#28 一時休戦協定と憂鬱な茶会
「あいつは……パール・アブラーム!」
青夢は、空を見上げ。
反対に法機マケダより見下ろすパールに、顔を顰める。
「アブラーム卿……!」
「困りますなあ、アブラーム卿! のこのこと現れて余計なことを!」
「ああ……今回ばかりはクローに同意だな!」
アベル・ファング・クローは口々にパールに抗議する。
しかし。
「hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、 神移し エグゼキュート!」
「む!? く……これは!?」
「什么!?」
「뭣!?」
パールはすかさず、自機マケダの技を発動し。
その場にいる法機群を国も勢力も関係なく、動けなくする。
「おお、ファング騎士団長! 奴ら、動けなくなっています!」
「おお……アブラーム卿の力か! これは感謝する……さあ、攻撃を」
「お待ち下さいと言っているでしょう、騎士団長諸卿! 私はあなた方に撤退を促しに参りました。」
「なっ……撤退だと!?」
一時勢いづくファングたちだが、このパールの言葉に眉を顰める。
「アブラーム卿、また勝手に」
「勝手なのはあなた方ですよ、諸卿方! これは他ならぬ、新たな女王陛下のご命令です。」
「くっ……」
しかし、彼らも。
そう言われては、なす術がない。
「……決まりですわね、総員、一時撤退! その飛甲城シャンバラをトバラ族自治区上空におつけください!」
「不本意ながら、承知した……総員、撤退!」
「……はっ!」
かくして。
手傷を負った空中要塞――幻獣機飛甲城シャンバラをファングは、パールの言葉通り香港から離れさせて行く。
一時休戦、と言った所である。
◆◇
「……改めまして。魔法塔華院コンツェルン民間軍事部門所属傭兵部隊、凸凹飛行隊隊長・魔女木青夢です。」
「谢谢你、中国代表アポストロスリーダー・麻鬼苺です。」
「잘 부탁합니다 、韓国代表アポストロスリーダー・陰陽玄です!」
「はい、はじめまして。日本代表アポストロスリーダーにして、自衛隊教官を務めております巫術山麻由です。」
香港の港近くの会場にて。
凸凹飛行隊及び日中韓アポストロスの代表が、話し合いのため茶会のテーブルについていた。
「……さて、では本題に入る。まず」
「私たち中国代表アポストロスが新たに三機。韓国代表の方々も新たに三機、法機をダークウェブの女王より入手しました。ね、陽玄さん?」
「ㄴ、네!」
「……なるほど。」
巫術山の早速の振りに、鬼苺が即応する。
戦力としては、戦いのさなか増強された格好となっている日中韓共同戦線である。
「うむ。中韓合わせて六機の法機が新たにか……それは心強い! 更に……魔女木飛行隊長。あなた方は、あの空中要塞に対して有効打を与えられたようだが?」
「! はい、一応は……」
「是! ならそのやり方を教えてください、私たちもそうすれば!」
「네! 私たちも、あの敵に」
「うーん……」
巫術山がそうして青夢に振った話――いわば、擬似火炎誘爆砲を初めて撃った時の話――に、鬼苺も陽玄も食いつくが。
――ダメよ! あの空中要塞にはトバラ族自治区の一般市民も乗っているかもしれない……だけど! さっきの技はいわば、大量殺戮兵器よ。それを続け様に撃てば中の人たちは分からない、だから! ここは直接乗り込むの!
あの擬似火炎誘爆砲を打ち込んだ時に青夢がマリアナに言った言葉である。
それもあり、彼女はそのやり方について話をしようとはしないのである。
「……あのやり方は、二度とは通じないと思います。」
「何?」
「什么?」
「뭣?」
青夢はそう言うしかなく、それに対して巫術山・鬼苺・陽玄は首を傾げる。
「私たちは魔男と何度も戦って来ましたが……当たり前ですが緒戦・次戦とあれば、彼らは大概対策を打って来ています。ですから、もうこのやり方では」
「是、だけど! 中国軍も韓国軍もかなり戦力を損耗している今、私たちの強力な法機で突破口を開かなくちゃいけないの! あの忌々しい少数民族から、この国を守らないと!」
「!? ぐ、鬼苺さん……」
青夢がそう言うや。
鬼苺は食ってかかるように言ってくる。
そう、トバラ族は忌々しい少数民族。
彼女たち漢民族からしてみれば。
「……しかし。その忌々しい少数民族が忌々しくなったのは、何ででしょうか?」
「!? ……什么?」
「ま、魔女木!」
「뭣!?」
しかし青夢は、気づけば次にはそう言っていた。
――いえいえ! こんな所少数民族の辺境地ですよ!
