#19 マイニングレースアジア予選
「さあ……見えてきましてよ!」
「おお……あれが中国なのですねマリアナ様!」
「ううむ、大きいな!」
「そうね……」
法機母艦プリンセス オブ 魔法塔華院の飛行甲板上にて。
凸凹飛行隊は、見えてきた中国は香港の光景に見入る。
――……待ってください! これは……ユダマイニングです! そのイスカリオテのユダは……メンバーのトモです!
――そ、そんな! と、トモ君がユダマイニング?
――ち、違う俺は!
――トモ、残念だけどよお……俺たち、ザラストサパーマイニングもやっててもう証拠上がってんだよ!
――!? ……な、ち、違う! ほ、本当に俺はやってない!
―― 本当に、私何も知らないんです!
青夢の頭に浮かぶは、やはりこれまで彼女が見てきたマイニングレースにてイスカリオテのユダとされた者たちの様子だ。
更に、実は中国予選で度々ユダマイニングが横行していたという情報もある。
それがより一層、青夢の疑念を深めていたのである。
◆◇
「見て、陽玄! 香港よ!」
「うん、見えて来たわね……」
同じ頃。
凸凹飛行隊と似たように、船からはしゃいだ様子で外を眺める者たちがいた。
음양형――陰陽玄を始めとする、韓国代表アポストロスの面々である。
「모두、 아자아자 화이팅!」
「네! ていうか、화이팅は陽玄もでしょ!」
「あ、そうだったわ!」
陽玄は、自分の拳骨を自分の頭に当ててベロを出す。
◆◇
「さて……私たちも負けていられないぞ!」
「はい、教官!!」
その時。
日本代表アポストロスとして、巫術山らをはじめとする自衛隊の面々も香港に迫っていた。
◆◇
「欢迎、魔法塔華院コンツェルンの皆様!」
「お出迎え感謝しましてよ、ミス麻。」
そんな中、香港に寄港した凸凹飛行隊は。
麻鬼苺をはじめとする、中国代表アポストロスの面々に出迎えられた。
中国代表アポストロスは、皆青夢たちと同じくらいの年頃である。
「いえいえ、三大企業代表アポストロスの皆様がわざわざアジア予選を視察に来てくださるなんて!」
鬼苺は、大げさなほどに下手に出た様子である。
「な、何か私たちVIP待遇なのかな黒日?」
「う、うん何かそうみたい……」
「勘違いするんじゃないわよ魔導香さんに井使魔さん? VIP待遇なのはあくまでマリアナ様だから!」
「む……ま、まあ分かっていたわよ!」
「そ、そうよ!」
「(うーん……)」
真白に黒日、法使夏が言い合う中。
青夢はやはり、未だ考え込んでいた。
◆◇
「ここがトバラ族自治区ですの……?」
「はい。地味な所ですが、電使力代が安上がりで済むのでマイニング関連の企業が多く存在しているのです!」
少数民族トバラ族自治区にて。
青夢やマリアナら凸凹飛行隊は、そこに案内されて歩いていた。
鬼苺がここに面々を案内したのは、今彼女の弁にあったようにマイニングレースに縁のあるところだからである。
「小鬼! ここは私たちよりも。」
「そうね、女夭。ここは……」
親友かつ同アポストロスの姫女夭に促され、鬼苺が見る先にいるのは。
「ほら、ニマ・ギャツォ! あなたの土地でしょう、案内くらいなさい!」
「は、はい!」
ニマ・ギャツォ。
中国代表アポストロスの一員であり、少数民族トバラ族の少女である。
「に……ニマ・ギャツォ……です。よろしくお願いしたす……」
「もう! 覇気がないわね!」
「あ、よ、よろしくお願いします!」
「もう、魔女木さん! 飛行隊長がそんなボーっとしていては魔法塔華院の名折れであってよ!」
ニマの自己紹介に、青夢は慌てて応じる。
◆◇
「……こ、ここが……トバラの街です……」
「声が小さいわ、ニマ・ギャツォ!」
「は、はいすみません!」
ニマはそうして、案内役としてトバラの市街地を案内するが。
やはり声が小さく、鬼苺に怒られてしまう。
「しかし……ここが、中国のマイニングの主要部を担う所であって? 中々綺麗な所ですわね。」
「あ、ありがとうございます!」
「(! あら……いい笑顔。)」
