#10 その名はエキドナ/ハルピュイア/マケダ
「こ、ここは……」
「大丈夫よ、怖がることはないわ……私はあなたたちに、力を与えることができるのだから。」
師穂と沙月が戸惑う中。
タランチュラに騎乗するアラクネは、優しく声をかける。
「ナンダ? マタ、ムシケラノゴトキマジョタチガ」
「ひ、ひい!!」
しかし、そんなアラクネとは裏腹に。
タランチュラはその複眼で二人の魔女を捉え、彼女たちを慄かせている。
「こらこら我が王、相変わらず魔女ちゃんたちには厳しいお方ですけど、メッですよ!」
「オ、オオ……サヨウカ、アリアタン……」
そんなタランチュラを、アラクネは宥めすかす。
「私たちには……やりたいことなんてなかった。」
「あら? そうだったの?」
しかし師穂と沙月は、タイミングを極限まで合わせて一緒に、かつ唐突に発言する。
元々彼女たちは同じタイミングで親を亡くし、その後たまたま引き取ったそれぞれの親戚たちが偶然にも近所同士だったことで付き合いが始まった。
しかし、共に親戚から受ける扱いは冷たく。
気づけば、二人で支え合うようにして生きていたのだった。
「だから私たちは、二人で生きることだけで精一杯で。学校でも、そうやって目立たないように過ごしてた。でも……今回、龍魔力の四姉妹方にマイニングレースに参加させてもらって。今の心は少し違う……」
「あらあら。」
またも一緒に発言した師穂と沙月に、アラクネは優しく微笑みかける。
「そうよね……あなたたちには、ここに呼ばれるだけの強い願いがあるのよね!」
「……はい!!」
師穂と沙月は、大きく頷く。
自分たちを引き立ててくれた龍魔力四姉妹が、魔男の艦に苦戦する様を見て。
彼女たちを助けられるだけの力を、得たいと思ったのだった。
「ならば……再び唱えましょう、あなたたちの切なる願いを! hccp://baptism.tarantism/」
「……サーチ、ザ スーペリア パワー トゥー アス、トゥー!!」
そうこうするうち、気づけば彼女たちはまた叫んでいた。
――ザ スーペリア パワー トゥー アス、トゥー!!
より強力な力を私たちにも、という彼女たち自身のその検索ワードを。
と、その時。
hccps://echidna.wac/
hccps://harpuia.wac/
目の前には、法機のURLが。
「これは……??」
「それがあなたたちに与えられた力よ……さあ、その力をダウンロードして!」
「は、はい!!
戸惑う彼女たちだが。
アラクネに、尚も促される。
「セレクト、hccps://echidna.wac/!! ダウンロード!! hccps://maria.wac/、セレクト 仔羊の誕生!!hccps://maria.wac/GrimoreMark、セレクト 受胎告知 エグゼキュート!!」
そのまま彼女たちは、術句を唱え――
◆◇
「さあ、ギリシアンスフィンクス艦ちゃん! 獅脚主砲に咆哮主砲旋回! 目標――あの母艦型幻獣機ちゃん! 主砲アーンド、誘導銀弾群発射しまくり!」
「私たちも行くわよ!」
「命令されずとも!」
その頃、現実世界では。
嵐の守りを顕現させた魔神艦ケイロンに対し、魔女たちが試行錯誤しながら尚も攻撃を繰り返していた。
しかし。
「ふん、この台風形態を甘く見るな!」
「な! 攻撃が!」
「ムッキー! 攻撃が防がれちゃってる!」
魔女たちの攻撃は、分厚い嵐の壁に阻まれその本体たる魔神艦ケイロンまで届かない。
「(く……やはりここは私のワイルドハントを)」
「hccps://echidna.wac/! セレクト 、幻獣支配 エグゼキュート!」
「!? な!?」
と、尹乃も悩んでいたその時。
