#20 空中要塞現る
「な……何ですのあれは!?」
「ら……ラピ○タ!?」
一つの街に匹敵するほどの超巨大な円盤型の建造物に、凸凹飛行隊はただただ戸惑うばかりである。
さながらどこぞの天空の城――曰く、幻獣機飛甲城というらしい。
「……凸凹飛行隊、出撃よ! 皆、用意を」
「お待ちになって魔女木さん! それは中国の軍を差し置く行為であってよ、如何な魔法塔華院コンツェルンと言えども国際問題に発展しかねないのではなくって?」
「な! くっ、そうね……」
指を咥えて見ている訳にもいかじと、青夢は法機を呼び出そうとするがマリアナにそう止められている。
そう、ここは中国。
国家とはある程度独立した立場を保てるほどの地位とはいえ、ここで凸凹飛行隊――ひいては魔法塔華院コンツェルンが出しゃばればマリアナの懸念にある通りなのは明白である。
と、その時。
「さあ、行くよ女夭!」
「是、小鬼! さあ行くよ皆も!」
「是!!」
「!? あれは……麻さんたち!?」
迷う青夢たち凸凹飛行隊の頭上を通り過ぎて行くのは。
中国代表アポストロスの、鬼苺専用法機たる西王母や女夭・金東・呪華の法機マリア群である。
◆◇
「カンツォ主席! 法機群接近!」
「ふん、無駄なことだ……要塞構成幻獣機飛甲艦群、展開! 迎え撃て!」
「は!」
「!? よ、要塞が!?」
一方、鬼苺の法機群の動きを察知したトバラ側は。
たちまち応戦すべく、幻獣機飛甲城の艦体を蠢かせる。
たちまち艦体からは、複数の幻獣機飛甲艦が分離して行く。
「あれは……魔男の幻獣機が牽引する戦闘飛行艦ですの!?」
「は、はいマリアナ様! どうやらあの空中要塞はその飛行艦の固まりかと……」
「そんな……」
「で、ではまさかあれは!」
「ええ、疑う余地なく魔男の息がかかっているわね……」
その様子を見ていた凸凹飛行隊は驚くと共に、魔男の関与を確信する。
魔男が独立国家建国を望む少数民族に、武力を提供する――
それは可能性の一つとして考えられないことではなかったが、今まであまり考えられてはこなかった議題でもあった。
「失礼します! 凸凹飛行隊の皆様、一度香港のご自分たちの法母まで戻られるようにとコンツェルン会長よりお達しです!」
「! お母様が?」
と、そこへ各部屋に入って来たホテル従業員がそう告げ。
青夢たち凸凹飛行隊は、その言葉通り法母へ戻ることにした。
◆◇
「し、小鬼どうしよう! このままじゃ」
「落ち着いて、女夭! 大丈夫、あんな飛行艦何隻出て来た所で!」
一方、再び中国代表アポストロスの面々は。
出現した飛行艦隊に大いに動揺しながらも。
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「hccps://maria.wac、セレクト!!! 聖母の悲哀、エグゼキュート!!!」
各機散開し、攻撃を加える。
「敵機群より攻撃!」
「ふん……ファング殿!」
「ああ承知した……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態!」
が、ここでカンツォに命じられた虎男の騎士団長ファングが部下たちに命じ。
それに応じた幻獣機飛甲艦が、パーツ群に分離していく。
「什么!? あれは……そうか、あれは母艦型幻獣機! 皆、一旦退却して!」
「し、小鬼?」
「早く!」
それを見た鬼苺が、中国代表アポストロス面々に呼びかけ。
慌てた彼女たちは、早々に幻獣機飛甲城周辺空域を離脱していく。
鬼苺は中国代表アポストロスの中で唯一、母艦型幻獣機――ひいては幻獣機父艦との実戦経験がある。
故に、その特性について熟知とはいかないまでも心得ておりこのまま戦う訳にはいかないと感じてのことである。
「おや? 何だ……恐れをなして何もできないのか!」
「我日你! このままじゃ」
「中国軍空軍! 全員突撃せよ!」
「はっ!」
「! く、空軍の皆さん!」
鬼苺が歯軋りしていると。
飛んで来たのは、中国軍空軍が擁する法機マリア群であった。
「憎き中国軍……待っていたぞ! さあ……我らトバラ王国軍の怒りを知れ! ファング殿!」
「了解! さあ、食らえ!」
それを苦々しく見たカンツォが下した、撃滅の命令に従い。
幻獣機飛甲城及び周囲の幻獣機飛甲艦艦隊も、本格的に臨戦態勢に入る。
◆◇
「と、トバラ族自治区が独立宣言と中国その他周辺国への宣戦布告ですの!?」
「ええ、先ほど私も初めて知りましたが。」
その頃、魔法塔華院の法母たるプリンセス オブ 魔法塔華院艦橋にて。
母から通信を受けたマリアナは、内容に驚愕していた。
無論、あの様子を見ればトバラの独立宣言自体は聞くまでもなかったことなのだが。
改めて、どうやら全面戦争を展開する気であると知ったことで尚更恐ろしくなったのである。
「……魔法塔華院会長。私たち凸凹飛行隊も、あのトバラの軍勢と戦うことはできないんですか?」
「ちょっと魔女木さん」
「ええ、魔女木飛行隊長……その件は中国当局と協議中よ、今一度待って。」
「はい、ありがとうございます……」
青夢はマリアナ母の言葉に、忸怩たる思いである。
結局、自分たちは何もできないのかと。
が、その時であった。
「! ま、マリアナ様あれを!」
