クロノの今生と本望
「・・・・・・・あれ?」
「・・・・・・」
呆然とした表情を浮かべているであろう彼女の貌をまともに見ることが出来ず、僕は思わず俯く
恐らく彼女は多幸感と絶望感を同時に味わっているのだろう・・・
「・・・何した、の?」
「・・・【暴喰ノ口】を纏わせた拳を君の心臓部分に思い切り叩き込んだ。」
「・・・そう。」
けれど僕の予想とは異なり淡々とした彼女の口調が聞こえて思わず顔を上げた
すると・・・彼女はホンの僅かに口角を上げ、幸せそうな表情を浮かべていた
「・・・怒らない、の?」
「・・・何故?」
僕の質問に対しても彼女は変わらず淡々とした口調で言葉を紡ぐ
その表情と口調が1つの結論に僕を誘っていく
「・・・【嫉妬タル心ノ臓】を使えば死なないと思うよ。」
「そう。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
僕の言葉を聞いても返答するだけで、彼女は【大罪スキル】を使用する様子はない
その様子を見て・・・やはり彼女はこのまま死ぬつもりなんだと確信してしまう
それを確信してしまうと・・・僕の胸の中には様々な感情が入り混じり、それ以上に何かを言う事は出来ない
彼女は彼女で、僕とこれ以上話す事は無いのだろう・・・彼女から何かを告げて来るという事も無かった
ーーーードサッーーーー
互いに何も言わずに立ち尽くしている状況が続いている内に、彼女が徐に倒れ込む
そしてそれを見た僕は彼女の方へ近づいて行った
「旦那様っ?!!」
「クロノ様っ!!」
ファーニャやルーシャが僕の行動に対し思わず叫んでいるのが聞こえる
彼女たちが疑問に持つ通り、このまま一定の距離を保ったまま彼女が死ぬのを見届ける
若しくは【暴喰ノ口】で彼女を喰うのが1番正しいやり方なんだろう
(でも・・・)
それでも僕は彼女の元に近づくべきだと考えた
彼女は諸悪の根源であり、仇であり、憎むべき相手だ
それは理解出来ていても、僕には彼女に近づいていくという選択肢以外を取る術は無かった
「・・・バイバイ」
近づいた僕に対し、彼女が放った言葉はただそれだけだった
恨みつらみも謝罪も無く、殆ど無表情で、それでいて幸せそうな表情を浮かべて僕にそう告げる
「・・・さよなら、フロウ・・・姉さん・・・・良い旅を。」
彼女の表情を見て、思わずそう口走る
それを聞いたフロウ姉さんは僅かに驚いた表情を浮かべ・・・そして微かに笑って・・・
逝った
僕は彼女の目に手を当てて、目を閉じさせる
そして彼女の亡骸を抱きかかえるてルーシャやファーニャの待つ方へ連れて行った
◇
◇
「クロノ・・・様・・・」
「・・・ルーシャ、悪いけどフロウ姉さんの亡骸を置かせてもらえないかな?」
「・・・はい。」
彼女に断りを入れて、僕は彼女の亡骸をそっと片隅に下ろす
最期に彼女が何を思って逝ったのかは理解できない
けれど、彼女からすれば此処で死んでも良いと思って死んでいった事は間違いないのだろう
(姉さん・・・どんな生き方だったとしても、最期にそう思って死んで逝ける人って・・・多分凄く少ないと思うよ。)
彼女に対し肉親の情などは持ち合わせていない
それどころか友情や愛情も持ち合わせてはいない
けれど・・・最期の死に際だけは・・・何処か羨ましいと思う様な感情が僕に浮かび上がってきた
軽く死を悼み、僕は先程まで立っていた舞台に再度向かう
「旦那様・・・」
そんな僕を待つかの様にファーニャが心配そうな面持ちで僕の貌を覗き込んできた
「・・・大丈夫だよ。」
そう言いながら彼女の頭に軽く手を置いて勇気づけるかの様に微笑み、そして舞台に上がる
すると・・・そこは既に最後の対戦相手が僕を待ち構えていた
「クロノ・・・」
「・・・・・・」
僕は彼女の言葉を意に帰す事もせずに、彼女に向けて殺意を振りまいたのだった・・・
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