突如として聞き覚えのない術句が響いたかと思えば。
「あ、あれは! アラクネさん!?」
「ま、まさか……また、新たな法機であって!?」
魔女たちの法機群の一角が、アラクネの光り輝く幻影に覆われたのである。
「さあ、あなたたちに与えられた強力な力よ……存分に振るいなさい!」
「はい!! ありがとうございます!!」
アラクネは、そう師穂と沙月に告げてにっこりと微笑み。
そのまま姿を消し、それと同時に新たな法機を宿した二人の法機マリアはそれぞれに魔神艦ケイロンへと突撃を仕掛ける。
「き、騎士団長!」
「ふん、狼狽えるな! この台風形態は破れまいよ!」
シャルルはしかし、毅然として尚も風の厚い壁を屹立させる。
この巨大な壁を前に、二つの法機など蚊帳に飛び込んで来る蚊のようなもの。
何を恐れる必要があるのかと。
「さあ沙月……そろそろ効いて来るわ。私がさっき発動した技が。」
「ええ。」
「!? な……くっ、何故だ! 構成機群が!」
が、毅然としていたシャルルの顔が陰る。
艦体を中心に周回し嵐の守りを担っていた幻獣機スパルトイ群が、次々と離脱していくのだ。
―― hccps://echidna.wac/! セレクト 、幻獣支配 エグゼキュート!
師穂が先ほど唱えた、この術句のせいである。
「さあいらっしゃい、幻獣機たち! ……母艦型幻獣機、あなたの嵐の力を私がいただきます!」
「な……ぐっ! 法機に構成機群が!?」
そのまま離脱した構成機群は、法機エキドナ宿せし師穂の法機マリアへと集まり逆に嵐の守りを同機に与えた。
「敵の防壁が!」
「く……主砲塔、発射せよ! hccp://baptism.tarantism/、セレクト 人馬弓矢 エグゼキュート!」
シャルルはならばと。
師穂機に対し、主砲撃を加える。
たちまち弓に見立てられし主砲の三連装砲身から、無数の光矢が多数放たれる。
「師穂!」
「大丈夫よ、沙月! これにあんな攻撃は効かないわ……」
しかし、主砲撃は。
師穂機が纏う嵐の守りの前に、悉く防がれる。
「師穂……あなただけでは戦わせない! hccps://harpuia.wac/、セレクト 剥奪腐食 エグゼキュート!」
「く!? さ、左舷より右舷にかけ敵機通過!」
「な、何!?」
それを見た沙月も、我もと。
法機ハルピュイア宿せし法機マリアを駆り、魔神艦ケイロンの艦体を通過した。
「く、速いが……所詮は通過のみだ! 何も損害は……ぐっ!?」
シャルルは高を括るが、すぐに異変に気づく。
何と、沙月機の通過した箇所の構成機群が侵食されるようにして消滅していくのだ。
まるで、腐食したがごとく――
「これはまさか……あの法機のせい!?」
「何であってもよくってよ……さあ、今であってよ! あの母艦型幻獣機を倒すチャンスは!」
「はい、マリアナ様!!」
「行こう、青夢!!」
「幕霊媒さん、賢者魔さん……あなたたちの作った隙を無駄にはしないわ!」
その隙に三学園の法機及び艦は、体勢を立て直し。
改めて、魔神艦に攻撃せんとし――
「そうはさせません……hccps://emeth.makeda.wac/! セレクト 、大蛇殺し エグゼキュート!」
「くう!? な……何これ!?」
が、その時。
魔神艦を守るかのように、巨大な蛇のエネルギー体が生成されたかと思えば。
それは徐に細切れとなり、爆発を起こす。
「あれは……」
「ほ、法機!?」
「初めまして、魔女の諸卿方……我が名パール・アブラーム。新たな女王の側近を務める者でございます……」
青夢たちが見上げた、技の飛んで来た上空を飛ぶ法機
マーキアより響くは。
新たな女王の側近、パール・アブラームの声だった――