#21 日中韓共同戦線
「よし! これは効くみたいね!」
青夢は先ほど空中要塞に着弾した凸凹飛行隊による攻撃を見て、有効打になっているのを確信した。
「ぐっ! 被弾した飛甲城下部に少なからず損害あり!」
「これはもしや……凸凹飛行隊とやらか!」
部下からの報告を聞き、ファングは合点する。
この攻撃の主は、凸凹飛行隊であると。
「な、何? 凸凹飛行隊だと?」
「ああ、カンツォ殿……かつて世界を救った者たちだ! かの世界的企業魔法塔華院コンツェルンお抱えの傭兵部隊だよ!」
「何!? くっ……」
ファングの言葉に、カンツォは歯軋りする。
よく分からないが、そんな奴らまで我々と中国の戦争に介入してくるのかと。
「し、司令官! 敵空中要塞からの攻撃が弱まっています!」
「好! 今だ……先ほどのお返しだ、少数民族風情が! 誘導銀弾、弾幕展開! 目標、敵空中要塞!」
「はっ!」
そんな隙を、中国艦隊は見逃さず。
誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦から再度、弾幕が展開される。
「て、敵艦隊よりまたも弾幕が!」
「おのれ……尚も雷電の防御網は崩すな!」
それに負けじと。
空中要塞もまた、雷電の防御網を強める。
「マリアナ様! 見てください、私たちの攻撃が反撃の糸口に!」
「ええ、見たかしらトバラの方々!」
「よし、このまま!」
「ねえ皆……これって、悪者はどっちなの?」
「! え、青夢??」
その様子を海中より見て喜ぶ凸凹飛行隊の面々だが、ふと青夢がそう呟いた。
「!? な、何が言いたいのであって魔女木さん?」
「言いたいことは一つよ……この戦争はどっちが悪者? 戦争を起こしたトバラの人たちか、それとも彼ら彼女らを差別していたことを棚に上げて今悪者扱いしてる中国の人々?」
「な! そ、それは……」
青夢は問いかける。
そう、少数派であるというだけで多数派から差別されていたトバラ族。
――いえいえ! こんな所少数民族の辺境地ですよ!
――小鬼、ちょっと言い過ぎ〜!
――は、はい……そうですね……
青夢はニマに対する鬼苺や女夭の態度に、その片鱗を垣間見ていた。
差別され国に対する反感が培われて来たトバラ族の独立宣言。
それは果たして、責められるものか?
青夢は、そう問いを投げていたのだった。
「……まあいいわ。さあ! 私たちもまた次の攻撃を狙いましょう!」
「な……魔女木さん! あなたどういう真意であって?」
が、次には青夢は。
凸凹飛行隊に、再び臨戦態勢に入るよう命じたのである。
「ああごめんなさい! 何にせよ、こんな戦争を起こすなんてやり方は絶対間違っているわ。だから……まずは、この戦争を止めないと!」
「魔女木……」
「ふ、ふん! 言われなくても分かっていてよ魔女木さん、コロコロと話題を変えないでほしくってよ!」
「そ、そうよ魔女木!」
「う、うん青夢!!」
凸凹飛行隊は青夢の雰囲気に戸惑いつつも。
再び、空中要塞を睨む。
と、その時。
「あ、青夢大変!」
「え? 真白?」
「これを見て!」
真白と黒日は、頭脳と直通する電賛魔法システムを通じて動画を青夢に転送する。
それは。
◆◇
「Hey、girls and guys! DJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo!」
ラジオ番組たる、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜の動画である。
DJセレネーが、配信を開始したのだ。
「さあ、この前は……何とマイニングレースアジア予選で、中国代表アポストロスのトバラ族選手ニマ・ギャツォがユダマイニングをやっちゃったyo! 更に……その背後に、トバラ族自治区首府の差し金があったことが判明しちゃったyo!」
セレネーは、そう告げる。
「更に更にい! これまで中国予選でも度々あったユダマイニングには、やっぱりトバラ族自治区首府の差し金があったyo! レースを戦費調達の為に利用しようとしちゃったってこと? 許せないyo!」
セレネーは未だ陽気な態度を崩さないながらも、責めるように更にそう言う。
「さあさあ皆……更に戦争を起こしたトバラ族自治区を許しちゃダメyo! 戦ってくださっている軍の皆様、頑張ってne☆」
「何よこれ……これじゃ、尚更トバラ族の人たちに対する反感を煽っているようなもんじゃない!」
青夢はその様子に、憤慨する。
◆◇
「我日你、やっと追いついた!」
「うん小鬼!」
「是! さあ早く私たちも」
