#13 その名はユーノー/ペルヒタ/ヤドヴィガ
「こ、ここって……?」
「ダークウェブ……? 噂には聞いていましたが……こんな暗い所……?」
魔美・華妖・士津香は大いに戸惑う。
「ええ、ここはダークウェブ……そして。あなた方のご主人様である尹乃さんも来て法機を獲得した場所よ!」
「い、尹乃様も……??」
「ここ、で……?」
目の前にいる女性、アラクネの口から飛び出した言葉に。
三人はこれまた、大いに戸惑っている。
「アリアタン……ソンナコトヲイッテモムダダ……コンナコムスメタチニハ……」
「ひ、ひいい!!」
が、アラクネが騎乗するタランチュラから出た言葉は。
魔美と華妖を、大いに混乱させる。
「いいえ、無駄じゃありません……この程度のこと、理解できないようでは尹乃さんの取り巻きは務まりませんから!」
「! あ、亜魔導……」
が、彼女たちが混乱する中でも。
士津香だけは、毅然とした態度で接していた。
「私は……こんな私でも! 所謂陰キャで友達もいなかった私なんかを! 取り巻きに取り立ててくれた尹乃さんに恩返ししたい!」
「ホウ……?」
「あら……」
士津香は、尚も毅然としてそう告げる。
そう、尹乃は。
陰キャだ何だと言われていた士津香のそういった噂も気にせず、ただひたすらに士津香自身を正しく見ようとしてくれた。
その恩に報いるべく、士津香は何とか取り巻きとしての立場を全うしたい。
彼女はそう、自分を鼓舞していた。
「……でも、あなたたちはどうかしら等々力さんに魔術真さん! あなたたちがこんなことで動揺しているってことは、尹乃さんへの想いはその程度なの?」
「な……! あ、亜魔導あんた!」
そうして、士津香は。
魔美・華妖にも話を振る。
「……舐めんじゃないわよ、私たちだって!! 尹乃様の取り巻きだっつーの!!」
魔美・華妖もしかし、毅然とした態度を取る。
自分たちも尹乃を思う気持ちは士津香と同じくらい、いやそれ以上に強いのだと。
魔美・華妖も今でこそ学校のメインコミュニティメンバーだが。
やはり少し前まではうだつの上がらない生徒の一人でしかなかった所を、尹乃に見出してもらった。
そこから更に、尹乃の取り巻きにふさわしい人物であるようひたすら争いつつも協力し合って来た二人である。
「言いますね、お二人とも! 私だって負けません!」
「ふふ……よく言ったわ、お三方!」
「……え???」
宣戦布告をし合う三人だが。
アラクネはそんな彼女たちに、賞賛の拍手を贈る。
「オオ、アリアタンハ……コノ、コムスメドモヲ、ミトメルノカ……?」
「ええ、認めるわ私の王! このお三方は、ちゃんとご自分のお気持ちを伝えてくれたのだから。」
「ウム……ワカッタ。」
アラクネはタランチュラに、そう告げ。
そして。
「さあ、ではお三方……また、あなたたちの望みを唱えて! hccp://baptism.tarantism/!」
「はい!!! サーチ!!! トゥー ビー ザ ウォール トゥー プロテクト アワ マスター!!!」
自分たちの主人を守る壁になる、という切なる願いを三人は再び唱える。
と、そこへ。
hccps://juno.wac/
hccps://perchta.wac/
hccps://jadwiga.wac/
三つのURLが、三人の前に浮かび上がる。
「これは……???」
「それがあなたたちに与えられた力よ……さあ、その力をダウンロードして!」
「は、はい!!
