#12 魔神艦vs三学園+α元女男連合艦隊
「ほほう……三学園がまたこぞってお出ましか!」
シャルルは魔神艦艦橋より戦場を見つめ、歯軋りする。
水上には、三学園の艦が戦列を成しているのである。
「……思い出すわね、初めて私たちの前に魔男の母艦型幻獣機が現れた時のことを。」
「ああ、姉貴!」
「はい、お姉様!」
「うん、お姉さん……」
夢零はかつての龍男の騎士団長バーンが率いる幻獣機父艦との緒戦を思い出し、妹たちとその時の記憶を共有する。
あの時機械の巨竜に足がすくんでいた自分を、凸凹飛行隊の面々は助けてくれた。
だから。
「私たちが……今度は、私たち自身であいつを叩き潰すわ!」
「応、姉貴!」
「はい、お姉様!」
「うん、お姉さん!」
龍魔力四姉妹の総意は、それにて一致した。
「では龍魔力姉妹方!! ここは、私たちが!!」
「! 幕霊媒さん、賢者魔さん!」
そして。
一番刈りの栄誉とばかり、龍魔力傘下の二機たる法機エキドナ・ハルピュイアをそれぞれに宿した法機マリアらが飛び出す。
「先手必勝よ!」
「ええ、師穂!」
「ふん、飛んで火に入る夏の虫だな! さあ……竜巻形態に移行!」
「了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 竜巻形態 エグゼキュート!」
「む!?」
「これは!」
しかし魔神艦艦橋より、シャルルは命じる。
たちまち魔神艦は、その構成機たちを分離して本体を周回させ。
さながら台風のような渦巻きを発生させ、帯電し雷撃を周囲に放って行く。
それは、この対魔神艦緒戦における台風形態を思わせるが。
「くっ!? きゃあああ!」
「こ、この威力……大き過ぎる!」
それは、台風形態以上の威力でもって周囲に雷撃を撒き散らしていき魔女たちを翻弄する。
「いいえ、負ける訳にはいかない!hccps://echidna.wac/! セレクト 、幻獣支配 エグゼキュート!」
「そうね……hccps://harpuia.wac/、セレクト 剥奪腐食 エグゼキュート!」
「!? ふん……小癪な!」
が、師穂と沙月も負けじと。
その嵐の防壁めがけて法機の技を発動しそれにより嵐の守り担う構成機たちが幾分か剥がされ、または腐食された。
「! よし、今よ皆! hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミーズ エグゼキュート!」
「hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズアイ! 二手乃!」
「は、はい英乃お姉様! hccps://graiae.wac/deino、セレクト グライアイズファング、エグゼキュート!」
「ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! 獅脚主砲に咆哮主砲旋回! 目標――あの母艦型幻獣機ちゃん!」
「くっ……ぐああ!」
そうして緩んだ嵐の防壁めがけ、龍魔力四姉妹の攻撃が炸裂し。
それにより嵐の守りは、更に弱まって行く。
「! 隙ありね……hccps://harpuia.wac/、セレクト 剥奪腐食 エグゼキュート!」
「く……ぐああ!」
その嵐の隙間から、沙月機は侵入し。
やはり緒戦と同じく、沙月機の通過した箇所の構成機群が侵食されるようにして消滅していく。
「!? 今であってよ、hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 隠者――影の暗殺!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
「エグゼキュート!!!!!!」
それを好機と見た、既に文字通り水面下よりルサールカの水流に入り魔神艦に肉薄していた凸凹飛行隊の法機群も。
魔神艦の海中の艦体めがけ、攻撃を放つ。
それはもはや、弱った獲物の腹に食らいつくに等しい行為である。
これで、止めだ――
そう凸凹飛行隊は、勝利を確信するが。
「くっ……ふははは! 引っかかったな魔女共!」
「えっ……っ!? な!?」
「きゃあ!」
「ぐう!」
その時だった。
何と、凸凹飛行隊の放った攻撃は艦体に到達する前に薙ぎ払われ。
次には飛行隊の入る水流を切り裂く斬撃が、放たれた。
「くっ…… hccps://rusalka.wac/…… セレクト ゴーイング ハイドロウェイ! エグゼキュート!」
「く……ナイスよ、雷魔法使夏! だけど、一旦敵艦から離脱!」