――小鬼、ちょっと言い過ぎ〜!
――は、はい……そうですね……
青夢はかつてニマに対する鬼苺や女夭の態度から見出した、トバラ族への悪意を思い出したのである。
「没门……私たち漢民族がそうさせたとでも言いたいのかしら、魔女木さん?」
「……いいえ。ただ、ここにいる皆さんには是非考えて欲しいというだけです。何故、こんな戦争が起こったのかということを。」
「ま、魔女木! そのくらいにしろ、それは」
鬼苺の言葉に青夢はしかし動じずにそう言い。
巫術山はハラハラとした様子で、青夢に言う。
遠回しとはいえ、他国の民族問題に口を出すなど外交問題にすら発展しかねない事態だ。
だからこそ巫術山は、止めなければと思った訳である。
このままでは――
「……네、それは。漢民族の方々のせいだけではありません、日本も韓国も……世界の皆が問題から見て見ぬ振りをしたせいだと思います。」
「!?」
「……カムサハムニダ、陽玄さん。」
「陰さん……」
が、その時。
陽玄が、そう話した。
「……ごめんなさい鬼苺さん、誤解を招くような言い方をして。そうこれは漢民族の皆さんだけではなく、私たち世界の人々の問題です。だから、話し合いも視野に入れて彼らとの再戦を迎えるべきだと私は思います。」
「魔女木……」
「……是、話し合い? 私たちやあなたたちで一緒にあのトバラ族に謝って、この戦争を止めてくれと言えと?」
「麻씨……」
青夢が改めて鬼苺に伝えるが、彼女はまだ納得していない様子である。
「……ええ、鬼苺さん! それが無駄とは思いますが、それでもやってみる価値はあると思います! 一度、そもそもどうしてこうなったか確かめて」
「不是……甘いわ、あなた甘いわ魔女木さん! 私たちはあのトバラ族に祖国をやられた! だから、あいつらにはとことん鉄槌を下さなければ!」
「鬼苺さん……」
尚も説得しようとする青夢だが、鬼苺は未だトバラ族への敵意を捨てられない様子である。
「魔女木、そのぐらいに。……何にせよ、麻さん。私たちは魔男からの援助を受けて戦争を起こすなんてやり方を認める訳にはいかない。次に彼らが現れた際には、少なくとも私たち日本は全力を上げて戦う所存だ!」
「ㄴ、네! 私たち韓国もです!」
「はい……確かに! 魔男から援助を受けて戦争なんてやり方は許されません。私たち凸凹飛行隊も、全力を上げて戦います。」
「是……谢谢、皆さん。だけど……もうトバラ族とは話し合いなんてできません! 私たちは、ただただ戦うのみです! いいですね?」
「……はい。」
結局話し合いは、この方向で進めるしかなかった。
◆◇
「さて……ではそろそろ始めましょうか、新たな女王に騎士団長諸卿!」
「ああ、パール!」
「はっ、新たな女王陛下!!」
そうして、魔男の円卓では。
パールと新たな女王たちだけが照らし出されていた所に、更に残りの騎士団長たちも照らし出される。
「今回はそこそこ、魔女に対して打撃を与えることに成功していますね。レッドラム卿・ファング卿・クロー卿。」
「うむ!!!」
パールはそう、アベルらに呼びかけ。
呼びかけられた三人は頷くが。
「(つくづくポッと出の小娘が……偉そうに!!!)」
内心は、屈辱に震えていた。
「しかしあの凸凹飛行隊に、そこそこ追い詰められたというのも事実ですね? さて、対応策は如何に?」
「う、うむ……」
三騎士団長は、しかしパールの言葉に対する返事に詰まる。
確かに、要塞内への侵入を許した挙句その後も一応は追い詰めたとはいえ結局は抜け出されもしてしまった。