マリアナの言葉に、ニマは先ほどまでのおどおどした様子が嘘のように満面の笑みで応じる。
トバラ仏教なる宗教を信じているらしい彼らの街は、そういった仏教文化の風情があったのだ。
「いえいえ! こんな所少数民族の辺境地ですよ!」
「小鬼、ちょっと言い過ぎ〜!」
「は、はい……そうですね……」
「(……さっきから、ニマさんに対する当たり強すぎじゃない?)」
が、鬼苺と女夭の言葉を聞きニマはまたしおらしくなってしまい。
青夢はやや腹を立てる。
どうも彼女たちのニマに対する言葉遣いには、やや差別的なニュアンスが感じられるのである。
「……大丈夫、ニマさん。あんな言い方、気にしなくていいから。」
「!? は、はい……ありがとうございます……」
青夢は見かねて、ニマに小声でそう語る。
――オーッホッホッホ! 魔女木さん、そんなことで満足していますの? そんなんだから出遅れ続けるんですってことよ!
それらの出来事はかつての青夢自身を彷彿とさせるものであり、青夢は他人事だと思えなかったのだ。
「……でも、大丈夫です。本当にそれを気にしなくてもいい日が、そのうち来ますから……」
「!? え……?」
が、ニマも小声でそう返し。
青夢は困惑する。
◆◇
「あー、楽しかったね!」
「うん! トバラの街キレイだったし……ね、青夢?」
「……」
「……青夢?」
その後、ホテルにて。
ロビーで談笑する真白・黒日・青夢だが、笑う真白・黒日とは対照的に浮かない表情の青夢である。
―― ……でも、大丈夫です。本当にそれを気にしなくてもいい日が、そのうち来ますから……
「(一体どういう意味なの……ニマさん?)」
青夢には、ずっとニマのあの言葉が引っかかっていたのだ。
◆◇
「さあ、それでは……今週も、マイニングレースをラジオ中継するDJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo! さあ、here we go!」
DJセレネーは、陽気に喧伝する。
かくして、アジア予選の日は迎えられた。
会場には巨大な滑走路があり。
日中韓代表アポストロスの法機群が、所狭しと並んでいる。
そこへ大観衆の歓声が加わり、さながら祭の様相を呈していた。
「さあて、今日のマイニングレースは……中国で開かれる、中国・韓国・日本の三大アポストロス! さあ〜、三学園の時とは違う国同士のぶつかり合いだyo! これはどうなっちゃうのyo!」
セレネーは、憂いの言葉を口にする。
しかし。
「……でも、大丈夫yo! ここで皆が、アジアの一番を決めてくれるから!」
次には、また陽気な言葉遣いをする。
「さあ……行こう、女夭!」
「うん、小鬼!」
「行きましょう、教官!!!」
「ああ!」
「さあ모두、 아자아자 화이팅!」
「네! 陽玄もね!」
俄然、日中韓代表アポストロスたちも活気づいている。
そうして。
「……hccps://emeth.MinersRace.srow/! セレクト、マイナーレーシング! エグゼキュート!!」
日中韓代表アポストロスたちは、一斉に術句を唱え。
自機たる法機群を、次々と滑走・発進させる。
それらの法機群は計賛速度が飛行速度に反映され、加速する。
「! 始まりましたマリアナ様!」
「ええ……わたくしたちのライバルになるお相手方を決める大事な戦いであってよ!」
「ああ、魔法塔華院!」
「うわあ、私まで緊張して来た……」
「ま、まあとりあえずせっかくのマイニングレースだし観戦を楽しもうよ!」
「……」
凸凹飛行隊も、この様子を嬉々として見守るが。
「(何か起こりそうな予感がする……だから本来ならこのレースは止めなきゃいけないんだろうけど。)」
青夢はただ一人、歯軋りしていた。
◆◇
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「む! やはり……敵アポストロスの攻撃か!」
一方、マイニングレースでは。
