#15 魔神艦vsヘロディアス艦隊
「あれは……じ、人馬ですの!? あ、あれではまるで」
「は、はいマリアナ様! あれでは本当に母艦型幻獣機のようです!」
「感心してる場合じゃないから! ほら早く、水流回頭させて雷魔法使夏!」
「な……命令しないでよ魔女木!」
更に形態変化した魔神艦の姿に、魔女陣営は大いに混乱させられるばかりである。
魔神艦ケイロンは、ただでさえ半人半馬ならぬ半人半艦ともいうべき姿から。
その下半身にあたる艦体を馬形に変化させたことにより、もはや半人半馬そのものともいうべき異形へと変化を遂げた。
「いいえ、私たちは忘れていただけよ……もともと、あれが母艦型幻獣機と分かっていながら! あれがその中じゃあ異色の艦としての原型を留めていたことによって、私たちはあれを定型で認識してしまっていたの!」
「そんな、青夢……」
「マジ……?」
青夢は未だ呆ける魔女陣営に、そう檄を飛ばす。
◆◇
「ははは、奴らは呆けているな……もはや打つ手なしか! さあ、主砲塔全方位に向けろ! このまま奴らを、叩きのめす!」
「はっ、騎士団長!」
尚も突風を撒き散らし。
海面より嘶く馬のごとくその馬形艦体前部を見せている魔神艦ではシャルルが、部下たちに命じ。
たちまち、艦上の主砲塔が変わる変わる向きを変え。
「さあ……hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢! エグゼキュート!」
その各砲身より、無数の矢が発射される。
「きゃああ!!」
「怯まないでくださいお二人とも! そんなのでは、あの敵艦は……きゃあ!」
魔神艦へと向かおうとするワイルドハント四隻は。
突風に加え、主砲撃に手を焼く。
「くう……さあて、どうしましょうねえシュバルツ!」
「はい、姫! このままでは……ん!」
「ん? どうしたの?」
尹乃も自艦の中で手を拱いていたが。
シュバルツはふと艦の背後を見て、あることに気づく。
それは。
「姫……ここは、あの魔男との最終決戦時と同じく! ヘロディアス艦となりましょう!」
「!? なるほど……それしか、ないわね!」
尹乃もシュバルツと同じ方角を見て頷く。
そう、それは。
今尹乃たちが尻目にしている、戦列を為す魔法塔華院の法母に龍魔力のゴルゴン艦隊及びギリシアンスフィンクス艦である。
「四の五の言っている場合ではないわ、聞こえるかしら魔法塔華院! あなたたちの法母と私のワイルドハントとで再びヘロディアス艦になるわよ!」
「! な、王魔女生……か、勝手に決めないで欲しくてよ!」
尹乃はそのまま、マリアナに一方的に告げる。
「唱えなさい……セレクト! ワイルドハント、法機母艦!」
「な! わ、わたくしに指図を……ま、まあよくってよ! コーレシング トゥギャザー!」
「トゥー フォーム ヘロディアス艦! エグゼキュート!」
しかし尹乃は、文字通り四の五の言わずに術句を自分と共に輪唱させる。
するとワイルドハントは怪物群に分かれ。
そのまま法機母艦の艦体に取り憑き、再構築し始める。
「さあ更に! hccps://Artemis.chal/、セレクト コネクティング エグゼキュート!」
「ん!? こ、この姿は一体……くっ!」
そうして尹乃は、更に術句を詠唱し。
聖血の杯をインストールする。
すると。
「ま、またあのへ、ヘロディアス艦……?」
法機母艦の艦橋部は、女性の上半身のような形状になっている。
さながら下半身はそのまま空母の艦体の様であり。
まさに半人半艦、魔神艦そのものというべき姿である。
「きゃあ、すごいわ尹乃様!!」
「なるほど……ならば、私たちにもできるはずです!」
それを見た魔美・華妖・士津香も。
「聞こえますか、龍魔力さん! あなたの艦も借ります……セレクト! ワイルドハント、ゴルゴン艦!」
「な! ち、ちょっと勝手に……ま、まあ コーレシング トゥギャザー!」
「トゥー フォーム ヘロディアス艦! エグゼキュート!」
士津香は夢零に、強引に迫り。
夢零も戸惑いつつも、共に術句を唱え。
たちまち夢零のゴルゴン艦は、士津香のワイルドハントと融合を果たす。
「よし……華妖、私たちも!」
「うん、魔美!」
そうして、魔美・華妖は。
「セレクト! ワイルドハント、法機戦艦!」
「コーレシング トゥギャザー!」
「トゥー フォーム ヘロディアス艦!! エグゼキュート!!」
自軍の法機戦艦二隻に、それぞれ自身のワイルドハントを融合させる。
が、いずれも艦橋は人型ではない。
「ええ、いい意気よ等々力さんたち! さあ私も力を貸すわ……hccps://Artemis.chal/、セレクト コネクティング エグゼキュート!」
それを見た尹乃が、聖血の杯をインストールし。
それにより残り三隻のヘロディアス艦の艦橋も、女性の上半身のような形状になった。