「ふん……言われなくたって!」
かろうじて法使夏は、水流を立て直すが。
青夢も助言し、一旦距離を取る。
「きゃあ!!」
「くっ、幕霊媒さんたち!」
「姉貴!」
「お姉さん!!」
いや、海中のみならず。
魔神艦は海上の嵐も持ち直し、それにより師穂や沙月の法機たちも巻き込まれて行く。
「貴様らに受けた損傷など、既に回復済みだ!」
「か、回復能力? あの魔男の戦艦に、そんな力が?」
青夢は海中の自機内より戦場を睨みながら、魔神艦の回復のあらましを見て驚愕する。
言葉通り回復された艦体は嵐に阻まれ見えないが、技の威力が回復していることを鑑みればそれがはったりでないことは分かる。
緒戦では腐食した部分をそのままにしていた辺り、どうやら新たに身につけた能力のようである。
「それに、さっき攻撃が薙ぎ払われたように見えたけどあれは……」
青夢は首を傾げるが、必死に思考を巡らせていた。
これは、一体――
◆◇
「ふふ、さあどうですか魔女諸卿? 魔神艦回復のカラクリは、ごく身近なものですが……まあそれに気づいた所で、太刀打ちできるかどうか。」
高空より、尚もこの様子を見つめるは。
法機マケダ搭乗の、パールだった。
◆◇
「レイテ様、僕たちも!」
「レイテ様!!」
「無理よ……手柄を横取りするには、まだ早いわ!」
一方。
未だ直接攻撃には参加していない呪法院エレクトロニクス勢は、未だにひたすら後方から攻めあぐねいていたのだった。
「(くっ……これは、そろそろ私のワイルドハントで……!)」
いや、攻めあぐねいていたのはレイテたちだけではなかった。
尹乃もまた、シュバルツを動員しワイルドハントを呼ぶタイミングを計りかねていたのだった。
「尹乃様が、攻めあぐねかれているわ……」
「魔美! ここは私たちが」
「よした方がいいですよ、等々力さんに魔術真さん。尹乃さんが何か命じた訳じゃないんですし。」
「亜魔導、あんたね……!」
それを悟り――とは言ってもワイルドハントのことは分からず――魔美、華妖、士津香は言い合う。
しかし。
「きゃああ!」
「ああもう……やっぱり龍魔力や魔法塔華院に任しちゃおけないわ! 行くわよ、華妖!」
「ええ、魔美!」
「な、等々力さん! 魔術真さん! ……もう!」
「! ま、待ちなさい三人共!」
最前線で戦いながらも押されている凸凹飛行隊や龍魔力四姉妹、更に師穂や沙月を不甲斐なく思い。
魔美、華妖は突撃し更に士津香も二人を止めようとして各々の法機マリアで攻めに行く。
「騎士団長、魔女の法機たちが新たに突撃して来ます!」
「ふん、またも飛んで火に入る何とやらか……竜巻形態を更に強めよ!」
「はっ!」
「ぐう……きゃあああ!」
「む!」
しかし、やはりというべきか。
三人の法機は、より強まった嵐の防壁に呑まれて行く。
「きゃあああ!!」
「く……等々力さんに魔術真さん! このままじゃ……彼女たちも、尹乃さんも救えない……!」
が、その時。
士津香は、強烈な感情が芽生えて来る様を感じた。
「まったく……不甲斐ないのは私たちもだったわね華妖!」
「ええ、魔美!」
士津香のみならず。
魔美も華妖も、実は彼女と同じ思いを抱えていた。
それは。
「ふふ……さあ、苦しいだろう? 今楽にしてやろう……hccp://baptism.tarantism/!」
「サーチ! トゥー ビー ザ ウォール トゥー プロテクト アワ マスター!」
自分たちの主人を守る壁になる、という切なる願いである。
と、その時。
「な!!」
「こ、これは何ですか……きゃあああ!」
三人は、不思議な感覚に襲われる――
◆◇
「か、華妖……ここは?」
「さ、さあ……」
「何故、このような所に?」
魔美、華妖、士津香は目を覚まし更に戸惑う。
ここは、どこか。
見れば、真っ暗な空間に。
光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。
ここは――
「ようこそ……ダークウェブへ。」
「!? ……あ、あなたは?」
ふと声をかけられ、師穂や沙月は面食らう。
そう、ここはダークウェブ。
そこにいたのは。
何やら闇の中に浮かび上がる、女性の上半身。
「……私はアラクネ、あなたたちの望みをもう一度。」
「……え??」
アラクネは優しく微笑む。
◆◇
「あれは……姐様! また法機かいな?」
現実世界では。
戦場から離れた所に待機する赤音も、戸惑ったことに。
魔美、華妖、士津香の法機に重なるかのようにアラクネの幻影が浮かび上がっていた――