【本質・消失】
ーーーシュッーーー
【神】が本格的にクロノの首を絞め殺そうとするその瞬間、側面から短剣が【神】の元へ襲い掛かって来る
だが【神】は当然の様に短剣が短剣である事を忘れさせ、粉塵へと姿を変貌させる為に何ら意味を持たなかったが・・・
「おやおや・・・此処は神域だよ。何処からやって来たのかな?」
「・・・・・・」
「おおっとっ!!」
短剣を投擲した女性は無言のまま、躊躇なく【神】に襲い掛かっていき、【神】はその攻撃を大袈裟に回避しながら距離を取る
それを見ると女性はそのままクロノの元へ近づいて行った
「君は・・・見覚え有るよ。2年前にあの場所に居た魔族だよね?」
「・・・マリトナ。」
「あぁ、そうだマリトナ君だ。・・・で、君はどうやってこの場所まで?」
マリトナの言葉を流すかの様に返答し、【神】は苛立ちながらも笑顔を浮かべる
その表情は見るものが見れば明らかに怒っている事は明らかだった
そんな【神】の質問に答えたのは彼女の後方に待機していたフードを被ったモノだった
「【神】なら僕のスキルを知らない訳じゃないだろう?」
「・・・・・・あぁ、君だったのか。そうか、君が居れば確かに場所くらいは容易に分かるよね。ねぇ・・・ロキフェル君。」
ロキフェルと呼ばれた魔族はそのままフードを捲る、素顔を晒す
そしてそのままクロノの方へと近づいて行った
「お兄さん・・・」
「・・・・・・・・・」
「あぁ、無駄だよ。彼は最早廃人だ・・・君たちの事は完全に消失しているし、自分の事すら理解していない。幾ら声を掛けても反応すらないよ。」
ーーーシュッッーーー
【神】の言葉を聞くと同時に、マリトナは短剣でクロノの頬を薄く切る
だが・・・例によって薄く切り傷から血が滴るだけでクロノ本人は何の反応も示さなかった
「まぁ痛みを与えて正気に戻す事は常套手段だけどね。残念ながら彼に関しては無駄だよ。」
「みたいだね・・・でも何もやらない訳にはいかないだろう?」
ロキフェルはそう答えて魔力を練り上げる
だがそんなロキフェルの様子を見ても、【神】はニヤニヤとした笑みを浮かべるだけだった
「まさか君とマリトナ君の2人だけで私に勝てるとは思っていないよね?」
「それこそまさか。僕がする事はお兄さんを正気に戻す事だけだよ。」
「へぇ・・・無駄だとは思うけれどやってみれば良いさ。これも1つの記録対象だ。」
そう言いながらロキフェルの行う事に対し、止める気も無い様子で腕を組みながら事の成り行きを見守っていく
その様子を見ながらもマリトナは決して警戒を怠らず、【神】の一挙手一投足を観察していた
「お兄さん・・・今まで隠していてゴメンよ。・・・僕も【大罪スキル】を持ってるんだ。」
悲しげにそう呟きながら魔力を凝縮させていく
そしてその手を徐々にクロノの頭の方へ近づけていった
「だけど僕の【大罪スキル】は其処まで強くなくてね・・・記録したモノの位置関係の把握と人心掌握に長けているスキルなんだ。」
「そうだねぇ、君の【大罪スキル】は他の【大罪スキル】とは方向性が異なる。勿論使い方次第では非常に脅威に成り得るが・・・今この場では有効手段があるとは思えないねぇ。」
ロキフェルの呟きに笑みを宿したままに【神】が応える
そしてその言葉に反応し、ロキフェルは【神】の方へ視線を向ける
「確かに僕の【色欲】はあまり強くないけれど、今この場においては唯一の有効手段を持っているよ。」
「・・・へぇ、それは興味深い考察だね。是非ともその根拠を聞きたいものだ。」
僅かに表情を強張らせながら【神】はその真意を尋ねる
それに対してロキフェルは言葉を選ぶかの様に少し思案しながら口を開き尋ねた
「ねぇ・・・さっき言っていた消失という言葉だけど、本当に可能なのかな?」と・・・