あの元魔男の騎士団長と、アベルにとっては忌まわしき兄の救援によって――
「ああ、左様だなアブラーム殿……私にはあの兄から再三受けた屈辱の上塗りもあった! よって次こそは必ず魔女共を仕留める!」
「あら……頼もしい限りですわね、レッドラム卿。」
屈辱を思い起こしアベルは、席より立ち上がりそう宣言する。
「……ならば、次は卿に指揮をお任せしましょう! 何かお考えがあるようですし。よろしいですわね、ファング卿にクロー卿?」
「……うむ!!」
パールはそう指示を出し。
ファングとクローは、今一つ納得いかぬ様ながらも頷く。
◆◇
「いかがであって魔女木さん、休戦中に飲むお茶の味は。」
「ええ……不味いことこの上ないわ。」
法機母艦プリンセス オブ 魔法塔華院艦橋にて。
自衛隊を交えての、日中韓の強力な法機持つ勢力の交渉の場となった茶会の後。
青夢は凸凹飛行隊の茶会に、顔を出していた。
「そういえば、せっかく加勢に来てくれた王魔女生さんや龍魔力四姉妹に呪法院さんたちは呼ばないの?」
「彼女たちはあくまで、最終防衛ラインとして一旦日本に戻ってもらってよ! ……まあそんなことがないよう、わたくしたち最前線が頑張らねばならなくて?」
「はい、マリアナ様!」
「そうね……」
青夢の質問へのマリアナの回答は、珍しく青夢の腑に落ちる。
そう、自分たちがまず守らねばならない。
自分たちが――
「……でも。飯綱法はともかく、矢魔道さーんが来てくださるなんて♡」
「い、いやあそんな!」
「ともかくとはご挨拶だな! 君たちを助けてやったのは誰だと思っている、え?」
そう、この茶会メンバーについて付け加えねばならない。
参加していたのは、盟次と矢魔道も同じということを。
「あら、それはありがとう。……それにしても。中国の人たちは、何が何でもトバラ族をコテンパンにする気みたい。」
「!? ほ、本当なの青夢!!」
「やはりであってよね……まあ、仕方ないのではなくって?」
「は、はいマリアナ様!」
「魔女木……」
青夢はそこで、さりげなく先ほどの話し合いの内容を明かした。
「ふん、お前のことだ! また『トバラ族の皆さんも救いたい』とか何とか青臭い夢を語ったのだろう? まあそんな話が受け入れられる訳はないのだ、まったく!」
「あ、アルカナ殿! 魔女木にそんな」
「お前は黙っていろ、クランプトン!」
「そんな言い方はないだろう、盟次君!」
「! 矢魔道さん……」
それに対し盟次は青夢を嘲るが、剣人と矢魔道は彼に抗議する。
「……ふん、謎の人望があるなお前には! まあ、何度も言っているが改めて警告してやろう……お前のその青臭い夢は、甘さとなって戦いを邪魔するだろう! 精々、足手まといにならんようにな!」
「盟次君!」
「アルカナ殿!」
「ちょっと、青夢にそんな!!」
盟次の減らぬ口に、矢魔道や剣人に真白・黒日も抗議するが。
「いいのよ、皆! ……ええそうね飯綱法。ご忠告どうも。」
「ほう?」
青夢自身は、むしろ盟次に感謝の言葉を贈る。
「……でも、ご心配なく。私は、それでも全てを救うこと諦めないから!」
「ふん、青臭さの極みだな……まあ、精々やれ。」
続けての青夢の言葉に、盟次は少し顔を逸らしながら返事する。
これでも一応は彼なりの、青夢への激励というべきか。
さておき。
◆◇
「し、司令官! 十二時の方向より敵空中要塞が香港へ!」
「来たか……全艦隊、迎撃用意!」
そうして、数日後。
再びトバラ族自治区独立戦争は、幕を上げた――




