#14 獰猛なる魔艦隊
「あの姿は……」
「ふふふ、魔女共め呆けているな隙ありだ! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢 エグゼキュート!」
「くっ……皆、早く離脱よ!」
形態を変化させた魔神艦に、魔女たちが呆ける中。
それを好機と見たシャルルは、主砲撃を法機群へと向ける。
「きゃあ!」
「くう……もう!」
それにより法機群は、苦しめられる。
「く、まだまだ……hccps://juno.wac/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート!」
しかし、負けじと。
魔美は法機を駆り、弾幕の隙間を探す。
そうして。
「……見えたわ華妖、亜魔導!」
「hccps://perchta.wac/、セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「hccps://jadwiga.wac/、セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
そこへ華妖と士津香も、法機からの攻撃を加える。
「ふん……弾幕の隙間を縫ったところで!」
「む! もう……邪魔なのよその翼!」
しかし、シャルルも即応し。
その意を受けた魔神艦は両翼で、艦体を覆いそれにより法機群の攻撃は悉く防がれてしまう。
「ははは! さあどうした? こんな」
「ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! 獅脚主砲に咆哮主砲旋回! 目標――あの母艦型幻獣機ちゃん!」
「ぐう!」
「り、両翼被弾!」
が、そこへ。
艦には艦とばかりに、愛三のギリシアンスフィンクス艦前部主砲と両舷主砲が火を吹き。
それは魔神艦の両翼の守りを、薙ぎ払う。
「よし愛三! よくやったわ!」
「さあ、あたしたちも!」
「は、はいお姉様!」
「はい、姉妹方!!」
龍魔力陣営も、俄然活気付くが。
「ふん……図に乗るなよ魔女共お! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 魔王旋風! エグゼキュート!」
「!? きゃあ!!!」
「な! くっ、羽ばたき!?」
が、シャルルら魔男陣営も未だ負けじと。
魔神艦の両翼をばたつかせ、突風を引き起こす。
偶然か否か、かつてのアルカナによる技と同名の技により。
魔女陣営は、攻撃はおろか近づけなくなる。
「く……このままじゃまた嵐の守りを再構築されてしまう! だからその前にやらなきゃ……皆、あの魔男の戦艦には救世主捕縛の鎖が使われているわ!」
「!? な!?」
青夢はしかし、通信を介して皆にそう伝える。
「な……あの仮想通貨に使われてる技術が!?」
「ほ、本当なの青夢!?」
「ええ、まあ推察だけど! 恐らくは完全だった時のバックアップをどこかしらに持っていて……それを損傷した時に全体に反映して回復しているのよ! だから」
真白と黒日から問われ、青夢は話を続ける。
「だからあいつを倒すには……全員で総攻撃を仕掛けるしかない! バックアップが完全にない状態にするの!」
「な、なるほど……まあよくは分からなくってよ! だけど!」
「え、ええマリアナ様! 私たちがやるべきは!」
「そうだな……とにかく! あの戦艦に一斉攻撃を仕掛けることだ!」
青夢の話に、今一つ魔女陣営は釈然としない様子だが。
凸凹飛行隊は、活気付いた様子である。
「ふん……凸凹飛行隊なんかに出し抜かれては私たち呪法院の名折れよ! さあ私たちも!」
「はい、レイテ様!!!」
「……とはいえ。どうしましょうか、あの暴風域を越えないと……」
レイテらも活気付くが。
やはり最大の懸念は、今魔神艦が展開している暴風の守りである。
「なるほど……そういうことなら! 来なさいシュバルツ、私たちの出番よ!」
「はっ、姫! お待ちしておりました!」
が、その懸念をものともせず。
「! あれは……ワイルドハント!?」
空に突如見えた、巨大な影。
尹乃が、ワイルドハントごと自身の騎士たるシュバルツを呼び寄せたのである。
「あら、そう言えば……あなたこそ、裏切り者とはいえ魔男と手を組んでいた"姫"様その人であってよね王魔女生さん!」
「ええ……でも今はその嫌みも何とも思わないわ! このワイルドハントそのもので突撃をかませば、私は一番乗りにあの母艦型幻獣機を突破できるもの!」
尹乃はマリアナの言葉などどこ吹く風とばかりに、自身の法機マリアを駆りワイルドハントへと移乗し。
「さあ……行くわシュバルツ!」
「は、姫!」
たちまちワイルドハントにより、魔神艦へと突撃して行く。
「尹乃様……」
「くっ、これじゃ! 私たち尹乃様を守る壁になるっていう願いを果たせてない!」
「ええ……その通りです!」
尻目にされた格好の魔美・華妖・士津香は忸怩たる思いである。
