#11 三学園、接近す
「パール、アブラーム……?」
青夢は目の前の法機マケダを見つめている。
「新たな女王の、側近……? そんな者が、いたんですの?」
マリアナたちも、大いに混乱するばかりだ。
「ええ、さあ魔女諸卿……呆けられている場合ではございませんよ! hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、 神移し エグゼキュート!」
「む!? な、こ、これは……!?」
しかし、パールは隙ありとばかり。
自機たるマケダの力を発動し、それにより魔女たちはそれぞれの法機が身動きを取りづらくなる様を感じた。
「ほ、法機が……動かない!」
「ほほほ、ええそうでしょう! (ちっ、まだこの程度か……)」
パールは、そんな魔女たちを嘲笑うが。
そんな上っ面とは裏腹に、マケダの力が不完全なことを歯痒く思っていた。
「あ、アブラーム卿……」
「あら。そうでしたわね……ヴィクトリュークス卿、今回は残念ながら撤退です。」
「くっ……しかし!」
魔神艦から呼びかけるシャルルに、パールはそう助言し。
シャルルは食い下がろうとするが。
「あれをご覧ください。」
「何? ……!?」
「さあ、行くでえ皆!」
「ああ、騎士団長!」
「はい!」
「!? ほ、法機マルタにキルケ・メーデイア!!」
パールが指し示した、水平線の彼方より。
元女男の騎士団たる、赤音にメアリー・ミリアの法機群が飛来した。
「あれは」
「かつての女王の息がかかった者たちです……特に法機マルタは、幻獣機を操れますよ?」
「ぐっ……止むを得ぬな!」
シャルルはその有様に、不承不承といった様子ながらも撤退を決意する。
「決まりですわね……hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し エグゼキュート!」
「ぐっ! ……あ、魔男の戦艦が!?」
そのままパールは、援護としてマケダの大蛇エネルギー体を再び発動し。
それに魔女たちが怯んだ隙に、魔神艦は跡形もなく消えていた。
「く……まったく!」
「パール、アブラーム……それって。」
そんな中青夢は。
――hggp……あ、間違った! ……って、うん?
――あーあ……これからどうなるんだろ。
――何してるの、パール?
――! あ……ジ
――こら! そっちの名前で呼んじゃ駄目でしょ?
――あ……ご、ごめんラピュセル。
夢の中の出来事に、思い至っていた。
これは、偶然なのか? と――
◆◇
「Hey、girls and guys! DJセレネーの、ウィッチオンエアクラフト〜魔女は空飛ぶ放送電波に乗る〜張り切って行くyo!」
この様子を実況中継していたDJセレネーは、配信を再開する。
「今日は、日本が誇る世界的企業魔法塔華院コンツェルン・王魔女生グループ・龍魔力財団傘下の三学園によるマイニングレース! でもそのさなか襲って来たのは、あのサイバーテロリスト魔男! これ、どうなっちゃうのyo!」
DJセレネーは憂いながらも、相変わらずの陽気な口調で実況中継を続ける。
と、その時。
「! あらあら……また、救世主捕縛の鎖が切られちゃったらしいわyo! だけどsorry、何と切った犯人は不明らしいのyo! 皆、どしどし情報頂戴yo! 待ってまーす☆」
取引台帳へのサイバー攻撃情報も、入って来たのだった。
◆◇
「取引台帳救世主捕縛の鎖への改竄攻撃、更にユダマイニングによる新規発行分の不正入手……相次ぐQUBIT SILVERに関する事件ですが、救世主捕縛の鎖はすぐに修正されますし、ユダマイニングの犯人たるイスカリオテのユダもすぐ明るみに出ます! 不正を行う人は、その辺を」
TVは、ここで切られた。
「まったく、QUBIT SILVERを攻撃するなんて本当に不逞な人たちだよね!」
「うんうん真白、その通り……」
切ったのは真白と黒日である。
縦浜の魔法塔華院別邸に、凸凹飛行隊面々はいた。
