ウィッチエアクラフト〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜新たな女王編

新・第三翔 トバラ族自治区独立戦争

#30 楽園への再潜入

「やはり、そう来るのであってね！」

「マリアナ様……はい、やむを得ません！」

「ああ、地獄の果てまで付き合うぞ魔女木！」

「うん、青夢！！」

「ええ、ありがとう皆……」

　青夢の突撃の指示にも、凸凹飛行隊の面々は。

　ただただ、応じてくれた。

「さあ……飯綱法！　あなたも」

「もうここにいる！」

「！　あなた……気を利かせて、早く発進してくれたの？」

　そうして青夢が、盟次に呼びかけると。

　盟次は既に、法機パンドラを駆り凸凹飛行隊の後ろに回っていた。

「……まさか、本当にあの大見得を実行しようとはな。後悔はないな？」

「ええ……ある訳ないわ！」

　盟次のその言葉に。

　青夢は、言うまでもないとばかりに返す。

「ふっ、ならば見せてもらおう…… hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印(インパンドラボックス)！　hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト！　匣の穴(ボクシーズホール)　エグゼキュート！」

　盟次は、即座に応じ。

　たちまち法機パンドラの力により次元の穴を、開く。

「ええ、ありがとう飯綱法も！　矢魔道さーん♡も！　……さあ、凸凹飛行隊全機全速前進！　目標、法機パンドラが開けてくれた次元の穴！」

「了解！！！！！」

　青夢の呼びかけにより。

　凸凹飛行隊の法機全機は、次元の穴へと入り込んで行く。

「待って魔女木さんたち、僕も行く！」

「ああ俺も……どうせなら、最後まで立ち会わせてもらうぞ！」

「な！？　ち、ちょっと！」

　が、それは凸凹飛行隊のみならず。

　盟次の法機パンドラ及び矢魔道の法機レッドサーペントも、入り込んでいく。

「いいから、前見て魔女木さんは！」

「よそ見をするな、飛行隊長！」

「むう……もう！　飯綱法も！　矢魔道さんまで……」

　咎めようとするも聞きそうにない盟次や矢魔道に、青夢は諦めて突撃を続ける。

　◆◇

「ここは……？」

「ええ、前にも入ったことのある空中要塞内部――の、はずであってよ。」

「ああ、そのはずだが……」

「な、何か雰囲気変わってない黒日？」

「う、うん……」

　そうして、空中要塞内部に入り込んだ凸凹飛行並びに盟次・矢魔道だが。

　何やらこの前とは違う雰囲気に、違和感を覚える。

「……ようこそ、凸凹飛行隊！」

「！？　あなたは……アベル・レッドラムね……」

　そこへ、やはりと言うべきか。

　幻獣機フルフルに騎乗した、アベルの姿があった。

「ああ、再び相見えたなあ！　……更に、元魔男の騎士団長に忌まわしき我が兄よ！」

「アベル……また会ったね。」

　アベルの呼びかけに、その兄カイン――矢魔道は応える。

「また弟の邪魔ばかりするとはな……だがよい、凸凹飛行隊と別に処分する手間が省けたというもの！　ならば……これを見よ！」

「！　眩しい！」

「ん！　こ、これは……！？」

　アベルは次に、自機フルフルの鹿角に雷撃の光を灯し。

　それにより照らし出された周囲の光景に、青夢たちは驚く。

　それは――

「まさか……トバラの一般市民の人たちが！？」

　青夢は驚く。

　それは、無数のトバラ族一般市民を収めたカプセルの並ぶ光景であった。

「さすがは凸凹飛行隊隊長！　ご明察だ……そう！　彼らは今、幸せな夢を見ている。彼らを救うとはよく言ったものだが……救う？　ははは、むしろ害するの間違いではないのか！？」

「くっ……」

　青夢はアベルの言葉に、眉根を寄せる。

　◆◇

「！？　小鬼(シャオグイ)、凸凹飛行隊は空中要塞の中に飛び込んだわ！」

「是、女夭(ヌーヤオ)……さあ、見せてもらいますよ魔女木飛行隊長。あなたの覚悟を！」

　一方、空中要塞の外では。

　女夭の報せを受けた鬼苺が、そう呟いていた。

　◆◇

「……是、ではこの作戦で。诸位同志(皆さん)、よろしいですね？」

「はい！」

「네！」

「……一つ、いいですか？」

「……什么(何かしら)、魔女木さん？」

　時は遡ることこの戦いの前。

　日中韓代表アポストロス及び凸凹飛行隊各リーダーによる、"憂鬱な茶会"の時である。

「……やっぱり、あの空中要塞を破壊するの？　あそこには、トバラ族の一般市民も乗っているかもしれないのよ？」

「哼(フン)！　やはり甘いわね魔女木さん……何度も言っているでしょ？　もともとは、あいつらが私たちに戦いを挑んで来たのよ？」

「……ええ。」

「ま、魔女木！」

　尚も食い下がる青夢に、鬼苺はいい加減うんざりしたとばかりの態度で応じる。

　それに対して巫術山は青夢を諌めようとするが。

「ええ、でも！　……私たち凸凹飛行隊に、一度任せてもらえませんか？」

「……什么(何ですって)？」

「魔女木？」

「……뭣？」

　青夢はついに、そう切り出す。

「任せて、とはどういう意味かしら？」

「はい！　……私たちが、また空中要塞内部に侵入します。そこでトバラ族自治区の人たちがいれば助け出しますから、その後で空中要塞を存分に破壊してください！」

「魔女木……」

　鬼苺の問いに、青夢はそう答える。

「哼……やっぱり、あなた甘いわ。それが本当だとしてトバラの奴ら、自分で望んで空中要塞に乗り込んでいたんでしょ？　そんな奴らを助け出そうとしたところで、はいそうですかと外に出るかしら？」