「もう、王魔女生の人たちは!」
「だけど、これは鬼に金棒だわ……私たちも帰艦しましょう皆! ヘロディアス艦隊で、あの敵艦を攻撃するの!」
「な……わ、わたくしに命令しないで欲しくってよどなたも!」
呆れるマリアナだが、青夢はその有様に目を輝かせる。
これが、敵艦攻略の糸口になるだろうと。
「そ、そうよ魔女木!」
「ちょっと魔法塔華院さんも雷魔さんも! 青夢はあなたたちのことも考えて」
「そうです!」
「まあ落ち着けお前ら! ここは戦場だ、一旦魔女木の話通り帰艦するぞ!」
「ええ……今回ばかりは方幻術の言葉に従って!」
すったもんだはあったものの。
凸凹飛行隊は、今やヘロディアス艦と化した法母へ帰艦する。
◆◇
「き、騎士団長! 奴らの艦が!」
「ふん……魔女共! 我らの真似をして半人半艦の形に自艦を改造しようとも! この魔神艦には及ばぬぞ!」
その光景を攻撃しつつ見ていたシャルルは、自艦と酷似した敵艦隊に怒りを露わにする。
「ああら、言ってくれてよね! そもそもその母艦型幻獣機の形自体、わたくしが初めてであるヘロディアス艦の真似であってよ! であれば、真似をしたのはあなた方であってよ魔男たち!」
ヘロディアス母艦より。
マリアナは意気揚々と、魔神艦に向けて言い返す。
「ふん……よかろう! ならば強き方が本物であると、今教えてやろう!」
「くっ! 更に突風が……ぐっ!」
シャルルはならばと、魔神艦の艦橋後部両翼を今まで以上に羽ばたかせる。
たちまち魔神艦は、海面より飛び出し。
改めて、その半人半馬型の艦全容を露わとする。
「姫!」
「くっ……ええ、皆怯まないで! 敵艦に砲撃を、空に上がった艦など格好の的よ!」
「はい、尹乃様!!!」
「くっ、私たちの艦を勝手に……ぐっ!」
尚、先程は触れなかったが半ば強引に自艦隊を乗っ取られた形になった魔法塔華院・龍魔力は。
不本意ながらも艦砲射撃を、魔神艦に浴びせている。
「お姉さんたちばっかりズルい! よおし…… ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! 獅脚主砲に咆哮主砲旋回! 目標――あの母艦型幻獣機ちゃん!」
それを見た愛三も負けじと。
ギリシアンスフィンクス艦から、砲撃を浴びせて行く。
しかし。
「ははは、どうした! そんなものかあ!」
「く! ヘロディアス艦隊の力をもってしても、あの艦を沈めるどころか傷一つつけられないの!?」
それらの集中砲火も、嘲笑うが如く。
魔神艦の羽ばたきは悉く攻撃を吹き散らし、防いでいく。
「さて……hccp://baptism.tarantism/、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 竜巻形態」
「!? 待って……今がチャンスよ! 凸凹飛行隊、全機発進!」
「!? え!?」
が、青夢は。
魔神艦が嵐の守りを再構築し出した様を見て、凸凹飛行隊に命じる。
「早く!」
「……分かってよ! 全機発進!」
そのまま、飛行隊面々は戸惑いつつも。
帰艦した時のまま飛行甲板上にいたため、自機を全員発進させる。
「エグゼキュート!」
「さあ、雷魔法使夏!」
「分かってるわよ! hccps://rusalka.wac/…… セレクト ゴーイングハイドロウェイ エグゼキュート!」
いつも通りというべきか。
法使夏のルサールカが生成した水流に凸凹飛行隊の全機を取り込む。
「さあ……このまま海中へ」
「いいえ……このまま、あの敵艦が纏う嵐の一筋になって!」
「!? はあ!?」
「な、何ですって!」
「お、おい魔女木!」
「青夢!!??」
が、青夢は予想外のことを言い出し。
皆を混乱させる。
「!? きゃあ!」
「! いや、こちらからどっちにしろ飛び込む形になるみたいね……ならむしろチャンスよ、さあ皆!」
「く……止むを得なくってよ魔女木さん! 雷魔さん!」
「ぐ……はい、マリアナ様!」
が、ルサールカの水流はそのまま自然に魔神艦へと引き寄せられるような形となり。
ならばこれを好機と青夢は、水流を自分から突撃させる。
「!? き、騎士団長! 凸凹飛行隊の法機群が水流ごと突撃を!」
「何? ふん、飛んで火にいる魔女の法機か! だがよい……この魔神艦の嵐の守りを超高速で回されるぞ耐えられるかあ!」
「きゃああ!」
「ぐああ!」
シャルルらもこれに気づくが。
むしろ歓喜し、根比べとばかりに自分から凸凹飛行隊の水流を嵐の守りに巻き込んで行く。
「く……さあ、ここからが勝負ですシャルル陛下!」
青夢も嵐の渦に法機ジャンヌダルクごと巻き込まれつつ、渦の中心にいる魔神艦へ密かな戦線布告をする。
◆◇
「ほう……これは見物ですね魔女木青夢!」
一方。
この様子を高空の法機マケダより見つめ、パールも歓喜していた。