アカノの恐怖と安堵
その何かは異様だった…
黒いフードで身体を隠し、仮面を付けており表情が見えない外見もそうだが、無機質なのに冷たい声音、そしてなにより力を奪われている様な恐怖に襲われる
何かがローエルの首を刈ると同時に虫型の魔物は魔力となり消滅していく
「お…おおおお前…何で此処に…何でお前が此処にぃ!!」
恐怖の為か感情が高揚しているからか、若しくは首を刎ねられたからローエルの口調も覚束ない
「我が国を、撫で回す羽虫を、許容す訳が、なかろう?」
そう告げると同時にその何かの傍に黒い球体が現れる
「や…止めろ!!やや、止めてください!!やや止め」
ローエルが言い切らない内に黒い球体から触手が伸び、ローエルの首に巻き付いていく
「さらばだ…愚かな、【勇者】よ…」
「いやだいや…ま、まおうぅぅぅぅ-----------!!!!!!」
そう言うと同時にローエルの首が黒い球体に呑み込まれていった
首が呑み込まれた瞬間にローエルの身体だったものに黒い炎によって燃え盛り
だが、だがそれよりも…
「ま…【魔王】…?」
噂には聞いている
魔族領にも国が幾つかあり、その国の王こそが【魔王】
魔族の中でも高位の位置にあり実力的にも魔族を歯牙に掛けない圧倒的な強さだと…
だがあれは噂ではなかった
あれは真実だったのだ
【魔王】と呼ばれたモノは何もしていない
ただ、こちらに視線を投げて見ているだけだ
それだけなのにも関わらず背筋から冷たい汗が流れ、寒くも無いのに体中に震えが走る
勝てない
今の私は当然の事、ケガも無く万全の体勢であっても勝てない
ただ早いか遅いかだけの差である事を本能的に理解した
「其、は…」
【魔王】が何かを呟き手をこちらに伸ばしだした
魔力を発動させるのかと不充分ながらも臨戦態勢を取った
「……」
「……」
互いに何の言葉も発する事もなく視線で戦う
「魔物がいなくなったぞ!!」
「おい!無事かーーー!!」
「おかあさーーん!!」
襲撃が収まったからか町民たちの声が聞こえだした
(マズイ…)
このままここに近づかれてしまい戦闘となると町そのものが無くなる
そう確信している私は焦燥感が募って来る
私でさえ、冷や汗と恐怖が止まらないのだ
町民だった場合、この場にいるだけで死んでしまう可能性も否定できない
そう思案し【魔王】に斬りかかろうとしたその瞬間、【魔王】は足元から溶けていく
足元、胴、頭と地面に消えていった
それと同時に町民たちが広場に集まり互いの無事を喜び歓声を上げていた
「……見逃された?」
暫し茫然となってから誰に言う訳でも呟く
あの【魔王】であれば大袈裟でも無く人族は何の抵抗も出来ず死滅するだろう
それだけ圧倒的な恐怖感を私に植え付けた…
「あ、アカノ様…もう顔を上げても大丈夫でしょうか?」
ロールの間の抜けた質問に気づき、無事に生き残る事が出来た実感が湧いてきた
◇
「アカノ様、そのケガは?!!」
無事に生き残る事が出来た私は行商人の元へロールと共に戻る
「いや…相手は魔族でした。無事に生き残る事は出来ましたが、かなり手ごわい奴でして…」
若干気まずい思いでそう答える
「なんと?!!では魔族は?!!」
「この町を襲ってきた魔族は死にました…その点はご安心下さい。」
そう告げるとあからさまに安堵する
道中に魔族と遭遇可能性を心配していたのだろう
「流石アカノ様です!!おい、アカノ様を治療して差し上げろ!!」
行商人の長は自分の後ろを振り返りそう指示する
「ありがとうございます。ただその前に…ロール。」
私に名前を呼ばれて彼女はビクッとする
こんな私に懐いてくれて有難いとも思う
それでも…
「ロール…先程の戦闘で分かっただろう?私の人探しはかなり危険なモノなんだ。正直…君を守りながら完遂できる旅ではないんだ…懐いてくれていたのは嬉しい。だけど…」
私がそこまで言うと彼女は首を横に振る
「いえ…さっきの件で嫌と言うほど思い知りました。私の所為でアカノ様が危ない目にあった事も理解しています。今回の件で嫌というほど思い知りました…」
そう言った彼女の肩に行商人の長は手を置いて呟く
「ロール…恩返しは何も傍に居なければ出来ない訳では無いんだよ。私たちがより世界中の人が快適に生活できる様に頑張り、心に余裕が生まれ皆が優しくなる。それも1つの恩返しの形じゃぁないかな?」
彼のいう事は性善説の理想主義な考え方である事を私は知ってしまっている
でも…そうなれば良いなと思いながら…その言葉を聞いていた
いつも有難う御座います!!
書きたかった部分の2つ目に到達しました
本当はもっと煮詰めて尺を取りたくもあったのですが、初見で引っ張るのも違和感があるなぁ…と思い1話で終わらせました
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