「戦線に!」
その頃。
香港の海域を空中要塞の前とするなら、空中要塞の後ろより迫るは。
鬼苺の法機西王母に先導されている、中国代表アポストロスの法機群である。
「不是、待って皆! あの空中要塞は帯電しているわ、このまま突撃したらたちまちあの雷雲の餌食よ!」
「你说什么!? く、小鬼どうしたら……」
しかし鬼苺は、中国代表アポストロスを制止する。
やはり魔男の巨大兵器について実戦を通じて知る者、慎重にならざるを得ない。
「トバラの空中要塞……」
鬼苺は目の前の空に横たわる、空中要塞を見る。
今尚帯電し、目の前の中国艦隊がいる海域に攻撃を加えて行く空中要塞を。
「許さない……トバラ族! 私たちの国を!」
先ほどの青夢の回想を踏まえれば、これもトバラ族を差別していた自分たちを棚に上げた考え方とも言えるが。
同時にそのトバラ族空中要塞が今現在中国の市街や艦隊を攻撃しているのも事実であり、これまた先ほどの青夢が言った通りどちらが悪いかというのは難しい議論なのである。
「誘導銀弾駆逐艦、弾幕展開!」
「! な!」
と、その時。
中国艦隊とは別方向より襲来した弾幕が、飛甲城周囲を襲う。
それは。
「陽玄、あ、あれは!」
「뭣!? あれは……韓国艦隊!?」
陽玄たち韓国代表アポストロスは気づく。
それは紛れもない、韓国軍の誘導銀弾駆逐艦であった。
更にそれだけではなく。
「ウィガール艦隊、戦列を組め! 弾幕を展開せよ!」
「! ふ、巫術山教官あれは!」
「ああ、あれは……我らが自衛隊艦隊だ!」
力華や巫術山が気づいた通り。
日本からも自衛隊のウィガール艦隊が、押し寄せた。
「し、司令官あれは!」
「是……全艦隊に告ぐ! 我ら中国海軍は政府の決定に基づき、日本の自衛隊及び韓国艦隊との共同戦線を張る! 心してかかれ!」
中国艦隊も動き出す。
かくして、ようやくここに日中韓共同戦線が組まれた。
◆◇
「ふん、忌々しい! 韓国と日本……所詮は中国と同じく我らに楯突く者たち! 許すまじ!」
「ああ、そう来なくてはなカンツォ殿! さあ…… 幻獣機飛甲艦艦隊、尚も雷電を放て!」
「はっ!」
しかし、トバラの飛甲城も黙ってはおらず。
尚も周辺の戦闘飛行艦隊から放たれる雷電の攻撃で防戦しつつ、海域の日中韓共同戦線に放たんとする。
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――傾城の美女 エグゼキュート!」
「む!? くっ、これは!」
と、そこへ。
鬼苺の法機西王母・陽玄の法機九尾狐の攻撃が襲い。
更に。
「hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「くっ!? これは……自衛隊のか!」
力華の法機滝夜叉も、攻撃を加えて来た。
「さあ……私たちも行こう! 差別されてきたからってこんなやり方は間違っているわ、あの空中要塞を叩くの!」
「了解!!!!!」
凸凹飛行隊も、動き出す。
「おのれ……どこまでも我らを迫害するというのか!」
「案ずるなカンツォ殿……かくなる上は!」
空中要塞内で歯軋りするカンツォだが、ファングは笑う。
◆◇
「!? 待って……あれは!」
「な、何であってあれは!?」
「ま、マリアナ様!」
「青夢!!」
「な、何だ!?」
一方、空中要塞外では。
その空中要塞たる幻獣機飛甲城を攻めようとする日中韓共同戦線も、飛甲城の艦体が蠢めいたことにより警戒する。
たちまち艦体からは、複数の艦が分離して行き共同戦線が艦隊を展開する海域へと次々に着水していく。
それは。
「む! これは……あの魔男の戦艦みたいな母艦型幻獣機たちが!?」
青夢たちが驚いたことに分離した艦たちは、あの魔人艦が如き人虎型上半身を思わせる艦橋部を備えた半人半艦の姿。
魔人艦が一種、人呼んで人虎艦。
「人虎艦全艦隊、全砲門開け! 陸海空全方位に向けて怒りの攻撃を放てえ!」
「了解! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 虎爪砲 エグゼキュート!」
「!? な……」
「きゃあああ!!」
「ぐああ! こ、これは!?」
共同戦線が呆けている隙に。
人虎艦は全ての砲塔・砲身をあらゆる角度に向け。
そのままファングは指示通り砲撃を多数放ち。
それら砲撃は陸海空全方位を襲い、海上の共同戦線全艦隊のみならず空中の法機群や海中の凸凹飛行隊法機群をも襲う。
「く……トバラ族!」
その人虎艦艦隊の砲撃網からは逃れつつ。
鬼苺ら中国代表アポストロスは、歯軋りしていた。




