#33 空宙都市エルドラドへ
「さあ……見えて来ましてよ、皆さん!」
「おお……あれが、アメリカ大陸ですね!」
「ううむ、大きいな!」
「そうね……」
法機母艦プリンセス オブ 魔法塔華院の飛行甲板上にて。
凸凹飛行隊は、見えてきたアメリカの光景に見入る。
トバラ族独立戦争以来、数ヶ月ぶりの海外訪問である。
青夢はしかし、浮かない顔をしているが。
それというのも。
――……待ってください! これは……ユダマイニングです! そのイスカリオテのユダは……メンバーのトモです!
――そ、そんな! と、トモ君がユダマイニング?
――ち、違う俺は!
――トモ、残念だけどよお……俺たち、ザラストサパーマイニングもやっててもう証拠上がってんだよ!
――!? ……な、ち、違う! ほ、本当に俺はやってない!
―― 本当に、私何も知らないんです!
青夢の頭に浮かぶは、やはりこれまで彼女が見てきたマイニングレースにてイスカリオテのユダとされた者たちの様子だ。
更に、実は中国予選で度々ユダマイニングが横行していたという情報もある。
――わ、私じゃありません! 私は
そうして、ニマがマイニングレースアジア予選でユダマイニングを犯すや。
それによりマイニングレースによる不正で戦費を稼いでいたことの発覚があるならばと、トバラ族自治区は独立戦争を起こした。
やはり、これは。
「(あの仮想通貨は、やっぱり何らかの災いを人類に齎すもののようにしか思えないわ……)」
それがより一層、青夢の疑念を深めていたのである。
◆◇
「Welcome to USA! ようこそアメリカへ、魔法塔華院concernの皆さん!」
「ええ……ミスター・ソー! お出迎えありがとうございます。」
そんな中で青夢たちを出迎えたのは。
アメリカ軍所属にしてマイニングレースアメリカ代表アポストロス所属の男性軍人デイヴィッド・R・Y・ソーである。
そう、今回のアメリカ訪問はここで近く行われるマイニングレース米欧豪代表選の視察ともう一つの目的のためである。
「その節は、我が妻マーガレット――マギーがお世話になりました!」
「え? マギーさん……あ! あの時の!」
―― ……地上は、他の魔女たちに任せましょう! 私たちは宇宙の魔男たちをやらないと!
――Well……そうね、私も宇宙から、祖国を救うわ!
七人の電使が喇叭により齎す災いの際に青夢と共闘した、法機シルフの魔女たるアメリカ軍女性軍人マーガレット・アイリス・クリスティーン・フォスター――マギー・I・C・フォスター。
そのマギーの、当時は恋人・今は夫であるのがこのデイヴィッド――デイヴである。
「シルフの魔女さんの旦那さん! まあ……マギーさんはお元気ですか?」
「Yes! 今は産休中ですけどね。」
「そうですか、お子さんも!」
青夢はその話を聞き、気持ちが晴れやかになる。
この所非常事態が続いていたが故に、そのニュースは一筋の光に見えた。
◆◇
「すごいね青夢! アメリカ人の知り合いがいるなんて!」
「本当本当!」
「いや、まあ知り合いというか、戦友というか……」
「いや、もっとすごいでしょ!!」
NASAの施設内を歩く道すがら。
青夢は真白・黒日からそう話しかけられていた。
「あなたたち、ここに来たのは遊びではなくってよ! 魔女木さんも、ご自分のご親友くらい御せないでどうするのであって?」
「そうよ、魔導香さんに井使魔さん!」
「あ、ごめんなさい……」
そんな彼女たちを、マリアナや法使夏は窘め。
青夢は謝る。
確かに、ここは重要施設である。
はしゃぎ過ぎは禁物だ。
「Well……ここが、吸引光線に乗るためのカプセルです!」
「!? す、すごくってよ……こ、この先が」
「は、はいマリアナ様! う、宇宙に通じているんですね……」
「おお……何ということか……」
「すごい……」
「すごい……」
そうして、デイヴが案内した先にあるのは。
今彼の弁にあった、空宙都市へと通じる道の入り口である。
意外にも広く、定員は八名ほどという。
そう、先述のアメリカ訪問もう一つの目的というのは、この空宙都市エルドラド視察であった。
例の空宙都市エルドラドは、アメリカ上空の衛星軌道上に存在するという。
そこに行くためには地上――正確には、このNASAのいくつかの施設をはじめとするごく限られた地点――に設置された吸引光線に乗るための装置を使う必要がある。
今目の前にあるのは、まさにそういう場所である。
「OK Let's go to Space! ……行きましょう! このカプセルに入って、空宙都市エルドラドへ!」
「Y、Yes!!!!!!」
デイヴの呼びかけに。
凸凹飛行隊の面々は頷き。
カプセルに入る。
そうして。
「Well……それでは、始動します!」