中国代表アポストロスの鬼苺専用法機・西王母から攻撃が放たれる。
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――傾城の美女 エグゼキュート!」
「ん!? こ、今度は韓国代表アポストロスからもか!」
韓国代表アポストロスの陽玄専用法機・九尾狐からも攻撃が放たれる。
「ナーイス、小鬼! さあ私たちも行くよ、金東・呪華たち!」
「收到! ……hccps://maria.wac、セレクト!!! 聖母の悲哀、エグゼキュート!!!」
女夭の呼びかけに、同じく中国代表アポストロスの成金東・文呪華を始めとするニマを含めた他の面々も応じ。
彼女たちは自機の法機マリアから、攻撃を放つ。
「安心してください、教官! ここは本官が! hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「おお……妖術魔二等空曹!」
が、やられっぱなしでは済ますまいと。
日本代表アポストロスの力華専用法機・滝夜叉からも攻撃が放たれる。
「これはこれは……日中韓代表、さながら三国志! さあ、ますます目が離せないわyo!」
これを中継するDJセレネーの声にも、熱がこもる。
◆◇
「よし……こちらが有利! 後は速さで……わ、WARNIG!? これは……?」
そのまま、純粋な速さ対決に専念しようとする鬼苺たちだが。
その時、マイニングに関する警告が発令され――
◆◇
「おめでとうございます! 勝者、中国代表アポストロスです!」
「くっ……惜しい!」
「もう!」
そうこうする内に、勝敗は決する。
しかし。
「待ってください! ……これは、ユダマイニングです!」
「え!? ゆ、ユダマイニング!?」
鬼苺が、声を上げる。
「ええ、その通りです皆さん! そのイスカリオテのユダは……こいつです!」
「! わ、私が!?」
女夭も応じ、指差した先には。
ニマの、姿があった。
「!? に、ニマさんが!」
「何ということであって……」
「ま、マリアナ様!」
「何と……」
「ま、真白!」
「う、うん黒日……」
凸凹飛行隊も、この件には驚く。
「わ、私じゃありません! 私は」
「言い訳するんじゃないわよ、少数民族の分際で!」
「そうよ、せっかくチャンスを与えてやったってのに!」
「そうだ! この中国の面汚しめ!」
「出て行け!」
弁解するニマだが。
他の中国代表アポストロス面々からも観客席からも、大ブーイングを浴びる。
「ち、ちょっと待ってください」
「魔女木さん! ここで凸凹飛行隊の――魔法塔華院コンツェルンの名を汚すおつもりであって?」
「そ、そうよ魔女木! ……確かに、疑問はあるけど。ここは誰がどう見ても、あのニマさんがイスカリオテのユダなんだから……」
「魔女木……」
「そ、そうだよ青夢!!」
「……くっ!」
青夢はそこで声を上げかけるも、同じく戸惑いながらも諭してくる凸凹飛行隊の面々の言葉に。
ただただ、連行されるニマを見るしかなかった。
◆◇
「ユダマイニングがまたも成功したか!」
しかし、おかしなことに。
自治区首府にてトバラ族主席の女性、カンツォ・ドマは歓喜の声を上げる。
ユダマイニングをしたであろうニマは告発され失敗したにも関わらず、である。
「では……動き出されるのですね? ミズ・カンツォ?」
「ああ……いずれにせよ、ユダマイニングは自治区の差金であったと当局にバレるのは時間の問題だ! さあ! 今こそ悲願を果たす時だ…… 幻獣機飛甲城、起動せよ!」
同席している魔男の騎士団のウィヨルとフィダールから呼びかけられ。
カンツォは、またも歓喜して応じる。
◆◇
「あ、青夢! あれってトバラ族自治区の方じゃない?」
「な……何あれは!? そ、空飛ぶ超巨大な……円盤?」
マイニングレースアジア予選の翌日。
ホテルから空を見て、凸凹飛行隊の面々は驚く。
自治区上空には一つの街に匹敵するほどの超巨大円盤――カンツォの言葉にあった、幻獣機飛甲城が浮かんでいたのである。