お約束と言うべきか、作戦会議のためである。
「そうね……(やっぱりあの仮想通貨……何かおかしいわ。)」
真白と黒日の話を聞きながら、青夢は未だQUBIT SILVERに対する不信感を拭えないでいた。
「お戯れもそこまでであってよ、魔導香さんに井使魔さん! 魔女木さんもご親友くらいどうにかしてくださらない? 早く、こちらは会議をしなくてはならないのであってよ!」
「む! そんな言い方しなくていいじゃないですか!」
「そうよ!」
と、そこへ。
マリアナの言葉に、真白や黒日が反論する。
「ま、まあまあ真白に黒日! ここはそろそろ作戦会議なのは事実なんだし。ここは席について、ね?」
「う、うん。青夢がそう言うなら。」
「分かった……」
青夢はそんな真白や黒日を宥めた。
と、そこへ。
「それでしたら、私たちも混ぜていただけないかしらマリアナさん?」
「! な……呪法院さん!」
レイテ以下、呪法院アポストロスのジニーや雷破・武錬が入って来た。
「何をしに来られて? あなたたちはもう、学内マイニングレースに敗れた存在であってよ!」
「ええ、ですから。三学園マイニングレースには、聖マリアナ学園代表としてはあなた方凸凹飛行隊が出ればよい。だけど……今はあの魔男の戦艦に勝つことが目的でしょう? なら、戦力は少しでも多い方がいいんじゃない?」
「む……」
レイテはマリアナから煙たがられつつも。
そう、交渉を持ちかけて来た。
「その点、私たちは四人それぞれが強力な法機を持っている。なら……これほどお誂え向きな人材たちはないんじゃない?」
「ええ、まったくですレイテ様!」
「そうですそうです!!」
レイテの言葉に、ジニーや雷破・武錬たちも便乗して来た。
「その点で言えば、私たちも同じね!」
「姉貴の言う通りさ!」
「ええ、お姉様!」
「うん、お姉さん!」
「はい、夢零様!!」
「!? た、龍魔力の姉妹方……あなた方まで!?」
そこへ龍魔力四姉妹に、師穂と沙月も入って来た。
「私たちも法機グライアイに、エキドナ・ハルピュイアも持っているわ。」
「だ、だとしてもであってよ! これからマイニングレースで争うあなた方と手を組むなど!」
「そ、そうよ! マリアナ様の言う通りよ!」
が、夢零のその言葉に。
マリアナと法使夏は、食ってかかる。
「それなら……私たちも!」
「はい、尹乃様!」
「ふぁーあ、やめておけって言ってるんですけど……」
「!? お、王魔女生まで」
と、そこへ。
尹乃以下、花蓮乙女学園の魔美・華妖・士津香らも入って来た。
「魔法塔華院と龍魔力がいる中で、王魔女生がいないのではダメでしょう?」
「その通りです、尹乃様!」
「まあ、法機マリアだけでも数合わせくらいにはなると思いますけど?」
「くっ……もう!」
いずれにせよ、戦力は多い方がよいというのは事実であり。
マリアナは押し黙る。
「そやな……あたしらも! 微力やけど、力にはなれるんかもしれんやで!」
「! あなたたちも……もう! 次から次へと湧いて出てよね!」
と、そこへ。
元女男の騎士団面々もやって来た。
「ミリア! お帰り!」
「な……べ、別に帰って来たわけじゃないんだからね!」
法使夏は、ミリアとの再会を喜ぶ。
「(うんうん、これだけいれば魔男と戦えるかも!)」
青夢はそれを見て、満足げな様子である。
◆◇
「さあて……来たわね!」
それから数日後。
初の三学園マイニングレースを行った海域で待ち構えていた、三学園の艦と法機であるが。
そこへ。
「さて……魔女の法機群! この我らの艦に楯突く者共……今一掃してくれる!」
再び、シャルル率いる魔神艦が現れたのだった。
◆◇
「さあ、ヴィクトリュークス卿期待していますよ……あなたが私の望みのために働いてくれることを! 更に……あわよくば、あいつを潰してくれることを……」
一方。
この様子を高空より見つめていたのは、法機マケダに乗るパールだった。