「ははは、そんなものでこの魔王旋風を突破できるか!」
「くっ……!」
「姫!」
尹乃のワイルドハントも、強行突破を図るが。
やはり魔神艦の突風は、そうそう突破できそうにない。
「く、このままじゃ!」
「待ってくださいお二人とも! 私に考えがあります……私たちはまだ、自機のことをよくは知りませんだから! まずは検索しましょう。」
「! へえ……あなたにしてはいい考えじゃない亜魔導!」
その有様を見てより歯軋りする魔美たちだが。
士津香の提案に、少しは希望を見出す。
そうして。
「hccps://juno.wac/!」
「hccps://perchta.wac/!」
「hccps://jadwiga.wac/!」
「サーチ!!! クリティカルアサルト オブ 空飛ぶ法機!!!」
三人は自機のもう一つの力を、検索する。
「!? こ、これは!!!」
そうするうち、彼女たちはその謎の答えに辿り着いた。
hccps://juno.wac/CriticalAssault/WildHunt.hcml
hccps://perchta.wac/CriticalAssault/WildHunt.hcml
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「わ、ワイルドハントって」
「まさか……私たちも尹乃様と?」
「同じ力を……? ……いいえ、もう呆けている暇はありません! さあ、お二人とも!」
「わ、分かっているわよ!! ……よし!!」
彼女たちは、意を決し。
「……セレクト、獰猛なる魔軍 エグゼキュート!!!」
三人一緒に、術句を唱える。
たちまち三人の自機周囲には、幻獣機スパルトイが多数生成され――
◆◇
「ふははは、どうした魔女よ! 口ほどにもないなそんなことでは!」
「くっ……言ってくれるじゃないの!」
尹乃は尚も、自艦ワイルドハント内で歯軋りしている。
と、その時。
「尹乃様!」
「私たちに!」
「今だけですけど、任せられてやってもいいですよ!」
「!? あ、あなたたち!」
背後から聞こえた声に、尹乃は振り返り絶句した。
それは、先ほど魔美らが自機を中心に生成した多数の幻獣機スパルトイ。
それらは数機ずつ組み合い、かつてのワイルドハントを構成した龍や鬼など大きさはさほどでもないが数々の怪物を形作る。
そうしてそれらは、機体を守るようにして同機にくっついて行き集まり。
法機幻獣機母艦ワイルドハントを三隻も形成し。
尹乃と合わせて四隻のワイルドハント艦隊による、突撃と洒落込もうとしていた。
「尹乃様、ご心配なく! hccps://juno.wac/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート! ……さあ、これで風の切れ目を!」
「くっ、等々力さん!」
しかしそれでもワイルドハント艦隊が苦しむ中。
魔美は打開策を見つけようとする。
◆◇
「ふん……しかし、ややお間抜けであってね王魔女生も魔男も!」
「はい、マリアナ様! ある程度の深度からこのルサールカで私たちが接近しているとも知らずに!」
空中でそんな戦いが行われていた頃。
凸凹飛行隊は、ルサールカの水流に入り海中から魔神艦に肉薄していた。
「ええ、だけど……」
青夢も当然、自機ごとその水流内にいるが。
――くっ……ふははは! 引っかかったな魔女共!
――えっ……っ!? な!?
――きゃあ!
――ぐう!
あの時。
凸凹飛行隊の放った攻撃は艦体に到達する前に薙ぎ払われてしまっていた時のことを考えていた。
あれは、一体――
と、その時。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「!? な……ち、ちょっと!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 星――彗星弾!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!」
「ちょっと……待ってよ!」
青夢のそんな考えも虚しく。
凸凹飛行隊の他の面々は、各自機から技を放ち。
魔神艦の艦底へと――
「!? か、海中より攻撃!」
「何!? ……ふん、ならば!」
「!? な、何であってあれは……ぐう!」
「きゃあ!」
「くっ……雷魔法使夏、水流回頭!」
命中せず。
やはり凸凹飛行隊の放った攻撃は、艦体に到達する前に薙ぎ払われてしまっていた。
「ふふふ……ははは! さあ……この魔神艦の真価の前に散るがいい!」
「な……あれは!」
そのまま突風の守りを維持しつつ魔神艦は、艦体を海面より飛び出させるが。
その形は。
「やっぱり……あれはあくまで母艦型幻獣機! だから……その姿は不定形なのよ!」
混乱の中でも青夢はその様を捉えていた。
その艦体は、先ほどまでの純粋な船そのものの形とは異なり。
馬に似た四脚を備えた、さながら人馬の下半身の如くであった――