剣神の諦観と転換
「もういや・・・」
私は最早頭を抱える事しか出来ない現状に絶望している
愛しい娘に言われてこの場に出向いたら【神】同士が戦っている
それだけでも為す術など有りはしないのに・・・
【神】の格?
【神】の存在?
そんなモノ知らないし知りたくも無かった
【神】と同一視されてきた、そしてそれを甘んじて受け入れてきた自分達がこれ以上に無い道化に見える
結局の所、【真祖】とは【神】ではないのだ
【神】が【神】である為に世界の部品を生産する存在でしかなかったのだ・・・
その様な残酷な事実を途中から理解出来た【暴喰神】の言葉により無理やり自覚させられてしまう
「残念やどなぁ、小僧は此処で消えてもらうよって」
最早勝負は決したと言っても過言ではない状況で、【暴喰神】は【剣神】に冷淡な口調で告げる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「妾は暴喰を司る神え?喰えないモノを喰える様にする・・・それは月でも【神】でも存在でさえも喰えるという事え。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を」
【暴喰神】の言葉は私ですらピンときた
にも拘わらず、【剣神】は理解していないのかしたくないのか・・・虚ろな瞳で疑問を投げかける
「ホンに愚かな小僧え・・・詰まり、小僧と小僧を降ろした存在そのものを妾なら纏めて喰らう事も可能や言うとるんえ。」
そう言葉が発せられたその瞬間、周りの雰囲気が急変する
まるで・・・海水の中に居るかの様な動きにくさと息苦しさを身体に覚える
「あぁ・・・下界のモン、この場から去るなら今のうちえ?此処からは・・・この場に居る妾以外の存在を一切許すつもりはないえ。」
「っっ!!!」
そう言いながら【暴喰神】に初めてし視線を投げかけられる
存在そのものを認知されていなかったのではない・・・
存在を認知されていてもどうでも良いと思われていたのだ・・・
視線を投げかけられたその瞬間、それを理解してしまう
けれどもその様な些事すらも私からすればどうでも良い・・・
気が付けば私は動きの鈍い身体に無理やり鞭打って扉の方へ駆け出していた
頭の中で反芻される言葉は『怖い』という単語だけ・・・
一度対峙した相手であるにも拘わらず、私はもう・・・そんな疑問すら湧き出る事が出来ず、無様な負け犬の様にその場を後にした・・・
◇
◇
「さぁて・・・下界のモンも去ってくれはったし、小僧にもそろそろ消えてもらうえ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めろ」
我は思わずそう懇願する
この際、我の存在が消えるという事が事実かそうで無いかは問題などではない
【神】足る存在がそう言っているという事実が問題なのだ
だが我の懇願を聞いて【暴喰神】は顔を顰め、殺気がより濃密となる
「小僧・・・【神】であっても口には気を付けた方が良いえ。『止めろ』?妾に向かって絶対的敗者である小僧が『止めろ』というのかえ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めて、くだ・・・さい」
我が・・・我が【神】相手とは言え、この様な言葉を発さなければならないのか
その理不尽さ故に怒りをを覚えるが、血を吐く様な感情でそう遜る
まだだ・・・
まだ我は・・・
「よぉ言えた、よぉ言えたえ・・・でも残念え。」
我を赤子に言う様に褒めると同時に、怜悧な口調に変わる
【暴喰神】の言う残念という単語を聞き、思わず目を見開く
「【神】が一度宣言すればそれは啓示え。妾は妾が言った啓示を覆すつもりはないえ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「最早存在すら消えていく小僧の戯言を真に受けて妾が言った啓示を覆す・・・・まぁ、有り得る訳がありゃしません。」
「・・・・・・・・・あぁ」
「ほなね、来世はもう少し徳をつむんやで。あぁ・・・来世なんてモノはありゃしないわな、堪忍やでぇ。」
そう呟いた【暴喰神】の貌を見て・・・我は存在して初めて・・・斬られた
反抗する気等、欠片も起こらない
仮に今この場で生き長らえたとしても・・・我が再戦を臨む様な事は決してないだろう
(これが・・・斬られると言う感情か・・・)
そんな諦観の念を同居させ、俯瞰的に見つめている我に彼女の言が響く
「はなさいなら・・・【廻帰月喰】・・・」
その言葉を聞いた瞬間、我は我の存在を諦めた・・・