戸惑う彼女たちだが。
アラクネに、尚も促される。
「セレクト、hccps://juno.wac/!」
「hccps://perchta.wac/!」
「hccps://jadwiga.wac/!」
「ダウンロード!!!」
「hccps://maria.wac/、セレクト 仔羊の誕生!!! hccps://maria.wac/GrimoreMark、セレクト 受胎告知 エグゼキュート!!!」
そのまま彼女たちは、術句を唱え――
◆◇
「これは……」
「まさか……」
「私たちの法機マリアに、新たな法機の力が……?」
魔美、華妖、士津香の法機に重なるかのようにアラクネの幻影が浮かび上がっている現実世界では。
それらの法機が今、嵐の守り纏う魔神艦と対峙している。
「あれは……またもあの女王か! おのれ……」
魔神艦艦橋より、シャルルは魔美らの法機三機を見つめて怒りを露にする。
「さあお三方……尹乃さんを守りなさい!」
「……はい!!!」
微笑みかけ、消えゆくアラクネの幻影にそう語りかけられ。
魔美らは、胸を張って応じる。
「さーあ、行くわよ華妖に亜魔導! 遅れないようにね!」
「ふん、魔美! あんたこそ!」
「ええ……その言葉、そっくりそのままお返ししますよ!」
魔美に華妖、士津香は。
互いにそう軽口を叩き合いつつ、三人は自機を駆り魔神艦へと突撃を仕掛ける。
「ふん……新たな法機か何か知らぬが、この竜巻形態は! そうそう破れるものではない!」
しかしシャルルは、未だ揺らがぬ竜巻形態の防壁を維持し魔神艦を屹立させる。
そうだ、これは破れまい。
「さあ魔美……まず! あの風の壁はどうするの?」
「ふん、今に見ていなさい! hccps://juno.wac/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート!」
魔美は自身の法機マリア――厳密にはそこに宿した法機ユーノー――の力を使う。
すると、法機より無数の眼球型エネルギー体が現れ風の壁を取り囲む。
「これは……!?」
「……よし、12時の方向! そこの守りは手薄だわ!」
「あら……なるほど、それがあんたの力なのね魔美!」
「承知しました……ならば!」
魔美の言葉に当惑しつつも。
華妖と士津香も、自身の法機を駆る。
「hccps://perchta.wac/、セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「hccps://jadwiga.wac/、セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
華妖機からは、無数の人型エネルギー体が生み出され。
士津香機からは、黒い十字型エネルギーから放たれる高エネルギーが生み出された。
それらは魔美の弁にあった通り、12時の方向に収束して放たれる。
「はああ!!」
「ぐう!! く、竜巻形態が崩れる!」
「す、すごい!」
その攻撃は、この竜巻形態の綻びをこじ開け。
たちまち中の魔神艦本体を、引きずり出す。
「!? こ、これはチャンスよ皆!」
「ええ、言われるまでもなくってよ!」
「ふん……今回ばかりは魔法塔華院に同意よ!」
それを見て、それまでは攻めあぐねいていた三学園連合艦隊も動き出す。
「よし! だけど……」
青夢も動き出すが、すぐに。
――貴様らに受けた損傷など、既に回復済みだ!
魔神艦の回復能力という、懸念事項が浮かぶ。
「どういうことなの……? 一度壊れたものがまた回復するなんて……ん!?」
――相次ぐQUBIT SILVERに関する事件ですが、救世主捕縛の鎖はすぐに修正されますし――
「……そうだわ! これは、救世主捕縛の鎖よ!」
青夢はそこで、ようやく気づく。
「恐らくは完全だった時のバックアップをどこかしらに持っていて……それを損傷した時に全体に反映して回復しているんだわ! だから!」
青夢は解決策を見出し。
俄然活気付き。
法機ジャンヌダルクを駆り、自身も魔神艦へと突撃を仕掛けていく。
「き、騎士団長!」
「案ずるな、かくなる上は! …… hccp://baptism.tarantism/! セレクト、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 両翼形態 エグゼキュート!」
「!? こ、これは!?」
が、その時であった。
突如、魔神艦に不自然な動きが生じ。
たちまち、その艦橋背部より巨大な両翼を生やす。
「ああ……調子に乗るなよ魔女たち! この魔神艦は竜巻形態や回復能力だけが能ではないぞ! まだ勝負はこれからだ……」
艦橋部よりシャルルは、高らかに唱える。
◆◇
「なるほど……やはりあなたは気づきましたか魔女木青夢! ですが……それだけではヴィクトリュークス卿に敵いませんよ!」
この様子を高空の自機マケダより眺めていたパールはそう呟いた。