「……それは、そうね……外には出ないかもしれないわ。」

「魔女木……」

「魔女木씨(さん)……」

　しかし鬼苺は、尚も噛みつき。

　青夢もそれに対し、やや煮え切らぬ答えを返す。

　それには巫術山も、陽玄もハラハラした様子である。

「……ですが！　私には、かつて全てではないにしても人々を救った経験があります。」

「！？　是(ええ)、そうね……」

　青夢もしかし、敢えてそう切り出す。

　言いながら、これは言っていいことなのかと逡巡していた。

　あの"私"との戦いの際、世界中皆の洗脳を解き法機マリアを世界に齎し皆を救った。

　それは確かに功績ではあるが、もはや過去のこと。

　それが逡巡の理由だった。

「明白了(分かったわ)……私は、あなたに賭けてみたいと思います。」

「鬼苺さん！」

「麻さん……」

「麻씨……」

　が、鬼苺はそれを受けてあっさりと認めてくれた。

　青夢も、やや複雑な気持ちであるが。

「ありがとう、鬼苺さん……私たちは全力で、その賭けに勝つべく奮戦します！」

　その思いに、応えようと改めて決めたのだった。

　◆◇

「それでも……私はやる！」

「！？　魔女木さん。」

「魔女木……」

「青夢……」

　再び、現在。

　空中要塞内部にて。

　青夢は先ほどのアベルの言葉に怯まず、毅然として言い返す。

「ふん……貴様の目的は、人々を救うことなのだろう！　今救われている人々を無理矢理引きずり出すことのどこが、救いだと宣うのか」

「そんなの救いじゃない！　少なくとも……自分たち以外の人々を貶めて手に入る救いなんて、救いなんて言っちゃダメ！」

「……ほう？」

「魔女木さん……」

　アベルの言葉に青夢は、尚もそう返す。

「ふん……ならば、救ってみるがいい！　できるならばだがな……hccps://baptism.tarantism/、セレクト　楽園建設(ユートピアビルド)　エグゼキュート！」

「む！　皆、来るわ！」

「言われなくともわかっていてよ！」

「はい、マリアナ様！」

「ああ、魔女木！」

「うん、青夢！！」

「よし、僕も！」

「ふん……とんだ立ち会いになったな！」

　アベルがそう、術句を唱え。

　青夢ら凸凹飛行隊の面々に矢魔道・盟次は身構え――

　◆◇

「小鬼(シャオグイ)！　あれは」

「是！　あれは……母艦型幻獣機たち！」

　その頃、空中要塞周囲を張っていた中韓代表アポストロスのメンバーたちだが。

　空中要塞周囲の空に湧いて出た、護衛のための人狼艦(ウォーウルフ)・人虎艦(ウォータイガー)艦隊に驚く。

「ふんふん、また魔女さんたちがいらっしゃっていましたねえ！」

「忌々しい……纏めて魔女狩りしてやろう！」

　それぞれの艦隊の指揮を取る、クローとファングも息巻いている。

「hccp://baptism.tarantism/、セレクト　虎爪砲(タイガークローズ)　エグゼキュート！」

「hccp://baptism.tarantism/、セレクト　狼牙砲(ウルブスファングズ)　エグゼキュート！」

「我日你(くっ)！」

　そうして両艦隊からは、艦砲斉射の嵐が吹き荒れる。

「小鬼！」

「是……いよいよ私たちが戦わなくちゃ！　さあ女夭も金東も呪華も、行くよ！」

「是！！！」

「자(さあ)……私たちも！」

「네！！！」

　しかし、それにより中韓代表アポストロスは勢いづき。

「看招(おりゃー)！！！！」

「아뵤(うりゃあ)！！！！」

　各法機を突撃させて行く。

「再び始まったか……」

「教官！！！　私たちも行きたいです！」

「お前たち……」

　この様子を、尚も下から見上げるしかない自衛隊のメンバーであるが。

　巫術山もここに来て、力華たちと同じ想いであった。

　それは。

「あの空中要塞の中では魔女木たちが……更に、今外では中韓代表アポストロスの法機群が魔男と……」

　歯痒い想い、そして。

　――ありがとう、鬼苺さん……私たちは全力で、その賭けに勝つべく奮戦します！

　そう望む青夢たちを、助けたいという想いである。

「ふん、忌々しい魔女共だ！　hccps://baptism.tarantism/！　サーチ」

「……サポーティング　セイビング　エブリワン！！！」

　ファングが空中要塞から再度攻勢を展開しようとして術句を唱えたタイミングと、巫術山及び巫女兎・術那が願いを唱えたタイミングが同じであった。

　サポーティング　セイビング　エブリワン――全てを救うことを助けたい、という願いを。

　そうして。

「ん！？　こ、これは！！！」

　巫術山たちは、奇妙な感覚に襲われ――

　◆◇

「こ、ここは……」

「ど、どこ……？」

「ま、まさかここって！？」

　そうして巫術山たちが、目を覚ますと。

　光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。　

　しかし三人には、見覚えはないが聞き覚えはあった。

　それは――

「ようこそ……ダークウェブへ。」

「！？　……あ、あなたは？」

　ふと声をかけられ、彼女たちは面食らう。

　そう、やはりそこにいたのは。

「……私はアラクネ、あなたたちの望みをもう一度。」

「……え？？？」

　アラクネは優しく微笑む。