クロノの決意と変異
「・・・・・・・・・」
予想通り【剣神】は去っていくルーシャやカラミトル達に対し一瞥もくれなかった
そのお陰で彼女たちはある意味で一命を取り留めたと言える
これで決定したと思っても良いだろう・・・
【剣神】は世界を滅ぼす訳じゃない
それだけの魔力を彼女が持っていないという事もあるかもしれないが、【剣神】の目的は非常にシンプルだ
(僕を殺す事、か・・・)
多分その一点のみを強く願って彼女はスキルを発動させたのだろう
だからこそ【剣神】は他者を省みない
究極的に言うのならば興味がないのだろう
そんな【剣神】に勝てる手段があるのか?と自問自答してみるが・・・
「無い訳じゃないが・・・余り使用したい手段じゃないね・・・」
あるには、ある
正確に言うのならば勝てるかもしれない手段というべきではある
けれども確かに手段としては存在する
先ずは自分自身の力で何処まで対抗できるのかを見極めよう
もしも一撃で絶命したとしても、それはそれだと受け入れられる自信がある
「・・・・・・」
「・・・待っててくれたの?意外と優しいんだ。」
思考の海から這い出てきた僕は目の前の【剣神】が僕をジッと見つめているのを見てそう口走る
事実、剣の試し振りは終了していたのだろうにも拘わらず、攻撃をしてこない【剣神】は僕を待っていたのだろう
もしかすると満身創痍、疲労困憊の僕に不意打ちする事自体が恥だと考えたのかもしれない
けれども【神】の思惑など知る術も無いし、知る気も無い
「先ずは・・・っと!!!」
身体が悲鳴を上げる中、身体に鞭打って背後に回り込み斬りかかる
「・・・・・・?」
僕の予想とは異なり、【神】への一撃はいとも容易く達成された
だが・・・全く手応えが無い
確かに、間違いなく【神】に斬撃を与えた
けれどもその斬撃は霞を斬ったかの様に全く手ごたえを感じない
「ならっ!!!」
【剣神】の急所を狙い、そのまま連撃を繰り出す
だが僕の連撃は【剣神】自体は一歩も動いていないにも拘わらず、先ほどと全く同様に一切の手応えを感じなかった
「グハッ・・・」
身体の悲鳴を無視したツケだろうか・・・
何かをされた訳でも無い
それでも身体の限界は近しい様で不意に口から血飛沫が舞い散る
「・・・・・・」
先程から僕を凝視していた【剣神】は僕の血が舞い散るのを見て徐に剣を振り上げる
決して速くない
更に言うのならば重そうな攻撃にも見えない
飽くまで軽やかに、先ほどの試し振りと同様に無造作に剣を振り上げた
「あああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
その動作を瞬きもせずに眺めていた僕は・・・気づけば壁に減り込み血反吐を吐き散らかしている
僕は誓って瞬きなんてしてはいない
にも拘わらず・・・気づけば壁に減り込み、尋常ではないダメージを受けている
斬られた感触も吹き飛ばされたという意識すらも、壁に減り込まされた衝撃すらなく・・・
本当に気づけばダメージを負い、壁に減り込んでいる
「ハハッ・・・本当に・・・ゴフッ!!!」
とんでもない
コレが剣の到達地点なのだろう・・・
思わずそう納得せざるを得ない一撃を受けてしまう
本当に辛うじて・・・辛うじて生きている様な状態だ
指一本動かせないとまでは言わないが腕一本は動かす事は出来ない
足の指一本動かせないとまでは言わないが立つなんて事は全くできない
(もう・・・いいや・・・)
今の僕では【神】に一太刀も与える事は出来ない
それは当然の帰結であり、必然の事象だろう
(もう・・・いいや・・・)
僕個人としてはアカノ=エンドロールに勝利はすれど、【剣神】のスキルを発動させた彼女には勝てないのだ
(もう・・・いいや・・・)
僕は・・・彼女が彼女のままならば決して使用する気は無かった
それは僕と彼女の戦いであり、僕にとっては【神】すらもこの戦いに介入させる気は無かったから
(もう・・・いいや・・・)
けれど【神】である【剣神】が僕の前に立ちはだかるのならば・・・僕もそうしようと決意した