが……空宙都市エルドラドは、第一種戦闘配備についているな?」
「Yes! 勿論です!」
デイヴは部下の軍人にそう聞いた。
既に空宙都市は、周囲がエネルギー防御幕に覆われており戦闘態勢にあることは一目瞭然であった。
「内部一般市民は?」
「No problem! 既に全員が仮想大陸にログイン済みです!」
デイヴは更に、部下に尋ねた。
仮想大陸へのログインは、こういう場合に対して内部一般市民のパニックを避ける役割もあったのである。
「よし……対宙砲、砲撃開始!」
「Yes! 砲撃を開始します!」
デイヴは集結して来た敵艦隊に、全砲門を向けさせ。
それにより砲撃を開始する。
「ぐっ、フリップ騎士団長! エルドラド側からの攻撃です!」
「ふん、甘いわ……こちらも、砲撃用意!」
「はっ! hccps://baptism.tarantism/、セレクト 大翼砲、エグゼキュート!」
しかし、鳥男の騎士団も動き出す。
その全艦隊は、翼より羽根状パーツを無数に分離させ。
それはエネルギーを纏い、空宙都市の砲撃とぶつかり合う。
「OK! 首尾は上々!」
「なるほど……こういうことであってねミスター・ソー。」
「Yes! ……って! b、凸凹飛行隊のladyたち! 何故ここに?」
しかし、デイヴがかけられた声に振り返れば。
そこには、青夢たち凸凹飛行隊の面々が立っていた。
「あなたの様子がおかしかったので、尾けさせてもらった末に魔法塔華院コンツェルンの権限にて入らせていただきましてよ。……しかし、早速魔男側の攻撃とは。中々であってね!」
「Y、Yes! それはそれは……しかし、ご安心を! 先ほど言った通り、空宙都市の力だけでどうにかして見せますよ!」
マリアナの言葉に、デイヴはそう返す。
しかし。
「でも……中々効いていないようであってよミスター・ソー!」
「Yes、そうですね……よし! 誘導柘榴弾を発射用意! 私も幻獣頭法機で出る!」
「Yes、ソー軍曹!」
中々攻め切れないと見るや、デイヴは格納庫に急ぐ。
「……わたくしたちも!」
「ええデイヴさん、私たちも!」
「No! 大丈夫ですよ、我々だけでも!」
凸凹飛行隊が声をかけるが、デイヴは事も無げに返す。
「……もしもし、お母様? わたくしです。」
が、それで引っ込む凸凹飛行隊ではなく。
マリアナは、母に連絡を取る。
「ええマリアナさん、事前にアメリカ政府と話はついているわ……あなたたちの法機は、宇宙にお届けします! プリンセス オブ 魔法塔華院を、三段法母形態に変形させて!」
「? と、三段法母形態?」
母からの言葉に。
マリアナは、首を傾げる。
◆◇
「さあ……法母プリンセス オブ 魔法塔華院、三段法母形態に変形!」
「了解!」
その頃、指示を受けた西海岸停泊中の法母は。
たちまち飛行甲板を真ん中で割って開き、そこから三段の飛行甲板が浮かび上がるようにして出現し。
三段飛行甲板式に変形する。
「凸凹飛行隊の法機を、全機エルドラドに届けるよ! ……女神の織機、発進!」
そうして、法母の女性戦員が口にしたのは。
法機搭載杼船を宇宙に撃ち出す、あの母機の名前であり――