【相対・再会】
無音
その言葉以外に、彼らのいる空間を表す言葉はないだろう
2人の男がテーブルを挟んで対峙しているにも拘わらず、何の音もしない
ティーカップの音も、風がそよぐ音も、唾を飲み込む音も呼吸をしている音でさえ聞こえない
それはまるで、この世界には誰も存在していないかの様な空間だった
「さて、睨み合いっこはいい加減に飽きた。そろそろ有意義な時間を過ごそうじゃないか?クロノ=エンドロール。」
ただ・・・そうは言っても現実には2人は存在している
音を出そうと思えばいつでも容易に音を、声を出す事くらいは容易に行えるのだ
「・・・そうだな。1秒でもお前を見る事が短いに越した事は無い、さっさと終わらせよう。」
そう言いながらクロノは右手に魔力を込めて【暴喰ノ口】を顕現させようとする
だが・・・
「まぁ待ちたまえよ。」
サイクスがそう言うと同時に、クロノが込めた魔力が突如霧散していく
まるでそれが世界の理であり、それが当然だと言わんばかりに・・・
「私は有意義な時間を求めてはいるが、時間自体は無限にある。少しは実のある会話でも楽しもうじゃないか?君は今までそうやって相手から情報を集めていただろう?」
そして魔力が霧散していった事には当然の様に触れず、サイクスはクロノの空になったティーカップに再度飲み物を注ぎだした
「・・・・・・」
「私はこのなんて事の無い時間が好きでね・・・余分な事を考えずにゆったりする事に幸福を感じているんだよ。」
そんなサイクスの世間話にも似た会話を無視し、クロノはシンプルな疑問を投げかける
「・・・お前が【神】なのか?」
「あぁ、私が君のいう所の【神】だ。」
世間話の回答でもする様に、サイクスは自分自身が【神】であると肯定した
其処には重みも格も無く、ただただ神々しさだけが真実であると物語っている
「あぁ、私は君に対して【神】に対しその口調は不敬だなんて言うつもりはないよ。聞きたい質問を聞きたい様に言ってくれ給え。」
「・・・太っ腹なんだな。」
クロノ自身は当然でもある感想を口にする
するとサイクスは諸手を挙げて大袈裟に態度で彼の言葉に回答する
「それは君だからだよ、クロノ=エンドロール、これでも私は君に敬意を抱いているからね。君の疑問には答えたい、君と話したいという当然の欲求さ。」
「そうか・・・じゃあシンプルな質問を投げかけかけさせて貰う。・・・お前の目的はなんだ?」
「目的・・・目的か・・・完璧な世界を創る事という事になるんだろうねぇ。」
遠い目をしながらそう答える
その表情には嘘はない・・・クロノは直感的にではあるがそう感じた
「完璧な世界・・・とんでもなく抽象的だな。」
「・・・そうだね。実の所、私自身も何が完璧な世界なのか良く分かってはいないんだ。」
「・・・分かっていない?」
この世界の創造主である【神】であるにも拘わらず、どんな世界を創るのか理解していない
そんな不確かで不透明な世界を創られた自分たちはたまったモノじゃない
「だからこそ君たちの世界の様に様々な世界を創って資料として記録しているんだよ。」
「・・・・・・」
「何処の世界もそうだがね、【神】は我々を見守っていると自称宗教家たちは声鷹高に叫ぶだろう?・・・あれね、嘘だから。」
「・・・は?」
【神】による真正面からの否定に思わず呆けた声が漏れ出る
クロノ自身、【神】が自分を見守っているとは思ってはいない
だがそれを【神】自身に真正面から否定されるとは思ってはいなかった
「私はね、記録しているだけだよ。次の世界、次の次の世界を創造する為に記録をとっているだけだ。だからこそ誰が不幸になろうと幸せになろうとも淡々とそれを記録しているだけであり、別にどうこうしよう等とは一切思ってはいないんだよね。」
にこやかにそう告げるサイクスに対し、クロノは此処で初めて不気味さを覚えた。