#16 三学園総攻撃
「きゃああ!!!!」
「ぐああ!」
「く……皆落ち着いて! この程度の重力、宇宙に行く時に比べたらマシでしょ!」
魔神艦の嵐へと巻き込まれ翻弄される凸凹飛行隊だが。
青夢はその中でも、何とか冷静さを保っている。
「そうよ、かくなる上は! hccps://ophiuchus.mc/ophiuchus.engn、セレクト、コネクティング! ダウンロード 電使翼機関、エグゼキュート! さあ電使翼機関、逆噴射よ!」
「きゃああ……ん!? す、スピードがダウンした?」
青夢は自分のセリフから、ヒントを見出し。
たちまち電使翼機関をインストールし、それを水流先端に向けて逆噴射により振り回されるスピードを緩める。
「……今よ、全機攻撃再開! 目標、渦内部の敵母艦!」
「な……り、了解!!」
「ああ、飛行隊長!」
「む……言われるまでもなくってよ!」
「はい、マリアナ様!」
青夢はそこに、反撃の好機を見出してそう呼びかけ。
凸凹飛行隊の面々はそれぞれの反応を見せるが。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 教皇――戒律執行!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!!」
背に腹はかえられぬと、終いには全員で渦内部の魔神艦めがけて光線ないしは泡ないしはエネルギー矢を放つ。
「ははは……ぐあ! な、これは!?」
「て、敵法機群より攻撃の模様!」
「左舷、右舷共に被弾!」
「な……何だと!? あの水流の中から、どう攻撃が……ぐあ!」
それらはすっかり慢心していたシャルル――ひいては彼率いる魔神艦へと集中砲火となり浴びせられ。
物理的にも精神的にも衝撃を与えられた。
「よし、これは効くみたいね! さあ…… 電使翼機関、逆噴射を弱めるわ! これでもっと、高速で攻撃を加えなきゃ!」
青夢は成果を喜び、しかし更なる攻撃体勢を整える。
そう、彼女自身が見抜いたようにこの魔神艦には救世主捕縛の鎖が使われている。
故に、攻撃が成功しても。
「く……ぐっ! ちょこまかと……だが舐めるな! この魔神艦はすぐさま回復できる!」
「ええ……知ってるわよ!」
すぐさまバックアップとして保存された完全な状態のデータが全艦に反映され、回復してしまうのである。
そのため、攻撃を絶えず加えねばならないが。
「エグゼキュート!!!!!!」
「ぐうあ! この……決定打にならぬとはいえ、実に不愉快な状況だこれは!」
シャルルの今の弁にある通り、いずれも決定打にはならない。
「やっぱりちょっとキツいか……こりゃあ!」
青夢は歯軋りしつつ、渦の外を見る。
そこには――
◆◇
「まったく……凸凹飛行隊、まさに狂気の沙汰ね!」
「ええ、尹乃様!!!」
三学園の、戦列を成すヘロディアス艦以下艦隊がいる。
自らあの嵐の守りに突撃する形となった凸凹飛行隊の有様に、特に尹乃ら王魔女生の面々は目を丸くしていた。
「いいえ、あれぐらいでこそ凸凹飛行隊ですよ王魔女生さんたち!」
「ああ姉貴!」
「ええ、お姉様!」
「うん、お姉さん!」
「! な、何であなたたちは落ち着いていられるのよ龍魔力四姉妹……」
が、そう語る龍魔力四姉妹に。
尹乃はやや引く。
「まあそうね……悔しいけど、今もあの娘たちには抜け駆けされちゃったし!」
「はい、レイテ様! まったく、レイテ様をどこまでも差し置いて!」
「そうよそうよ!!」
「い、いやあなたたちも……何自分たちも同じことやってたみたいに言ってんのよ!」
レイテたちも、同様に語り。
尹乃らをますます困惑させる。
「聞こえるかしら、皆!」
「! 魔女木さん……ええ、聞こえているわ!」
「ええ、なあに?」
「まったく……あなたたち、あんな無茶苦茶をやったってねえ!」
と、その時。
青夢から三学園艦隊に入電があり。
夢零・レイテ・尹乃は、それに対して三者三様の返しをするが。
「ええ、単刀直入に言うわ皆! 私たちに力を貸して欲しいの!」
「! 何ですって、私たちが魔法塔華院に?」
「あら……」
「へえ?」
青夢は無駄話の時間はなしとばかり、畳みかける。
「そうよ、今私たちがこの魔神艦に攻撃を加えるだけじゃ決定打にならない! だから、皆の力も貸して欲しいの!」
「な……ええ、そうね……」
青夢のその話に、尹乃は特に感じ入ったように考え込む。
そうして。
「……行くわよ、等々力さんたち! このまま凸凹飛行隊に抜け駆けされては、王魔女生の名が廃るわ!」
「は、はい尹乃様!!」
「ええ……そうですね!」
尹乃は、魔美や華妖、士津香をも促し。
「……王魔女生配下の法機、発進! 各ヘロディアス艦より砲撃を続けつつ、目標たる敵戦艦めがけて突撃!」
「はい!!!」
各ヘロディアス艦より魔美・華妖・士津香に乗機を発進させ、自身も法機ヘカテーで発進する。
「姫! 私も」
「シュバルツ、あなたは各ヘロディアス艦の総括をヘロディアス母艦に残ってやりなさい! 今のあなたは生身の人間なのよ、後方に待機を!」
「む……はっ、かしこまりました!」
シュバルツも続こうとするが、尹乃の言う通り既に彼のボディは以前の幻獣機ミュルミドーンではなく生身の人間である。
故に忸怩たる思いではあるが、尹乃から命じられた通りにするしかなかった。
「く……私たちも行きましょう!」
「ああ、姉貴! これ以上魔法塔華院や王魔女生に抜け駆けされて堪るかよ!」
「はい、お姉様!」
「うん、お姉さん!」
「はい、夢零様!!」
龍魔力四姉妹に師穂と沙月も、これを黙って見ている訳はなく。
そのままヘロディアスゴルゴン艦やギリシアンスフィンクス艦から、自機たる法機を発進させ魔神艦へと突撃を仕掛ける。
「ええ私たちも! 凸凹飛行隊なんかにばかり抜け駆けさせて堪りますかって話よ!」
「ええ、ボクたちも行きましょうレイテ様!」
「はい、レイテ様!!」
レイテもジニーに雷破・武錬に呼びかけ。
ヘロディアス母艦より、各法機を発進させていく。
◆◇
「エグゼキュート!!!!!!」