デイヴは、カプセル内のレバーを操作し――
◆◇
「……着きましたよ!」
「は、早い!!」
「すごい……これが吸引光線なのね……」
やがて、カプセルは。
瞬く間に、空宙都市へと引き上げられ。
凸凹飛行隊を送り届けてくれた。
「Welcome to The city of El Dorado! ようこそ、空宙都市へ!」
「こ、これが……!?」
「く、空宙都市ですの……?」
「ま、マリアナ様すごいです!」
「ううむ……素晴らしい!」
「すごい……すごいよ黒日!」
「ええ、真白!」
デイヴの言葉と共に凸凹飛行隊面々は、空宙都市の中庭のようになっている空間へと展望台窓から目を向ける。
そこはビル群が上下に広がり、中を衛星軌道という目に見えぬ線路上にて複数の空宙列車が後部噴流による推進でこれまた上下に駆け抜ける様であり。
正に空宙都市と呼ぶに相応しい外観をしている。
「短期間の間に、よくこれだけの都市を……」
「Thank you! まあ吸引光線とあの空宙列車があれば、地上からの資材・機材運び込みも簡単ですから。」
デイヴは笑いながら、事も無げに言う。
「なるほど、吸引光線であってですか……」
マリアナはしかし、デイヴの言葉に感じ入るものがあった。
そう、吸引光線システム。
あの時――空宙都市計画の時、青夢にマリアナ・夢零にレイテが第一・第二電使の玉座において構築しようとしたものである。
あの時は魔男の妨害により、チャンスを潰されてしまったが。
もし、あれさえなければ今頃は日本こそが――
そう考えると、本当に千載一遇のチャンスを逃したのではという気持ちが抑えられなかった。
「マリアナ様?」
「え? あ、ああ雷魔さん……な、何でもなくってよ!」
マリアナは思索に耽っていることを法使夏に悟られ。
ややしどろもどろになりながらも、平静を装う。
しかし。
「そうですわ……ミスター・ソー。Can I ask you a question(一つよろしくって)?」
「Yes, Ms.Mahotokein!」
「? 魔法塔華院マリアナ?」
マリアナはそこで、質問をデイヴにぶつけてみることとした。
「まず……あのサイバーテロリスト集団たるResou rcererですが、彼らは宇宙にも攻め込めますわ。それに対策は打てていて?」
「Yes!」
デイヴはしかし、マリアナのやや試すような質問にも自信満々に回答する。
この空宙都市は当然そのことも考えており、バリアや対宙砲などを装備しており、テロ対策は万全であるというのである。
「ですが、内部にテロリストが乗り込んで来る可能性は?」
「そのこともNo problem! 吸引光線へのアクセスポイントも制限していますし、空宙都市に入り込むポイントでもテロ対策は万全です!」
「……なるほど、理解しましたわ。Thank you for your kindness!」
「You're welcome!」
マリアナは、ひとまず納得した。
「(なるほどね……でも何でかしら。何か胸騒ぎが……)」
が、青夢もそこで話を聞き。
何か引っかかるものがあった――
◆◇
「すごい……改めて見ると、本当にビル群の中だ!」
真白や黒日は、やはりまだはしゃいだ様子である。
空宙列車の一編成に凸凹飛行隊は乗っていた。
これから向かう先は、とても重要な場所である。
「実は……このエルドラドでは、今ゴールドラッシュが起こっていまして。」
「? ゴールドラッシュ、ですの?」
「Yes! それは」
――Your next station is, "The gold street". The left side, next time open.
「Oops! さあ、この駅です。」
「あ、はい……」
デイヴは、重要な話を残しつつ。
列車から降りる。
◆◇
「!? ここは……何ですの? 何やら暗い……」
「え、ええマリアナ様。」
そうしてデイヴの導きにより青夢たち凸凹飛行隊は。
とある、真っ暗な場所に辿り着く。
「Yes……では皆さん! 私に続けて術句を…… hccps://emeth.GoldRush.srow/! セレクト、ゴールドラッシュ!」
「は、はい!!!!!! hccps://emeth.GoldRush.srow/! セレクト、ゴールドラッシュ!」
デイヴの導きは続き。
それにより凸凹飛行隊も、術句を唱える。
「……Well、これから行くのは仮想大陸エルドラド……さあ、 Let's go! エグゼキュート!」
「Y,Yes!!!!!! エグゼキュート!!!!!!」
仮想大陸エルドラド――デイヴのその言葉が、少し気になる凸凹飛行隊面々であったが。
彼女たちはそのまま、術句を唱える。
その先には。
想像以上の世界が、広がっているのだった――