「! もう雷魔さん……今は大事なお話中であってよ」
「は、はい申し訳ありません! ただ……や、奴らの空中要塞が、もう近くに!」
「!? な、なんですって!?」
突如監視台から艦橋内部に駆け込んできた法使夏の言葉に、青夢たちは驚き監視台に我先にと出ていく。
そこには。
「ははは! 期待以上だ魔男の兵器群よ……これが空を制して拝む中国の市街なのだな!」
法使夏の弁にあった通り、幻獣機飛甲城と護衛の飛行艦隊がすぐ近くの上空に見えた。
空軍や鬼苺らによる最前線は、既に突破されてしまったようである。
「中国軍海軍、総員戦闘配置につけ! 艦隊及び法機群展開!」
「了解!」
「! マリアナ様!」
「これは……中国軍の艦隊であって!?」
これを受け。
沿岸部に続々と、誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦や法母が集っていく。
ただし普段はその目がほぼ国外に向けられているのに対し、今回はほぼ国内に向けられていた。
◆◇
「そうですか……お願いいたします!」
「巫術山教官!」
その頃。
こちらも香港の、自分たちが乗って来た船に戻り本国との連絡を取っていたのは日本代表アポストロス――ひいては、自衛隊の面々である。
「ああ、妖術魔二等空曹……自衛隊も、全面的に防衛態勢を敷いているそうだ。」
「そうですか……」
巫術山の弁にあった通り。
日本では既に、軍事ヘリや法機マリア群が既に空を警備し。
街中の地上に戦闘車両をも配備し。
地対空用の誘導銀弾を空に向けて構えるなど、厳戒態勢を敷いている。
「しかし……これで。強力な法機が全世界の各国に渡ることにより戦争が起こるのではないかという、私の嫌な予感が的中してしまったことになるな。」
「はい、教官……」
巫術山の言葉に、力華は力無く頷く。
しかし。
「敵空中要塞は、香港に迫っています! 私たちも」
「待て! 私たちは如何なる手出しもできない、ここは他国だ!」
「! そんな……」
目の前の事態に対処できない歯痒さにも襲われていた。
◆◇
「陽玄……韓国軍も、艦隊を展開するって!」
「네! そうね……어머니……」
その頃。
陽玄ら韓国代表アポストロスも、香港まで退避し。
母国から、連絡を受けていた。
「あの空中要塞……私たちの韓国に来る前に! 私の九尾狐の力があれば」
「だ、だめだよ陽玄! ここは中国だよ、韓国人の私たちがそんな」
「っ……! そ、そうよね……」
陽玄らも、忸怩たる思いだった。
◆◇
「生意気なトバラの奴らめ……全艦隊、誘導銀弾多数発射! あのような要塞など、一気に撃滅せよ!」
「はっ!」
一方、香港周辺海域では中国軍海軍司令官が命令を下し。
たちまち誘導銀弾駆逐艦及び誘導銀弾巡洋艦から、弾幕が展開される。
「ファング殿!」
「ふん、無駄なことを……幻獣機飛甲艦艦隊! 全艦隊、雷雲形態に移行!」
「了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷雲形態 エグゼキュート! セレクト! ファイヤリング 雷の雨! エグゼキュート!」
それに、ファングらトバラ王国軍も即応し。
たちまちパーツ群に分かれていた幻獣機飛甲艦艦隊が纏う雷電が、向かい来る弾幕を一網打尽にしていく。
「更に! 雷電を海域にいる中国軍艦隊にも放てえ!」
「了解!」
ファングは更なる命令を降し。
次に幻獣機飛甲艦艦隊が纏う雷電が、海域の中国軍艦隊にも降り注いで行く。
「ぐああ!」
「くっ……怯むな! 全艦隊、攻撃続行!」
しかし、中国軍艦隊も負けじと。
尚も誘導銀弾の弾幕を、展開して行く。
「敵弾、多数!」
「ふん、無駄な足掻きだ……全艦隊、尚も雷電攻撃! 攻防両面に展開して弾幕も敵艦隊も焼き尽くしてしまえ!」
「はっ!」
「ぐああ!」
そこでトバラ王国軍も負けじと、更に雷電攻撃を強め。
より中国軍艦隊に、被害を与えていく。
「ははは、ああ壮観だ! 見たか中国……いや、漢民族共! これが、少数民族などと虐げられてきた我々トバラ族の怒りだ……」
カンツォはその様を愉快に眺めつつ、かねてより虐げられてきた屈辱を滲ませる。
そうだ、今こそ雪辱の時――
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 皇帝――帝権執行!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!!」
「ぐっ!? こ、国籍不明の敵より攻撃が!」
「な、何!?」
と、その時だった。
何と、周辺の幻獣機飛甲艦艦隊をすり抜けるように。
空中要塞のがら空きになっていた最下部に、突如攻撃が炸裂した。
「ど、どこからだ!」
「か、海中からです!」
「何!?」
カンツォもファングも、その報告に耳を疑う。
◆◇
「さあ、行くわよ皆!」
「くっ、魔女木さん……今しがた、ようやく魔法塔華院コンツェルンの参戦許可が出たところであってよ! これは見切り発車も甚だしくってよ!」
「そうよ魔女木! まったく」
「構うものか魔女木!」
「そうだよ青夢!」
「さあ、やっちゃおう!」
その海中からの攻撃の主とは、無論。
青夢たち、凸凹飛行隊のことであった――