「ぐっ! ふん……貴様らの攻撃など所詮焼石に水だ! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢! エグゼキュート!」
「きゃあ!」
「くっ、これじゃ!」
一方。
尚も凸凹飛行隊は水流内より、全法機から攻撃を加えているが。
やられてばかりの魔神艦ではなく、シャルルは艦砲射撃を自艦回りへと放ち。
凸凹飛行隊はそれに苦戦しているが。
「! 青夢、見て! 王魔女生や龍魔力に呪法院さんたちの法機が向かって来るわ!」
「! よし、うまくいくわ! 雷魔法使夏!」
「マリアナ様でもないあんたが命令しないでよ魔女木! ……まあいいわ、なら!」
真白に言われ、向かい来る法機群を見て希望を見出した青夢はそのまま法使夏を促し。
「! あれは」
「い、入口が!?」
「まあ……」
法使夏は法機の力を操り、自分たちが嵐を一巻きしている水流の根本をこじ開けて穴とし。
それに気づいた尹乃・夢零・レイテは戸惑いつつも。
「行くわよ皆!!!」
「はい!! はああああ!!」
それぞれ、仲間たちを率い。
先を争うようにして水流内に自機を駆り入り込んでいく。
「あら……ここは!」
「はいはい、皆一直線に! ……きゃ!」
「きゃあ!!」
そうして、皆法機により入りながらも。
「ふん、法機が集って来たが……何匹集まろうと虫ケラは虫ケラだ!」
尚も渦内部からの魔神艦艦砲射撃は激しくなる。
「く……いいえ、怯んでいる場合じゃないわ! かくなる上は! ……皆、水流をもっと速めるから覚悟しといて! ……電使翼機関、更に逆噴射を弱めるわ!」
「きゃあ!!」
しかし、それを受けて青夢は。
より攻撃をしやすくすべく水流を加速し、それにより一時水流内の全法機は大混乱となる。
「く……何のこれしき! 皆、体勢を立て直すのよ!!!」
「はい!!」
「ええ……魔女木さんの無茶苦茶はもう既に始まっていたことであってよねわたくしとしたことが!」
「は、はいマリアナ様!」
「ああ、それでこそ!」
「私たちの飛行隊長だよ、青夢!!」
「うん……さあ行こう、皆!」
が、意外にもあっさりと皆体勢を立て直し。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 魔術師――魔法激撃!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!!」
凸凹飛行隊は、先ほどから変わらず攻撃を放ち。
「hccps://juno.wac/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート! さあ見えました敵艦が、尹乃様! 華妖、亜魔導!」
「hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍 エグゼキュート!」
「hccps://perchta.wac/、セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「hccps://jadwiga.wac/、セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
負けじと、尹乃ら花蓮乙女学園の面々も攻撃を放ち。
「hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"!」
「hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズアイ!」
「hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!」
「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!!!」
「hccps://sphinx.wac/、セレクト 大いなる謎 エグゼキュート!」
「hccps://echidna.wac/! セレクト 、幻獣支配 エグゼキュート!」
「hccps://harpuia.wac/、セレクト 剥奪腐食 エグゼキュート!」
龍魔力四姉妹らも、攻撃を放ち。
「hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト! 楽園への道! エグゼキュート!」
「hccps://idun.wac/、セレクト クルミ変化! hccps://idun.wac/GrimoreMark、セレクト 胡桃弾! エグゼキュート!」
「hccps://morgause.wac/、セレクト 叛逆騎士の母! エグゼキュート!」
「hccps://hesperides.wac/、セレクト 不和の林檎! エグゼキュート!」
レイテらも、攻撃を放つ。
それら、光線技や弾幕は狙い過たず魔神艦に命中し。
「だ、第三戦闘区構成機群壊滅!」
「第二戦闘区構成機群も壊滅!」
「第四戦闘区画構成機群壊滅!」
「く……よくもやってくれる! 魔女共!」
齎される数々の報告に、シャルルは堪忍袋の緒が切れんばかりである。
と、その時。
――大丈夫ですよ、ヴィクトリュークス卿……
「! アブラーム卿か……」
◆◇
「シャルル陛下に、新しい馬男の騎士団の皆さんごめん! その内、ネットワークから取り戻すから……」
一方。
攻撃を加えながらも青夢は、シャルルたちを心配する。
しかし。
「hccp://baptism.tarantism/、セレクト 悪魔の交響曲 エグゼキュート!」
「hccp://baptism.tarantism/、セレクト 悪魔の交響曲……」
「くっ!」
「きゃあ!!」
「これは……」
尚も攻撃を加えられている魔神艦の艦体より、超音波が響き渡る。
「ははは、魔女共どうした!? これで終わりか!」
「く……破壊された艦体が、回復していく……!」
この隙を突き、まだ艦体全部を潰しきれなかった為に残っていたバックアップで魔神艦は復活を果たしていく。
「ふふ、魔女木青夢……勝負はこれからですよ!」
やはり高空の法機マケダより。
パールは、ほくそ笑んでいる。